サメメイドと極悪殺し屋ちゃん 作:─────
あれから数日後、ヴィクトリア家政はバレエツインズでの依頼を進める中で、一人のプロキシに出会った。
彼女らはこのバレエツインズから発された友人からのメッセージを頼りに、友人を助けにやってきたらしい。
紆余曲折あったものの、ヴィクトリア家政はこのプロキシに協力することになり、ひとまずはメッセージの発信されたB棟の屋上を目指すこととなる。しかし、B棟とA棟を繋ぐ唯一の渡り廊下のシャッターが閉じられてしまったため、一同はそれらを操作する制御室に向かうこととなった。
その途中のこと
「……プロキシ様、お待ちください」
ライカンがプロキシのボンプを手で制する。
それと同時にらどこからか鉄が擦れる耳障りな音が響く。
「……あ、気づいてくれるんだ〜。私ってば影薄いからさ、気づいてくれて嬉しいよ、オオカミくん〜」
「申し訳ございませんが、招かれざる客にはご退場願いたい」
「“招かれざる”?私、あなたたちに協力してあげようと思ってたんだけどな〜」
歪な長剣を引き摺りながら現れた彼女は確かに、前回出会った際の濃密な殺気を纏っていた様子とは打って変わって、とてもフレンドリーに感じられる態度でライカンたちの前に立っている。
その真意がわからず訝しんでいると、それを見透かしたように彼女が言う。
「いや〜、トカゲの尻尾切りっていうの?アレ食らっちゃってさ、最後に私のホロウ脱出を手伝ってくれるなら、その道中はできる限り付き合うからさ……どう?」
それを聞いたライカンは自らのそばにいるボンプ──パエトーンのボンプに目を向けて
「『様々な犯罪行為に精通し、どのような依頼も卒なくこなす仕事人』『ターゲットで遊ぶ悪癖が目立つが基本依頼優先であり、依頼の失敗率はゼロに等しい』『契約を重んじ、裏切り者には命より高い代償を支払わせる』これが、インターノットにおける彼女の評価です。…いかがなさいますか?プロキシ様」
「えっ、私!?」
「はい。今回のバレエツインズでの行動のナビゲーターはプロキシ様でございますので、プロキシ様に判断を一任するのが適切かと」
パエトーンとして今回ボンプに接続しているリンは大いに悩んだ。
目の前にいる彼女の実力はリンも何度か聞いた覚えがあるが、彼女はこれまでリンが手を組んできた相手とは違う純粋な殺人者であり、殺人を罪とも思っていないのではないかと思わせるほど凄惨な手口を多用する相手だ。
「ねぇ、いいでしょ〜?WIN-WINじゃん?……ん〜、信用足らない感じ?なら、何でも質問しなよ、答えたげる」
「じゃあ、なんであんな酷い殺し方をするの?」
「楽しいからだよ、わからない?」
「……わかんない。私はわかりたくない」
「そう。でも、それとこれとは別でしょ?」
「じゃあ、私たちを裏切らないって保証できる?」
「もっちろん!アンタらを殺せなんて依頼は受けてないからね!」
彼女は無邪気な半笑いでそう言った。
「あっ!血、血が……!」
唐突に、カリンが震える指で彼女を指してそう言った。
よく見れば、彼女の指先を伝って地面に血がポタポタと垂れている。
「……ん?あっ、そうそう、やられちゃってね〜」
カリンに言われてやっと思い出したような様子の彼女は、ほらここ、わかる?──と言ってパーカーのフードを捲り、隠れていた首筋を露わにする。
首には応急処置として巻かれた真っ赤な包帯が巻きついており、吸い取りきれなかった血がそこから溢れ出ていた。
「ほら、敵の敵は味方!ってことでさ、どう?ほら、どっちみち四対一で戦ってもしんどいしさ〜。ねっ?」
「……敵?この場に敵が?」
「あ〜うん、いるよ。守秘義務の契約はすでにお金もらってるから詳しくは言えないけど、いるよ。……今のうちに私と手を組んだ方が戦える人員が増えるし、そっちには損はないと思うなぁ。──私にもう一度電話がかかってくる前に」
彼女の熱烈な売り込みに、リンは渋々頷いたのだった。