感想評価ありがどうございます。指摘がありましたが、転生タグはタグミスです。転生期待して来た人、ごめんね。
俺には妹が二人いる。双子の妹だ。そのうちの一人のことは、四宮にも話した事があったよな。そうだ、中等部に通っている方。
命ちゃんはその子の、双子の妹だ。
詳細は省くが、うちの両親は別居中でな。俺は父親のとこに、妹たちは母親と一緒に出ていった。それから上の妹だけが帰ってきて、命ちゃんだけが母親のところに残った。
いや、そんな悲痛な面持ちをしないでくれ。何も完全に生き別れたわけじゃない。文通はしていたからな。
事態が変わったのは一年半前、俺と上の妹が秀知院学園に入学した年だ。本来なら、命ちゃんも中等部に外部入学する……はずだった。
だが、あいつは秀知院学園には姿を現さなかった。連絡がパタリと途絶え、会うこともなく一年半。
「そして今日、たまたまこの喫茶店で会えたという話なんだが……どうした、四宮」
「いえ……思い違いをしていた自分が恥ずかしいだけです」
複雑な表情で胸のあたりを押さえる彼女がそう答える。
「しかし、会長。それならどうして妹さんはあのような態度を取ったのでしょうか。あれでは、まるで本当に他人のようです」
「あぁ、まぁ見当はつく。俺も似たような思いをしたことがあるからな」
「そうなのですか? 家族に他人のふりをする理由とは一体……?」
「それはズバリ──恥ずかしいんだ!」
あるある! 俺もバイト先に親父なんかきた日には知らない人のフリするもん!
「そ、そんな理由なのですか?」
「甘いな、四宮。今の命ちゃんの心境を考えればこれは当然の結論だ。家族の中で自分だけ秀知院に受かることができず、連絡を絶っていたところにたまたま兄の俺がきたのだ。気まずいなんてものじゃないだろう!」
命ちゃんは俺や圭ちゃんよりもずっと頭が良かった。あの合理主義の母親のもとにいたなら、それはもうギリギリまで知識を詰め込まれたはずだ。
しかし、それでも彼女は秀知院学園に入れなかった。そこから考えられる結論は……そもそも受験できなかったんだろう。恐らく風邪だな。
昔から命ちゃんはここぞと言うときに体調を崩したり、怪我をしていた。体が弱い上に、不幸体質なんだろうな。
「そうでしょうか。あの反応は本当に知らないように見えましたよ。七年ぶりに会ったのなら容姿を忘れてしまうのも仕方ないのでは……?」
「いや、それはない。命ちゃんは完全記憶能力者だ。ものを忘れることは絶対にない。たしか……四宮もそうではなかったか」
「そうですね。私も物心つく前の記憶ですら思い出せます。妹さんもそうなのでしたら、会長を忘れたわけではなく、本当に恥ずかしがっているだけなのかもしれません」
「そうだろう、そうだろう」
仮に俺が風邪を引いて秀知院に入れてなかったならどうしたであろうか。音信不通どころか、家を出奔して外国にでも行っていたかもしれんな。各地でバイトをして日銭を稼ぐバックパッカーをしていたかもしれん。
ふむ……意外とアリだな。
「しかし、それなら今の妹さんに関わるのは可哀想なのでは? そっとしておいてあげたほうが……」
それを言い出したらおしまいだぞ。まぁ、その通りなのだが。
「四宮の言うことももっともだ。だが……寂しいではないか! 七年ぶりに会ったのに何もできないなんて!」
「そんな理由!? それって妹さんに嫌われませんか!?」
「嫌われない方法を考える!」
伊達に圭ちゃんに『過干渉うざい』と言われる兄ではない。良いじゃないか、過干渉くらい。だって関わりたいんだもん! 妹がバイトしてる姿を見て、成長を感じたいんだよ!
「ついては四宮にも策を考えてもらいたい」
「えぇ……わ、私ですか?」
「経験上、俺の考えた策が妹に嫌われる確率は78%程度だ。女性としての意見を四宮から聞きたい。頼りにするぞ、副会長」
「頼りに……ならば私も、その信頼にお応えします。会長」
普段、生徒会室で相手から告白させるために争っている俺と四宮であるが、今だけはその頭脳戦も休戦である。
「では会長、こちらはどうです」
「聞こう」
メニュー表が、さながら作戦資料のように開かれる。
「このラテアートと言うメニュー。店員さんが目の前でしてくれるみたいですよ。私たち二人分ならば拘束時間も十分、目の前で妹さんの働く姿をじっくりと堪能できます」
「ふっ……流石だな四宮。お前に任せて正解だった」
「ふふふ……」
「ははは……」
「「すいません、ラテアート一つずつお願いします」」
「かしこまりました」
よし。これで命ちゃんがラテアートをする姿を……。
「それじゃあ店長、お願いします」
そこには右手にカップ、左手にミルクを持って無言のまま頷く老齢の男性がいた。
うん、チェンジで。
「うちの店長は器用なので、アートの希望があれば何でも伺いますよ」
いや、違うから! ラテアートにアートを求めてるやつなんていないって! 可愛い妹に入れてもらうことに付加価値があるんじゃないか!
「いや……できれば君にしてほしいんだが」
俺がそう言うと、何故か命ちゃんは顔を曇らせた。
「……ラテアートを私に、ですか。私、
「大丈夫ですよ。誰しも最初はそうですから。私たちは
四宮のおねだりと言う援護もあり、命ちゃんは渋々頷いた。
「分かりました……文句言わないでくださいね」
そして……。
「(カタカタカタカタ)……ふぅ。できました」
「「……」」
カップが悲鳴を上げて、底が割れてしまいそうな音を鳴らした後、俺の前には零れたお茶を雑巾で拭いた後の染みのようなラテアートが、四宮の前には名状し難い四足歩行の生き物のようなラテアートが置かれた。
「あの、ちなみになんですか……これ?」
四宮がソレの正体を恐る恐る聞くと、帰ってきた答えは以下の通りだった。
「トリミングに失敗したトイプードルのラテアートです」
なぜ、それを選んだ?
「ちなみに、俺のは?」
「スクランブルエッグのラテアートです」
だからなぜそれを選んだ!?
よくこれでバイトできたなお前! バイト舐めてんのか! 店長さんも横でニコニコ見てねぇでフォローしてやれよ! これじゃあ俺が恥ずかしいわ!
「あはは……ふ、不思議なセンスをお持ちの妹さんですね?」
やめろ四宮……無理矢理なフォローは単なる憐れみよりもキツイぞ。
「それじゃあ、ラテアートと一緒に写真を撮りますね」
おもむろに命ちゃんがカメラを取り出す。
「写真?」
「はい。参考までに、これまで撮ってきたお客様の写真が向こうに飾られてますよ」
なるほど、確かによく見れば近くの壁に写真がいくつも飾られているな。ほとんどが学生で……なんかあの写真に写っている人物に見覚えがあるぞ。
あれは俺が『壁ダァン』を教えた男子生徒と、その彼女ではないか。それに写真に写っているのは男女ばかりで……待て、何かがおかしい。
俺の脳が、そう訴えている。
「命ちゃん。あの写真に写ってる人たちはなぜ、必ず男女で二人なんだ?」
「またその呼び方……はぁ。まぁ、そうですね。カップルの方は二人揃って写真に撮らせて貰うことが条件です──それでラテアートにカップル割が効くので」
俺はメニューを開き、もう一度ラテアートのページを見る。そしてそこには、四宮の手が被さり俺からはちょうど見えなかったある一文が刻まれていた。
『カップルの方は二杯頼むと一杯無料!』
「お二人はカップルなのですよね?」
四宮……謀ったな、四宮かぐや──ッ!!!
「ふふ……どうしたのですか、会長?」
四宮かぐやは口に手を当て、その妖艶な笑みを俺へ向けた。
あらあら……古今東西、休戦協定が一方の都合によって簡単に破棄されるなことど常識ではありませんか。会長ったら慌てふためいて、お可愛いこと……。