「えへへー、みなさん。お久しぶりです! 藤原千花、ハワイから日本にはるばる帰ってきましたー!!!」
夏休みが始まって一週間が経った頃、ようやくこの喫茶店に秀知院学園生徒会の全員が揃った。
「ハワイは海が綺麗で、ご飯もとっても美味しかったです! どうです、羨ましいでしょう!」
「ナチュラルに自慢されると腹立ちますね。そう思わないですか? 会長、四宮先輩」
青筋を浮かべながら、優さんは兄とかぐやさんへと話を振った。だが、当の本人たちは……。
「そうだなぁ……」
(この一週間、最高だったな……)
「そうねぇ……」
(こんなに順調で良いのかしら……)
「仏の顔!?」
なんか、すっごいふわふわしてる。今なら何を言っても許してくれそうなくらいだ。何か良いことでもあったのか?
「みなさんはこの一週間何して過ごしたんですか? ねぇねぇ、教えてくださいよぉ」
「はー、うっざ! みなさん、この海外旅行セレブに僕らの夏休みがどれだけ充実してたか教えてやりましょうよ!」
優さんの一声に乗っかり、私たちがこの一週間、何をして過ごしていたのかを千花さんに説明した。
「初日にはここで私の誕生日会をしました。すっごく嬉しかったです」
「えっ……命さん誕生日だったんですか!? 会長、何で教えてくれなかったんですか!」
「いや、だってお前ハワイじゃん」
「──」
正論を言われて、千花さんは声にならない悲鳴を上げた。
おい、まだ一週間の初日だぞ。大丈夫か?
「その2日後、僕らは四人で動物園に行きました。あー、楽しかったですよそれはもう! 藤原先輩がいないのは可哀想でしたね!」
「写真もありますよ。ほら、レッサーパンダと一緒につけ耳をつけて威嚇の万歳ポーズをする命さんが……」
(あ、だめ! 写真でもニヤニヤが止まらない! )
「やはり命ちゃんの時間は四宮とだな」
(がわ゙い゙ぃ゙ぃ゙──!!!)
「消してくださいよ……二人とも凄い目で見てますし、似合ってないんでしょう?」
「絶対に駄目よ」
「絶対に駄目だ」
嫌がらせか!
「それから山にも行きましたよ。それも富士山です」
「富士山に行ったんですか!?」
「登らずに見に行っただけですけどね。麓から見上げるだけ。あとは浅間神社にも参拝しました。御利益があることを願います」
「命ちゃん、お守り爆買いしてたもんな」
「相変わらずよく撮れてるよな、この鏡富士。四宮が撮ったんだったか?」
「はい。我ながら良く撮れました」
おや、藤原千花の様子が……。
「そして、昨日は海にも行ったな」
「山に飽き足らず海までも!?」
「江ノ島で岸辺を歩いただけですけどね。あと神社も行きました。御利益欲しいので」
「私は初めての海の家で、焼きそばを食べましたよ。味はそれなりでしたけれど、一生の思い出ね」
「見てくださいよ、水族館で撮ったこの写真のチンアナゴ。会長そっくりじゃないですか」
「あら、ほんとに。そっくりです。特に目元が」
「似てるのは目つきだけだろう」
兄の特徴ってほぼ8割目つきでは?
「な、な、な──なんで私抜きでそんなに夏を満喫してるんですか!? 話が違うでしょう、この裏切り者たち!」
おめでとう! 藤原千花は嫉妬で膨れてフグに進化した!
「はっはー! 羨ましいですか!? 藤原先輩が浅はかにも旅行マウント取ろうとするからいけないんですよ、へーッ!」
「うわぁぁん! 石上くんのバカ! 日焼けで皮向けちゃえば良いんです!」
「リア充と化した今の僕に負け惜しみは効きませんよ、藤原先輩!」
「どうどう、落ち着け石上」
ヒートアップしていく二人の間に兄が割って入った。かぐやさんはそんな三人を見て愉快げに笑っている。
「うぅ……仲間外れは嫌ですよぉ」
「仲間外れになんてしてませんよ」
「命さん……?」
「本当は私、千花さんにも誕生日祝ってほしかったし、一緒に動物園にも山にも海にも行きたかったです。けど、千花さんは家族と海外旅行じゃないですか。家族と過ごせる時間があるなら……それを優先するのは当然です」
「そうね、藤原さん。家族と夏を過ごせるなんて、とても素敵なことなんですから」
私には今回の兄とのもの以外で家族との思い出なんてない。そしてそれはかぐやさんも一緒だろう。
ここにいるメンバーなら、夏じゃなくても遊びに行ける。だったら、夏くらいは家族を優先したって仕方ないのだ。
「かぐやさん、命さん……」
3.2.1…ポカン! 藤原千花は嫉妬を忘れた!
「二人とも、ありがとうございます。それと、次は絶対ついていきますから! みんなで行きましょうね──恐山!」
「行きません」
「行くわけないでしょう」
「僕も遠慮します」
「悪い、その日バイトあるわ」
「どうして!? 山にも海にも行ったのになんで恐山はダメなんですか! 会長に至ってはまだ日付も決めてないのに断ってるし!」
せっかくパワースポット巡ったのに、何が悲しくてまた厄運を貰いに行かにゃならんのだ。
「口寄せの術、してみたかったんだけどなぁ……」
「それやって無事なの、たぶん千花さんだけです」
オカルトは別に信じてないけど、オカルトを馬鹿にしてると大抵痛い目に合うからな。距離を取るのが一番である。触らぬ神に祟りなし。
「じゃ、じゃあ千葉の夢の国に行きませんか! シーでもランドでもどっちでも良いですから!」
「私たちは構わないのだけれど……」
四人の目が私に向いた。
「私、たぶんアトラクション乗れないので、皆さんが乗ってる間待つことになると思います。空気壊したくないので、四人だけで行ってください」
「命さん置いていったら意味ないじゃないですか!?」
よって夢の国は無しとなった。
「なら、カラオケなんてどうでしょう?」
「すまん、四宮。近々漁港で競りのバイトがあるから、喉は休めておきたい」
(四宮の前で生き恥は晒せん……ッ!)
「あら、そうなのですか? それは仕方ありませんね……」
競りのバイトってなんだよ。買うの? 売るの?? と言うかあれバイトなの???
「ゲーセンとか興味あります?」
「ゲーセンなんて夏休み以外にも行けるじゃないですか!」
優さんの案は一蹴された。
「よし、みんな──バイトしようぜ!」
「もっと意味分かりませんよ!?」
「バカ。御行さんのバカ確定」
「どうしてそうバイトを推したがるんですか、会長……」
「夏休み中は親の仕事手伝ってるので、追加で仕事はちょっと……」
兄は撃沈した。何でいけると思ったんだよ。
その後もスポーツ観戦、プール、美術展、ショッピング、お泊まり会、ボランティア活動など案が出されたが、どれも満場一致で賛成とはならなかった。
「もう、一周回って勉強会でもしますか? うちの二階、使えると思いますよ」
「ナシよりアリですねぇ……」
「それはどっちなんですか、藤原先輩」
「消極的などっちでも良しです……」
あぁ、だめだ。千花さんが今にも溶けてしまいそう。
「とにかく、まずはスケジュール合わせだけでもしておきましょう。たまたま始めの一週間が空いていただけで、次もそう都合よく私たちが揃うとは限りませんから」
「それもそうだな。俺も来週からバイトが詰まっているし……」
と言うことなので、各々スケジュール帳を突き合わせ日程を確認していく。
「月末の夏祭り以外ですと、見事にバッティングしていますね。来週あたりに一日取れるかどうか……皆さんはいかがですか?」
「その日はバイトもないし、終日空いているな」
「僕も大丈夫です」
「私は、基本毎日暇なので」
「なら、その日にしましょうか。藤原さんは大丈夫ですか?」
「あ、私その日は旅行でアラブにいますね。ちょうどど真ん中です!」
「「「はぁ──!?」」」
おお……ま、マジかよこの人。持ってるなぁ。
「おまっ……何回海外旅行行くんだよ! 月末はスペインとか抜かしてたが、次はアラブか!?」
「スペインはキャンセルしたので、二回ですね!」
「キャンセルしなきゃ月初、月中、月末の三回も海外行ってるじゃないですか……藤原先輩ってやっぱりセレブなんですね。どうぞ楽しんできてください。さて、僕らは来週何しますか?」
「え……? まさかまた私抜きで遊びに行くんですか? そんなことしないですよね。ね、ねぇ……かぐやさん?」
「藤原さん……ごめんなさい。私たち、ここまでみたいね。今まで本当にありがとう。あなたのことは、決して忘れないわ……」
「そんな別れ話じゃないんですから!? め、命さんは……」
「うん。一度くらいは二人でどこか遊びに行きましょう。それくらいは、神様だって許してくれると思います」
「諦めの表情!? もういっそのこと皆さんも海外旅行行きましょうよ! 良いですよアラブ! ドバイとかエジプトとか! 乾燥してるので夏でも日陰は涼しいですし!」
「国内ならまだしも海外は流石に……家が許してくれないと思います」
「初海外が中東はちょっと怖いです。遠慮します」
現地で迷子とかなったら割と真剣に死んじゃうかもだから……。
「僕に海外旅行に行けるようなお金はありません」
「石上、バイトしようぜ! な!」
「誰かバイト戦士と化した会長を止めてあげてください。きっと働き過ぎで疲れているんです」
「じゃあもう志摩スペイン村で我慢しますから! 行きましょう行きましょういーきーまーしょーうー!」
「なにが『じゃあ』なんですか」
もう、だめだこりゃ。
結局、私たちは次の予定を決めることができずにその日は解散と相成った。
まぁ、こういう日があっても良いよね。楽しかったし。
「ちゅるちゅるちゅる……おいしー! 味変もしーちゃおっと」
「ニンニク入れすぎでは……? あ、すいません。小皿貰えませんか」
後日、二人でラーメンを食べに行った。