プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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13.白銀命は相談したい(上)

 

「久しぶりの白銀様……けれど、どこか表情に影があるような……」

 

学校の皆に噂され。

 

「白銀さん……もしかして疲れてる?」

 

四条先輩にも心配され。

 

「命ちゃん、なんか悩みでもあんの?」

 

石上さんにも気を使われた。

 

「はぁ……」

 

そんな絶不調の中でバイトをしている私はため息をつく。

 

あれから数日、例の二人は喫茶店には姿を現していない。それ自体は良いのだ。これで私は自分の過去に触れなくて済む。

 

だが、どうにも心が晴れない。一度、自分に兄がいることを知ってしまっただからだろうか。それとも、最近妙に寝つきが悪いせいだろうか。

 

もう一度口からため息が漏れ出ようとしたその時、喫茶店の扉が開いた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「あーっ!」

 

入ってきたのは、秀知院学園の制服に大きな黒いリボンが目立つ、桃髪(創作的表現)の少女である。

 

「圭ちゃん、喫茶店でバイトしてたんだね! あ、こんにち殺法!」

 

「……」

 

だ、誰なんだこの人。こんにち殺法ってなに……? けいちゃんって誰……?

 

「ちょっと、書記ちゃん! 急に走んないで欲しいし!」

 

「えへへー、すいません早坂さん。圭ちゃんの姿が見えたのつい……」

 

続いてやってきたのはこれまた秀知院学園の制服を着た、金髪碧眼、サイドテールの……ギャル? ギャルだな。ギャル以外に形容できない。

 

と言うか、今『早坂』って言ったよな。

 

「あ、紹介しますね! 私の妹の同級生で友達の白銀圭ちゃんです!」

 

「違います、近寄らないでください。いらっしゃいませ、お客様。二名様でよろしいですか?」

 

「もーう、圭ちゃんったら。バイト中だからってそんな他人行儀じゃなくても良いじゃないですか!」

 

頬を膨らませて文句を垂れるピンク髪。……こいつ、『書紀ちゃん』って言われてたよな。

 

まさかこの人たち、また秀知院学園生徒会のメンバーか? それとも四宮かぐやが送り込んできた刺客? 私のことを探りにきた?

 

まぁ、客としてきた以上は応対するけどね。

 

「だから近寄らないで……触れるのもご遠慮願います。お客様、お連れ様を連れてお好きな席にお座りください」

 

「うーん、いつもと雰囲気違うしなんか違和感あるんですよねぇ……イメチェンした?」

 

イメチェンも何も初対面だろう。私のことは良いからさっさと行け。腕触んな。組んでくるな。やめろ。

 

「あー……書記ちゃん、取り敢えず席行こ?」

 

「ちょっと、待ってください。もう少しで分かりそう……あ、髪型が違うんだ! ヘットドレスも着けてないし、前髪も石上くんみたいに下ろしちゃってー……似合ってないなぁー。せっかく可愛いんだし、髪を上げたほうが──」

 

ニマニマと無邪気な笑みで、このピンク女は私の前髪に触れようとした。

 

「秀知院学園って、もっと高貴な人間が通う学校だと思ってましたが、違ったんですね」

 

髪を完全に上げられる前に手を払う。大丈夫だ、まだ目は見られてない。

 

「え……け、圭……ちゃん?」

 

怯えた表情でこちらを見つめる畜生未満を、私は射殺すつもりで睨みつける。

 

『駄目だ、止まれボク』

 

自制心がそう語りかける。

 

だが、不愉快なことが続いていた私はここで己を律することができなかった。

 

……客だなんて知るか。ただの勘違いで私の尊厳を犯そうとしたんだぞ。一言言わなきゃ気がすまない。

 

「あなたのような初対面の人間に対し無礼を働く人間が、学校の名前を貶めてると考えないんですか?」

 

「あ……しょ……たいめん……?」

 

「私の名前は白銀命。白銀圭などという人物ではありません。馴れ馴れしく私に近寄ってこないでください。不愉快なんですよ。あなた、空気読めないって良く言われませんか?」

 

「え……う……」

 

図星だったのだろうな、ピンク髮の言葉が詰まる。

 

だが、そのとき横槍が入った。

 

「ちょ、ちょっと! 書記ちゃんは勘違いしちゃっただけなんだし、悪いことしたなら謝るから……!」

 

「今、あなたは関係ありません。黙りなさい」

 

あなたも早坂家の人間ならば、四宮家の配下なんでしょう? だとしたら、私より立場は下だ。私は黄光さんに対等だと認めさせた。今は、弁えろ。

 

「他の人からも言われたことがあるんじゃないですか? でも、あなたはその欠点を直さなかったんでしょう。だから今日、不調法にも私の髪に触れてきた」

 

「ご、ごめんなさ……」

 

目尻には涙がたまって、今にも泣き出しそうだ。

 

『もう、このくらいで良い。謝ろうとしているんだ、許してあげよう』

 

……ふざけるなよ。泣きたいのはこっちだ。お前のその何気ない行動で私がどれくらい傷つくことになるか分かるか?

 

この顔が晒されていれば、またあの異物を見る目を向けられるんだぞ。

 

けど目の前の女にはそれが分からないみたいだ、これまで学ぶ機会がなかったんだろう。

 

だったら私が、今教えてやる。傷つくことが、一体どういう気持ちなのか。

 

『他人を傷つける一言で、ボクは散々後悔したのに?』

 

うるさい。

 

「自分の悪いところを直せないなら、秀知院をやめたらどうですか。あなたには相応しくないと思いますけど」

 

自制心を振り切って放たれた一言は、彼女のせき止められていた感情を溢れさせるには十分だった。

 

 

 

「ぼん゙どゔに゙ずみ゙ま゙ぜん゙でじだ……」

 

「マジでごめんね……私も、書記ちゃんを止められなくて……」

 

テーブル席に座る私の反対側で、桃髪と早坂の二人が頭を下げる。

 

「いえ……私の方こそ。すいません、つい、カッとなってしまって」

 

やってしまった。私、最低だ。この程度のことできつく当たり散らすなんて。感情のコントロールができていないんだな。

 

寝不足だとか、最近嫌なことが多かったとか言い訳にならない。

 

「ごめんね……命さん……。私、もっと慎重さを覚えるからぁ……軽率な行動とか改めるからぁ……だから許゙じでぇ゙……エグッ……グスッ……」

 

「わ、わかりました。許します」

 

「ほんとに、ほんとに許してくれるの……? もう怒ってない……?」

 

「怒ってないですよ」

 

桃髪の人がおずおずといった様子で頭を上げると、涙を拭いて言った。

 

「じゃあ……一緒にケーキ食べよ?」

 

「はい……ん???」

 

気がついたときには私の目の前にケーキと紅茶が置かれていて、いつの間にか彼女たちとお茶会をしていた。

 

「圭ちゃんと間違えてごめんなさい! 次からは間違えません!」

 

「つ、次……?」

 

「はい、命ちゃんは私の新しい友達です!」

 

「はぁ!? なんでそうなるんですか……?」

 

「知り合いだと思って話しかけた人が初対面だったんですよ? 友達にならなきゃもったいないじゃないですか」

 

「い、意味が分かりません。彼女はいつもこんな感じなんですか?」

 

「書記ちゃんを理解しようだなんて百年早いし」

 

彼女のこれは日常茶飯事なのか、二人は気にせずにケーキを頬張っている。

 

と言うか良いんですか、店長。私バイト中なのに。え、接待? そっかぁ……なら、私も食べよう。

 

二人の名前は藤原千花と、早坂愛と言うらしい。

 

「あんなきつい言葉をかけた相手と、よく仲良くしようと思えますね」

 

私がそう言うと、藤原千花は手を止めて言った。

 

「ちょっと酷いと思いましたけど……人が嫌がることをしようとした私が悪いので。それに言葉が刺々しい人だとしても、中身までそうだとは限らないって、私は知ってるんです」

 

なんか、思っていたよりも大人な人だな。

 

「その上命さんは圭ちゃんそっくりの可愛い女の子ですからね! 仲良くなりたいじゃないですか!」

 

「いや結局顔かい」

 

感心して損したわ。

 

「ねぇ、書記ちゃん。その圭って人ってそんなに命さんに似てるの?」

 

「もうそっくりですよ、双子さんくらいに。写真見ますか? あ、命さんも見てください。私が勘違いしたのも仕方ないって分かるはずです!」

 

確かに気になる。

 

圭……私の身の回りで頻繁に出る名前。以前私の兄(仮)からもその名前を聞いたが、実は最近喫茶店に訪れるようになった秀知院学園の中等部の生徒からも時々勘違いされるのだ。

 

そんなに似ているのなら、親族だろうか。兄がいたのだから、妹か姉……の可能性もある。

 

写真を見て、ほんとにそっくりなら……カラコンとか、髪を染めたりしてみようかな。何度も間違われると不愉快だし、名前を聞くたびに……なんだか心がざわつくんだよ。

 

「うわ! ホントにそっくりだし!」

 

「でしょでしょ! ほら、命さんも──」

 

藤原千花が私にスマホの画面を見せる。そこに映された人物を見て私は……。

 

『圭は、ここには相応しくないと思う』

 

「おえっ……」

 

忘れていた記憶の一部が、一瞬にして脳裏に蘇る。そして処理限界に達した私は、その場で意識を失った。

 

「「命さん!?」」

 

 




『なんでお母さんの前であんなこと言ったの、命!』

『必要だったから』

『意味分かんない。あんたもそう、お母さんもそう。必要ってなに? 必要なら何しても良いの? ホントに最低、大っ嫌い。あんたなんか死んじゃえば良いのに! もう……二度と顔も見たくない』

そう言って、彼女はいなくなった。

だって仕方ないじゃん、必要だったんだもん。

こんなとこにいたら、圭はいつか潰れちゃってたでしょ。

他にやり方があったなら教えてよ。教えてくれなきゃ、私、分かんないよ。

ねぇ、誰か……。
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