・しんしゅポケモン
まるで空間から引っこ抜かれるように、釣り竿によって虚空から引きあげられたその姿を見て驚く。
全体的に丸みのある小柄な姿、長い尻尾、そして
その姿をボクとアカリはかつて見たことがある。
なんだったらバトルだってしたし、写真だって撮ったこともある。
「……ミュウ?」
「みゅう?」
釣りあげられて空中でぷらーんとなっているミュウがボクたちのほうを見て一瞬首を傾げて。
「みゅ~♪」
「あ、やっぱりあの時の子なんだ」
にっこりと笑みを浮かべる様子を見て、サマーキャンプの時に出会った子と同じ個体なのだとようやく理解する。
「ていうかなんでこんなところに……いや、確か初代でそういうバグあったけど」
「みゅう?」
というかいつまで釣られてるんだろうと見ているとミュウがふわりと浮いて釣り針から口を放してそのまま降りてくる。
久しぶり、と手を振るとミュウが嬉しそうに尻尾をふりふりと振って返す。
「いや、なんかこっちも予想外だったんだけど……まあ、なんかごめんね?」
「みゅ? みゅ~♪」
気にしなくて良いよ、と言わんばかりにミュウが体が揺すってご機嫌アピール、可愛いね。
それより遊ぼう、とでも言わんばかりにボクの周囲をグルグル飛び回る。
「いやー、ボクたちも遊んであげたいところなんだけどね。もうすぐ大会があってその準備があるからその後でも良い?」
「みゅ?」
一瞬アカリに良いよね、と目配せするとアカリがちょっとびっくりしながらも良いよと視線で返してくる。
そうして視線をミュウへと戻すとミュウが少し考えた様子で腕組みしている……めっちゃ可愛い。
「みゅう~♪」
「え、大会出るの? いやいや、野生のポケモンは出れないよ?」
「みゅう? みゅ~♪」
「えっ、あっ、ちょっ」
大会出て遊びたい! って感じの様子だったので野生は無理だよ、と返せばボクのバッグの中からボールが1つ浮き上がりミュウの目の前に。
えっ、とボクが驚く間にちょん、とその指先がスイッチに触れて、あっ、と思った時にはその全身がボールの中に吸い込まれ、ちょっ、と口から洩れた時にはかちん、とボールがロックを完了していた。
「……えぇ?」
「…………」
手持ちのスマホにインストールされた図鑑アプリが新しいポケモンの登録を通知してくる。
咄嗟に手に取ったスマホに表示されていたのは……ミュウのゲット通知。
「……アカリ、どうしよ?」
「……ん」
さすがに知らん、とアカリに視線を逸らされた。
* * *
ポケモンは生物である。
いや、何を当たり前のことを、と言われるかもしれないがゲームプレイヤーとしての視点でいうならこれは一つの発見なのだ。
ゲームだとポケモンは何も食べない……正確にはきのみを与えることはできたが、それはなつき度を上げるためであって食事のためではなかった。
水も飲まないし、排せつだってしない。そういう現実的な面倒は基本全て取っ払ってあった。
だからポケモンはキャラクターでしかなかった。
だが現実のポケモンは生物だ。
当たり前だがきのみしか食べないなんてことは無い。
以前も言ったがポケモンフーズだってポケモンのタイプ、或いは生態ごとに与える物は異なっている。
では。
ミュウって何食べるんだろう?
どういう経緯であれゲットしてボクの元にいる以上、ボクがトレーナーとして面倒を見るのは義務だ。
だが通常のポケモンならこれまでの研究によってある程度生態というものが暴かれどういう育て方をすれば良いのかそれが分かる。
どんなものを好み、どんなことをしてやり、何を避けるべきなのか……そういうデータが蓄積されちているからそれを参考にして育てれば良い。
だがミュウは幻のポケモンだ。
生態なんてほとんど分かっていない。
眠っている姿すらほとんど見た人はおらず、普段どこにいるのか、何を食べているのか、どのくらい生きるのか、どうやって繁殖しているのか……そういう生き物として根本的な部分がほとんど分かっていない。
こういう時こそ携帯獣学*1の権威に聞いてみようと思ったのだが、電話して詳細を話したところオーキド博士が気絶してしまったので何も分からなかった。
困ったぞ、と首を捻り……どうすべきか、それを考えたところでふと思い出す。
「待って待って? そういえばキミって確か、子供の頃に出会った時、最後に喋ってたよね」
「みゅ?」
テレパシーだかで人間にも認識できる言語で語りかけていた気がする。
あの時は気のせいのような気もしたが……そうだ、あの感覚、クチバでニャスパーから届いていたテレパシーの感覚に似ていた。
「ミュウ……キミ、会話できるのにボクが困ってるの見て楽しんでたな?」
「
「お前ぇぇぇぇぇ!」
「
どったんばったん、ポケセンの部屋で追いかけっこが始まるがそもそも自由自在に浮いて空中を泳ぐようなやつに勝てるはずも無く。
「ぜー……ぜー……お、覚えてろぉ~」
「
ベッドの上で力尽きるボクの横でミュウが楽しそうに浮かび上がりながらボクのバッグから『サイコキネシス』で勝手にお菓子を出して食べている。
取り合えず分かったのは他のポケモンと同様に普通の陸棲系のポケモン用のポケモンフーズでも食べること。
あとは人間が食べるようなものも普通に食べれるらしい。
つまりあまり深く考える必要はない、ということだ。
「普通に教えてよ……くそう……疲れた」
「
「見て分かれ~追いかけっこはもうボク疲れたよ~」
「
楽しそうにミュウが鳴き声をあげた直後、一瞬視界がじり、とノイズが走ったかのような気がした。
ほんの一瞬の違和感のようなノイズ、気のせいと言われればそんな気もしてくるような些細な感覚。
だが今何かされたとボクの感覚が訴えかけてくる以上、それを無視することもできず体を起こす。
「ミュウ、今何やったの?」
「
答えになっていない返答に嘆息しながら『はいはい』と何しようかとベッドから降りた……瞬間。
がちゃり、と扉が開く音がする。
え、と視線が当然そちらに向く。
だってここはボクの個室のはずだ、誰かいるなんてそんなことがあるはずが―――。
「ぴか?」
入口脇にある扉はトイレとシャワーが一緒になったホテルによくある浴室だが、そこからピカチュウが飛び出してくる。
体をぶるぶると震わせて水気を飛ばしながら同時に『あれ?』とでも言いたげな表情でこちらを見つめる。
「ピカチュウ? あれ? なんで?」
当たり前だがボクだって『あれ?』と言いたい、というか言った。
なんでピカチュウがここに?
だってアカリの部屋は隣で―――。
「あっ」
その瞬間、何が起こったのか理解する。
だがそれを理解した時すでに何もかもが遅く。
「……ピカチュウ?」
濡れた髪をバスタオルで拭いながら
「……リンくん?」
「いや、あの違くてね」
どう言い訳すれば。
そんなボクの隣で。
「
「やっぱさっきのテレポートかよおおおお!」
楽しそうに笑うミュウの頭に思わずツッコミを入れた。
あとアカリちゃん、真顔止めよ?
もうちょっとこう……恥じらいとか無いです?
あ、無いですか……はい。
* * *
・ストーリー中に無限に金が欲しくなるのはあるある
一晩明けるとバズっていた。
いや、何を言ってんだお前、と言われそうだが、タマムシデパートなんてあんな人の多いところでミュウを釣り上げてゲットまでしてしまったのだ。
あの後逃げ出すようにポケモンセンターに戻ったとはいえ当然目撃していた人は多くいて……なんだったら動画を撮っていた人がいたらしい。
個人情報が筒抜けにならない程度にボクたちの人相はぼかされていたが、見たことも無いポケモンがデパートの中に現れてそれをゲットしたという情報は一夜にしてカントー中に拡散した。
一部の人間はそれがミュウであることに気づいただろうし、そうで無いにしても周りに聞いても誰も知らないような超珍しいポケモンがゲットされたというだけでネット上では大盛り上がりだ。
今朝ようやく目を覚ましたらしいオーキド博士から注意するように言われたので外出時は少しばかり変装することにした。
「というわけでどう?」
「……ん? 良いと思う」
あれから一晩、昨晩のことなどマジで何も気にしてない様子のアカリの前でくるりと一回転すれば
部屋の鏡の前に立ってみればそこにいたのはまごうこと無き美少女……に扮したボクである。
今着ているのはトキワシティでヒマワリにもらったワンピースドレスだ。まあ当然ながら女物だがサイズなどはヒマワリの家に泊めてもらった時に調整してあるので多少背が伸びた(かもしれない)ことを差し引いても問題ない。
そこに以前買ったアクセやエクステなどで装飾していけばあっという間にボクをよく知る人間以外には分からないだろう別人レベルの変装完了である。
髪色を変えるレベルのことはさすがにできなかったが、目に関してはカラーコンタクトで誤魔化しているし、何より性別丸ごと誤魔化しているのだからそう簡単には動画の人物とボクを結びつけることはできないだろう。
「アカリも可愛いよ。もっと普段からお洒落しよ?」
「……考えとく」
絶対考えるだけで終わりそうなアカリも最近少し伸びてきた髪を両サイドで括りミニツインにしている。
黒髪に白いリボンはやはり映える。さらに上着とかもいつもの機能性重視のものから雰囲気を変えて女の子っぽいもの変えている。
アカリの場合いつも片目が隠れる程度に髪が伸びているのだが、それを上げてやって両目が見えるようにするだけでもかなり印象は変わる。
スカートだけは履いてくれなかったがゆったりめのパンツルックでガーリッシュなイメージを損なわないようにしてやれば一気に雰囲気が変わって来る。
ボクと並べば昨日までの少年2人(片方は少女)から一転して可愛らしい女の子2人組の出来上がりである。
「というわけで準備もできたし、早速タマムシデパートに行こう」
「うん」
タマムシデパートは本当になんでもある。
昨日は2階の途中で帰ってしまったが、さらに上の階にはゲーム時代のように『わざマシン』が売っていたりするし、他にも『進化の石』、さらに対戦勢必須の道具も売っている。
「問題はお金だよね」
「ん」
ここまでの旅の最中でトレーナー戦も何度もやったし、その度に賞金は入ってはいるが欲しい物を全て揃えようとするとまるでお金が足りない。
わざマシンなどはアカリと協力して集めても良いのだが、それ以外の……特にバトル中に効果を発揮する類の道具は絶対に2人分必要になる。
「というわけで優先順位を決めよう。まず最優先は『わざマシン』……これはボクたちで共有できるからね」
「ん」
因みに『わざマシン』が無くても同じ技を使えるポケモンがいるなら一緒に特訓させることで覚えさせることができる。
横遺伝みたいなやり方なのだが、じゃあ技マシンがいらないのかと言われると全くそんなことが無い。
簡単にいうと技にも熟練度のようなものがある。
当たり前だが覚えたてで初めて使う技を自由自在に使いこなすというのはいくらなんでも無理だ。
だが『わざマシン』を使うと最初から使い方までインプットされるらしく、最初から技を思い通りに使いこなせる。
時間をかければ同じことができる……だがこの時間をかけるというのが曲者であり、ポケモンとは1体育てれば良いというものではない以上、1体あたりにかけられる時間というリソースは限られてくる。
『わざマシン』は高額な代金と引き換えにこのリソースを節約できるという大きなメリットがあるのだ。
そういうわけで汎用性の高い技の『わざマシン』は絶対に欲しい。
実際に何を買うのかは互いの手持ちと相談しながらだがこれは絶対だ。
「んでバトルで使う『持ち物』枠に関しては互いに好きなの1つずつ。あとは基本的に『わざマシン』ってことでどう?」
「ん……良い」
本当なら……本当なら最上階のファッションセンターでいっぱい買い物したいのだ。
だがそれは我慢……もうすぐやってくるタッグトーナメントで優勝すれば豪華賞品とは別に優勝賞金も手に入る。
「ボク、大会が終わったらいっぱい買い物するんだ」
そんなことを密かに企み……そして隣でアカリが首を傾げていた。
え、フラグ……?
いやいや、まさか。
ミュウの一人称何にしようかなって思ってたんだけどXでアンケ取ったら『ミュウ』が一番多かった。
でもミュウってもう一匹いるんだよな、と思ったので「みゅー」になりました。可愛いね。
あと一端情報整理のために手持ちポケモン一覧をあとがきに書きます。
・リンドウの手持ち
種族:ヒトモシ(相棒)→シャンデラ(相棒)♀ Lv75
特性:かげふみ
補足:リンドウが夢の中で出会った魂の相棒。普通じゃない特性持ち。
種族:イーブイ♀ Lv1
特性:????
補足:トレーナーになって旅に立つ前にオーキド博士にもらったポケモン。臆病な性格でバトルが怖い。最近はちょっと改善気味?
種族:ライチュウ(アローラのすがた)♀ Lv31
特性:サーフテール
補足:トキワの森で仲間になった。甘い物が好き。特に森で甘い物というときのみしかなかったが、人間の世界のお菓子は美味しいね……というわけでクチバでアローラ物産展をやっていたのでそこで食べたパンケーキが進化の切っ掛けになったのかも? ホントォ?
種族:ピィ♀ Lv27
特性:てんねん
補足:おつきやまで出会った。食欲の権化。
種族:ニャスパー♂ Lv18
特性:マイペース
補足:色違い。カロスからやってきた船に迷い込んでクチバにやってきていた。検査は終わったのでオーキド博士から返ってきているがまだ未登場なのでそのうち出番作ります。
種族:ミュウ Lv100
特性:シンクロ?
補足:タマムシデパートで釣り上げたらなんかついてきた。
・アカリの手持ち
種族:ピカチュウ(相棒)♂ Lv75
特性:せいでんき(接触技を出した時、または受けた時に相手を確率で『まひ』状態にする)
補足:最強。相棒技使える。ピカブイ冒頭の6Ⅴ個体疑惑。
種族:ヒトカゲ♂ Lv25
特性:もうか
補足:トレーナーになって旅に立つ前にオーキド博士にもらったポケモン。
種族:サイホーン♂ Lv32
特性:いしあたま
補足:トレーナーに捨てられた。オヤブン個体。オツキミヤマでゲットした。
手持ちポケモンの現在レベルとかあとがきに欲しい?
-
いる
-
いらない