・まさかの同類
朝起きてもぞもぞと寝袋から出ると隣で眠るヒトモシはまだ寝息を立てていた。
『ゴースト』タイプなのに朝起きて夜寝るとかいう健康的生活を送るヒトモシに苦笑しながらボールの中に戻してそのまま寝かせておき、テントから出るとちょうど朝日が差し込んできて眩しさに目を細める。
「おはようございます、早いですね」
「おはよう、そっちこそ早いね」
テーブルのほうではまだ少し眠そうに目を擦るヒマワリがいて、ボクが出てきたのを見て挨拶してくるのでこちらも返す。
まだ起きたばかりなのか昨日は結んでいた髪は解かれており、一気に女の子らしい印象がする。
ヒマワリが口元に手を当てて欠伸を一つ。
「眠そうだね」
「いつもと同じくらいの時間だと思うんですけど、なんだか昨日は疲れちゃいまして」
「一日歩きっぱなしだったしね」
そのせいでいつもより眠気が取れないというヒマワリにそれは仕方ないと返す。
何か眠気覚ましになるものは無いだろうか、と思っている研究所のほうからオーキド博士が歩いて来るのが見えた。
「おお、2人ともおはよう。早起きじゃのう」
「おはようございます、博士」
「おはようございます、博士。博士も早いですね」
先ほどテントから出る前にちらっと時計を見たがまだ朝の5時過ぎくらいだ。
季節的にすでに朝日は出ているがそれでも大分早い時間ではある。
普段のボクならばもう1時間くらいは寝ているのだが、昨日は寝るのが少し早かったのもあるし、やはり自分の家とは環境が違うせいか眠りが浅かったのかもしれない。
「ははは、歳を取ると自然と早起きになってしまってなあ。それはそうと他の3人はまだ寝ておるかな?」
「多分そう、かな?」
ボクより先に起きていたヒマワリを一瞬見やればヒマワリが頷く。
「多分ボクが一番最初だと思います。その後にリンドウさんが」
「そうか、まあ昨日は散々歩いたことじゃし、仕方なかろうて。それではみんなが起きたら研究所に来ると良いぞ。美味しい朝食を用意して待っておるからな」
「分かりました」
「了解です」
「それと眠気覚ましにお茶を持ってきたから、飲み終わったら置いておいてくれ。後で職員が取りに来るからな」
そう告げてポットと紙コップをテーブルの上に置く。
ヒマワリと2人で感謝を告げればうむ、と一つ頷いて去っていく博士を見送り、さてあの3人が起きてくるまでどれくらい時間はあるだろうと考える。
まあそれまでヒマワリと適当にお喋りでもしていれば良いか、どうやら博士が来たことで目が覚めたようだし。
「なんか適当に喋ってようか。その内みんな起きるでしょ」
「そうですね……そうしましょうか」
早速置いていったポットからお茶を注いでヒマワリにカップを渡し、2人して一息つく。
ちょうど寝起きで喉が渇いていたのでお茶が美味しい。
すっと鼻に抜けていくようなすっきりとした香りがするが、どうやらお茶と言ってもハーブティーとかそういう類のものらしい。
「良い香りですね。それにすごく爽やか」
「なんかのハーブティーかな、すっきりするね」
そうして一息ついたところで、ヒマワリがカップをテーブルに置いて、ところで、と前置きし。
「一つお聞きしたいことがあるのですが」
「ん? 良いよ。なんでも聞いて」
「その、ちょっと変なことを言うと思うのですが」
「え……うん、えっと、何かな?」
何だか前置きがやたら多いというか、慎重というか。
一体何を言われるだ、と少しだけ身構えて。
「
問われたその言葉に、一瞬理解が追いつかなかった。
驚きに思考止まり、完全に動きを止めたボクの反応を見てヒマワリがやっぱり、と呟いた。
「リンドウさんも転生者ですよね?」
「も……ってことは」
「あ、はい。私もですね。ポケモンが創作だった世界の記憶が……ぼんやりとですがあります」
「そう……なん、だ」
ボク以外の転生者があちこちの地方にいることは知っていた。
でも総数は多分そう多くは無いだろうと思っていたのでまさかこんな偶然があるなんて、といったところ。
それにまさか公式キャラクターに転生している人がいるとは予想外だった。
「キミってやっぱりイエローなの?」
「名前はヒマワリですけどね。多分そうなんじゃないかなって」
正しくはイエローポジションっていうのが正しいんでしょうか? と首を傾げるヒマワリ。
曰く森で怪我をしたピカチュウを拾ったとのこと。
曰く生まれつき怪我を癒す力があってその力でピカチュウの傷を治したら懐かれて手持ちになったとのこと。
「あとまあ成長するにつれて容姿が……まあそれでピカチュウにチュチュって名前をつけて、分かる人は分かるようにしてたんですよね」
ボクがそうじゃないかと思ったのは自分やシゲル、フタバの顔を見て驚いていたから。
ヒマワリ自身は自分がまさに公式キャラと同じ容姿だったので、他にもそういう人がいるかも、という心構えがあって衝撃は幾分か少なかったらしいがそれでもやはりシゲルやフタバの存在には驚いたそうだ。
「でもあの2人はこの世界の普通の住人みたいですね」
「そっかあ……」
自分がそうだからシゲルやフタバには少し疑っていたのだが、それっぽい話題を匂わせてみても特に反応は無いので多分違うと判断したそうだ。
アカリはあまり会話できていないが……。
「アカリは違うかなあ。転生者にしてはやっぱり精神性が幼い感じだし」
「そうですか。まあリンドウさんに出会えただけでも運が良かったですね」
「ヒマワリは他の転生者を探してたの?」
「え、逆にリンドウさんは探さなかったんですか?」
ヒマワリに思わず問うたが、逆に驚かれてしまう。
「まあ会えたら挨拶するぐらいはしても良いけど。自分から探すほどかな?」
「リンドウさんは……この世界で生きていて孤独を感じたりしません? 自分が他の人間とは違うって異物みたいに思えることは?」
「うーん、まあ……無くは無いけど。でもそれは転生者とか関係無く、ボク自身の性質というか気質というか性癖というか……そういうものだからなあ」
ボクの容姿はどちらかというと父さんに似ているのだが、なんというか父さんを女の子にしたらこんな感じかな、みたいな顔だ。
そのせいか昔から母さんはボクを可愛がっていた。可愛がり過ぎて息子というより娘みたな可愛がり方をしていた。
特に着せ替え人形みたいに色々な服を着せられて、女の子が着るような服も普通に着せられた。
幼少の頃からずっとそんな風に生きていたので今でも女子服を着ることに何の抵抗も持たない。
これに関しては転生云々は関係の無いボク自身の
そして歳を重ねるにつれて、それが一般的には異常であることも理解するようになった。
理解はすれど、根本的なところでボクは可愛い恰好が好みになってしまっていたため、世間の普通とボクの
そのギャップに悩ましく思っていた頃にボクは転生者だった事実を思い出した。
思い出して、前世の頃からこんな性質だったことを理解して。
じゃあもう仕方ないか、と割り切ることにした。
「だから正直転生云々ってあんまり気にしてないんだよね。知識は便利だけど、それくらい?」
「そうですか。ボクはなんというか……自分がなんだか周りに馴染んでいないように思えて、だから同じ転生者ならこの孤独感も無くなるかなって」
「それで、無くなったの?」
今こうして目の前で相対しているヒマワリに、別にそこにいることはおかしい、なんて感情抱いたりはしないし、特に拒否感もあるわけでも無く。
だから本当に本人の心次第なのかもしれない。
「そうですね。やっぱり同じ転生者なんだって思うと、なんだか親近感があります」
「そうなんだ。まあ同類っていう意味ではそうなのかもしれない。まあ良い意味かどうかは悩むけど」
「え?」
ボクの言葉に意味が分からないときょとんとした表情をするヒマワリ。
そんなヒマワリにもしかして他の転生者についてあんまり調べてない感じかな、と察する。
「前世について思い出した後少し調べてみたんだけどね。この世界って地方のあちこちに転生者の影響があるんだよね。ただそれが良いものもあれば変なのもあって。この世界のボクたちの先輩たち、大分好き勝手に生きてるなあって。だから正直転生者って良い意味でも悪い意味でも同類だなって」
「そ、そうなんですか?」
「トキワで〇ャスコとかファ〇マとかロー〇ンとか見たこと無い?」
「あ、あります! 世界が違うのに何で? って疑問だったんですけど、もしかして」
「うん。転生者の影響みたい」
「えぇ……」
先輩たちを調べるほどに転生者という言葉は良い意味でも悪い意味でも捉えることができる。
その理由をヒマワリも理解したのか、何とも言えない表情をしていた。
その後も転生ネタで盛り上がっていたのだが、いつの間にか結構時間が経っていたらしくフタバが起きて来たあたりでこの話はお開きになった。
でも大きな共通点があったということでヒマワリとはかなり仲良くなれた気がする。
マサラタウン在住とトキワシティ在住ということでゲームほど身近な距離ではないこの世界では簡単に会いに行くなんてことはできないが、それでも連絡先は交換したし休日などに予定が合えば遊びに行くのも良いかもしれない。
トキワシティはマサラタウンよりずっと都会だし、色々な商業施設もある。
アカリを連れて遊びに行くのも楽しそうだなあ。
都会の街中でアカリたちと遊ぶ、そんなことを想像して胸を弾ませた。
* * *
・ライバルキャラってだいたい極端に良いやつか悪いやつどっちかな気がする
さらに時間は経って。
フタバも交えて3人で話しているとシゲルが起きてきたのだが、オーキド博士の伝言を聞くと先に研究所に行ってると1人で行ってしまった。
仕方が無いのでそのまま3人で待っているのだが7時になってもアカリが起きてこない。
「やっぱりこうなったかあ……」
アカリは寝付きは良いが一度寝ると中々起きないのでまあ予想はしていた。
なんだったらピカチュウのほうが先に起きてきてアカリが起きないとジェスチャーで教えてくれた。頭の良いピカチュウである。
一応女子のテントということでヒマワリとフタバに起こしに行ってもらったのだが全然起きる気配が無いらしい。
さすがに昨日今日会ったばかりの子たちに乱暴に起こせとも言いづらいので、仕方なくアカリのテントにお邪魔すればすやすやと安らかに眠るアカリの顔が寝袋から出ていた。
「アカリー起きろー」
軽く揺すってみるが全然起きる気配が無いので仕方ない、と鼻を摘まむ。
五秒、十秒と時間が経つにつれて寝苦しさにアカリの眉がぴくりと動き始める。
「アカリー朝だよー?」
意識が覚醒し始めたを確認し、さらに声をかけながら揺すってやればアカリの目を薄っすらと開く。
まだ完全に覚醒はしていないのか焦点の合わない様子だったが、ここでピカチュウに手伝ってもらって尻尾で鼻先をくすぐる。
「う、ううん……ピカチュウ?」
くすぐったさにアカリが身じろぎしてゆっくりと視線がピカチュウを捉える。
それから視線が動き、ボクを見て。
「リンくん?」
「おはよう、アカリ」
「ん……おはよう」
「朝だよ。起きて」
「……分かった」
これでさすがに起きたかな? と思いつつ、ピカチュウに二度寝しないように気を付けて欲しいことを伝えつつテントを出る。
それから少しして目が覚めたらしいアカリが出てきてようやくこれで揃ったと研究所へと向かう。
研究所に着くとシゲルが嘆息しおせーよ、とぼやきながらロビーで待っていたのでこれで5人揃ったと昨日夕食を食べた食堂へ向かえば朝から研究所の職員たちが食事中だった。
一緒に食べていたらしいオーキド博士がやってきたボクたちに気づき、5人分取り置きされていた席にボクたちを案内してくれる。
そうして朝食を食べて一服すると、研究所の外で再集合しオーキド博士が今日の予定を説明してくれる。
「午前中はマサラパークに移動して一般区画の触れあいコーナーに行くぞい。人馴れしたポケモンばかりじゃ、きっとキミたちも仲良くなれるぞ。午後からは特別研究区画に向かう。ここはこの研究所とも提携してポケモンの生態観察などが行えるんじゃ。面白いものが見れるはずじゃ、楽しみにしとれよ?」
「っけ、マサラパークなんてもう飽きるほど行ったぜじーさん。オレは昨日みたいに森のほうに行きてーんだけど?」
「馬鹿もん、今日はみんなで連帯行動じゃぞ。お前さんの好きにできるわけないじゃろうが」
説明に対してシゲルが文句を言ってそれに博士が少し怒ったように返す。
そのまま両者がヒートアップするか、と思われたその時。
研究所のほうから職員がオーキド博士の元へと駆けよって来る。
何かあったか、と問う博士の耳元で何かを告げると博士が驚いた様子で職員のほうを見る。
「何じゃと!? ふむ、分かった、すぐに行く。っと、すまんがお前たち、ワシは少し用ができたのでな、ちょっとばかりここで待っといてくれ」
職員と共に足早に歩いていく博士の後ろ姿を見送りながらもうしばらく待ちかな、と思っていると。
「なあ、お前らも一緒に森に行こうぜ」
そんなことをシゲルが言い出した。
連帯行動とオーキド博士が行ったのを逆手に取って、ボクたちがみんな森が良いと言えば変更できる、と考えたらしい。
曰くパークなんて普段でも行ける場所だ。特別研究区画と言ってもやることは森と同じポケモンの観察。
だったら森で色々な野生のポケモンを見るほうが楽しい。
そんなことをつらつらと言うのだが、
「昨日散々歩き回ったし、私はパークでポケモンとの触れあいが良いかなあ?」
「あはは、ボクもそっちのほうが」
女子2人が反対するのでシゲルがむすっとして機嫌を悪くする。
「なんだよ、良いじゃねえか。どうせなら森のもっと奥のほうまで行って珍しいポケモンを見ようぜ」
それでもしつこく誘って来るシゲルに女子2人も困った顔をする。
さすがにそろそろ止めといたほうが良いんじゃないかなあ、とシゲルを止めようとするのだが。
「お前も反対かよ」
「元々今日はそういう予定だったんだし、折角オーキド博士が予定組んでくれてるんだから、ね」
「……予定通り」
「ちぇ、ならいいさ、オレはつまんねーパークなんか行かずに1人で森に行くからよ」
「あ、ちょっと待って」
何度も否定され不貞腐れた様子がシゲルがそんなことを言って歩き出すので、引き留めようとその肩を掴む。
そんなボクにシゲルが苦々しい表情で振り返る。
「おい、放せよ」
「もうすぐオーキド博士も戻って来るし、待とうよ」
「オレに指図すんじゃねえ! 女男が!」
「っと」
ぱしん、とシゲルの肩を掴んだボクの手を振り払うように叩き、苛感情的になって侮蔑的な物言いをするシゲル。
思い切り叩かれたせいで痛む手に僅かに顔を歪めながら、どうしたものかと内心で嘆息する。
気の強い性格なのは分かっていたし、まだ子供なのも相まって自分の意見が何度も否定されていることに苛立っている様子だった。
どうにか落ち着かせないといけないがもう一度どうしたものか、と考える。
物言いは悪いが侮蔑されることは仕方ない。それがおかしいと自分でも自覚してやっているのだから。
ただ、そのことでボクよりも遥かに怒っている子がいたのは予想していなかった。
「…………」
「ああ? なんだお前!」
いつもの無表情とは違う、明確に怒りの感情をにじませた表情のアカリが一歩ボクの前に出て睨むようにシゲルをじっと見つめる。
何やってんのアカリ!? そんな言葉をボクが口にするより早く、シゲルが怒りに表情を歪ませ叫ぶ。
「やんのか! 昨日マグレで勝ったからって調子に乗んじゃねえぞ!」
「…………」
昨日って何?
キミらバトルしてたの??
いつの間に???
そんなボクらの混乱を放置して、無言の圧で応えるアカリに沸点を超えて感情のままに怒鳴るシゲルがモンスターボールを片手に取ると、アカリもまた同じようにボールを手にする。
「良いぜ! どっちが上か教えてやるよ!」
「…………」
シゲルが鼻で笑いながら、アカリが視線をさらにきつくしながら。
互いがボールを投げる。
ヒマワリとフタバに博士を呼んできてほしいと告げ、2人が研究所のほうへと走っていくのを見送りながら視線を戻す。
そこではアカリのピカチュウとシゲルのイーブイが激しくバトルを繰り広げていた。
アカリのピカチュウは言わずもがなだが、シゲルのイーブイも良く鍛えられている。
森に1人で入ってもイーブイがいれば大丈夫と豪語するだけはある。
だがそれでもアカリには、ピカチュウには敵わない。
野生のポケモン相手ならばともかく、シゲルもイーブイもトレーナーとのバトルというものに不慣れなのが見てとれた。
恐らく普段から野生のポケモン相手のバトルが多いのだろう。
故にピカチュウには敵わない。
思考を使って詰めてくる相手に徐々に選択肢が奪われ、どうしようも無くなり、そして。
「ピカチュウ」
「ピカ!」
アカリの短い呼びかけに『ばちばちアクセル』で応えたピカチュウがイーブイを吹き飛ばし、戦闘不能にする。
自分が負けたという事実にシゲルが一瞬感情を失くしたような瞳をして。
「クソが!」
「あ、ちょっと!」
イーブイをボールに戻し、短く吐き捨ててそのまま森へと走り出す。
不味い、シゲルは全然冷静じゃない。
「アカリ!」
「……ん」
「ついてきて!」
「……分かった」
咄嗟にアカリの手を掴んで走り出す。
アカリも一瞬考えたが、すぐに今の危険性を気づいたのか、はたまたボクの指示に無条件に頷いただけか、とにかく共に走りだす。
本当ならばオーキド博士にシゲルのことを伝えるためにアカリかボクが残るべきなのかもしれないが、シゲルを見失うことのリスク、シゲルを追って安全の確保されていない森へ1人で入ることのリスクを考え、アカリと2人で追うことにした。
「あーもう……なんでこうなるかな」
短く吐き捨てた言葉は、けれど森の静寂に溶けて誰の耳に届くことも無く消えていった。
* * *
・幻の軌跡
一つ困ったことを言って良いだろうか?
「シゲル足速すぎだよ!!!」
「ん?」
必死に追いかけているのだがどんどん距離が離されていく。
これでもそこそこ運動はできるほうなのだが全く追いつけない。
すでに舗装された道を外れて足場が悪いのもあって速度が出ない。なんでシゲルはあんなに軽々と走れるのか、と言いたいが普段からよく森に来ていると言っていたし慣れなのだろう、と思うが今それが分かったところで何の解決にもならない。
「アカリ、追いつけそう?」
「…………」
ふるふると首を横に振って否定の意を示すアカリにそうだよね、と内心で嘆息する。いやもう走り過ぎて今の状況で口から溜め息吐いたら倒れそう。
すでに限界に近付いてきた体をそれでも動かしながらしばらく追ってみるが森の奥にすっと消えていくその背に、アカリと共に足を止める。
それからしばらくの間、荒くなってしまった息を整えるが森は静まり返っており、シゲルの行方を示す手がかりは完全に失われてしまった。
「見失った、かあ」
「……ごめん」
「いや、アカリのせいじゃないよ」
ぽんぽん、とその頭を撫でつけながらそこは否定しておく。
シゲルが悪いと言えば悪いのだが、まあ子供のやることだから仕方ないと、そう割り切るしかない。
一度戻るしかないかと振り返り、そこで一つの問題に気付く。
「ねえアカリ……ここ、どこか分かる?」
「ん……」
ふるふると、再びの否定。
そうだよね、と今度こそ大きく溜め息を吐き。
「迷ったね」
「ん」
見事なまでに二次遭難してしまっている事実に頭を抱えたくなる。
それから隣のアカリにそっと視線を配るとこんな状況でもまるで変わらない表情に頼もしさすら覚えそうになるが……。
「アカリ」
「ん?」
「大丈夫?」
「……ん」
その手が僅かに震えていることに気づき、決して平然としているわけでも無いと悟る。
そうしてアカリの手をそっと握って。
「まあ大丈夫、なんとかなるよ」
そんな言葉をかける。
気休めに聞こえるかもしれない、だがボクとしては決して嘘を言った心算も無かった。
「ここはシゲルが普段から出入りしている……つまりあのイーブイくらいのポケモンが1匹いればある程度対処できる範囲の場所なんだ。ボクとアカリ、2人がいる状況なら早々危険な目に会う可能性は低いと見てるよ」
シゲルが実は忍者で野生のポケモンからの隠密のやり方を熟知している、とかそんな事実が無ければ子供が1人で何度か入って戻ってこれる程度の危険性でしかないと踏んでいる。
「それにヒマワリたちが博士を呼んでくれている。博士たちはすでにボクたちが居なくなったことを分かっているし、シゲルがどの方向に走ったかはあの2人だって見てるんだ。なら森に行こうって何度も言っていたシゲルの発言と併せてだいたいどの方向にいるか、どこを探せばいいかも分かっている。ボクたちみたいな子供が走って入ってこれた程度の距離なら大人ならすぐに見つけられるよ」
だから大丈夫、ときゅっとアカリの手を握るとやがてその震えが止まる。
「……ん」
それでも湧き上がる恐怖心を押し殺すように、アカリもまた手に力を入れてボクの手を握る。
これでひとまず冷静になれたかな、と慎重にアカリの様子を確認しながらもう一方の手でボールを投げる。
「もっし?」
「よしよし、ヒトモシ。お願いなんだけど、この辺に落ちてる葉っぱとか枝をいっぱい集めてくれる?」
「もし!」
飛び出してきたヒトモシに指示をしながら、アカリにも同じことを告げると不思議そうに首を傾げた。
この状況で何を? と言った様子だったがまあいいから、と言ってボクもまた動き始める。
まあ森の中なのであちこちに葉っぱや枝なんて落ちてるし、なんだったらその辺の木々にもいっぱい生えているので少し待つだけであっという間に落ち葉の山が出来上がる。
それからアカリのピカチュウにお願いして最近使えるようになったばかりの『アイアンテール』で地面を叩きつけ、50センチくらいの穴を作ってもらい、そこに葉っぱを詰め込んでいく。
穴を作った時に散った土を穴の周りに撒いて高さを作ると、最後にヒトモシに頼んで『ひのこ』で葉っぱを燃やしてもらう。
夏場の青々とした水気たっぷりの枝葉だが技としての炎だからなのかすぐに火が点いて……そして煙がもくもくと昇っていく。
「これで気づいてくれると良いんだけどね」
簡易な狼煙だがまあ向こうもこの辺りを探してくれているだろうし、煙に気づいてくれればここにボクたちがいる、ということにも気づいてもらえるかもしれない。
何もやらないでこの広い森の中を方向だけで探してもらうよりは目印になるだろう。
「あとはここで適当に葉っぱとか枝とか追加しながらここで待ってれば良いと思うんだけど……」
問題はシゲルである。
あいつどこまで行ったんだろう。
取り合えず悲鳴とか聞こえないので多分問題は無い……ということにしておこう。
真面目な話、ある程度救助の目途があるとはいえ森の中で自分たちまで遭難中というのは割と危機的だ。
シゲルのことは気になるが二次遭難してしまった以上、ボクたちがこれ以上どうこうというのは無理な話だ。
「……お腹空いた」
そしてそんな空気をぶち壊すような発言をした子がボクの隣にいる。
キミさっきまで震えてなかった? ちょっと豪胆過ぎるよ?
「いや、そもそもさっき朝ご飯食べたばっかりでしょ?」
「ずっと走ってた」
「あれだけでもう!? 燃費悪すぎるよ!」
お腹を抑えながら焚火の傍で呆として動かないアカリに内心ちょっと引きながらも仕方ないなあと呟いて手持ちの荷物の中を探って昨日のお菓子の残りがあったのでアカリに渡す。
「それ上げるから、もうちょっと頑張って」
「ん、ありがとう、リンくん」
ヒトモシにあげようと思っていたのだがヒトモシがお菓子より生命力が欲しいと
そうしてアカリがクッキーの入った小さな缶箱を開きクッキーを1つ取り出して……。
「みゅう!」
―――何かの鳴き声が森に響いた。
その声に一瞬気を取られた直後には、アカリの持っていた缶箱が消失していた。
「え、あれ?」
「……ん?」
アカリもまた手の中の重みが消えたことに首を傾げ、そうして2人で周囲を見渡した時。
それを見つける。
「みゅう~♪」
缶箱の中のクッキーを取り出し美味しそうに食べる小柄なポケモンが1匹。
そしてその足元には……。
「シゲル!?」
気を失ったシゲルの姿があった。
慌てて駆け寄るがどうやらぱっと見た感じで怪我などは無いらしく、ただ気を失っているだけのようだ。
それから改めて恐らくシゲルをここまで連れて来たのだろうポケモンを見やる。
全体的に丸みのある小柄な姿、長い尻尾、そしてピンク色の体色。
「ミュウだ……珍しい」
「みゅう?」
幻のポケモンミュウが両手にクッキーを持ちながらこちらを見て、小首を傾げた。
因みにアニポケでもそうだけど、基本的にこの世界の人間がミュウとか見つけたら「うおー!どこだー!!!探せー!捕まえれば世紀の大発見だああああ!」くらいの大騒ぎなんだけど、リンドウくんちゃんはゲームプレイヤー的感性があるから「あーミュウじゃん、へー珍しー。あ、図鑑埋めに一匹くらい捕まえといてもいいかな?」くらいの温度感の差異がある。
まあなんだったら最近は公式からの配布も進んでるから長くやってるプレイヤーならボックスの中に2,3匹いたりするしね(
ぶっちゃけリンくんちゃんからすると色違いポケモン見つけた時のほうがテンション上がるし、戦力的な意味で欲しいなら普通に600族連れてくる。
まあこの辺はゲームプレイヤー感覚だからの部分。
因みにこの世界において600族とミュウ……準伝説や幻みたいな種族値自体は差が無い、或いは低いとかでも初期レベルの差みたいなので大分実力差があるんだけどトレーナーと一緒にポケモンバトル極めて行くと実際には差がほとんどなくなる。