・はじめてのたいかい(準備期間)
ジムリーダーってすごい。
クチバを昼過ぎに出て、その日の夕方にはもうタマムシシティに到着した送迎用の車から降りながら素直にそう思った。
クチバまでやってきたローザを出迎えにジムから車がわざわざ来ていたらしいのでついでに乗って行けば? と誘われたのでお邪魔したのだが、なんというかやっぱ歩いて旅って効率悪くない? と思ってしまわなくもないくらいの快適さがあった。
なにせ普通にその辺で走っているような車ではない、ボクは車種とかそういうのにあまり詳しくないがそれこそリムジンとかああいうお金持ちが乗っているようなイメージの車であり、なんと中に飲料や食品なども入った冷蔵庫があったり、お茶を入れるための電気ケトルまで備えられており、静音性の高い広い車内で優雅にティータイムまでできるのだ。
正直こんな機会でも無ければ一生乗るチャンスが無いだろうほどの高級車であり、こんな車で送迎されるジムリーダーというものの立場はどれだけ重いのか、と思っていたのだがなんとこの車、ローザの実家のものらしく『こっちにジムリーダーとして赴任するにあたって買っておいたのですわよ』とか言われて頭が真っ白になった。
確かにイッシュのお家は豪邸といっていいのではない、と思う程度には大きな屋敷だが車1つ……それもとんでもない高級車だろうそれをちょっと出先で便利だからくらいの感覚で購入してしまうそのお嬢様っぷりにちょっと庶民な自分との常識の違いを感じた。
良いな……乗り物。
せめて自転車くらい買おうかなと思ってしまうくらいには心が揺れた。
まあ実際買ったら買ったで今日乗った車との落差でがっかりするのだろうが。
というか本来なら次はヤマブキシティの予定だったのだが、こうしてタマムシシティに来たのはローザに誘われたから、というのもあるがそれ以上にローザから教えてもらったタマムシで近々開催されるとあるイベントに参加するためだ。
その名もビギナーズバディカップ。
タマムシシティの一角で開催される
都市開催の大会というのはこの世界でも結構あることなのだが、新人限定とついている大会はあまり無いので初大会参加としては敷居がちょうど良いだろうと思って参加することにしたのだ。
何よりタッグバトルというのは珍しくもあり同時にアカリがいてくれるので相方には不足しないのが良い。
さらにカントーでも上から数えたほうが早いくらいの大都市であるタマムシシティ主催の大会だけあって商品のほうもかなり豪華になっている。
優勝賞品はちょっと見逃せないレベルの貴重品だった、もしここで取り逃せばこの先いったいいつ手に入れればいいのか、と思うくらいの希少な品……それをタッグバトルだから2人分獲得できる、となるとボクもアカリもそれはもう、一も二もなく飛びついた。
まあアカリはちょっとその重要性をいまいち実感していないようだったが、それでも強くなるための手段としては有用ということは説明したので初めての大会ということもあってはりきっていた。
とはいえ大会の開催はまだ少し先だ。
ヤマブキシティへと先に行っていたら間に合ったかどうかギリギリだったかもしれないが、ローザと一緒に車移動で連れて来てもらえたので日程にはまだ数日の余裕がある。
そういうわけで。
「タマムシデパート行こう!」
「ん……うん」
心なしテンションが上がるのを自覚しながらアカリに問いかければテンション高いなあ、という視線と共にアカリが頷いた。
すでにポケモンセンターで宿の準備は取ってある。ローザ、というか運転していたお付きの執事っぽい人がやってくれた。
ローザ曰く家の使用人だとか……そう言われれば昔イッシュの本宅に行った時に見かけたような……?
さすがに5年ほど前の話となると曖昧だったが向こうは覚えてくれていたようでお元気そうで、とニコニコしていた。
まあそれはさておき、タマムシといえばやはりタマムシデパートである。
地方を一つの国と考えた時、ヤマブキシティがカントーの首都だとするならタマムシは経済の中心だ。
大型ショッピングモール、デパート、ゲームコーナー……なんだったらゲームにあったら規制待った無しのカジノだってある。
霞が関に対しての新宿、渋谷、秋葉原あたりというとちょっとイメージしやすいだろうか。
とにかく商業施設が多く、その分人口の密集度はヤマブキを超える、つまりカントーで一番人の多い地域と言える。
そのためか街全体が雑多で煩雑としており、なんというか人込みが凄いことになっている。
お陰で隣でアカリがげんなりとした表情をしていた……無表情だけど目の色が面倒と言っている。
街の外周に目を向ければ工場地帯もあり、汚染水が川に流れ込んでいるせいか川の色は正直綺麗とは言い難い。
実機でも第二世代のほうだと水辺で野生のベトベターやドガースが出現していたがこの様子だと探せばすでにどこかにいそうだった。
人が多ければそれはそれで問題もあるのだろうが、さすがにボクがそんなこと考えたところで何かできるというわけでも無い。
まあこの世界の場合、ポケモンの力で解決できるのでは? という気がしないでも無いが。
そうして街並みを眺めながらしばらく歩くとその辺のビルの数倍はあろうかという超巨大な建物が見えてくる。
タマムシシティ最大の商業施設タマムシデパートである。
以前にもいったが、この世界には転生者先輩たちのやらかしでジャ〇コだの〇イエーだの大型ショッピングモールがあちこちにある。
当然このタマムシの街にもだ。
いや、寧ろこの商業都市は他の街よりも力を入れている……そのくらいこの街で名を連ねることの意味が重いから。
それでもこの街最大の商業施設はタマムシデパートだ。
「……東京ドーム?」
「なに、それ?」
思わずそんな感想が漏れ出てしまう。
ただただひたすらにデカイ。
なんというか東京ドームを3段に重ねたような……そんな規模感。
ゲームだった頃でも大きかったがあれが
そしてそんな巨大施設に相応しいくらいの人が施設内を行き来しているのがここからでも見えた。
マサラタウン中の人間を集めてもこんな人数にならないのでは?
そんなことを考えてしまうくらいの雑踏。
近づくほどにそのサイズ感に圧倒されてしまう。
ふと隣を見ればアカリもまた人込みのことなど忘れてただただ目の前の巨大な建物を見上げていた。
そんな田舎者感丸出しなボクたちだったが、入口で足踏みしていても何もならないと覚悟を決めて入口を抜けるとまるで迷路のように入り組んだ店の連なりが視界の中で延々と続いている。
「……目が回りそう」
「……ん」
これ別れて行動したらもう今日は合流できないな?
そんな予感がひしひしとした。
* * *
・ふえぇ……現実がバグってるよ
―――ここマジで何でもあるんじゃないだろうか?
デパートの中をアカリと歩きながらそんなことを何度も思わされる。
食料品関係一つとっても日常的な食材から世界中の珍味を取り扱ったお店、或いはスパイス専門店にちょっと変わり種として保存食専門店なんてものまである。
「カレー味のバーだって」
「……普通に、カレーで、良いと思う」
「まあそうだね、こっちのフルーツたっぷりのグラノーラバーにしとこうか」
この世界を旅する中で不意に街から外れ自然の中で孤立するようなこともあるかもしれないので一応保存食をいくつか買っておく。
スマホ1つで色々な荷物が入るのにいるの? と思うかもしれないが、ボックスに預けられたポケモンの時間が止まらないようにデータ化された荷物にも時間の経過がちゃんと働く以上食料品だっていつまでも保存できるわけではない。
そういうわけでシリアルバーのような日持ちする品は旅に出ている間は常にいくつかストックしておくのが常識だ。
食料品関係のお店を抜けると次はポケモンフーズ関連のお店だった。
一言にポケモンフーズと言っているがポケモンの種族或いはタイプごとに違いがあり、さらにそれを作るメーカーの違いなどもありかなり多種多様なポケモンフーズが存在する。
「まあそうは言ってもある程度安牌ってのはあるけどね」
「ん……だいたい、同じとこ買ってる」
偶に冒険するのは良いが、それでも最終的に食べなれた味が一番ということなのかシャンデラもピカチュウもいつも同じメーカーのポケモンフーズを要求してくる。
まあそれに大手メーカーはどこに町に行っても置いてある安心感がある。
マサラタウンのショップにだって置いてあるのだからカントーのどこに行ってもあるだろうという安心感……いや、それはさすがにマサラタウンを低く見積もりすぎだろうか?
『きのみ』などもあったのでいくつか買いながら次へと向かう。
どうやら一階は完全に食料品関係で埋まっているらしく、さらに奥のほうは飲食店が並んでいた。
夕飯はまだなので後でアカリと寄ってみようと話しながら2階へと向かう。
2階へと上がると、どうやらこの階層はトレーナー用品の専門店が多く並んでいるらしい。
向かって左側のほうが『きずぐすり』や『モンスターボール』などの消耗品の店が固まっており、逆に右側には『じてんしゃ』や『ポケモンのふえ』、或いは『ポロックケース』などいわゆるゲームだと『たいせつなもの』で分類されていたものがそれぞれ専門に売られている店がある。
「クチバでちょこちょこ道具使ったし補充はするとして……ちょっとあっち気になるね」
「うん」
サイクルショップなど店中いたるところに自転車が並べてあり、ぱっと見た限りだと前世のそれと対して違いはないように見えるがその実、サイクリングロードとかいうタマムシからセキチクまで続くとんでもない長さの橋を走って渡れる性能がある。このサイクリングロードが海の上に架けられているから橋なのだろうが実際は前世でいうところの高速道路と同じような規模の長さであり、逆説的にいえばこの世界の自転車はかっ飛ばすと前世の乗用車と対して性能に違いはないらしい。
しかもロトム搭載の電動自転車となると子供でも軽々と走れると評判であり、ぶっちゃけ積載量を考えないならロトム自転車があれば車などいらないという人は多いのだ。
そんなものが免許も無しに乗れるのだから驚きである。
ただしこのロトム自転車恐ろしく高い。
ゲームだとなんかぽんとくれたりするが、初代において『じてんしゃ』が100万で販売されていたが性能が車並でありガソリン代すら必要ないのを考えると現実のロトム自転車は割とそのくらいする。
有名ブランドモデルのものだと下手すればその2倍……或いは3倍であり、最早並の車より高い自転車が割とゴロゴロある。
そんなの誰が買うのか、というとトレーナー関連の職業に着いた人は割と買うらしい。
というのもゲームでも知っての通り、『じてんしゃ』はバッグにデータ化して収納できる。
つまり車と違って保管に困ることが無く、それでいてだいたいどこでも使えてしかも車並の性能がある……となるとポケモンをゲットするのに自然の中に分け入るトレーナーや、自然環境の中でポケモンの保全などをするポケモンレンジャー、或いはポケモンハンターなど、欲しい人間はいくらでもいる。
「将来的には欲しいね」
「……ん、便利」
まあ今のボクたちの所持金ではひっくり返して振っても買えないのだが。
もうすぐこのタマムシで行われる大会のように各地で行われる大会に出ればそれなりに賞金も獲得できるらしいので勝ち上がった賞金で買ってみるのもありかもしれない。
まあ今回の大会のようにタッグバトルでも無ければボクかアカリ、どちらかは必ず負けるのだが。
それとこの賞金というのがいくらぐらいかは分からないが、これだけで生活しているトレーナーというのが結構いるらしいので相当な金額なのだろうとは思う。
なにせポケモントレーナーとは金食い虫なのだ。
旅に出る前のうちを例に見てみれば分かるが、ボクに母さんに父さんで3人家族。
そこに母さんの手持ちのポケモンたち6匹にボクの手持ち、併せて7匹。
勿論人間1人とポケモン1匹にかかる費用は異なるがそれでも7匹のポケモンを養うとなるとそれなりの金額がかかることは予想できるだろう。
しかもトレーナーのポケモンとはいうなればアスリートだ。
それなりのものを食べてしっかりと体を作っていかなければならない。
となればまた食事のグレードも上がる、結果費用はさらにかさむ。
ゲームだといくらでもポケモンをゲットして、ゲットしたポケモンはパソコンに預けておけば良かったが、現実でそんなことはできない。
先も言ったがボックスに預けたポケモンは別に時間が止まっているわけではないのだ。
というかボックス自体が本当に一時預かりでしかなく、24時間以上預けていると警告が飛んで来る。
だから捕まえたら捕まえた分だけ生活費は増していく。
じゃあアニメのようにオーキド研究所に預ければ良いのかと言われればそうでも無い。
当然ながらオーキド博士だって無償でいくらでもポケモンを預かってくれるわけではない。というか基本研究に必要なポケモン以外預かったりはしない。
アニメのあれは『ポケモン図鑑を完成させるため』という前提があるからこそできるのだ。
一応マサラパークなどもあるがあれはあくまで『保護施設』なので無暗にポケモンを増やすようなことはできない。
そういうわけで基本的にポケモントレーナーが所持できるポケモンは6体が上限になる。
それ以上ゲットしたいならちゃんとポケモンを生活させる育成拠点のようなものが必要になってくる。
まあうちの庭とかでも良いんだけど……割と広いし。
ボクもこの辺は気を付けないといけない。
もう
まあそれはさておいて。
「あっ」
「ん?」
サイクルショップを通り抜けると雑貨店があった。
中にあったのはアクセなどの小物類。
それから。
「え?」
ひし形の四辺をくぼませたような……四角形の星型とでもいうようなそれに紐がつけられたそれを見て思わず声が漏れた。
だってそれは。
「……『ひかるおまもり』じゃん」
お値段4000円。
買うしかなかった。
いやまあ本物ではなく多分レプリカ……というか模倣品だろう。
きっとそうだ、そうで無ければこのアイテムの存在価値が知られていないということになる。
転生者パイセンだちがいるのにそんなはずが……。
「これ本物、なのかな?」
「……なに、これ?」
「うーん、なんていうか……まあ、珍しいポケモンに会える『おまもり』かな?」
嘘は言っていないボクの言にアカリが物珍しそうにへえ、と零す。
まあ本物かどうかなんて分かりはしないが、
なんて。
そんなことを迂闊にも考えてしまったのがいけなかったのか。
ああ、本当に。
どうしてこうなったと言いたい。
雑貨店から向かった次の店は釣り竿を専門に売っていたお店だった。
色々な釣り竿があるがゲームのように『すごいつりざお』なんて名札がついているわけでもなく。
なんとなし、試しに手に取ってみた。
これどうやって使うなんて、問うアカリにこうやって竿を振って、と演じるように軽く釣り竿を揺らしただけなのに。
なんでそうなる?
何が起きたか分からず目が点になったボクたちの目の前で。
釣り竿がしなる。
まるで
フリーズした思考で、けれど反射的に竿を振り上げ―――。
―――虚空から
幼少期編書いてた時からやろうと思ってたネタ。
手持ちポケモンの現在レベルとかあとがきに欲しい?
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いる
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いらない