プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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後書きの没案

車「ドーンだYO!!!」

命「……ぁ」


31.白銀命は叶えたかった

 

ボクの名前は白銀命。今日から日記……とはちょっと違うかな。毎日書くわけじゃないし。とにかく日記的なものに思い出を綴っていこうと思う。

 

ボクは記憶力が良いのでわざわざ日記を書く必要はない。これを書く理由は、家族と交流するためだ。

 

学校では交換日記とか言うやつが流行っていて、親しい友人たちの間で日記を回しているらしい。

 

うちの家族は別居していて、兄と父は別のところに住んでいる。そんな二人といつか思い出を交換するために、今から記録をつけようというわけだ。

 

特に兄。御行にいにとボクは、最近ちょっと仲が悪い。理由は分かっている。

 

にいにはお母さんに置いていかれたと思っているから、お母さんと一緒に出ていったボクと圭ねえねといると嫌な気持ちになるんだ。コンプレックス……とか言うやつだ。

 

特に家族の中で一番勉強ができるボクは、にいにから避けられている。ねえねとはまだお話してくれるけど、ボクはだめだ。

 

優しいねえねはそんなボクをいつも慰めてくれる。お母さんは……あんまりそう言うことは分からないみたいで、相談しても分からないって顔をしていた。

 

……今日はこのくらいにして、また今度続きを書こう。『継続は力なり』って、この前読んだ本に書いてあったし。

 

 

 

 

 

二度目の日記だ。そして悪いニュース。小学校界隈で流行していた交換日記ブームが終了してしまった。最悪である。

 

このブームに乗じてにいにと交換日記をしたかったのだが……ダメだった。もしかしたらにいにの学校ならまだブームが続いているかもしれないけれど……いや、やめておこう。人生、諦めが肝心。

 

この反省を活かして、まずはお父さんと文通を始めてみた。『将を射んと欲すればまず馬を射よ』って本に書いてあったし。上手くいくと思う。

 

 

 

 

 

少し前から何度目か数えるのをやめた日記である。もう書く意味はないけれど、習慣になってしまった。そして良いニュースと悪いニュースがある。

 

良いニュースは、にいにと文通できるようになったこと。お父さんに送った手紙をにいにも読んでくれていて、返事を書いてくれたのだ。嬉しい。

 

悪いニュースは、お母さんに彼氏ができたこと。

 

理由は多分、金銭的事情と言うやつだ。ボクもねえねも私立の小学校に通っているからお金が必要だ。でもお父さんは借金まみれでお金がない。

 

理屈の上ではわかるけど……でも、ほんとは嫌だった。お母さんがお父さん以外の男の人と仲良くするのは。

 

しばらくしたら、同居する可能性もあるらしい。ボクは我慢できると思うけれど……ねえねはどうだろうか。

 

次に書く日記が、良いニュースでありますように。

 

 

 

 

 

今日の良いニュース。ボクとねえねが5年生になって、クラスが一緒になったこと。普通クラス分けで双子は一緒になるんじゃないのって思うけれど、今までは別だったから違うのかもしれない。

 

ねえねが同じクラスになったから、クラスの子がボクのことをからかうと守ってくれるようになった。

 

そんなに『ボク』って言うの変かな。需要はあるんじゃないって、お母さんは言ってたけど。需要ってなんだろう。欲しがっているなら、みんな『ボク』って言えば良いのに。

 

ねえねと見分けてもらうために始めたボク呼びも、今じゃ完全に定着してしまって元に戻せない。

 

もうねえねはヘッドドレスつけてるから、見分けるのなんて簡単なんだけどな。

 

日記もボク呼びもそうだけど、定着するとやめられないんだね。

 

それから、良いニュースだけで終われば良かったんだけど、悪いニュースもある。

 

お母さんの彼氏が同居することになった。

 

お父さんより若くて、金持ち。それに、良い人だ。無理してお父さんだと思わなくて良いって言ってくれた。

 

でも、それはそれとして、知らない大人の人と同居するのは精神的にストレスだ。ねえねなんかは特にそう。夜安心して眠れてないらしくて、にいにみたいに目つきが悪くなっていた。

 

こんなこと、お父さんやにいにには相談できない。たぶん面倒なことになる。そしたら……もう二度と、お父さんとお母さんが一緒に過ごす日は来ないかもしれない。

 

だからボクはねえねと一緒に寝ることにした。一緒に寝れば、少しは安心できるだろう。

 

大丈夫、少しの辛抱だ。お母さんがボクたちに行かせようとしている秀知院学園、その中等部に特待生で入学すれば、補助金が出るらしい。

 

お金があれば彼氏は必要なくなる。お母さんは必要ないことはしない。

 

だから、勉強頑張ろう。

 

 

 

 

 

お母さんとねえねが喧嘩した。理由はねえねの成績が落ちたせいだ。

 

六年生になったことで、ボクたちは本格的な追い込みをするようになった。寝ても冷めても勉強勉強……ねえねはそれで、バランスを崩した。お父さんの会社が倒産したときのお母さんみたいに。

 

ねえねは、今も部屋に籠もっている。お母さんはこの状況も、ねえねが成長するために必要なことだと思っていて、フォローしてくれない。

 

お母さんの彼氏は論外だ。あの人は時々家を空けるようになった。たぶん浮気してると思う。お母さんもそのことには気づいているけど、もともとお金が必要なだけだったから気にしていないらしい。

 

だから、本当はボクがねえねのフォローをしてあげたい。でも、ダメだ。今のねえねは昔のにいにみたいになってしまっている。

 

自分より優秀な双子の妹に何を言われても、ねえねは傷つくだけだ。

 

だからお母さんに、ねえねを抱きしめて、慰めてあげてって伝えたら。『それに何の意味があるの?』って言われちゃった。

 

それをやると、愛されてるって伝わるんだよって教えてあげたけど、『私は普段からあなたたちを愛してるって言っているじゃない?』の一点張り。

 

お母さんは多分……親に抱きしめてもらったことがないんだ。だから、ボクの言ってることが分からない。ボクが時々甘えても、困った顔をするだけ。

 

お母さんは自分のことを完璧だと思ってるけど……本当は学ぶべきことがもっとたくさんあったんじゃないかな。そして、それはお父さんから。

 

でも、お父さんとお母さんの関係は破綻しちゃってて……お母さんに愛し方を教えてあげられる人はいない。

 

だから、もうねえねにはいっそのことここを抜け出して、お父さんのところに行ったほうが良いと思うんだ。じゃなきゃ、ねえねは壊れちゃうよ。

 

だけど、どうすれば良いんだろう。私が『逃げても良い』って言ったところで、ねえねには素直に受け取ってもらえないはずだ。成績を落としていない私から言われても、嫌味にしか聞こえないだろうから。

 

もっと赤の他人で、ねえねが尊敬してる人が『逃げても良い』って言ってくれたなら……けど、うちの学校でねえねより頭が良いのは私しかいない。

 

ねえねが尊敬する人間が、ねえねが壊れちゃう前に現れる保証はない。

 

解決策を求めて、ボクは本を読み漁った。難しい学術の本は、人間関係の悩みに役に立ちそうにない。

 

けど、学校の図書館で参考になりそうな本があった。それは絵本で『泣いた赤鬼』って本。

 

そこには、ねえねを救うための良いアイデアが詰め込まれていた。

 

その本から学べることを一言で言うなら、『自己犠牲』。

 

そう──ボクが追い出せば良いんだ。

 

そうすれば、ねえねは……。

 

 

 

 

 

ねえねはいなくなった。これで良かったのかな。

 

 

 

 

 

しばらくぶりの、日記になる。

 

明日は秀知院学園中等部の入学試験だ。万に一つも、ボクが落ちる可能性はない。

 

秀知院学園に行けば……にいににもねえねにも会える。今のねえねにボクは嫌われているけれど、昔にいににやったみたいにすれば、また仲良くなれるはずだ。

 

そして、ボクが特待生になれば、お母さんは彼氏と別れることができるし……心を落ち着かせることもできるだろう。

 

お父さんの会社が倒産してから、お母さんは自分の正しさを証明することに取り憑かれていたような気がする。ねえねがいなくなってからは、それがより一層顕著になった。

 

ボクは自由が一切許されず、ただひたすらお母さんの正しさを証明するためだけに教育を施された。

 

でも、大丈夫。ボクは耐えられた。この地獄がいつか終わるって信じていたから。

 

ボクには夢がある。家族には内緒にしている夢。

 

秀知院学園に合格すれば、その夢がきっと叶う。

 

昔みたいに、家族五人で川の字になって寝るんだ。真ん中がボクで、右隣ににいにとお父さん。左隣にねえねとお母さん。

 

それから、お母さんに教えてあげたい。

 

愛することって、こんなことで良いんだよって。

 

そのためにボクは頑張っ──(滲んでいて読み取ることができない)。

 

そろそろ寝よう。明日の試験に障る。

 

おやすみなさい。

 

 

 

 

『命へ

 

ごめんなさい

 

あなたを愛しています

 

どうか生きて幸せになってください

 

母より』

 

日記の最後のページに挟まっていた手紙。

 

それは一度くしゃくしゃに丸められたかのように皺だらけで、しかし丁寧に四つ折りにされている。

 

 





「御行さん、これ、誕生日プレゼントです」

「ありがとう、命ちゃん。これは……本、か?」

「私が記憶を失う前に書いていた日記です。私が持っていても読むことはないので……御行さんなら、有意義に使ってくれるかと。鍵付きなので、鍵も渡しておきますね」

「そうか、ありがとな。家に帰ったらゆっくり読むよ」

「どういたしまして……誕生日おめでとう御行兄さん」



「え、嬉し! 今日は四宮にも祝われて、命ちゃんにも『兄さん』呼びされて……最高の誕生日だな!」
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