プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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33.生徒会は幸せにしたい(下)

 

兄さんの誕生日から二日が過ぎた。

 

「というわけで、命さんを幸せにしに来ました! 覚悟してくださいね〜」

 

「何が『というわけ』なんですか。千花さん」

 

相変わらず前後の文脈がない人だな。

 

今日も今日とて、私は喫茶店にて生徒会の人たちと会っていた。しかし様子がおかしい。なんというか、今日はいつもに比べて視線がしっとりしているというか……え、直前まで泣ける映画でも観ていたんですか???

 

「エントリーNO.1! ミユキ、シロガーネ! さぁ、会長の用意した幸せアイテムはー?」

 

あなたは一体なんなんだ。どっからそのサングラスとタスキ持ってきたんだよ。あとそのタスキに書かれてる『幸せ委員会』って何?

 

「俺はアルバムを持ってきた」

 

「アルバム? ……もしかして私の昔の写真とかですか?」

 

「あぁ、これを見て思い出を──」

 

「ターイム!!! 審判長、タイムを要求します!!!」

 

兄さんを連れて私から遠ざかっていく四人。いや、誰が審判長だ。なんか今日おかしくない?

 

……よく考えれば千花さんはいつもおかしいな。ヨシッ!

 

(会長! 命さんのトラウマを刺激するようなアイテムはダメって言ったじゃないですか!?)

 

(あぁ、だから俺と圭と命しか写ってない写真を厳選して……)

 

(そういう問題じゃないでしょ!?)

 

……私耳が良いから、聞こえちゃってるんだけどな。

 

なんなんだ。私のトラウマって何の話だ。去年のいじめの話か? だとしたらぶち転がすぞ。

 

「残念ながら会長は失格となります!」

 

「ふふっ、会長ったら。命さんが喜ぶことと、自分がしたいことを履き違えてしまったんですね。お可愛いこと」

 

「なっ……そこまで言うなら四宮。お前の勇姿を見届けさせてもらおうか」

 

「これそう言うゲームなんですか?」

 

「さぁ……?」

 

石上さんはそのまま染まらないでいてね。現状、あなたが生徒会唯一のブレーキだから。

 

「エントリーNO.2! カグヤ、シノミーヤ! さぁ、かぐやさんの用意した幸せアイテムは!?」

 

「どうぞ」

 

私の目の前に置かれたのはボストンバッグだ。中身はかなり重いようで、ドスンと音が鳴る。

 

「開けても良いですか?」

 

「はい♪」

 

ジッパーを開ける。

 

ボストンバッグの中から私を見つめる福沢諭吉の大群。

 

ジッパーを閉じた。

 

「委員長、現金ってアリなんですか?」

 

「何渡してるんですかかぐやさん!?」

 

「四宮、お前……」

 

「止めないで藤原さん! お金は愛を表現するためにあるのよ!」

 

「四宮先輩、別に福沢諭吉は愛を表現するためにお札になったわけじゃないんですよ」

 

福沢諭吉はお札になって愛されてるけどね。

 

「はぁ、もう。二人ともだめですねぇ……じゃあ、次は私の番です!」

 

「えっ、僕は?」

 

「司会するの疲れたので、石上くんは最後です」

 

「自分で始めたくせに!?」

 

ほんと自由人だなこの人。

 

「私が用意したのは……じゃーん! 『ハッピーライフゲーム2』です!」

 

「帰りましょうか、会長。命さん、また明日」

 

「帰るか、四宮。また来るぞ、命ちゃん」

 

「あ、僕はゲームマスター以外やりませんよ」

 

「──どうして!? みんなやりましょうよ! あれから改善したんですから!」

 

千花さん信用ないね。てか、あなたもゲームしたいだけでしょ。人のこと言えてないじゃん。

 

「即死系はやり直しに変更、そしてダイスの目を一つプールできるようにしました! あと一度の出産で六つ子まで産めるように上方修正しましたよ!」

 

それは上方修正なの???

 

「それじゃあ、命さんからです!」

 

まぁ、やるだけやってみるか。はいサイコロころころー。

 

「えっと、不幸マスですね。交通事故イベントです。サイコロを振ってください」

 

「あ、気を付けろ命ちゃん。それで1が出たら……」

 

1が出たけど。

 

「も、もう一度振っても大丈夫ですよ! 出目は一つプールできるので……」

 

うん、もっかい1が出たけど?

 

「それで、1だとどうなるんですか?」

 

「……藤原書記?」

 

「……藤原さん?」

 

「……藤原先輩?」

 

「や、やだなぁ! ゾロ目だと逆転効果が発動して、ラッキーマスになるんですよ! 命さんは慰謝料1000万を獲得しました!」

 

「そうですか、良かった。てっきり死んじゃうのかと……」

 

(((明らかなアドリブだ……)))

 

それからゲームは問題なく進行し、私たちは大人ゾーンに入った。

 

その時点での所持金ランキングとしては上からかぐやさん、私、優さんと千花さんが同値、兄が最下位である。

 

「あ、会長が結婚マスに止まりましたね。一番近い女性は……命さんですか! 近親婚ですね! インモラルです!」

 

「何口走ってんだお前!?」

 

「きんしん……? いんも……? って何ですか。かぐやさん」

 

「さぁ……? しかし、会長は結婚してしまいましたか。まぁ、命さんなら別に……と、次は私の番ですね」

 

かぐやさんが駒を動かすと、またしても結婚マスに止まった。

 

「け、結婚マス! 私が!?」

 

「えっと、一番近い男性は会長ですね」

 

「けど、会長は結婚しているんじゃ」

 

「はい、ですので寝取りイベントが発生します!」

 

「寝取り!? 会長を!?」

 

「おい、てめぇ! どんなイベント作ってやがんだ!?」

 

「ねと……? って何ですか、優さん」

 

「命ちゃんは知らなくて良い世界のことだよ」

 

どういうこと???

 

「命さんとかぐやさんでサイコロを振って、出目の多い方が会長と結婚します! ゾロ目だと……」

 

「「あ、ゾロ目です」」

 

「なるほど。托卵イベントですね! 会長は命さんと所帯を持ったまま、かぐやさんと関係を持つことになります。それと今後生まれてくる子どもは全員会長とかぐやさんの子ども扱いです」

 

「「はぁ──!?」」

 

「兄さん、酷い……」

 

「俺の意思は関係なかっただろう!?」

 

「会長が私を潔く選んでくれなかったからこうなってしまったのよ!」

 

「ダイスの女神に言ってくれるか!?」

 

その後優さんと千花さんが結婚し、爆速で離婚するという珍事件もあったが、概ね何事もなくゲームは進んだ。

 

そして老人ゾーン。

 

「あ、会長と命さんが熟年離婚マスを踏みましたね! かぐやさんとの浮気がバレて破局しました!」

 

「むしろ良く今までバレなかったな」

 

「子どもの数はひぃ、ふぅ、みぃ……飛んで22人なので、会長は子どもの人数×2000万円を慰謝料として命さんに支払ってください」

 

「4億4000万なんてあるわけねぇだろ!?」

 

「浮気相手のかぐやさんも同罪なので、肩代わりできますよ?」

 

「あらあら、仕方ありませんね。会長。あなたがこんなに子どもを作ってしまうからいけないのよ? まったくもう……一括で払います」

 

「すまん、四宮。俺のせいでお前が二位に転落して……いや、俺のせいではないけどな!?」

 

「これで命さんが一気に所有資産でトップに躍り出ました!」

 

かくして残りのマスを消費し、ゲームは終了した。結果は……。

 

「1位、命さん。所有資産20億です。そして──2位、その他。所有資産0……」

 

「「「……」」」

 

「えっと、ごめんなさい?」

 

残ったマスがバトルマス? とか言うやつで、他人の会社に攻撃できるマスだったのだが、それで全勝した私は全員から財産を毟り取ってぶっちぎりの一位を達成してしまった。

 

「全然ハッピーライフじゃない!? これじゃマフィアライフですよ!」

 

「豪運な人って、ある意味ゲームクラッシャーなんだな……」

 

「ま、こういうこともあるわな」

(四宮と結婚できて、しかも子供が24人だと? ……ハッピーライフだな!)

 

「こういうこともありますよね」

(会長……子どもたちだけでサッカーチームどころか、補欠までいて試合できちゃうじゃないですか。……ハッピーライフね!)

 

かくして、『ハッピーライフゲーム2』は幕を閉じた。

 

 

 

「それで、結局今日は何だったんですか?」

 

私は気になっていたことを質問した。

 

「それはだな──」

 

はぁ、ふん、なるほど……私の日記を見たと。それで? あまりにも悲しすぎて、何かしてあげたくなった?

 

はぁ、なんだそれ。

 

「私はもう過去のことは気にしてません。今更ですよ。それに皆さんからはもう、たくさん思い出をもらいましたから」

 

私は今の日常で満足しているんだ。これ以上欲しがるのは欲張りだろう。罰が当たってしまう。

 

「……あの?」

 

そう言ったのに、なんだか皆の表情が暗い。何か言い出し辛いことがあるみたいだ。

 

「命ちゃん、これ。日記に挟まってたんだが……」

 

「あぁ、ソレですか……良いですよ、捨てておいてください」

 

兄が懐から取り出したのは、いつぞやに私がくしゃくしゃに丸めて叩きつけた、母親からの手紙だった。

 

そうか、日記と一緒に置いてたんだっけ。

 

「命ちゃんは、母さんとは連絡は取れないのか?」

 

「……意味が分かりません。どうして私が母親と連絡を取らないといけないんですか?」

 

顔も見たことない相手だ。一度も見舞いに来なかったし、私を置いて出ていった。そんな人間を今更どうして、兄さんが気にするの?

 

「これから俺が話すのは、あくまで一つの推理にすぎない。命ちゃんにとっては聞きたくないことかもしれないが、どうか最後まで聞いてくれ」

 

「……」

 

嫌だ、聞きたくない。過去はもう気にしていないけれど、それでも知りたいわけじゃない。そう言ってしまいたかった。

 

けれど。

 

兄さんと会って、姉さんと会って気づいた。私は、過去に向き合わないといけないのかもって。兄さんと姉さんを知らなかった頃と比べて、今の方がずっと楽しくて、幸せだから。

 

「分かりました、聞かせてください」

 

私は、前を向いていける。

 

 

 

兄の話した推理は、私の中の母親に対する印象とは真逆のものだった。

 

「その日記のなかで私は、母親のことをそう言う人物だと書いていたんですね」

 

「ああ、そうだ」

 

「……」

 

私が知らないボク。私が忘れたボク。ボクは一体……母親のことをどう思っていたのかな。

 

「何と言われようと、母親のことは、信じられそうにありません」

 

「命さん……」

 

「そんな悲痛な顔しないで、かぐやさん。確かに母親のことは信用できない。だけど──みんなのことは信用できるから」

 

最初私は、あなたたちと関わることを恐れていた。だけど、関わってみれば、幸せな日常が待っていた。

 

だから。

 

「今すぐは無理ですけど、母親と仲直りする可能性も、少しは考えておきます」

 

そう言って私は、あのとき投げ捨てた母からの手紙を今度はちゃんと受け取った。

 

「お節介をありがとう、みんな」

 

 

 

とは言ったものの、私は母親の連絡先を知らない。多分政子さんなら知ってるかなぁ……?

 





白銀御行は日記を家族にも見せた。圭は泣いた。そして父は……。

「お父さんやめて……! お願い、止まってよ!」

「早まるな親父……ッ!」

「止めてくれるな二人とも。俺は親失格だ。──をくくるときが来たんだ」



「──そのトイレットペーパーでどうするつもりなの!?」

「──そのトイレットペーパーでどうするつもりだ!?」

「腹をくくれ二人とも。良い加減部屋の掃除をしなさい。じゃなきゃ、命ちゃんをうちに招待できないだろ? 父さんはトイレ掃除をするから、な?」

一方その頃、石上優。

「新しい日記帳渡そうかと思ったんだけど、なんか良い雰囲気で終わっちゃったしな。明日渡そう」

後日、白銀命は喜んだ。
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