プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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17.生徒会はあたたかい(上)

 

「昨日の今日でそんなすぐ来ますか……?」

 

私の目の前には兄と、かぐやさんの二人の姿があった。

 

「いやまぁ、まだ割引券があるからな。どうせなら使い切ってしまおうと、四宮が……」

 

「なっ! もったいないと言ったのは会長の方ではありませんか!」

 

「だが先に割引券を持っていると教えてきたのは四宮の方だろう」

 

「いや、別にどっちが言い出したとか心底どうでも良いです」

 

とりあえず奥の席に案内した。今後ここが彼らの定位置になるのだろうか。

 

「それでその……御行……さん」

 

「お兄ちゃんと呼んでくれ」

 

「嫌です。これ、一応渡しておきますね。かぐやさんもどうぞ」

 

「これは……?」

 

私が二人に渡したのは今月のスケジュール……というか、シフト表だ。

 

「その日以外に来ても、私は居ませんから……」

 

「ほう?」

 

「あらあら、まぁまぁ」

 

兄は片目を吊り上げて、かぐやさんは口に手を当ててこちらを見つめてくる。

 

「なんですか、二人ともニヤケて」

 

「いや、別に。ただ、俺たちに自分が喫茶店にいる日をわざわざ教えるなんて。なぁ?」

 

「そんなの、まるで会いに来て欲しいと言っているようなものじゃないですか。ねぇ?」

 

はぁ!? 性格悪いね二人とも! こっちは親切心で教えてあげてるのにさ。優さんはそんなこと言わなかったぞ。

 

「な……べ、別に会いに来てほしいとか思ってないですけど。そんなこと言うなら返してください」

 

その後、二人はからかうだけで返してはくれなかった。普段からそういう人の揚げ足を取るような会話してるの? め、めんどくさ……。

 

「それで、ご注文は……」

 

その時、来店を知らせるドアベルが鳴った。

 

「あれ、会長と四宮先輩じゃないですか」

 

「石上会計?」

 

「石上くん?」

 

やってきたのは優さんだ。やっぱり三人とも知り合いだったか。会計なんだ……まぁ、いつもパソコンで資料と睨み合ってるから納得である。

 

「よっす、命ちゃん」

 

「いらっしゃいませ、優兄さん」

 

「はぁ──!?!?」

 

突然大声を上げる兄。

 

「だから兄さんはやめろって……と言うか、いつの間に会長たちと?」

 

「冗談です、優さん。二人とはつい先日ですね。いろいろありまして。優さんはお二人とは……」

 

「ちょっと待て、石上。なぜお前は命ちゃんに兄さんなどと呼ばれているんだ。俺なんてつい昨日までなんとかさん扱いだったのに! ことと次第によっては絶交案件だぞ……ッ」

 

私と優さんの間に入り、まるで犬のように兄が威嚇する。

 

「ひっ……か、会長が四宮先輩みたいになってしまった!?」

 

「失礼ですね、石上くん。私はそんな兄呼びを奪われたくらいで絶交なんてしません。まったく……会長のシスコンにも困ったものですね」

 

なお、後日めちゃくちゃ絶交したくなる模様。

 

「どうなんだ、石上ィ……!」

 

「め、命ちゃん助けてくれ!」

 

「はぁ、御行さん。落ち着いてください。実はかくかくしかじかで……」

 

まるまるうまうま。

 

私は兄に優さんとの関係を説明した。道端で死にそうだった優さんと出会い、仲良くなって、私がここでバイトするきっかけにもなったと。

 

「なるほど……石上。よく命ちゃんにバイトを勧めてくれたな。お前は最高だ!」

 

「さっきと言ってること違いすぎません!?」

 

「兄が迷惑かけてすいません」

 

「いや兄って……命ちゃんにお兄さんはいなかったんじゃ?」

 

「それを説明すると少し長くなるんですけど……」

 

というわけでめちゃくちゃ優さんに説明した。

 

「記憶喪失? 半身麻痺? えぇ……よくそれで生きてこれたなぁ……」

 

目尻に溜まった涙を拭きながらそう言う優さん。

 

そして──なぜかその手が私の頭に置かれた。

 

「はぇ……?」

 

「命ちゃんは凄いよ、僕だったらとっくにくたばってるはずだからさ……ヨシヨシ」

 

そして、私の頭を撫でて褒めてきた。

 

私の生い立ちがよほど琴線に触れたのだろうか……普段の優さんなら絶対にしない行動である。

 

けど、悪くない気分だ……。

 

「えへへ……」

 

「アカ──ンッ!!!」

 

関西人でもないのにそんなことを隣で兄が叫んだ。

 

「まずいぞ四宮。このままでは……命ちゃんが石上の妹になってしまうッ!」

 

「妹ってそんな風に変更できるポジションなんですか、会長」

 

そんなわけ無いだろう。スポーツ選手じゃないんだから。

 

「かくなる上は記憶を取り戻してもらうしか……」

 

「それは絶対嫌です」

 

それはNO、絶対にNO。

 

「そ、そんなに嫌か……?」

 

「今後自然に記憶を思い出すことは……まぁ、あるかもしれません。けど、自分から積極的に思い出そうとすることはありません。これが私のスタンスです、諦めてください」

 

「僕も命ちゃんの記憶を戻そうとすることに反対です」

 

「石上、お前まで!?」

 

「人が記憶を失うのは、心理的要因も大きいんですよ。忘れたいほどのストレスになってるってことです。そんな記憶を思い出させるなんて可哀想じゃないですか?」

 

「それは、そうだが。しかしストレスがかかるような記憶か……」

 

「会長、何か心当たりはないのですか?」

 

その時、また来客を告げる音が鳴った。

 

「チカっと参上! 命ちゃん、こんにちは……て、えぇ!? なんで皆さんここにいるんですか!?」

 

「ふ、藤原書記!」

 

新たな来客は藤原千花だった。秀知院学園生徒会メンバーがなぜか勢揃いである。

 

「酷いですよ、私だけ除け者にしてみんなで集まってるなんて! どうして誘ってくれなかったんですか!?」

 

「いや、僕はたまたま鉢合わせただけで……そのことなら会長と四宮先輩に聞いてください」

 

優さんが華麗に藤原千花の追求を流した。そして彼女の目は自然とかぐやさんと兄へと向かう。

 

「二人とも、どうして私には何も教えてくれなかったんですか。まさか二人っきりで喫茶店に行きたかったんですか? 会長とかぐやさんの二人っきりで?」

 

「違うぞ藤原書記、これはだな……」

 

「違いますよ藤原さん。これには深い事情があって……」

 

あわあわと慌てふためいて……お可愛い二人だ。他人のことをからかうからそうやって罰が当たるんだよ。

 

「そう、私たちは命さんに呼ばれたんです。ね? 会長」

 

「四宮の言う通りだ。俺たちは別にお前を除け者にしたわけではない」

 

「そうなんですか?」

 

三人の視線が私へと向く。

 

おい、私をスケープゴートにするなよ。そんな懇願するような視線を向けても……はぁ、仕方ないなぁ……。

 

「ソウデスネ」

 

「え……なんで私は呼んでくれなかったんですか……」

 

「だって、連絡先教えてくれないまま帰ったじゃないですか」

 

そのおかげでお礼も言いそびれたし……早坂愛も逃してしまったんだぞ。

 

「ぐぅ……門限があったんですよ、仕方ないじゃないですか。でも、疑ってごめんなさい。会長、かぐやさん」

 

「良いのよ、藤原さん」

 

「勘違いは誰にでもある」

 

君ら涼しい顔してるけど、貸し一つだからな。覚えとけよ。

 

「取り敢えず連絡先交換しますか、あとこれ私のシフトです。藤原千花さん」

 

「千花で良いですよ。やったー! 命さんの連絡先ゲットだぜ! どやさっ!」

 

ほら見ろ、千花さんは素直で良い子じゃないか。自慢げに連絡帳に加えられた私の名前を見せびらかして……おい、『メーちゃん』ってなんだ。私は羊じゃないぞ。

 

「ところで、なんの話をしていたんですか?」

 

千花さんにこれまでの会話の流れを説明する。

 

「それで、命さんの記憶について話していたんです」

 

「命ちゃんのストレスになるような記憶ですか。そんなのもうあれしかないじゃないですか。むしろ何で会長はすぐに気づかないんですか、それでお兄ちゃん面とか片腹痛いですよ」

 

「俺に当たり強くないか。というか、藤原書記には心当たりがあるのか」

 

「いやまぁ、命ちゃんから直接聞きましたけど……話して良いんですかね、これ」

 

そう言って千花さんが取り出したのは、昨日私の来歴を記したノートである。

 

「別に、構いませんよ」

 

ここにいるメンバーなら、話したって構わない。

 

「じゃあ言いますけど、命ちゃんの家庭環境って、最低を通り越して地獄なんですよね……」

 





(藤原千花説明中)
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