・地方のトレーナー事情
タマムシシティからヤマブキシティの間は案外近い。
というか歩いても3時間くらいだろうカントー有数の大都市であるこの2つのシティの間は片側4車線ずつの大規模な道路が作られ、常に大量の車両が行き来している。
当然バスなども頻繁にやってきており、15分に1本という高い頻度で乗れるが毎回車内は人が溢れるくらいには乗客が多い。
ポケモンで旅というと歩きのイメージが強いが、実際のところ大半のトレーナーはバスや電車などの交通機関を使うし、バッジを複数集めた上位のトレーナーになればポケモンに乗って『そらをとぶ』ことで移動することが多い。
またトレーナー以外の人は普通は野生ポケモンの多い街の外を不用意にうろついたりはしないため、車両移動というものが前世よりも一般的になっている。
正直原作イメージのように歩いて旅をするトレーナーが少ない理由は恐らくトレーナーの専業化が進んでいるせいだろう。
要するにプロトレーナーだ。実機だとエリートトレーナーなんて呼び方もされていたが、要するにトレーナーとしての実力で金を稼いでいる人間だ。
まだ10歳の新人トレーナーですらタマムシのタッグバトルの優勝賞金で50万もらえる業界なのだ。
当然さらに上のレベルが集うだろう大会でならばその賞金は跳ね上がる。
そんなレベルの大会がタマムシ、ヤマブキの2都市で年に何度も行われているのだ。
それで食べていくというトレーナーも一定数以上いるし、そういうトレーナーはつまり勝てなければ食べていけない。
それだけ勝つことに貪欲になるし、そのためにも効率的にポケモンを育てようとする。
目的を持ってポケモンをゲットするし、目標に沿ってポケモンを育成するし、計画的にパーティを作る。
当然のんびり旅しながら強くなる、なんてことをしている間にライバルたちは効率的に育成を進めさらに強くなっていく。
だから旅をしながら地方を巡るなんていうのはまだトレーナーなり立ての新人だけに許されたモラトリアだ。
前世でもそうだったがパーティ構築、メタ育成、ガチ戦術。
そういう環境の変化の機微をいち早く察し、変化についていけるプレイヤーはレートでも上位に行くし、そういう環境の変化というのは毎日レート対戦に潜り続けるような猛者だからこそ気付ける変化なのだ。
この世界でも同じだ、年がら年中ポケモンバトルにことばかり考えている廃人みたなトレーナーだけが大会などで勝ち続け、結果を残していく。
そして年々増え続けるトレーナーに対してそういう『ガチ勢』は今も増え続けているのだ。
そういうトレーナーは当たり前だが強い。勝つために努力し続けているのだから当然過ぎる話だ。
そしてそういうトレーナーがリーグに挑み勝ち進みチャンピオンに、或いは四天王となれば当然地方リーグのレベルだって上がって来る。
地方リーグのレベルが上がればそれを目指すトレーナーたちもまた同じように強くなるための努力を要求される。
結果的にトレーナーのレベルは年を追うごとに上がって来る。
タマムシに居る時に気になって調べたのだが10年くらい前までは地方リーグのチャンピオンのレベルはもっと低かった。
映像記録が少ないが体感だがレベル80くらいだろうか?
つまり今のボクたちでも1体くらいなら戦えなくもないくらいだろう。
そして現在のチャンピオンの最新の映像を見る。
結果だけ言えば計測不能。
ボクの体感でのレベルというのはヒトモシがランプラーに進化した時を基準にしている。
要するに実機のレベルを元にだいたいこれくらいと言っているだけだ。
だからその上限は100になる。
だが現実にはレベルというものは実数値として計測できない。
だから体感で語っているのだが、数値化できないから100を超えることもあるのだろう。
そしてボクの体感は100が最大値だからそれ以上を計測できない。
大よそレベル100前後だろうと目しているミュウですら物差しできないほどの強さ。
それでもあえて数値化してしまうのならば。
レベル150といったところだろうか。
それは最早実機知識の及ばない『異次元』な範囲だ。
そしてそれを……次代のチャンピオンを目指すトレーナーたちはそんな『異次元』を凌駕することを目標としている。
そこを目指すためには最早実機時代のプレイヤー知識だけでは通用しないのだろう。
今カントーを巡る旅をしているのは単純にバッジを集めるだけではない。
そういう実機にはない、現実だからこその知識や技術を求めてのことでもあるのだ。
まあボクの場合そこにさらに現実を楽しむという目的もあるのだが。
とはいえボクの旅にアカリも同伴している以上、楽しんでばかりでアカリの目的が達せられないなんてことになれば目も当てられない。
なにより。
現実はボクの実機知識を凌駕して『異次元』に突入している。
ボクの想定はすでに通用しない。
だから。
強くなる、そのこと自体には何の否も無いのだ。
* * *
・1人キャッチボール
同じポケモンセンターでも実は町ごとに内装は少しだけ異なったりする。
タマムシシティなら商業の街だけあってニャースのぬいぐるみや置物などあったし、ニビシティなら宝石の原石が置かれていたり、ハナダシティならアクアリウムがあったりと。
その町ごとに特色のある内装は、同じように見えてやっぱり違っていて、その町の特徴をよく表していると思う。
ヤマブキシティのポケモンセンターにはモンスターボールが飾ってあった。
ヤマブキシティに本社を置くシルフカンパニーはカントー最大のボール製造会社でもあるのでそれもあるだろうし、カントーで1、2を争うほどにポケモンバトルの大会が多い町なのでそういう意味もあるのだろう。
朝の内にタマムシを出て1時間ほどバスに揺られて着いたヤマブキシティ、一番近くのポケモンセンターで部屋を取ろうと思ったらすでに満室とのことでまだ部屋の空いているポケモンセンターを教えてもらいそちらに向かう。
少し街の南のほうの外れにあるポケモンセンターまでさらに30分ほど歩かされたが都心からやや外れているため比較的人も少なく無事に部屋を取って荷物を整理するとアカリと早速ヤマブキジムへと向かう。
ヤマブキジムは街の北側にあるので歩いて1時間弱。一瞬バスでも使おうかと思ったがどうにもこの街は人が多すぎて交通機関に頼ると渋滞ばかりで予定通りに進まず結果的に歩いたほうが早いことも多いらしいので仕方なく歩いて向かうことにする。
「なん、とも。賑やかな街、だね」
「んぐ……そう、かも」
タマムシシティも人の多い街ではあったが、あそこは逆に街中に商業施設があったお陰か人があっちこっちに分散していたので一か所の密度自体はそこまででも無かった。
逆にヤマブキシティは都心から外れるほどに人が少なくなるが逆に都心に近づくほどに密度が増える。
都心を突っ切ってそのまま北に向かおうとしたのだが余りにも人が多すぎて真っすぐ進むことすら難しい状況に東側から迂回していくことにする。
圧倒されるような人の津波に飲みこまれながらアカリとはぐれないように必死に手を繋ぎ流されながら歩いているとようやく雑踏を抜け出しほっと安堵した。
「アカリ、大丈夫?」
「……ん」
あまりにも多すぎる人に目を回すアカリの手を引きながら歩き続けようやくヤマブキジムにたどり着く。
ジムに入ってみるとジムに挑戦することが目的だろうトレーナーが多数いて、それらを横目に受付に行くと要件を伝える。
今日来ることは事前に連絡はしてあったのですんなりと受け入れられジム戦とはまた別の部屋へと案内された。
「ようこそ、ヤマブキジムへ」
部屋に入るとそこはトレーニングルームか何かなのだろう、広いコートが1つ、それから部屋の端にトレーニング器具らしきものが複数。
そして入口に1人の女性が立っており、こちらを見やると挨拶も早々に手招きしてくる。
そのままバトルコートの中央までやってくると改めて女性がこちらに向き直った。
「私はこのジムのジムリーダーナツメよ。アナタたちは……そう、リンドウとアカリね。それでリンドウ、早速だけど私に診て欲しいというポケモンを出してくれるかしら」
こちらからの挨拶も無く、当然のようにボクたちの名前を告げる女性……ナツメに少々たじろぐ。
ただナツメはカントーでも有名なエスパー少女であり、心すら読めるという情報は現実でも実機でも知っていたのでまあそんなものかと思考を切り替えてホルスターからニャスパーのボールを取り出し、解放する。
ボールから飛び出したニャスパーは最初に出会った時のような苦し気な表情はすでに無いが、けれど地に伏したまま動く様子も無い。
呼吸はしているようなので生きているのは間違いない、オーキド博士からも時間を置けば大丈夫と言われている、だが幾日経とうとこの有様なせいで心配になってしまった部分はあった。
身じろぎ一つしないニャスパーをナツメはじっと見つめる、やがてそっと手を伸ばす。
その指先が僅かにニャスパーに触れた瞬間、ふわりとその指先に波紋のようなものが広がったように見えた。
「……なるほど、そういうことなのね」
何かに納得したかのように頷き、そうして視線を上げて……ボクを見つめる。
感情の読めない表情でじっとこちらを見つめるナツメに、なんとなくバツが悪くなってきて一歩引いてしまう、
「えっと? なにか?」
「アナタ……そう無自覚なのね、だったら……」
何が???
もうちょっと会話してもらえませんか?
そんな言葉が出そうになるがなんとか堪える。
良く分からないがナツメの中で今思考が巡っている様子なのでもう少しだけ待ってみる。
「そうね、リンドウ。アナタ、しばらくこのヤマブキジムに通いなさい」
あの、もうちょっと言葉のキャッチボールしてもらってもいいですか???
* * *
・伏線はあったらしい
良く分からなかったのでちゃんと説明してもらった結果明らかとなった事実なのだが。
は? となるのは分かる、といか自分でもなった。
ただボクには強力なサイキックが備わっている……らしい。
ただしボク自身にそんな自覚は無い、自覚が無いせいでその力は垂れ流しになってしまっている。
一般人ならともかく同じサイキッカーならば肌で感じ取ってしまうくらいには強烈らしい。
そしてそんな強力なサイキックのボクの傍に薬で暴走状態だったニャスパーを置いている影響で増幅されたサイコパワーが一向に減じない、減じないながらも薬の影響自体は時間経過ですでに抜けているので外界からの影響を完全にシャットアウトしてしまうくらいに深い瞑想状態になり、体の成長が追いつくまでサイコパワーが体外に出て行かないように制止しているのだとか。
クチバシティでアカリと一緒にいた時に感じたノイズのような感覚、そしてニャスパーの助けを求めるような声。
多分あれもサイキック……要するにニャスパーからのテレパシーをボクが受け取っていた、ということなのだろう。
もっと言えばそもそもライチュウがアローラ種に進化したこと。
てっきりアローラ展で色々食べたせいなのかと思っていたが、たった1日いつもと違うものを食べた……程度のことで進化先が変わるなんてこと普通は無い。
普通は無いことが起こったのならば普通じゃない原因がある、それがボクの影響……と考えるのは強引だろうか?
まあ今はそれは置いておいて、ニャスパーに関しては解決手段は簡単だ。
『進化』すれば良い。
強烈なサイコパワーを持て余してしまっているからまともに生活できないのだから、それを制御できるだけの強さを持てば良い。
そしてニャスパーという種はそれを進化という手段で補っている。
「だからこれを与えれば問題ないわ」
そう告げてナツメがジムトレーナーに持って来させたのは水色に光る結晶のようなもの。
あまり見かける機会は無いが現実の知識としてボクはそれを知っていたし実機でもよく使っていた。
「けいけんアメ?」
「そう、これを与えて進化に必要なだけのエネルギーを与えれば自然と進化するはずよ」
そう言ってニャスパーに『けいけんアメ』を触れさせると途端にアメが光りだし、そのまますっと粒子となってニャスパーへと吸い込まれていく。
アメが完全に消えたのを確認したナツメがニャスパーから少し距離を取る、と同時にニャスパーのその全身が光りだし。
「進化の光だ……」
すでに何度も見た光ではあるが、何度見ても神秘的なその光景に目を奪われる。
ニャスパーの小さな体が光の中で少しずつ大きくなっていく。
同時にその姿がふわりふわりと浮かびだし、空中でぴたりと止まると同時に。
「……ニャオ」
光が消え去り、後に残ったのは黄色と白の毛並みを携えた大きな耳と尻尾が特徴的なポケモン。
ニャオニクスが自身の体の変化に気づいたのか、片目を開け……こちらを見つめて鳴き声をあげた。
一つ言っておくとこの先リンくんちゃんがサイキック能力で無双プレイ、なんてことはありません。
リンくんちゃんのサイキックは転生の影響で変質しており『特定のポケモンに非常に好かれやすい』くらいの体質となっており、別に読心術使ったり念動力使ったりテレパシー使ったり、テレポートしたりだとかは特にできません。
手持ちポケモンの現在レベルとかあとがきに欲しい?
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いる
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いらない