さてはオリ主だなオメー???   作:水代

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そこでBボタンを押すなんてとんでもない!

 

 

 ・■■秋■竜■

 

 

 それがいつから、だったかなんて……正直覚えていない。

 ただふと気づいた瞬間、()にとってそれは強烈な違和感となった。

 

 性同一性障害。

 

 言葉にすれば10文字とちょっとで表現されるそれは、簡単に言えば心と体の性別の不一致だ。

 女っぽい男、或いは男らしい女。

 そんな()()なんて生易しいものではなく、体は男なのに心は女、体は女なのに心は男。

 その矛盾は酷く心を苛む。

 

 自分の体なのに、そのことに激しい違和感を覚える。

 

 確かに自分の体のはずなのに、同時にとてつもなく忌避感がある。

 

 (ボク)にとってそれは前者。

 

 身体的にいえば(ボク)は男だった。

 けれど性自認は女。

 そのことに随分と苦労した覚えがある。

 

 ただ家族だけはそんな(ボク)をいつだって助けてくれた。

 

 嬉しかった。

 ありがたかった。

 大好きだった。

 

 でも同時に、どうして? そんな気持ちがどうしても拭えなかった。

 なにせ(ボク)の姉妹はみんな女の子ばかりだったから。

 

 ずっと、ずっと、腹の底に感情を溜め続けていた。

 そんな気持ちを吐き出すことはできなかった。

 

 父親はまだ(ボク)が幼い頃に亡くなり。

 母親も双子の妹を生んでから病気がちになり、妹たちが10にもならない間に亡くなった。

 あとに残されたのは当時まだ高校生だった姉と、そして中学生だった(ボク)、そしてまだ小学生だった双子の妹たちの4人だけだった。

 

 それからはとにかく必死だった。

 

 姉さんは高校を卒業してすぐに就職、家族のために必死になって働き、(ボク)は妹たちの面倒を見ながら高校受験を諦め働きに出た。

 姉さんも、(ボク)も……そうするしかなかった。家族を守るために、せめて妹たちに不自由をさせないように、自由を捨てた。

 

 心を殺して、思いを殺して、ただただ無心になって。

 

 そこからの記憶は曖昧だ。

 ただただ必死で生きていた。

 それだけは覚えている。

 

 そうして妹たちが高校を出て、専門学校へと進み、望んだ職に就いた……それを聞いて、ふっとタガが緩んだ。

 記憶はそこでぷっつりと途切れている。

 

 思い返して見ると……多分死因は過労死だと思う。

 

 そうして私は―――ボクになった。

 

 いや、正しくは……私とボクになった。

 

「……だよね?」

 

 暗い暗い館(夢の中)の一室で、ベッドに腰をかけながらボクは嘆息する。

 何が切っ掛けだったのか分からないが、思い出したソレがつまりボク、リンドウの―――。

 

 ―――或いは。

 

 春夏秋冬(ひととせ)竜胆(りんどう)としての人生だった。

 

 

 * * *

 

 

 ・我は汝、汝は我

 

 

「アハハハハ! キミがそう思うならそれで良いんじゃないかな?」

 

 ボクの目の前で少女がケラケラと嗤う。

 顔は分からない、服装も分からない、その全身が黒一色で彩られた、まるで影に塗りつぶされてしまったかのような少女。

 

 ああ、でも分かる……ボクには。

 ボクだからこそ、ボクにだけは。

 

シャンデラ(春夏秋冬竜胆)

 

 ()()の名を呼ぶ。

 ボク()から分かたれた()が。

 途端に、ぴたり、と少女の嘲笑が止まった。

 

「はいはーい。分かったってば。キミの思ってるそれで合ってるよ、正解正解だいせーかーい! ……ま、()()()()()()()()?」

 

 にぃ、とその口元が吊り上がる

 

「半分……?」

「ふふ、アハハハハハハ! 良いんだよ、キミは何も知らないまま。何も知れないままで、何も知る必要も無く生きれば」

「なにそれ……」

「キミはリンドウだ。それは私が願ったことだし、キミが願ったことでもある。だからキミはキミとして生きれば良いんだよ。なにも気後れする必要なんてない。ただキミはキミが望むがままに今度こそ自由に生きれば良いんだよ!」

「……自由に、か」

 

 前世の(ボク)には自由というものがほとんど無かった。

 妹たちがある程度大きくなってからは多少の時間もあったが、それでもやりたくてもやれなかったことなんてたくさんあって。

 

「世界で一番楽しい旅がしたい」

「そうさ、それがキミの願い。そして私の願い。それ以外なんてどうだっていいでしょ? だってもう終わった話なんだから」

「……そんなものかな」

「そんなものだよ」

 

 たしかに前世は所詮前世。

 もう終わった話であり、今世とは関係の無い話と言えばそれまでだ。

 なにせ今更何を言おうが前世に帰れるわけではないのだ。

 

「……ま、転生してまで(えん)が途切れてないとは思わなかったけどね」

「ん、何か言った?」

「いやいや、なんでも無いよ。こっちの話さ。それより早く目覚めなよ……アカリはもう起きてるよ」

「え、あ……そっか。アカリ、ちゃんと目を覚ましたんだ、良かった」

 

 安堵するボクに、少女(わたし)がケラケラと笑う。

 

「ね、ところでさ、前から気になってたことがあるんだけど」

「え、何?」

 

 視界が白み始める。

 それは目覚めが近いことを予感させて。

 

「キミってさ、アカリのこと好きなの?」

 

 問われたその言葉に、一瞬虚を突かれる。

 ほんの数秒の沈黙。

 その間にも視界は白く染まり続けて。

 

「―――」

 

 呟いた言葉は、果たして彼女に届いたのだろうか?

 

 その答えを確認するより前に、白が視界を焼き尽くした。

 

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 ………………………………。

 

 

「それにしても、ソウ姉にヒーちゃんまでこの世界にいるなんてね」

 

 片割れのいなくなったその一室で、少女の姿をした影はどこか困惑したように呟く。

 

「ソウ姉は気づいて無さそうだった……いや、それとも(ボク)みたいに覚えてないのかな?」

 

 ふむ、と口元に手を当てて首を傾げる。

 

「ただヒーちゃんは……うん、気づいてそうだったねえ。()()に伝えるべきか否か、少し困るよね」

 

 前世において可愛い……大切な妹だったのは間違いないが。

 

「どこで教育間違えちゃったかなあ。手のかかる可愛い子なのは間違いないけど……」

 

 ―――良い子ではないよね。

 

 言葉にはしないが、けれど事実が変わるわけではなく、少女はただ嘆息する。

 

「せめてウメちゃんがいてくれたら……あの子も、この世界のどこかにいるのかな?」

 

 ヒーちゃん単体ではその……少しばかり悪意が強すぎる。

 何をどう間違えてしまったのか、無邪気なくらいに爛漫に悪意的な子だから、正直()()には刺激が強すぎる。

 

「全部の記憶が戻れば……いやでもなあ」

 

 ()()が取り戻したのは大雑把な記憶。或いは春夏秋冬竜胆という人間の記録、とでもいうべきか。

 そこには実感、或いは経験に宿る熱が欠けている。

 どこか無機質的な記憶、何よりどうして転生したのか……つまり死を明確に記憶していない。

 

「でもそれで良いんだ。そういうのは全部私が受け持てば良い」

 

 我は汝、汝は我だ。

 別のゲームのキャッチフレーズのようなものだが、私は()()だし、()()もまた私である。

 一心同体ならぬ一心二体。()()は人間として、私はポケモンとしてこの世界に誕生した。

 

 だからこそ私は素直に()()の幸福を望むことができる。

 その幸福は私のものでもあるのだから、当然だ。

 

「キミはアカリと共に正道を進めば良いさ。その裏側で、その影で、私はただ見守るだけなのだから……」

 

 2人に降り注ぐ悪意は全て私が焼き尽くそう。

 

 だから、どうか。

 

「……今度こそ、自由に、楽しく、幸せに生きたいね」

 

 

 * * *

 

 

 ・おや……!? アカリの様子が……!

 

 

 目を覚ますと柔らかいベッドの上だった。

 ぼんやりとした思考の中で目を開き、ぼやけた視界が徐々にクリアになっていくと同時に自身の隣から聞こえる寝息に気づく。

 

「……リン、くん?」

 

 そこに見つけた少年の姿。やがて徐々にはっきりとしてくる思考の中で何故という問いがぐるぐると渦巻く。

 直後、昨晩のことが思い出される。

 スマホを失くしてしまったこと、探しに控室に戻ったところでスリープの『さいみんじゅつ』で意識を失ったこと。

 そして薄っすらとだが覚えている……どこか暗い場所で、縛られていたこと、それをリンくんが助けてくれたこと。

 

「……リンくん」

 

 目の前で眠る少年の姿を見やりながらその名を呟く。

 とくん、と胸の中で鼓動が弾けた。

 

「……?」

 

 一瞬だけ感じたその妙な感覚に胸に手を当ててみるが、すぐに感覚が消えてなくなる。

 何だったんだろう、と首を傾げながらも体を起こすと途端に頭がふらついた。

 

「あっ」

 

 ぼすん、とそのままベッドに倒れ込むと転がった場所が悪かったのか、目と鼻の先にリンドウの顔があって。

 

「…………」

 

 ふい、とつい視線を逸らしてしまう。

 あれ……何でだろう?

 そんなことを考えるがけれどやはり答えは出なくて。

 

「……ん」

 

 目の前でリンドウが僅かに身じろぎする。

 その拍子にリンドウの手がアカリの手に触れて。

 

「……っ」

 

 そのことにどうしてだろう、僅かながらに動揺してしまう自分がいて。

 自分が自分ではないような気がしてしまい、揺れ動く心のままにベッドから抜け出す。

 そのまま一緒くたに置かれていた自身の荷物を手に取り部屋を出ると、どうやらリンくんの部屋だったらしく、そのまま自分の部屋に戻る。

 

 ボールを投げれば中からピカチュウが飛び出してくる。

 

「ぴか! ぴかぴー!」

「……ん、大丈夫」

 

 どうやら心配してくれていたらしい。

 慌てた様子のピカチュウに無事を伝えるとほっと安堵した様子でピカチュウが大きく息を吐いた。

 そんなピカチュウを見ているとどうやら動揺が収まって来たらしく、多少頭が回るようになっていた。

 

「……反省だね、ピカチュウ」

「ぴか!」

 

 油断していなければ……というのはさすがに無理があったかもしれない。

 実際、スタジアム内でポケモンを出すのは禁止されていたので、まさか控室でいきなりポケモンに襲われるとは思わなかった。

 だがまあそんなものはこちらの言い分だ。

 相手がそんな言い分を酌量してくれるわけでも無い。

 

 不味いと思った時に反射的にボールを投げれればあの場で攫われることも無かったかもしれない。

 

 常にピカチュウが傍にいることで油断した……というのは言い訳だろうか。

 

 けれど結果的にリンくんに助けてもらわなければどうなっていただろうか。

 

「…………」

「ぴーか?」

 

 思わずピカチュウを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。

 ぶるりと震える体を、ピカチュウの小さな手が慰めるように二度、三度とぽんぽんと叩く。

 

「強く、ならないと、ね」

「ぴか!」

 

 旅をしている中で分かったことがある。

 マサラタウンがいかに平和で、優しい街だったか。

 そしてマサラタウンの外にはたくさんの危険があり、自分はいつだってリンくんに助けられてきたのだということ。

 ほんの僅か、リンくんから離れただけでこれだ。

 自分がいかに子供で、悪い人間からすれば手頃で、狙いやすい相手なのか、それを思い知らされた気がする。

 

 これまでの旅はいつでもリンくんが導いてくれた。

 

 必要なこと、やりたいこと、楽しいこと、危なくないこと。

 全てリンくんが探し、考え、そして手を引いてくれた。

 

「…………」

 

 まただ、リンくんのことを考えるとなんだか胸に違和感を覚える。

 ちくちくと痛むような、ドキドキと鼓動が速くなるような。

 焦燥感にも似た不可思議な感覚。

 

「…………」

「ぴ、びいかぁ」

「あ、ごめん……」

 

 無意識的にピカチュウを抱く力が強まり過ぎていたのか、ピカチュウが苦しそうな声を出すので思わず手を放すとピカチュウはするりと腕の中から抜け出してそのままベッドの上へと飛び上がった。

 そのまま大の字になってうつ伏せ、尻尾だけを揺らしているのを見るともうこちらには来そうに無かった。

 

 こんこん、と直後にノック音。

 

「アカリ? 起きてる?」

 

 聞こえた声に部屋の鍵を開けると外にリンくんがいて。

 

「ああ、良かった……起きてたね。体、変なとこ無い?」

 

 心配そうにこちらを見つめるその視線に、何故か今度は胸があったかくなって。

 

「……ん、大丈夫」

 

 同時、告げていなかったことがあったと、思い出す。

 

「リンくん」

 

「どうしたの?」

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

 ほんの一瞬だけ、リンくんが目を瞬かせ。

 

「無事でいてくれて、良かった」

 

 ふっと笑みを浮かべ、呟くその姿に。

 

 ほんのちょっぴりだけ……見惚れた。




更新しないとなーって思いながらバイオ5全クリしたりRe4の難易度プロSクリア(S+は無理だ……)やってたり、プラグマタの真エンドクリアしてたり、ドットアビスサ開したのでドハマりしてたり……色々やってたらこんなに間隔空いてしまってた。

手持ちポケモンの現在レベルとかあとがきに欲しい?

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