・アニポケのジュンサーってだいたい人の話聞かない気がするのは固定概念?
「そこのあなたたち、少し良いかしら」
想定もしていなかったハプニングはあったものの進化してしまったものは仕方ないと気を取り直し*1、まだ物足りないと訴える
横合いから声をかけられ誰かと視線を向ければそこにいたのはジュンサーだった。
「そこのピィはアナタのポケモンかしら?」
「え? あ、うん、そうですけど?」
「失礼だけど昨日の午後3時と一昨日の午後2時頃、どこで何をしていたかしら?」
質問というよりは詰問といった感じの強めの口調。
何か疑われるようなことしたっけ、と思ったが素直に一昨日ならハナダシティにいたこと、昨日のその時間ならちょうどクチバへ向かう途中だったということを告げる。
「本当に? 何か証明できるものはあるかしら?」
「はあ? 一昨日ハナダにいたのはポケモンセンターで部屋取ってるから良いとして……昨日かあ。うーん、夕方にクチバシティのポケモンセンターで部屋を取ったからそれはダメかな? あと昼に『地下通路』のバスに乗ったし、移動してたっていう証拠ならあるけど」
「……なるほど」
「えっと、ボクは一体何を疑われてるのかな?」
そんなボクの問いに答えることも無く、ジュンサーが協力に感謝します、と一方的に会話を打ち切って去っていく。
「……えぇ? なんだったの今の」
「……ん、分からないけど」
アカリの視線がピィへと向くので自然とボクの視線もそちらへ。
さっき食べたばかりだというのにそんなことも忘れたと言わんばかりに空腹を訴える暴食の権化を見やり。
「うーん、ピィなら無銭飲食してても不思議じゃないように思えるかなあ……」
なんかこう屋台とかに置かれたものをそのままひょいぱく、と食べて去っていきそうなイメージはある。
まあ実際はそんなことやっているの見たこと無いし、多分やらないだろうけど。
元より群れの一員としてやっていけるだけの社交性はあるのだ。ただちょっと食欲が抑えきれないだけで。
やっていいことと悪いことの判別はついている……食欲が限界を迎えて無ければ、多分。
まあそういう子だと分かっているからボクもピィの食事はしっかりと面倒見ている。
間食用のお菓子もいつでも与えているし、非常用の食糧だってこっそり荷物に入っている。
だからピィが何か問題と起こした、ということは無い。
「そもそもボールから出してるのってポケモンセンターの中だけとかだしね」
さすがにピィも勝手に宿から飛び出して夜の町に消えたりはしていないのでやっぱりピィが何か起こしたというのはまず無いだろう。
ということは、ピィと見間違えるような何かがその騒動、或いは問題を起こしたと考えるべきか。
「うーん……ちょっと気になるけど、やっぱ良いか」
はっきり言ってボクらに関係ないと言えばそれまでだ。
それに野生のポケモンが人里にやってきて騒ぎを起こすなんてこの世界だとまあ良くあることだし、そのうちなんとかなるだろう。
―――まあそんな楽観があっさりと覆されることになるなんて、この時は想像していなかったわけだが。
* * *
「ふふ……まさかまさか、いやはや、本当に奇遇なことです。奇遇、奇遇。まさか海の遥か遠くからこんなところにまでやってきているとは」
かち、かちとその手の中の丸い小型の機械についたスイッチを2度、3度と押しながら薄暗い路地裏を迷いのない足取りで歩いていく。
「知っていますか? かのポケモンは生まれながらに強大な力を秘めていますが、基本的にそれを制御することができないため常に力を抑えこもうとしています」
こつ、こつ、と足音を響かせながら語り掛けるように男は言葉を紡ぐ。
「進化することでその力を増しながらも制御することができる……と言われていますが本当でしょうか? 制御しないほうが本当は強いのでは? いっそ暴走させてみればその振れ幅は進化後よりも大きくなるかもしれない、ええ、ええ、ええ……もしそうだとするなら―――」
こつん、と足音が止まる。
しんと静まり返る路地裏、その先で倒れ伏すポケモンを見やり、にぃ、と笑みを浮かべる。
「ふふ、ふふふ……
男が身に纏う白衣のポケットからすっと注射器を取り出す。
その中に詰め込まれた水色の液体を透かすように眺め、ふふ、と笑う。
「B2はもうすぐ試用段階に移行します、ですからそろそろH1のほうも完成させておきたいのですよ」
さらに一歩、足を進める。
そうして路地裏に倒れるポケモンへと注射器を伸ばし。
「さあ、解き放ってみましょう。その力、その本能、全て、全て、全て!」
―――薬品が注入された。
* * *
「……ん?」
ほんの一瞬、脳裏に過ったノイズのような感覚に思わず足を止める。
突然足を止めたボクにアカリがどうしたとばかりにこちらを見るが、それに答えることも無く周囲を見渡す。
昼も近くなった飲食店にはさらに人が増え、人の波がひたすらに流れていくばかりの光景。
普通なら気にも留めないような、取り留めのないその光景に、どうしてだろう、何か違和感が覚えた。
「リンくん?」
「……いや、気のせい。気のせい、なのかな?」
多分、と呟いた直後、きぃん、と金属をこすり合わせるような高音が響き、思わず耳を塞ぐ。
呻き声を漏らしながら体がふらついたボクを咄嗟にアカリが抱き留めてくれると同時に音が鳴りやむ。
「ご、ごめ……」
「リンくん……?」
明らかに普通じゃないボクの様子にさすがのアカリも表情を変えるが、大丈夫といって態勢を直す。
怪訝な表情のアカリ、どうやら先ほどのノイズも高周波のような高音も聞こえなかったらしい。
何が、どうして、どうなって。何も分からないが、けれど最後にほんの少しだけ聞こえた声のようなもの。
「……助けて、か」
鳴りやむ間際の一瞬、まるで頭の中に直接言葉を届けられたかのように、ほんの一瞬だけ『助けて』と聞こえた気がした。
いや、気がしたと言ったがきっともう気のせいでも何でもないのだろう。
先ほどから続く違和感、音、そして声。
これはもう偶然でも何でもない。きっと今この辺りで何かが起きているのだ。
「……アカリ」
「ん……大丈夫?」
「うん、もう大丈夫、それと聞いて欲しいことがあるんだ」
何が起きているのか分からない、だからアカリと2人で協力すべきだと、そう思い視線を上げ―――。
―――その先に、アカリのずっと後ろに
「あれ……は」
白い白衣を纏い、頭の黒いベールを被ったあの男は。
「アカリ……」
「うん?」
「アカリ、聞いて―――アイツがいた」
「……あいつ?」
「そう……トキワの森で出会ったあの男……確か名前は」
キョウチクトウ。
まるでその名に反応したかのように、絶対に聞こえるはずの無い距離で、聞こえるわけがないくらいのこの雑踏の中で。
男が振り返った。
―――あれぇ? これはこれは奇遇ですねぇ。
そんな声が聞こえた気がして。
「
だから、アカリに問う。
「ボクたちは別にジュンサーじゃない。あれを追う必要はない。それを前もって言っておくよ、その上でもう一度聞くけど」
にぃ、と嫌な笑みを浮かべけれど何をするでも無く白衣を翻し去っていくその背中を一度見やり、再びアカリへと視線を向けて。
「……どうする?」
その問いを投げかけた、と同時に轟音が街に響いた。
何か起きた、それは分かっている……だが視線は真っすぐアカリへと向けたまま動かさない。
「キミが無理をする必要はない。怖い思いをしてまで、キミがアレを追う理由も無い。震えてまでキミがあれを止める義務も無い」
客観的にいえばそんなものは警察の領域だ。
或いはこの街にいるジムリーダーの役割かもしれない。
ボクたちが何かする必要はない、ボクたちが動く義務も無い。
でも。
「リンくんは……?」
「
必要は無くても、義務なんて無くても。
「あれは
理由ならある。
別にボクたちが特別なんていうつもりは無いけど。
それでもヒマワリがボクに感じているような感覚をボクも何となく理解できる。
同じ前世を持つ存在、アカリたちのような生まれた時からこの世界の住人だった人たちとは少しだけズレた感覚。
ボクとアカリが違う存在だとかそんな話でもない、少なくともボクも今となってはこの世界の住人だと思っている。
それでも。
同じ転生者がこの世界に迷惑をかけているという事実に、どこか心の中で引っかかるものがある。
……うん、遠回しに言うのは止めておこう。
ああ、そうだ。
ボクは。
「アイツがむかつくからぶん殴りに行くんだよ」
非道を働くアイツが許せなくて。
そんなヤツが人を同類なんて言って来るのが許せなくて。
なにより。
―――アカリを怖がらせたアイツを許しはしない。
だから、ボクはあの男を追うと宣言する。
だがアカリは違う、アカリにはそんな理由は無い。
だからアカリは待っていても良い。
むざむざ巻き込まれる理由は無い。
怖い思いをしなくても良い。
でもそれはボクの思いでしかないことをボクは知っているから。
「……行く」
そう告げたアカリに驚きは無かった。
「良いんだね? さっきも言ったがキミにこの騒動に巻き込まれる理由は無い。逃げても良い。それでも行くんだね?」
念押しするようなボクの言葉に、けれどアカリは真っすぐボクを見つめ返して。
「私が、行く。だから―――」
その先の言葉を告げた。
* * *
「Tick Tack Tick Tack」
手の中の懐中時計を見やりながら男が囀るように呟き笑う。
雑踏から離れ、道を逸れ、路地裏を歩いていく。
その後ろで騒ぎをまるで気にした様子も無く、ただ手の中の時計の針だけ見つめていた。
「Tick Tack Tick Tack」
時計の秒針が何度目かの周回を終えた……その時。
「Tick Tack Tick……おや?」
時計へと視線を落としていた男が何かに気づいたかのように白衣を翻し振り返る。
ふむ、と寸秒間を置き、そうして視線の先……男をじっと見つめる少女へと問いかける。
「えっと、誰でしたかねぇ? えぇ、えー、どこかで見たような、見たこと無いような?」
「…………」
見覚えがあるような、無いような少女。
だがその肩に乗ったピカチュウがこちらを威嚇していることから多分自らの実験の被害者か何かだろうと男は予測する。
「はて、私に用があるみたいですが、今実験中なので申し訳ないのですが後にしてもらえませんかねぇ?」
「……どうでも良い」
「はい?」
男の言葉に、初めて少女は声をあげる。
同時にその肩に掴まるピカチュウの全身がばちばちと放電を始めて―――。
「お前の事情とか、どうでも、良い」
男が口を開くより先に、ピカチュウが雷のごとき速度で突っ込んできた。
あまりの速度に男が危険を認識するより速く、目の前にピカチュウが迫り。
「じぇるるっぷ」
男の被っていたベールが解けるように動き出し、いくつもの触手となってピカチュウの突進を止める。
「おっと、おっと? これは驚きました。いきなりご挨拶ですねぇ? はて、アナタはアナタはどちら様でしたかねぇ」
「…………」
あまりにも一瞬の出来事に本当に驚いた様子の男が少女……アカリに問いかけるが、けれどそんな問いに興味すら無いとアカリが無感情な瞳で男を見つめる。
そんなトレーナーを振り替えることすら無く、指示すら無いままにピカチュウが次いで
押し返されながらも綺麗に着地を決め、即座に
「ああ、思い出しました。アナタ……先ほど彼の隣にいましたねぇ。なるほど、差し金ですか。ふふ、ふふふ、それで彼はどこに?」
「……いない」
「はい?」
笑いながらこちらを見やる男の表情が怪訝そうなものになる。
「私で十分……だから、リンくんは、あっち」
両者の後方で起きる騒ぎを指さしながら無表情でこちらを見るアカリに、男がふむ、と一つ頷き。
「まあ良いでしょう。随分と自信があるようですし? 折角です、B2の試用と行かせていただきましょうか」
ふふ、と男が笑い、その懐から取り出したのは……注射器だった。
「さあ……良いデータを期待してますよ?」
ポケモン世界にアルファベットってないはずなんだよね。
だって全部アンノーン文字ってことになってるから。
じゃあBWにいたNってなんなんだ???
っていう疑問が頭を過りつつ、台詞の中でアルファベット使ってるのは転生者だからなんだよ、という分かりにくい伏線を出していく。