プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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19.白銀命は予定を立てたい

 

「命さんは、夏休みに何かするご予定はおありですか?」

 

「夏休み、ですか」

 

7月の終わりが目前に迫った頃。その日の会話は、珍しく一人でやってきたかぐやさんの一言がきっかけだった。

 

優さんは新作のゲームを買いに行き、兄はバイト、千花さんは優さんに撃沈させられたらしい。

 

撃沈ってなに???

 

「いえ、特には……あぁ、あれがありました。学校でお世話になってる先輩がサッカー部なんですけど、大会があるので応援に行くんです。予定と言えばそのくらいですね」

 

うちの高等部、サッカー無名校だったはずなんだけどな。いつの間にか全国に王手をかけているらしい。四条先輩一人だけ超次元サッカーやってないか?

 

あとは……四宮本邸には行くかもしれないかな。まぁ、これは毎月恒例なので特別夏休みの予定というわけではない。

 

「そうなのですか?」

 

「まぁ、私は優さんと一緒でどっちかと言えばインドア派なので。むしろ四宮さん、というか生徒会の皆さんは何かしないんですか?」

 

「そうですね、夏の終わりに夏祭りに行く約束をしたくらいです。あぁ、藤原さんは海外旅行に行くそうですよ。良いですよね、夏に旅行」

 

そう意味深に『旅行』を強調してくるかぐやさん。この人、また何か企んでるな。

 

(私から会長を旅行に誘うのは論外。けれど、命さんから提案されたとなれば何の問題もない! (藤原さん)の居ぬ間に、ことを進めてしまいましょう!)

 

「命さんは旅行は好きですか?」

 

「旅行ですか。あんまり遠くに行ったことはないですけど、好きな方だと思いますよ。頻繁に新幹線使いますし」

 

「そうなのですか。普段はどちらに?」

 

「月一で京都に行ってます。一泊二日のほぼ日帰りですね」

 

「好きなんですか、京都?」

 

「まぁ……歴史的なロケーションはそれなりに好きですけど。特別好きってわけじゃないですよ」

 

「なら、どうして?」

 

「寝泊まりが四宮邸でできるからですね」

 

「なるほ……って、私の実家じゃない! なに人の家をホテル代わりにしてるんですか!?」

 

「黄光さんに会いに行ってるんだから、四宮邸に泊まるのは当然じゃないですか。無駄に広いんだから良いでしょう」

 

「あぁ、命さんは黄光兄様と繋がりがあるんでしたね……兄とは、普段どんな会話を?」

 

「この間は人生ゲームしましたね。私と黄光さん、そしてその奥さんと子供たちで」

 

「その面子で!?」

 

「黄光さん滅茶苦茶弱くて笑っちゃいました。髪の毛一本残さずむしってやりましたよ。むしるような髪なんてないですけど」

 

「私の中のお兄様像と全然違うわ……」

 

それはお互い様じゃないだろうか。多分、今のあなたを黄光さんが見ても同じこと言うと思うよ。

 

血筋か? もしそうなら共通の父親からの遺伝ってことになるけれど……四宮帝国の総帥の内面ってどうなんだろうか。案外子バカだったりするのか?

 

流石京都人だな。めんどくさい性格してるどすえ。

 

「気のせいかしら、馬鹿にされているような……」

 

「気のせいですよ。かぐやさんの方こそ、旅行には行かないんですか」

 

「私ですか? うちは厳しいので、あまりそういったことは……」

 

まぁ、四宮家の一人娘が旅行なんてしようものなら警備が大変だろうし、当然かな。箱入り娘だね。

 

「もし旅行に行けるなら、かぐやさんならどこに行くんですか?」

 

「そうですね、具体的にどこと言うわけではないですけれど。山なんてどうでしょう?」

 

「山ですか……」

 

「どうですか、山。空気がおいしくて良いですよ」

 

『旅行』の次は『山』推しか。けど、山ねぇ……私が山に行ったらきっとこうなるだろう。

 

『かぐやさん、御行さん。ごめんなさい』

 

『命ちゃん……その足は……ッ』

 

『えへへ、実は私義足なんですよ。騙していてごめんなさい』

 

『命さん、早くこっちに手を……っ!』

 

『あはは……義足、壊れちゃいました。どうやら私はここまでみたいです──さようなら……かぐやさん……お兄さん……』

 

『命ちゃん!!!』

 

『命さん!!!』

 

白銀命、享年13歳にして落下死!

 

「ポロリしちゃうと思うので山は嫌です……」

 

「何がポロリするの!?」

 

ドキッ! 危険な山登り! (命が)ポロリもあるよ!

 

「な、なら命さんは海派なんですか?」

 

「海……」

 

山が嫌なら『海』か。

 

「海ってことは、水着を着るんですよね……」

 

「うっ……ま、まぁ。着ると思いますよ? 水着」

 

かぐやさんは自分の胸を虚ろな瞳で見つめながら言った。

 

そうだろうな。そうすると、多分こうなってしまう。

 

『ひっ……め、命さんの体傷だらけじゃないですか……!?』

 

『命ちゃん、その足……』

 

『あはは……千花さん、優さん。バレちゃいましたね。ホントは隠してたかったのに……』

 

『か、隠す必要なんてないですよ! 例え命さんがどんな姿でも、私たちは友達ですから!』

 

『そうだ、命ちゃん。僕らは君を見捨てない!』

 

『ほんと? 嘘じゃないですか、それ。例えば──この目をみても、同じことが言えるんですか……?』

 

『びぇ──ッ!?』

 

『ギャア──ッ!?』

 

前髪を上げた少女の右目には何もなく、ぽっかりと暗闇だけが広がっていた……。

 

「それもポロリしちゃうので嫌です」

 

「だから何が!? ま、まさかむn……」

 

ドキッ! 恐怖の浜辺! (目玉が)ポロリもあるよ!

 

「嘘……私よりも大き……ッ!?」

 

おい、どこ触ってんだこの変態。うちの店はお触り厳禁だぞ。

 

……片脚がないからその分栄養が行くんでしょうね。等価交換ってやつ。

 

「命さん、あなた。持ってる側だったのね……」

 

うるさいよ。お前は(脚を)持ってる側だろうが。脂肪とかいらないから脚返せ。身長だって伸びてないんだぞ。

 

「とにかく、海も山も無理です。私には向いてません」

 

「それに向いてるとかあるのかしら。なら、逆に命さんが行きたい場所はないのですか?」

 

「行きたい場所……カフェ巡りとか」

 

「夏休みにカフェ巡りはちょっと……」

 

「あとは、温泉巡りとか好きです。九州行きたい」

 

「あら、良いじゃないですか、温泉巡り。ちょうど会長も私も月初めは空いていますし……」

 

「もしかして、一緒に行きたいんですか?」

 

「そういうわけではありませんよ?」

 

「そうですか。まぁ、どっちにしろ私他人とお風呂入れないのでナシですけどね」

 

「その感じでどうやって温泉巡りしたの!?」

 

「個室探しました」

 

年始には早坂さんと一緒に温泉を引いてる旅館を巡ったんだよなぁ……楽しかった。

 

早坂さんは楽しむ余裕なんてなかったみたいだけど。流石の私も浴槽で溺れないって。赤ちゃんじゃないんだからさ。

 

「一緒に何かするなら、何も旅行にこだわる必要はないと思いますよ。カラオケ行ったり、お泊りしたり、千葉には夢の国だってあるじゃないですか」

 

「それもそうね……い、いえ!? 別に私は一緒に何かしたいとは言ってませんけど!」

 

ツンデレかよ。

 

「そうなんですか。私は、皆さんと一緒に夏休みを過ごしたかったんですけどね……」

 

「ま、まぁ。命さんからお誘いすると言うのであれば、受けるのもやぶさかではありませんが」

 

ツンデレだな。

 

「私には案が無いので、かぐやさんから誘ってもらえませんか。何でも良いですよ、私は。皆さんと一緒に何かできるだけで……それがきっと、最高の思い出になるでしょうし」

 

「命さん……そうよね。なんだって良いのよね。一緒にいられれば、理由なんてなんでも……」

 

しかもチョロい。

 

「なら、またこうしてここに来ても構いませんか」

 

「もちろんです。というかこのお店は四宮の系列なんですから、四宮家令嬢のかぐやさんが私に遠慮するのもおかしな話ですけど」

 

まぁ……そういうところが可愛いんだけど。

 

「次は兄と一緒に来てくださいね」

 

「……た、たまたま会うことはあるかもしれませんね」

 

兄もそこに惚れたのかなぁ……?

 

そうしてかぐやさんの迎えが来るまで、私たちは和やかな時を過ごした。

 





「一緒に花火大会を……」

「ごめんなさい、人混みも無理です」

「(意外と注文が多いわね、この子)」
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