なんか、筆が乗る。こうなると反動が怖い。
翌日、黄光さんの説得はそれなりに手応えがあったそうで、私を交えて続きをすることになった。
……え、私いる? そもそも昨日は黄光さんが親を説得したいって言うからついて行っただけだよ。作戦会議するならもっと優秀な部下使えば良いんじゃんかよ。
「まぁまぁ、命様。そう言わずに。あの雁庵様を説得したなんてとてもすごいことなんですよ。今後の四宮グループの行く末を決める会議に呼ばれたのですから、是非とも参加するべきかと」
「早坂さん……いや、まぁ分かってるんですけどね」
なーんで私がズーム会議のためのパワポ資料を作らないかんのですか。
「そこのレイアウトは変えたほうがよろしいかと。文字の色彩も見やすいように調整しましょう」
「もう早坂さんがやってよ」
「発案者なのですから、ご自分でやってください」
うがぁぁ!!! 左手でマウス操作ムズすぎるんじゃあ!!!
はい、と言うことで午後になりました。午前で作ったハリボテのプレゼンを披露する時間です。
「うん、黄光さん。フィルターかかって猫になっちゃってますから。早く変えてください──違う! フィルターを変えるんじゃなくて設定を変えてください! 今度は犬になってますから!」
「雁庵さんは背景お墓になっちゃってますよ! ギャグですか? ギャグなんですか!? 不謹慎ギャグやめてください! あぁ、ガイコツのフィルターかけたら本格的に死んだみたいに見えるからやめて!」
こいつら日本経済背負ってる割にIT音痴なのかよ! いや、私も使いこなせてるわけでもないけどさぁ! せめて変なボタンを押さず我慢するくらいはしてくれる!?
「あぁ、もう! そっちにもどうせ早坂家の人間がいるんでしょう! 二人に代わって設定してもらってください!」
なんかもう、駄目かも。四宮家って後継者争いとかなくても、IT化に乗り遅れて滅ぶ定めにあったのでは?
……いや、諦めるな白銀命。ここで二人に改革案を飲ませて、兄とかぐやさんが将来楽できる下地を作ってやるんだよぉ!
それがこんな面倒くさい性格の私に付き合ってくれた、二人への恩返しってもんだろうが!
「はい、今から画面共有しますね」
よし、それじゃあ──プレゼンを始めようか。
「四宮家の抱える問題は大きく二つ挙げられます。一つ目が後継者問題、二つ目が四条家です。まずは一つ目の後継者問題について取り上げて行きましょう」
「後継者問題を細分化すると以下のように挙げられます。1.雁庵さんの健康不安。2.黄光さんの実力不足。3.他の四宮一族の存在」
「1より決定は早急に決めなければなりません。そして2より黄光さんが雁庵さんのようなやり方で四宮家を継承しても長続きしません。従って、黄光さんが恙無く跡を継ぐには他の一族の協力が必要です」
「まず、黄光さん以外の三兄妹のうち、対処する必要があるのは四宮雲鷹だけです。次男は初めから黄光さんの腰巾着。そしてかぐやさんですが……あの人は四宮家のポジションに興味がありません。生徒会に所属しているのがその証拠です。生徒会に時間を割くより財界の人間とコネクションを広げたほうが、後継を狙うのであれば有利なはずでしょう?」
後継者問題についての議論は数時間続いたが、結論として遠くないうちに雲鷹陣営との会談を執り行うことが決定された。
「次に四条家についてですが、四条が四宮を感情的に嫌っているのは彼らが四宮家から追放されたこと、そして四宮が非道な手段を用いていることが理由です」
「この恨みは根深く、和解は困難でしょう。しかし、互いが滅びるまで攻撃し合えば結局のところ共倒れで終わってしまいます。向こうだってそれは分かっていて、どこかで妥協点を求めているはず」
「その妥協点と今回の改革を絡めます。四宮は四条に配慮し、よりクリーンなやり方に改めることにするのです」
「また、四条の求める『非道の無い日本経済』は、四宮と四条の共存でしか成し遂げられないという論理でも説得できます。互いが互いを監視し競争することでこそ自由資本主義は完成されることは向こうも重々承知のはず。そして仮に戦争で四条が四宮を下したとしても、四条が将来に渡って旧来の四宮家のように腐らない保証はない。その辺を指摘すれば、向うも全面戦争は躊躇するはずです」
『それでも止まらなければ、どうする?』
四宮雁庵の老獪な声が、パソコンを通して私に問いかける。
「『四条における四宮嫌いの過激派』と『四宮における旧来のやり方を変えられない遺物』──鉄砲玉として消費するには丁度良いと思いませんか? 四条も四宮も大きくなりました、ここらで一度不要なものを取り除き、躯体をスリムに改造するべきです」
「これにより例え戦争が始まり両者痛み分けになっても、WIN-WINの結果に終わります。そしてこの戦争が全面的な殺し合いに発展することは無い。なぜなら、継戦を主張する輩には最初に死んでもらうんですから」
『四条との交渉は?』
「私が担います。これでも四条家次期当主とは仲が良いんです。この間なんてその双子の姉とも関係を築きましたし」
私は二人に以前日本茶屋で撮った眞妃さんとの写真を見せた。
「ちなみに夏の終わりにも遊びに誘われているので、少なくとも四宮グループのなかで最も四条と仲が良いのは私でしょうね」
『はっ……すでに籠絡してやがったか。さながら女狐だな』
「籠絡? 違いますよ、ただの友達です。黄光さんの手でイジメ殺されそうになったときに付き合いができたんですよ。ほんと、ありがとうございますね──?」
『……』
「まぁ? 私がこんな欠け身の女じゃなけりゃ? 誘惑してハニトラ的な可能性もあったかもしれませんけどね? ハハハ──早坂ぁ……」
「あらあら、申し訳ありません。黄光様、御当主様、少々お時間を頂きます」
『『……』』
白銀命、14歳。気分が浮き沈みしやすいお年頃である。
「だぁー……疲れた。早坂さん、お茶淹れてください」
私はデスクの前で深く伸びをする。軽く六時間程ぶっ続けで会議していたな。
ま、ある程度は方針が決まった。彼らは四宮家内部の引き締めと改革を進め、私は四条家との関係を深めて、交渉の場に引きずり出す。
ほんとは、こんな形で四条先輩との関係を利用したくなかったんだけどね。
「……電話?」
デスクの上で、私のスマホが鳴った。画面見れば、そこには兄の名前がある。
「はい、もしもし?」
『命ちゃん、今ちょっと良いか?』
「良いですけど……何かありましたか?」
何やら慌てた様子の兄。話を聞いてみてみると……。
「かぐやさんが花火に来られなくなった?」
『あぁ、命ちゃんなら何か知ってるかなと』
「いや、なんで私なんですか……」
『命ちゃんは四宮家と繋がりがあるんだろう?』
「本家の方と繋がりがあるからと言って、かぐやさんの動向を知っているわけでは……あ」
も、もしかして……私が雁庵さんに写真見せたせいか!? あれのせいでかぐやさんの外出が制限されたとか。
あ、あり得る……ッ!
『命ちゃん?』
「すいません! ちょっと調べたいことができたので!」
『ちょ──』
私は兄と通話していたスマホでそのまま別の連絡先へと繋げた。
「もしもし、黄光さんですか! 今まだ本家にいますよね!? 雁庵さんと話したいことがあるので変わってくれませんか!」
『一体何の用で……』
「かぐやさんのことで聞きたいことがあって!」
『そんなことでいちいち……ちょっ……! オヤジ……!』
ガタガタと物音が鳴る。
『かぐやがどうした』
「雁庵さん!」
まさか、黄光さんから携帯奪ったのか? ワイルドすぎんだろ……。
『ご当主様がご乱心なさったぞ!』
『どこに行った!?』
『屋敷の中にはいらっしゃるはずだ!』
「あの、後ろから滅茶苦茶声聞こえてくるんですけど、本当に大丈夫ですか?」
『問題ない。それで、かぐやに何かあったのか』
「……かぐやさんは今日、生徒会の人たちと花火大会に行く予定でした。けれど、来ていないそうなんです。雁庵さん、もしあなたが外出を禁じたと言うなら……どうか行かせて上げてはくれませんか? かぐやさんは本当に花火が好きなんですよ、だから……!」
『いや、してねぇが』
「……はぇ?」
『外出規制などしていないと言っている』
「あれー???」
なら、なんでかぐやさんは花火大会に来れないんだ???
『むしろ、かぐやに送った使用人には外出が多いから身辺警護に気を払うよう言ってある』
……そ、れ、だ、よ!!!
多分伝言ゲームみたいに伝わってるって!
かぐやさんの外出が多いから心配だ。
↓
当主様が心配なさっている。
↓
外出禁止!
みたいになってるやつだってこれ!
「あの、雁庵さん! 今すぐその使用人に連絡を……」
だが、私が気づいた時には遅かった。既にスマホの向こうから返事は無く、通話が切れたことを表す音だけが響いている。
「だったらかぐやさんに直接電話を……」
『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない──』
クソッたれめ! だから前に携帯買い替えろって言ったんだよ、バカかぐやさん!!!
「命様、お茶の用意が出来まし……」
「早坂さん! 今すぐ車出して! 四宮別邸に!」
私のせいであの人が花火大会行けなかったら最悪だ──ッ!
私は別邸に着いた後、本家の使用人を懇切丁寧に説得しかぐやさんの外出許可をもぎ取った。
そして……。
「かぐやさん! 花火大会行けますから! 急いで準備を……」
「……命さん?」
「……って、早坂愛!?」
かぐやさんの部屋に直行した私を待ち受けていたのは変装した早坂愛さんである。
なんでも、かぐやさんは既に家を抜け出したらしい。
なんだよそれぇ。
「大丈夫ですか?」
思わず力が抜けて倒れそうなる私を抱きとめてくれる早坂愛さん。
「……良かった」
「?」
「かぐやさんが花火大会に行けてて、良かったぁ……」
「……そうですね」
私は早坂愛さんの頭を撫でる手に身を任せ、花火の音を楽しんだ。
「連絡先交換しましょう、はやさ……面倒くさいので愛さんって呼びます」
「はい、良いですよ」
「あと今度ビジネスの話があるので空けといてください」
「は……え?」
「ちなみに黄光さんも承知の話なので、本家から埋め合わせの侍女が来ますから。安心して本業は休んでくださいね」
「……え???」