・大人の事情で消えた幻の施設
タマムシデパートで『わざマシン』をあれこれと選んでほくほく顔での帰り道。
欲しい技マシンはだいたい手に入り、これで育成も捗るぞ……と思っている最中、あまりにも多い人通りを避けたため少し遠回りになってしまった帰りの道中でその建物に気づく。
ジャラジャラと外からでも聞こえてくるけたたましい音。
合間合間に聞こえるのは人々の歓声、それから絶叫。
「……あるんだ?」
不意をついて零れたその言葉に隣でアカリが首を傾げた。
それは後年のポケモンシリーズから無くなってしまった要素の一つだ。
大昔のポケモンにおいて強力な技マシンや珍しいポケモンをゲットするために必須となっていたそれ。
―――タマムシシティのゲームコーナーである。
後年の作品だと海外展開なども当たり前になっていたせいか、ギャンブル要素などは自粛してしまっていたが第四世代までのポケモンにはゲームコーナーでスロットなどのミニゲームを遊ぶことができた。
そうして集めたコインは隣の交換所で色々な景品と交換できたのだが、特にここでしか手に入らないものを挙げるならポリゴンだろう。
人工的に開発されたポケモンであるポリゴンは野生では出現しないが、にも関わらず図鑑埋めには必須という厄介な存在で、その唯一の入手手段がゲームコーナーのコイン交換だったため多くの図鑑埋めプレイヤーがスロットで大金を溶かしていった。
なお後年の作品では何故か野生で出てくることがある……いや何で?
特に年代的には初代と同じはずのピカブイで野生出現するのは本当に何で?
いやゲーム的にゲットできないと話にならないから、というのは分かるがそれ
でも……シルフさん? オタクの人口ポケモン脱走して野生化してますが? と言いたくなる。
まあこっちはこっちでシルフ開発の人口ポケモンがなんでゲームコーナーの景品にされてるんだというツッコミもあるのだが。
交換所のほうも軽く覗いてみたが、タマムシデパートにすら売っていないような……それこそ『わざレコード』しか市販されていないような類の技まで『わざマシン』として置かれていたし、ちょっとこれどこで見つけて来たの? と聞きたくなるようなポケモンまで景品に並んでいた。
―――大丈夫? これ本当に合法?? ジュンサーさん呼ぶ???
そんな問いが頭の中でぐるぐる渦巻いているが堂々と置かれているし他の人も気にした様子はないので多分合法なんだろう……多分。
並べられたポケモン、技マシン、その他道具のラインナップを見てアカリも興味のある様子だったし、少しだけ入ってみようということに。
因みに前世だとこの手の場所は年齢制限があったが、この世界においてそれは無い。正確には成人していればオッケーなのだがその成人がカントーにおいては10歳とかいう前世で考えると気が触れているとしか思えないような低年齢なせいであってないようなものとなっている。
入口の自動ドアが開いた瞬間に津波のように溢れ出す騒音にアカリが思わずといった様子で数歩下がり、その足元でピカチュウが耳を塞ぐ。
ボクはまあ知識としてそういうものだと知っていたので後ずさるようなことは無かったが、それでもその音の圧に押されて足が止まってしまうし、頭の上でイーブイが丸まって両手で耳を抑えていたのですぐにボールに戻してやる。視線を向ければピカチュウもさすがにこの煩さは敵わないとアカリに頼んでボールに戻っていた。
―――これ入るの? マジで?
と思いつつもちょっと腰が引けてしまっているアカリの手を引きながら中に入る。
入口の自動ドアが閉まった瞬間、さらに反響してきた騒音が耳の奥を突いてくる。
段々と頭がくらくらしてきたので荷物から旅先で就寝用に買っておいた耳栓があるので取り出し、アカリと2人で耳に突っ込めば大分マシになった。
ただし今度は会話ができなくなってしまったのでスマホで『気が済んだら各自帰宅で』とアカリに伝え、頷いたのを確認して別れる。
そうして再び店内を眺めてみるがどうやらゲーム時代もあったスロットがずらりと並べてある。
さらに奥のほうへと歩いて行くとコインの両替機があったのでとりあえず今日の買い物で大分減ってしまった残高と相談しながら交換、脇にあったコインケースに突っ込むと近場のスロットに座り早速メダルを投入した。
軽快なBGMと共にリールが回転を始め、しばらく高速回転する絵柄を見つめながらやがてリール下のボタンを押すと一列分回転が止まる。
3列全ての回転を止め……けれど絵柄は全く揃っていない。
「目押しはできそうないなあ」
ポケモンの力を借りれば、と一瞬思わなくも無いが、さすがにそれはズルが過ぎるかと自制する。
それから何度か試してみるが3回に1回くらいはしか揃わないし、揃ってもだいたい一番安い絵柄ばかりでコインが減っていくばかりだ。
一発ドカンと大きく当たれば取り返せる……なんて考え方は残念ながらボクにはできそうもない。
仕方ないと諦め台を立って残ったコインを全てケースに入れる。
まあギャンブルなんて基本的に負けるようにできている……ワンチャン目押しとかできないかな、と思ったがそれも無理そうだ。
「というわけでアカリ、これ全部あげる」
「……?」
システム自体が良く分かっていなかったらしくコインも交換せずスロット台の前でどうすればと途方に暮れていたアカリを見つけると手持ちのコイン全てを詰め込んだケースを差し出す。
突き出されたコインケースを見ながら何? と首を傾げるアカリを見て、騒がしすぎて声が届いていないことに気づきすぐにスマホを打つと、分かったと頷いたアカリが受け取ったコインをそのまま全て投入、リールが回転し始めた瞬間にアカリがボタンを押して止める。
中央の数字は『7』。
それから一瞬悩むように首を傾げ、けれどまた何気なくボタンを押す。
中央の数字はまだ『7』。
最後の一列。伸ばした手を一瞬止めて、アカリが三度目のボタンを押す。
最後の数字は……『7』だった。
「さっすが」
スロット台がピカピカと光りながら払い出し口からはジャラジャラと次から次へとコインが吐き出されていく。
それをコインケースに仕舞いこみながら再びアカリに差し出すとやり方が分かってきたのかアカリが再びそれを投入口へと入れた。
さすがに毎回毎回『777』なんて出るわけではないし、偶に揃わないこともあるようだがそれでもボクがやるより圧倒的な効率でコインが量産されていく。
まああまり派手にやり過ぎても店側に目を付けられそうだ。
この街が決して綺麗なだけの街ではないこと、現実がゲームのようには優しくないことは先日散々思い知らされたので適当なところで止めるとしてだ。
「……折角来たならちょっと探ってみようかな」
何をと言われれば実機にもあった『ポスター裏のスイッチ』だ。
ゲーム内ではロケット団のアジトへの通路が開いたが、現実では果たして?
「アカリ、ちょっと離れるね?」
思考から戻って来るとアカリの肩をぽんぽんと叩く、アカリがこちらに視線を向けると聞こえるように耳元で告げるとこくこくと頷く。
直後にまた当たったのか払い出し口からどんどんと出てくるコイン。どうせタイミングも『なんとなく』なのだろうけれど、それでこれだけ当てれるのは本当に凄い。
とその時、払い出し口から1枚のコインがぽんと飛び出して床を転がる。
「あっ」
ちょうど足元に転がり、ぶつかって止まったそれを拾いアカリに返そうとして、ふと気づく。
「なんかこれ模様が違う?」
他のコインとは少し模様が違うどころか、アカリに1枚別のコインを借りて見比べてみるがサイズが微妙に違う。
他のコインは皆同じサイズ、模様をしている。つまりこれ1枚だけが異なっている。
―――ゲーセンのコインじゃない?
どこか別の場所から持ってきたコインを間違えて使ってしまったとかそういうことなのだろうか?
でもコインのサイズが違うのに機械が反応するとは思えないのだが……。
「なんだろうこれ?」
疑問に思いつつ、まあゲームセンターの従業員に渡せばいいか、と視線を上げて。
「……?」
ただしあまりにも小さいそれをボクは普通に見逃した。
何か動いたのは分かるが、それが何か注視するより早く逃げて行ってしまった。
でも間違いなくそれは生物で、多分ポケモンだ。
―――タマムシのゲームコーナーで?
そんなイベント無かったはずだが、現実には何が起こるか分からないということなのだろうか?
でもこんな人の多くて騒がしい場所にポケモンなんているのだろうか?
大多数の野生のポケモンは人の気配に敏感であり、縄張りの外ならば避けて動こうとするのでこういう人の気配のする室内に入って来るのはコラッタのような街のあちこちにいる……それでいて好奇心の強いポケモンが多い。
ただそういうポケモンはだいたい生物的特徴を持つ……例えばピカチュウだとか、イーブイだとかああいう『獣』らしさのあるポケモンというのがだいたいであり、そういうポケモンは
逆に無機物的……コイルだとかそういう類のポケモンならばこんな騒がしいところでも平然としているかもしれないが、そういうポケモンは今度はわざわざ店の中まで入ってこない。
だからこんなところにいるポケモンって一体? となってしまう。
分からない、分からないが気になったので追いかける。
すばしっこいやつであっという間に視界から消えていったが、どの方向に行ったかくらいは分かる。
スロットに夢中になっている人たちの後ろをそっと抜けていくとどうやらまだそこにいたのか視界の先、通路の奥のほうで小さなポケモンらしき何かがこちらに驚きさっと走り去っていくのが見えた。
「……え?」
先とは違う、何かいるという前提で、しかもそれが小さく、すばしっこいやつだと分かっていたため注意深く見ていた。
だから気づいた、気づけた、気づいてしまった。
いや、確かにこの場所であることを考えれば居てもおかしくはないように思える。
でもやはり
先ほどアカリから譲ってもらったコインを取り出し眺める。
「コイン……ってそういうこと?」
ボクの知識の中で1種だけ、
図鑑説明にだって『コインに染みついた情念から生まれた』と書かれているのだから、この場所にいることは実はそんなに不自然には思えない。
でもやっぱりおかしい、だって本来ならそれは
何がどうなってここにいるのか、それは分からないが。
でも確かに今先ほどボクはそれを見たのは事実で。
「え、マジで?」
箱に入っていない状態だと確か『たからさがしポケモン』だったか。
全国図鑑番号999番。
コレクレーがそこにいた。
* * *
・まーた転生者パイセンの仕業ですか
頭の中は疑問符でいっぱいだがそれでも逃げるコレクレーを追いかけていく。
どうやら今手の中にあるコインが欲しいようだが見つかったので逃げているらしく、一定距離離れるとこちらの様子を伺うのだが追いかけると逃げられるを繰り返している。
だが二度、三度と繰り返しているとどうにもならないといった様子でコレクレーが
「……は?」
慌ててコレクレーの消えた壁に触れてみるが確かに質量を持った感触が返って来る。
どういうこと? と頭の中が再び疑問符で埋め尽くされていくが、一度大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「なんでここにいるかは良いとする、今考えることじゃない。問題はどこに消えた? ってこと」
あれで『ゴースト』タイプなので壁抜けくらいできるのかもしれないが、じゃあこの壁の裏はどこに繋がっているのか。
気になるのはこの壁を抜ける直前のコレクレーの様子の変化。
ここに来るまでは距離を離してこちらの様子を伺っていた。
要するに今手の中にあるコインを拾うチャンスを伺っていた……期待していた、とでもいうべきか。
だがここに来た途端にそれが無くなった。
どうにもならないといった様子で消えていった。
要するに諦めた、とでも言おうか。
単純に諦めて逃げたというよりはここまで追い詰められたから逃げた、という感じ。
つまり追いかけた回数の問題ではなく、追いかけられた場所の問題……のような気がする。
だって別にここは袋小路とかそういうわけではない。
まだ奥に続く道はある、なのにそちらに逃げずに壁の中に消えていった。
「……壁の中?」
途端に思い出す。
そもそもなんで自分がアカリと別れたのか。
コレクレーを見つけてしまったからそちらに意識が向いていたがそもそもボクが好奇心から見ようとしていたのは―――。
「壁……ポスター……あったね。その裏に……スイッチがある、なんてこと……ある」
ポスターの上から探るように触れてみればスイッチのような、何か押し込める感覚。
左右を見渡す、誰も居ない。
ここは並ぶスロット台の裏側になっていたちょうど客席側からも受付側からも死角になっているようだった。
随分と都合が良いような、と思いながらもスイッチを押し込んだ……瞬間。
「うわっ?!」
扉が開くでもなく……いきなり壁が忍者屋敷のようにしかも床ごとぐるんと回転し、あっという間に壁の内側に引きずり込まれた。
振り向いてみればぽつぽつと照明に照らされた階段がそこにあり、恐る恐る降りていくと―――。
「えぇ……」
あったのは金属製の扉が一つ。
ただし先日の廃倉庫のような錆びついたものではない、手入れされたように埃も無ければ錆も無い、ここに来るまでの妙な仕掛けさえなければ非常階段の出入り口のようにも見える。
―――見えるだけだが。
「……転生者パイセンだこれ」
『ようこそタマムシ地下ダンジョンへ!~ロケット団アジトの風味を添えて~』
と書かれた看板が掲げられている。
場所と仕掛けとそしてこのメッセージ。
風雲タケシ城をボクは忘れていない。
歴代転生者パイセンの悪ふざけだ、間違いない。
ホントフリーダムだなアイツら!?
本当はコレクレーなんて予定に無かったんだ。
ついでにいえば技マシン買ってヤマブキに行く予定だったんだ。
でもそういや原作ゲームコーナーイベントやってなかったなって思い出して、書いてる途中に『そういやゲームコーナーってコインいっぱいだしコレクレーとかいそうだな』とか思ってたら気づいたら登場してた。
ま、まあ全部地下ダンジョンが……転生者パイセンが悪いんだよ(震え声
……………。
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因みにマジで歴代転生者パイセンのせいで各地の生態系が割と狂ってたりします(カントーはまだマシ
だってこの世界の転生者パイセンってヒスイの時代にはすでに存在したからね(そこまで続いたらネタバレかもしれない、続かないなら裏設定
手持ちポケモンの現在レベルとかあとがきに欲しい?
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いる
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いらない