・夢の館と謎の石
ふと目を覚ますと見知らぬ部屋の中だった。
え? と驚きのあまり即座に意識が覚醒し、体を起こすとそこは薄暗く古びた様子の部屋だった。
近くのテーブルの上に燭台が置かれており、ぼんやりとした怪しい薄紫色の炎が室内を照らしている。
そんな見知らぬ室内に置かれたこれまだ古びたベッドの上で目を覚ましたわけだが……。
―――この内装、どこかで見たような?
どこか既視感のあるような光景に首を傾げる。
いや、こんな部屋に覚えは無いはずなのだが、どこかでこれと似たようなものを見たような。
いや、そもそもどうして自分はここにいるのだろう?
確かちゃんと自分の部屋のベッドで寝ていたはず……ん?
記憶に引っかかるものがあったのでとりあえず部屋に一つしかない扉を開く。
扉を抜けて出た先は通路だ。それも随分と広い。
足元には絨毯が敷き詰められており、壁は木製。そして通路には一定間隔に燭台が置かれ蝋燭に薄紫色の火が灯っている。
まるでホラー映画の舞台にでも迷いこんだかのような情景に、一瞬脳裏に昔の記憶が過る。
数年前、これと同じものを見た覚えがあった。
あの時と同じ……とするなら。
すっかり忘れかけていた過去の記憶が歩くたびにフラッシュバックする。
思い出した記憶を頼りに廊下を歩いて行く。
そうして廊下の最奥にあった部屋へとたどり着く。
―――なんか……昔見た時より豪華になってる?
他の木造りの普通の扉と異なり、縁には装飾が施され、ドアノブは金色で飾りがついていた。さらに薄暗くてそれが何かは分からなかったが扉自体にも掘り込みがあったし、何よりも扉自体が薄紫色に染め上げられていた。
明らかに過去の記憶とは異なる、確か昔見た時は普通の木の扉だったはずだが……これが一体何を意味するのかよく分からないがとにかく開ければ良いだろうとノブを捻り、開く。
室内に入ってみれば昔は他と同じような古びた一室だったその部屋が明らかにグレードアップしていた。
隅に置かれた豪奢なキングサイズのベッド。昔は埃を被っていたはずのそれはまるで高級ホテルのように清潔に整えられていた。
壁際に置かれていた古びた本棚もアンティーク調な高級感漂うものに変化していたし、ベッド横に置かれていた机もまた同じく。
何より以前は屋敷の他の部分と同じように燭台に蝋燭だったはずの室内照明がシャンデリアに変化していた。
―――否。
それはシャンデリアでは無かった。
なんだったらそれは家具ですら無かった。
―――何やってんのキミ。
思わず問いかけてしまったその言葉に、天井のシャンデリア……の振りをしたそれがゆらゆらと動き出す。
シャシャシャ、と笑い声をあげながらふわりふわりと重さを感じさせない動きで降りて来た目の前のそれがニコリ、と笑みを浮かべ。
ふっ、とその姿が虚空に溶けるように消える。
後に残ったのは暗くなってしまった室内。
と、その直後にテーブルの上に置かれた燭台に薄紫色の火が灯る。
それで最低限の明りは灯ったといわんばかりに後は何も起きない。
それで……どうすれば良いのだろう。
何のリアクションも無い室内でひとりごちるがそれで何か反応があるわけでも無く。
仕方なく室内を見渡す。とすぐにそれを見つける。
歩み寄り、机の上に置かれたソレを手に取る。
―――なに、この……なに???
強いて言うなら黒ずんだ石、だろうか。
多分普通に見つけたらぽいっと捨ててしまうくらいなんて事の無い普通の石。
けれどこんな怪しいところにわざとらしく置いてあるのだから多分何の意味もないってことはないのだろう。
……無いよね?
―――ホント、これ何だろう?
首を傾げながら目の前にその石をかざして……。
ぽろり、と石がその手から転げ落ちて―――。
こつん、という顔に降って来た軽い衝撃に目を覚ます。
一瞬自分がどこにいるのか、という疑問に駆られたがすぐに自室だと気づいて安堵の息を吐く。
それから自身の傍でスピスピと眠る相棒を突っつく。
基本的にこの相棒は自分の真似をして朝起きて夜寝るというゴーストポケモン的に健康的なのか不健康なのか良く分からない生活を送っているが、本質的にこの相棒が寝る必要性が無いという事実をボクは知っている。
つまり今も半ばタヌキ寝入りしているということも。
多分あの夢を見たのはこの相棒のせいなのだろうと突っついてやれば案の定すぐにぱちっと目を見開き、シャシャシャと笑う。
初めて出会った時のように、多分何か意味はあったんだろうけど……とふと視線をベッドに戻せば、そこに転がる多分さっき自分の顔に落ちて来たのだろう黒ずんだ石を見つける。
枕元に転がった石を拾い、再び視線を相棒へと移せば、何故か楽しそうに笑う相棒の姿。
……また?
思わずそんな言葉が飛び出した。
* * *
・雪解け間近の北の空に向かってなんとかかんとか
この世界において旅をしている人間というのは実はそんなに多いわけではない。
正確にいえばまだ10歳になったばかりの子供たちに多く、そこから5年以内には旅を止めてしまうパターンが多いので旅をしたことがある人間は多いが、今現在旅をしている人間というのはそう多くない、というべきか。
まあポケモントレーナーとは才能の世界と良く言われるもので、夢を見て旅へと飛び出したはいいが現実に挫折した子供というのも多いのだ。
いや、まあそれ自体はどんな職種でもまああることなのだがとにかくこの世界において旅をするというのは10歳くらいの子供でもできるくらいには容易だったりする。
何せボックス転送技術なんていうわけの分からない超科学によって大抵の荷物はパソコンの預かりボックスの中に預けることができる。
ゲームだとトレーナーとしての道具しか預けられなかったが、現実だと衣類などを含めだいたいの荷物は預けることができる。
ただし引き出すのに一々スマホから操作が必要なので最低限の手荷物はポーチなどに所持していることが多い。
というか当たり前だがゲームのようにバッグの中に自転車にテントにそれ以外の道具もボール含めてごっちゃになんて入るわけが無いのだ。
まずボール×99の時点で無理だ。そんなに入らない。
「じゃあ母さん、行って来るね」
「たまには連絡もしなさいよ?」
「うん」
「あとアカリちゃんとは仲良くね?」
「分かってる」
そういうわけで旅の準備に対して苦労することも無く、最低限の荷物だけ居れた肩掛けのバッグ一つ手に母さんと別れの会話を終えると、いってきますと短く告げて家を出た。
目指すはオーキド研究所……の前にアカリの家。
大丈夫だとは思うけど、アカリだからなあ。
いや、別に緊張して眠れないとかそういう心配ではなく、寧ろ逆で図太過ぎてこんな日でも寝過ごしている可能性が……。
と思っていたら案の定というか、玄関を開けて出て来たアカリのお母さんが苦笑しながらもうちょっとだけ待ってね、と戻って行ったあたりでもう、あっ(察し)という感じだ。
それからスマホロトムでしばらく時間を潰していると10分ほどしてアカリが出てくる。
「……ごめんなさい」
「良いよ、急ぎでも無いしね、それからおはよう、アカリ」
「うん……おはよう、リンくん」
ちょっと反省した様子だったがまあ別に1分1秒を急いでいるわけでも無いので簡単に許してアカリと共に今度こそ研究所へと歩き出す。
同じ区の中でそうたいした時間もかからず研究所へとたどり着くと、そこにはすでに多くの子供たちが集まっていた。
そう今日は毎年恒例の新人トレーナーの旅立ちの日なのだ。
「ちょっと出遅れたかな?」
「……ごめん」
「いや、予定通りの時間でもこれ全然遅かったかもね」
アカリの家を出た時に急ぐ旅ではない、と言ったが今ここに並んでいる子供たちにとっては1分1秒を争うような事態だったらしく、我先にとオーキド博士からポケモンをもらおうと研究所の前には長蛇の列となっていた。
想像以上の人の並びにこれは大分かかるなと嘆息し、アカリと喋りながらしばらく待っていると小一時間近く経ってようやく列がはけていきボクたちの番となる。
10歳の子供がトレーナーになるために学校を卒業し、ポケモンの保有資格試験とトレーナーとしてジムを巡るための正規トレーナー資格試験の2種に受かるとだいたいの地方ではリーグ協賛の元ポケモン博士から初心者用のポケモンをもらえるわけだが、これはすでにポケモンを持っているボクやアカリも同様であり、特にゲーム時代に御三家などと言われているポケモンたちは並のポケモンたちよりも強く育つのでここでもらえるのはラッキーだった……と思っていたのだが。
「え、無いんですか?」
「すまんのう……十分に用意したつもりじゃったが、今年はちっと偏りが出てしまってなあ」
基本的に毎年用意したポケモンが満遍なくもらわれていくのだが、どうやら今年はその比率がちょっと偏ってしまったらしい。
ゼニガメとフシギダネはすでに用意していた分の個体全てがもらわれていき、残っているのはヒトカゲ……と。
あとまああまり初心者向けではないがこういうポケモンもおるぞ、とオーキド博士が告げながら渡されたボールに入っていたのはイーブイだった。
少数ながら用意はしていたが進化方法も含めて育成の手腕が問われてしまうあまり初心者向けのポケモンではないので他の子供たちには渡さなかったがボクもアカリもすでにポケモンを所持して何年もバトルしている立派なトレーナーだ。所持しているポケモンから考えても初心者とも言えないし良かったらどうだろう、ということらしい。
どうしようかな、と思っているとアカリはヒトカゲを選んだ。
理由を聞いてみればなんとなくピンときたから、らしい。
そういう直感も偶には大事じゃぞ、とオーキド博士がいうのでボクもなんとなくでイーブイを選ぶ。
ボールから出してみれば思ったより臆病な子なのか初めて見るボクの姿にびくり、と体を震わせるがおいでおいでと手で合図するとゆっくりと恐る恐るだがこちらに歩いて来る。
抱き上げてみればすんすんと一瞬匂いを嗅いで一度鳴き、頭を擦りつけてきたのでこちらも体を撫でてやれば気持ちよさそうに目を細めた。
「可愛いなあ」
「いっぶい!」
どうやら上手くやって行けそうだとイーブイをボールに戻し、オーキド博士からついでとポケモン図鑑……正確にはそのアプリをもらう。
昔はゲームにもあったような専用の機器を渡していたらしいが、技術の発展と共に今となってはスマホのアプリで各地のデータが共有され、アプリが配信されている地方ならばどの地方に行っても機能するようになっているらしい。
ハイテクになったのう、と年寄りみたいなこと言いだした博士に別れを告げてアカリと共に研究所を出る。
研究所の外では先程までもらったばかりのポケモンでバトルをする子供の姿も見えたはずなのだが、その姿もすでに無くみんな足早に旅立ってしまったらしい。
一方ボクたちは特に急ぐこともなく……一番近くのバス停に歩いて向かった。
「昨日も話したけどバスで問題無いよね?」
「ん」
アカリに確認を取りながら少し待っているとバスが来るのでそれに乗る。
バスはそのままマサラタウンを出て途中の道路をとことこと走る。
流れていく景色を窓から見ていると、マサラタウンを出てすぐに野生のポケモンとのバトルに走る子供たちの姿が見えた。
そんな光景を流しながらバスはそのまま一時間ほど。見えたのはトキワタウン。
「まあマサラタウンからトキワタウンの間なんてボクら何回も往復したしね」
「……うん」
この数年の間に何度と通った道だ。
なんだったらアカリと2人でバスに乗らず徒歩で半日かけて歩いたこともある。
旅をするにしてもこの道を歩いても今更感があるのでアカリと事前に話し合ってさっさとバスでトキワシティまで向かってしまおうと決めていた。
以前も言ったがトキワシティはカントーでも指折りの都会だ。だいたいのものはここで揃う。
マサラタウンは決してゲームで見るほどの田舎町というわけではないのだが、それでもトキワほどなんでもあるわけではない。
そういうわけで本格的に旅に出る前にここである程度の品は揃えておきたい。
「本当なら事前に買えてればよかったんだけどね」
「……資格無いと、買えないもの、多いから」
アカリが言うように、ポケモンの保有資格が無ければボールなどは購入できないし、正規トレーナー資格が無ければタウリンなどのドーピング系アイテムは購入できない。
特に後者は簡単に言えば医薬品寄りの栄養剤のようなもので、投与に対してある程度ポケモンへの知識が要求される。無知のままに適当な投与をするとポケモンの健康に害を与えることもあるので、親と一緒なら案外簡単に売ってくれたりするボールと異なり厳格に規定されている。
因みにこの世界において努力値……というか実機でいうところの基礎ポイントという概念はある程度認識されている。
どうやら過去の転生者先輩たちがその辺は布教しているらしい。まあそもそもタウリンなどの基礎ポイントに直接作用する薬品があるのだからその辺が認識されているのは当然といえば当然だが。
ただしゲームほど厳格ではない、というか例えばボクは自分の手持ちにリゾチウムを与えるつもりだが、これを与えることで『とくこう』が成長しやすくなる、という感じだろうか。
ゲームのように26本与えたら一定数能力が伸びる、ではなくレベルアップ時の成長幅が伸びるというイメージに近い。
まあそもそもゲームのようにポケモンの能力を数値化できないので本当に伸びているのかも分からないのだが、だいたいそういう効果のある薬品として一般的には認識されている。
ただどのタイミングで与えても最終的な能力値が変わらないらしいので種族値が加算されているようなものだとボクは認識している。*1
「うーん、でもお金足りるかな?」
「……足りなかったら、またやる?」
「それはシゲルくんが可哀そう」
因みに実機時代もそうだったらこの手の薬品は高い。
何せ1本1万円もする。また目安の最大本数は26本だ。つまり26万。
だいたいのトレーナーがそこで止めるが、実機知識としてステータスもう1種類分も飲ませれることを知っているでつまり52万。
とてもじゃないが旅に出たばかりの10歳の子供が持っている額ではない。
でも1種分なら買えそう。というのも去年旅に出たシゲルだったが結構順調に旅が進んだらしく半年くらいでバッジを全て集めてマサラタウンに戻って来た。
そしてトレーナーの先輩としてお前にいっちょポケモンバトルを教えてやるよ、とか鼻高々になりながら言ってきたのでアカリと二人でボッコボコに叩きのめして賞金を巻き上げたのだ。
それ以来どうもシゲルはアカリに叩けばお金を落とす財布の類に見られている節がある。
いや別にシゲルが弱かったとかそういうのではないのだ。
実際イーブイはいつの間にか相棒イーブイになって滅茶苦茶強かったし。
ただ普段からアカリとその相棒のピカチュウという天才同士のタッグに勝つために頭をフル回転させている身としては……うん、まあアレよりは楽だなあって。
正直アカリとピカチュウはちょっともうおかしい。
イッシュで相当なレベルだったと思われる母さんですら現役の時ですら勝てないかもしれない、と言わしめるくらいにはおかしい。
推定だが70レベルくらいありそうで、もうポケモンリーグでも普通にやっていけそうだった。
そんなアカリとピカチュウに勝つためにあの手この手と頭を悩ませ続けているのだ、なんかもうただ強いだけのトレーナーとか逆に拍子抜けしてしまう。
で、まさかまだ旅にも出ていない年下に負けたシゲルが悔しがり、ムキになって何度も挑んでくる。そして負けるたびに捨て台詞と共に賞金を置いて帰るのだからいつの間にかそこそこなお金が溜まっていた。
因みにそのシゲルも去年のカントーリーグへ挑戦に向かってからは見ていない。
チャンピオン交代の知らせは聞いていないので多分どこかで負けたのだろとは思うが、今一体どうしているのだろう。
「まあ旅してればその内会うかもね」
「……ん」
「取り合えずジャ〇コ行こうよ、ジャス〇」
「いいよ、ピカチュウに、何か買う」
「……これ以上強くなる気???」
アカリとピカチュウだけジャンプ系のインフレバトル漫画なドラ〇ンボール世界に住んでない?
同じジャンプ系でもこっちは必至に頭を回して体張ってのジョ〇ョ系のスタ〇ドバトルしてんのに。
未だに戦績的には一進一退だが去年ヒマワリのところに遊びに行った時に起こったとある一件により『トキワのもり』で『でんきだま』をゲットしてからは本気で勝つのが難しくなった。
相棒ピカチュウもピカチュウですが何か? とでも言いたげに、当たり前のように『でんきだま』の恩恵を受けた化け物がとんでもない火力を振り回しながら瞬間移動かよと思うようなスピードで走り回って来る恐怖を知っているのはボクとシゲルだけだった。
* * *
・大事なこと
「そういうわけでまずはトキワの森だね。だいたい一日がかりにはなると思うから今日はトキワシティで一晩泊まって明日出発で良いと思うんだけど、アカリは?」
「ん……それでいい」
昼前まで買い物を楽しんだ後、アカリと2人〇ャスコのフードコートで昼食にする。
買ったものはすぐに使うようなもの以外は全てボックスに転送しているので荷物もそれほど無く、ハンバーガー片手にこれからの予定をスマホを開いてサイドメニューのポテトを一本ずつ食べるアカリと話し合う。
トキワシティを出てすぐに広がるのはトキワの森だ。
ゲームでもぐねぐねと長い森だったが、現実では富士の樹海かよってくらいには広い。
というか富士山がモデルになってそうなシロガネやまの麓からカントーの西部を横断するように伸びている森なので本当にそうなのかもしれない。
ゲームにおけるダンジョンとしてのトキワの森はトキワシティからニビシティの間を指すが、実際にはその東西にも森は伸びていてその面積はとんでもない規模になっている。
とはいえ現実の富士の樹海もそうだが人の行き来がある場所なので当然林道が切り開かれており、トキワシティからニビシティまでほとんど直線道があるのでゲームのようにあっちこっち道をくねらせながら歩かされることは無い。
なんだったらマサラタウンからトキワシティに来た時のように林道を走るバスもあるので行こうと思えばそれで楽もできる。
ただトキワの森にはたくさんのポケモンが生息しており、まだ手持ちが2匹のボクたちとしても新しい仲間をゲットするチャンスではあるのでアカリと話し合った結果歩いて行こうということになった。
「ん、ポケモン、ゲットする」
「そうだね。ボクらはたくさんゲットして手持ちの数を超えちゃっても博士のところに送れるしね」
ゲームというよりはアニポケ法式でボクたちマサラタウンで図鑑アプリをもらったトレーナーが手持ち以上の数のポケモンをゲットした時、自動的にオーキド博士の研究所にポケモンが送られる。
そこで誰の手持ちかという分別がされた上でだいたいマサラパークのほうで放牧されるのだ。
まあゲームのようにボックスとかいう謎の場所に永遠と押し込められたままというほうが普通じゃないので当然といえば当然かもしれない。
「ただパーティメンバーとして本気で育成するならちゃんと考えたほうが良いよ?」
「ん、わかってる」
当たり前だがポケモンを育てるというのは簡単なことではない。
ゲームだと10匹20匹当たり前のようにレベルカンストさせて努力値振ったり技の調整したりとするが本来ベストメンバー6匹を揃えることすら普通のトレーナーでは難しいのだ。
レベル40くらいの面子を6匹揃えるだけでもエリートと言われるような世界で、旅をしながら10匹も20匹もポケモンを育てることがどれだけ難しいことか。
だからこそトレーナーは自分が本気で育てる面子をまず6匹選ぶのだ。
選んで6匹育てて、それが終わって初めて7匹目の育成に着手する。
見つけたポケモンを誰も彼もと育てていてはいつまで経っても中途半端な育成にしかならない。
この辺は元トレーナーの母さんも口酸っぱくして言っていたのでアカリもその辺はちゃんと理解しているようだった。
「とは言っても、こういうのって一期一会なところあるしね」
「ん、そうかも?」
例えばゲームでこんなパーティにしようとある程度前提知識を持ってパーティ構築を作っていても、実際に旅に出てみるとあれなんか思ってたより出会えないぞ。とか思ってもみなかったレアなポケモンに出会えてしまった、とかそれで最初に考えていた構築を投げ捨てて今いる手持ちでやるかーとなるのは良くあることで。
アニメではないがこの世界でも……そう言うなれば運命的としか言いようのない出会いというものはある。
例えばボクとヒトモシの不思議な出会いとか。
例えばアカリとピカチュウのあまりにも偶然の出会いとか。
そういう運命のような何かに惹かれてトレーナーとポケモンが出会うことはこの世界では偶にあることであり、その運命を受け入れるか跳ねのけるかもまたそのトレーナーとポケモンが決めることだ。
「出会いを楽しむ……そういうのも旅の醍醐味だよね」
「……うん」
楽しくやろう。
結局それが一番大切なのだから。
* * *
・友達は非売品です
買い物を終えてから腹ごなしにしばらく歩くととある一軒家にたどり着く。
この数年ですでに何度も着た場所であり、すっかり道のりを覚えてしまっていた。
到着の連絡をするとすぐに玄関の戸が開いて、中から金髪の少女……ヒマワリが出てくる。
「いらっしゃいです! リンドウくん、アカリちゃん!」
嬉しそうに笑みを浮かべ、招かれるままにアカリと2人で家へとお邪魔する。
そのままヒマワリの部屋に招かれるとここ数年で少しずつ増えていたクッションやポケモンドールなどの小物がまた増えており、いかにも女の子らしい部屋になっていた。
「チュチュも久しぶりだね」
「……チュチュ、久しぶり」
「ぴっか!」
部屋の隅でうつ伏せになって寝ていたヒマワリの手持ちのピカチュウ……チュチュがこちらに気づき片手を挙げて挨拶する。
ヒマワリが寝転がるチュチュを抱えたまま膝に上に置き、ベッドに腰かける。
随分と長くなった髪をかき上げる仕草は女性的であり、初めて会った時と比べると随分と成長したものだと改めて思う。
時々しか会えないからかその成長が良く分かるもので、初めて会った時からずっと女の子らしさが増していた。
アカリも成長していないというわけではないのだが、毎日見慣れているせいかあまり変化を感じない。
「……ん?」
「何でも無いよ」
一瞬こちらの思考を感じ取ったのかアカリが視線を向けてくるが、なんでも無いと首を振れば気のせいかと視線を戻す。
そんなヒマワリがボクたちのやり取りを見てニコニコと笑みを浮かべており、何が楽しいのかなと思いながらもその足元へと視線をやれば―――。
「その子どうしたの?」
「街中で怪我して倒れてたのを最近見つけて……だからうちで治してあげたら懐いちゃって」
賑やかな雰囲気にも気づかず、すやすやと眠るコラッタの背を撫でながらヒマワリが説明する。
以前に聞いたがヒマワリはトレーナー業にはあまり興味が無いらしいので今通っている小学校も12歳まで通うらしいがその割にはピカチュウといいコラッタといい順調にポケモンが増えている。
今部屋にはいないが以前にトキワの森の一件でキャタピーを捕まえていたので今も家のどこかにいるのだろう。
「それにしてもずいぶん早かったんですね。まだ初日なのにもうトキワにいるなんて」
「まあバス使ったからね。この辺もう遊びつくしてるし」
「あはは……この2,3年で何度も遊びに来てましたしね」
マサラタウンにも友達がいないわけではないのだが、やはり特に親しい友達というのを挙げるならボクにとってはアカリとヒマワリになってしまうのは否めない。アカリは毎日のように顔を合わせているし、ヒマワリは同じ転生者ということで偶に話をしたりするし、どちらもボクにとって特別な友達なのは事実だった。
「午後からはもうトキワの森に行くんですか?」
「いや、今日はトキワシティに泊まって明日の朝から出発しようと思ってるよ」
「なら良ければ泊っていってください。お母さんたちもきっと良いって言いますし」
そんなヒマワリの提案に一瞬アカリと視線を合わせる。
アカリがこくり、と頷くのを見て。
「ならお願いしようかな?」
そう返せば、ヒマワリがわあ、と笑みを浮かべ手を叩いた。
メガシャンデラがあまりにも良すぎたのでまたこっち更新します。