「これはまた……」
眼前の光景を見つめながら思考を回していく。
かなり押されているように見えるが実のところまだやや不利くらいだ。
先ほど相手の『ソーラービーム』とこちらの『かえんほうしゃ』の押し合いで負けたのは結局相手側に『ひかりのかべ』があったから。
技とは結局『タイプ』のエネルギーの放出だ、故に『くさ』タイプの技と『ほのお』タイプの技がぶつかれば基本的に『ほのお』タイプが有利になる。
つまりそろそろ……仮にあのジャローダが『ひかりのねんど』*1を隠し持っていたとしてもあと数手でこちらが押せるようになる、はず。
それに相手が『へびにらみ』『ひかりのかべ』『ソーラービーム』に『
それから―――。
「こけおどしだね」
「……はい?」
「アカリとピカチュウの組み合わせなら……まあ多少難儀したかもね。でもシャンデラはゴリゴリの特殊アタッカーだ」
目の前に広がるレーザートラップのごとき閃光の網を見やりながら笑う。
「撃て、シャンデラ」
そんなボクの指示にシャンデラが眼前に『ほのお』のエネルギーを収束させ『かえんほうしゃ』を放つ。
放たれた炎がレーザーを焼き尽くし、消し飛ばしながらジャローダへと襲来し、素早い身のこなしでジャローダがそれを回避する。
「ローザ姉が攻撃を『ソーラービーム』1本に絞った時点でシャンデラは動く必要が無くなった。だって根本的にはジャローダのほうが速いしね、だったらボクたちは迎撃に回るべきだ。そしてその場から動かない以上このレーザートラップはこけおどし以上の意味なんて無いよ」
そんなボクの言葉にローザ姉が目を細める。
このレーザートラップは明らかに『対近接用』の備えだ。
『ソーラービーム』を何故連発できるのかは分からないが、それができる以上あのジャローダのメインウェポンはそれだ。
つまり相手に近づかせずに遠くから『ソーラービーム』を撃つ固定砲台、それがローザ姉のジャローダの基本戦術なのだ。
逆に言えばあのレーザーは近づかせないためのものであって、それ以上の役割は無い。
こちらのシャンデラのように遠距離から火力で制圧するタイプのポケモンとの相性は悪いといえる。
視覚的インパクトは凄い。
アカリのピカチュウのように縦横無尽に移動しながら攻撃を仕掛けるスピードタイプのアタッカーでは苦戦するかもしれない。
だがこちらがシャンデラを使う以上はそれほど意味があるとは思えなかった。
―――まあそれだけってことは無いだろうけど。
そんなの使ってる本人が分かっていることだ。
こけおどし、なんて言ったが実際のところもう一つか二つ、手品の種が仕掛けられていても不思議ではない。
だがそれを正直に伝える必要はない。
トラッシュトークは別にポケモンバトルでは禁止されていない。バトル中にトレーナー同士が会話することもまあまあある。
まああまり酷い内容の発言をしたり、バトルそっちのけで会話に集中していれば審判から警告をされることもあるが。
必要のは思考を増やすことだ。
結局のところ、ボクの一番の強みはそこにあるのだから。
* * *
ゲーム時代のポケモン対戦を比べるとリアルポケモンバトルにはとにかく情報量が多い。
まず第一に思考時間がとにかく違う。
実機対戦のように60秒もうんうんと考えている間に相手は2度、3度と行動している。
常に状況を把握しながら思考を巡らせ最善の一手を導き出すのはどんな名トレーナーだって至難の技だ。
だからリアルのバトルにおいてトレーナーは主にたった1つのことを念頭において指示を出す。
―――『自分の勝ちパターンを作る』こと、或いは『相手の勝ちパターンを潰す』ことだ。
例えばアカリとピカチュウならばスピードで攪乱され『ばちばちアクセル』の直撃を受けたらその時点で6割『マヒ』でハメ殺される。
故にまずはこちらは相手にスピードを生かす状況を作らせないようにするし、アカリもまたそれを受けないように立ち回る。
一瞬の判断が状況を左右する時に先読みの思考は難しい、だがどう持って行きたいのか、それを念頭においていけばやることは自ずと決まって来る。
思考の余地を潰し、考える量を減らす、これをしないと常人の思考速度ではバトルの展開スピードについていけなくなる。
そしてバトルの展開スピードはトレーナーとして上に行けば行くほど速くなっていく。
相手が10秒考えている間に5秒で思考をまとめて指示を出せば5秒相手より速く動ける。
考え方としてはこれだが数秒の差が先制、後攻に直結する以上これは当然の帰結ではある。
そしてボクの強みというのは多分ここなのだ。
ずっとアカリとばかりバトルしていたから気づけなかったが、これまでのジム戦や先日のタッグバトルなどを通してようやく理解したことがある。
―――だいたいのトレーナーはボクより思考が遅いということだ。
それは大した差ではないかもしれない。
ほんの一瞬、程度の差なのかもしれない。
だが積み重なればそれは一秒の差となり、さらに積み重ねれば一手分の差となり得る。
ボクはアカリのように直感で正解を導くことはできない。
直感で攻撃を当てることも、避けるさせることもできない。
だから人よりたくさん見て、人よりたくさん聞いて、人よりたくさん考える必要がある。
* * *
「シャンデラ、地面に炎を叩きつけて」
「シャシャ!」
シャンデラが地面に向かって『かえんほうしゃ』を放つとフィールドがめくれ上がり、途端に砂塵が舞う。
ほんの一瞬、こちらとあちらの視界が砂塵によって遮られる。
だが数秒もすれば砂塵も収まり―――そこにシャンデラの姿が無いことに、ローザ姉が目を見開く。
「ロゼ!」
「ロォォ!」
即座に指示を飛ばし、それに従ってジャローダが吼えた瞬間、ジャローダの周囲を舞う光る粒子が僅かに動く。
ほんの僅かな傾きの変化、だがそれによって反射の角度がずれたのか目の前で
まるで網ですくうように、網状に入り組んだレーザーがフィールドを薙ぎ払っていく。
「驚きはあるけど……
どこにいようと当てて見せると言わんばかりの攻撃だがレーザーが通り過ぎた後のフィールドにはシャンデラの姿はない。
「どこにっ!?」
どこに行った、と口にしようと瞬間にはっとなってジャローダのほうへと視線を向け。
「ロゼ! 足元!」
叫ぶような勢いのその言葉にジャローダが視線を下げたその時。
「あっちこっちピカピカ光ってたからね……
「シャシャ」
ジャローダまで伸びていた影を伝い、
貯め込まれた『ほのお』のエネルギーが『かえんほうしゃ』となって放たれる。
すでに溜め終わっているが故に、避ける間も無い一撃がジャローダを襲い、『こうかはばつぐん』なその攻撃にジャローダが思わず悲鳴を上げる。
同時に周囲に浮かんでいた光る粒子もまた炎に飲みこまれたせいか消え去っており、フィールドを覆っていたレーザーが消えていた。
「ロゼ!」
だが元よりジャローダとは耐久力の高いポケモンであるが故に、メガシャンデラの圧倒的その火力の前でも『ひんし』となること無くすぐに距離を取る。
追撃が来るより先に再び『
「まあ、回復するのは予想通り」
立ち止まり、回復のために一手を使う。
それが重要なのだ。
なにこれはゲームだと優先度-5……つまり現実だととんでもなく隙の大きい技だから。
「
「それはっ!」
その隙に先日買った技マシンで覚えたばかりの技を発動させる。
フィールド全体を覆うように不可思議な空間が広がり。
「詰みだ」
呟きと共にシャンデラが先程までとは比べ物にならないほどの猛スピードで動き出す。
照準を合わせ、
ただし先ほどのような長く放つタイプではない。
短く、連射が効くように。
同じ技でも使い方を変える。
「ロゼ!」
ジャローダもまた迎撃のために『ソーラービーム』を放つが、状況が先程とは全く違う。
『トリックルーム』は『素早いポケモンほど遅くなり、遅いポケモンほど素早くなる』不可思議な領域だ。
ジャローダの最大の特徴である高い『すばやさ』はこの領域化では足の遅さへと変わり、シャンデラの今一つ物足りない『すばやさ』はこの領域では先んじるための足の速さへと変わる。
そして先も言ったが意思疎通の差でこちらのほうが一瞬指示からの行動が速い……その結果がどうなるか。
「っ、ロゼ!」
「こっちが先だよ」
攻撃を放ち、辛うじて迎撃が間に合う。その隙に移動し、さらに追撃、それをなんとか迎撃。
そんな攻防が二度、三度と繰り返される度に僅かな遅れが積み重なっていき、やがてそれは明確な差となっていく。
そうして―――。
「一手先んじた」
まだ収束しきっていない『ソーラービーム』より早く、放たれた短い『かえんほうしゃ』がジャローダを捉えた。
「ロゼ!」
ローザ姉が叫ぶが、放たれた単発の炎にジャローダが一瞬怯み。
「
追撃で放たれた全力の一撃がジャローダを焼き尽くした。
* * *
「負けましたの~! めっちゃ悔しいですわ! 悔し~ですわ~!!!」
すげー……ハンカチ噛んで悔しがる人とか現実に存在したんだ。
謎の感動を覚えながらローザ姉に渡されたバッジをケースに収める。
「悔しですが、非常に悔しいですが! 負けたなら仕方ありませんの! 餞別にこれもあげますわ!」
といって技マシンもくれた。
中身は『くさわけ』らしい。さすが転生者というかセンスが絶妙だ。
そうしてジムを出る前にローザ姉にこれからの予定を問われたのでもう数日したらヤマブキシティへ向かう予定であることを伝えたらバトルに使う道具などいくつか余っているものがあるので明日取りに来いと言われたので了承してジムを出る。
「……リンくん、すごかった」
「そうだね、ポケモンの技ってあんなことできるんだね」
「それも、だけど」
そうして激戦だったせいで疲れたと嘆息していると隣を歩くアカリがいつの間にか視線をこちらへと向けていた。
確かにローザ姉とのバトルはポケモンの技の使い方というものを考えさせられるバトルだった。
実機で活躍したポケモンが実機通りの活躍をするわけではないとは分かっていたが、それどころか実機で使われていなかった技が現実ならばとんでもない化け方をするのかもしれない、その可能性を考えさせられるようなバトルだった。
そう思っての返しだったが、肯定しながらもアカリが首を振る。
そうして。
「リンくん、が……すごかった、し」
気のせいか、いつもより少しだけ……紅潮した様子で。
「その」
なんだか、言いにくそうに。
「かっこ、よかったよ?」
そんなアカリの真っすぐな言葉に、思わず答えに窮してしまって。
「えっと、その」
思わず頬をかき……少しだけその部分が熱を帯びたような自覚を持ちながら。
「ありがとう、アカリ」
笑みを浮かべる。
なんだかアカリにそんなことを言われると照れてしまう自分に驚く。
だから照れてしまっている……それを褒められているのだと認識している今の自分がかつての自分とは別の存在だと余計に強く意識した。
今回のバトル一部おかしいだろって箇所あったかと思いますがちゃんとわざとです。
ところで今作に関してはデータ作成する気無かったけど、ちょっと作ってもいいかもと今考え中。
手持ちポケモンの現在レベルとかあとがきに欲しい?
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いる
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いらない