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「命さんは……まだいないかな」
白銀命に呼び出された私は、例の喫茶店へと訪れていた。
命さん……初めて会ったときは、中等部の頃のかぐや様を思わせる冷たい少女。本当は他人との繋がりを求めていても、臆病で踏み出すことのできない人。
けれど、それもここ数ヶ月で変わった。かぐや様と、生徒会の人たちと関わることで彼女は普通の女の子のように笑顔を見せるようになった。
「はぁ……良いなぁ……私も、友達とそんな充実した夏を過ごしてみたい……」
「愛さんの夏は充実してなかったんですか?」
「そうだよ、ずっとかぐや様に振り回されて──命さん!?」
「はい、私です」
気がついた時には私の真後ろに彼女が立っていた。
「お迎えに来たんですけど、出られますか?」
「あ、ごめ……申し訳ありません。すぐに出ます」
「いや、そのアイスコーヒー飲んでからで良いですよ。あと話し方も、楽な方法で構いません。友達ですし」
「ともだち……」
私と命さんの関係性は複雑だ。命さんは四宮家の……食客? みたいな立ち位置で、それも黄光様のお世話になっている。一方私は四宮家の近侍で、主人はかぐや様……ではない。私はかぐや様の内偵であり本当の主君は黄光様。
なので、私と命さんは身分の隔たりがあるのだけど。
「それは、あの日あの場限りの言葉で、だいたい私はあれから一度も命さんに会ってないじゃないですか。だから、私は命さんの友達に相応しくなんか……」
「そんなことありませんよ。あなたと千花さんがあの日私にかかわってくれたから、今の私の日常があるんです。愛さんには……感謝しています」
命さん……。
「なので、愛さんは私の友達です。千花さんと同率三番目ですね」
あー、そこは書記ちゃんと一緒かぁ。
「そして、友達が夏を充実させたいと思っているなら、手伝ってあげるのが筋だと思っています」
「……ん?」
「仕事の話はどうせすぐ終わりますし、遊びに行きませんか。今から」
「今から?」
「はい、愛さんは今どこか行きたい場所はないですか? ご一緒しますよ」
「それじゃあ……」
──カキーン!!!
「なんでよりにもよってバッティングセンターなんですか!?」
「命さんが何でも良いって言うから……嫌でしたか?」
──カキーン!!!
「嫌じゃないですけど、女子二人で行くようなところですか?」
「私はよく一人で来ていますが……主人に溜めたストレスを発散するために」
「あぁ、かぐやさんって端から見てたら面白いですけど、同居してたらストレス溜まりそうな性格してますもんね……」
かぐや様、未来の義妹にこんな風に思われてますけど。大丈夫ですかね?
──カキーン!!!
「……見ていて惚れ惚れするような打撃ですね」
「ふぅ、命さんもやりますか?」
「じゃあ、ちょっとだけ。と言っても私、バット振れないんですけどね」
命さんは私からバットを受け取ると、両手でバットを掴み、体の前で構えた。
「まさかのバント!?」
スパーン!
ボールは後ろの緩衝板に当たって転がった。
「しかも当たってないし!」
「うっ……やっぱり返します。左ならまだしも、右打席は無理です」
「……前から思っていたんですが、その髪型で前見えているんですか?」
命さんは前髪を顔の右半分を隠すように下ろしている。まるで会計くんのようだ。
「まぁ、それはまたあとで話しますよ」
私の疑問に対し、命さんは曖昧に笑って答えた。
「ほら、ラスト一球ですよ愛さん。高校夏の甲子園、最後の打席だと思ってください。9回裏3点差で2アウトランナー満塁。このチャンスにサヨナラホームランを打てば、我が校の優勝です」
「なんで、プレッシャーかけてくるん、ですか……フッ!」
放たれた打球は12時の方向に大きく飛び、ネットに張られた的へと吸い込まれた。
「おぉ、すごい! かっこいい!」
「まぁ、こんなものです」
ちなみに景品はフェイスタオルだった。
別に要らない。
「そう言えば、愛さんって前に会った時はすごく典型的なギャルだったじゃないですか」
命さんのお手伝いさんが運転する車の中で、隣に座る彼女がそう言った。
「今とあの時、どっちが素なんですか?」
「……学校にいるときは、かぐや様との関係がバレないようにギャルっぽく演じています」
「なら、今が愛さんの素?」
どうだろうか、今の自分は使用人、仕事人としての早坂愛のように思える。
「いえ、そういう訳ではありません。四宮家に仕える侍女、かぐや様に仕える近侍として、私は常に複数の姿を使い分ける必要がありますから」
人は誰しも、弱い部分を包み隠し、仮面をかぶっている。そうやって演じることでしか愛されてもらいない、興味を持ってもらえない。
それを幼い頃から実践している私にはもう、どれが自分の素かなんて分からなくなってしまった。
「そうなんですか。さっきから敬語とタメ語が入り混じってたので、気になったんですけど」
……それは私が命さんとの距離感を見極めかねているからだけど。
「お望みであれば、口調も変えますよ?」
「いえ、愛さんが楽な方で接してください。私はどっちでも良いし、どっちの愛さんも好きなので」
突然歯の浮くような、むず痒いようなセリフを吐くのは、会長の妹って感じがするなぁ……。
「……えぇー? 命っちはギャルの愛の方が好きなのぉ?」
「命っち? 別に私はギャルが特別好きなわけでは……」
「なら、男の娘がよろしいですか? 僕で良ければ、お付き合いしますよ」
「ボクっ娘!? どこで使うんですかその演技!?」
無論、書記ちゃんに対してである。予想外には予想外の対策を練るのだ。
「それとも、メイドとしての早坂をご所望でしょうか。お嬢様」
「もはや早坂百面相ですね。なら、対等な友達が良いです」
「その早坂愛は未実装なので……タイトウナトモダチ……オデ……ワカラナイ……」
「それ優しい怪物だから! 心は対等でも身体は対等じゃなくて……だからこそ感動できるやつだから!」
打てば響く、普段かぐや様とはやらない会話だ。
かぐや様は天然ボケだから、必然的に私がツッコミさせられるんだよなぁ……ちょっとこのやり取りも新鮮で楽しい。
「なら、ローテーション組んで対応しますね。月木はギャル、火金は男の娘、水土はメイド、日曜日はなんと……激レアの女学生ハーサカが!」
「いや、そんなゴミ回収じゃないんですから……」
「酷い、私をゴミって……しくしく……」
「かぐやさんへのストレスを私で発散しようとしてます?」
バレてしまった。
「許してにゃん☆」
「あ、あざと……ッ」
「にゃんにゃん?」
「……めっちゃ許す」
ふむ、命さんはあざといのが好きと。いずれかぐや様が会長を落とす時にも使えるかもしれないから心にメモしておこう。
カキコカキコ……。
「かぐや様、会長を落とすならネコとメイドです」
「あなた、休みの間に何を学んできたの……?」