【生徒会解散の日】
兄さんが率いる秀知院学園生徒会が任期を終えて解散した……とのことでうちの喫茶店に打ち上げに来た。
いや、ファミレス行けよ。というか……。
「学ラン着てない兄さんなんて、オーバーオール着てないマリオですよ。むしろ学ランが本体なのでは……?」
「おい、どういう意味だそれ」
「まぁ、何でも良いですけど。うちは19時には閉まりますからね。あ、店長。え? お店閉めたあとも居て良い、ですか……?」
なんであなたそんな私たちに甘々なの???
「ならせっかくですし、生徒会室から持ってきたゲームでもしましょう! まずはNGワードゲームから──」
千花さんは門限は大丈夫なのか? まぁやるけどさ。
「ドーンです、千花さん」
「なにぃ!? 拙者のロールプレイ作戦が破られるとは! 一体どんなNGワードを……『ござる』!? なんでそんなピンポイントな!?」
知らん。ビビっときた。そんだけ。
そしてやっぱり私は全勝した。
「うぅ、イカサマカードを使った神経衰弱なら命さんに勝てると思ったのにぃ……」
「イカサマしてたんですか?」
「まさか素の記憶力で負けた!?」
「命ちゃん、アナログゲームだと鬼強いなぁ。僕なんて最下位……」
「そうね。会長、昔から命さんってゲーム強かったんですか?」
「いや、俺は昔の命ちゃんとゲームしたことないから……」
「あ、すいません……」
そこ、しっとりするの禁止。
そうして生徒会が解散することを感じさせないような楽しい打ち上げは終わり、後日兄が再度生徒会長に立候補することを聞かされた。
……べ、別に嬉しくなんてないし。
【常連さんが来る日】
「白銀さん、こんにちは」
「こんにちは」
「あ、柏木さんに田沼さんいらっしゃいませ」
その日喫茶店に来たのは常連のバカップル二人である。私がバイトを始めて、カップル割を導入したときに一番にやって来た人たちだ。
「田沼さん、髪染めました? 良いですね、似合ってますよ」
「え、そうかな?」
「……むむ」
「……それはもう! 柏木さんとすっごいお似合いですし!」
隙を見せるとすぐ嫉妬してくるのやめてほしい。
「白銀さん、いつものください」
「僕も、いつもので」
出た、常連特権。常連が多いと大変なんだぞそれ。私は忘れないから良いけど。
「そう言えば白銀さん、夏休みの間にうちの親と会ったんですか?」
「あぁ、柏木社長ですね。会いましたよ」
「え、渚のお父さんと白銀さんが? どういう経緯で?」
「海自の関係者が集まるパーティーで会いました。私は軍関係の人と繋がりがあって、柏木さんのお父さんは大手造船会社の社長さんですから」
「さ、流石会長の妹さんだ……」
兄さん全く関係ないけどね。四宮家の中での地盤固めの一環だ。
「娘に男ができたけど全然話してくれないって愚痴られましたよ。はは」
「すいません、お父さんが……」
「構いません。話すきっかけがあってむしろ助かりました。お礼に、田沼さんはめっちゃ良い男だって言っておきましたよ。親族に挨拶したいと言ってたので、田沼家との食事会もセッティングもしてあげました」
「知らないうちに外堀埋められてる!? と言うか、なんで白銀さんが翼くんのご家族の連絡先を知ってるの!?」
「田沼さんのお祖父様が院長をされている病院に入院してたからですね。その時にちょっと」
「あ、なんかごめんなさい……」
「いえいえ。私のほうこそ余計なお節介をしてすいません。二人には破局して欲しくないので……」
「白銀さん……」
「……? 僕は渚と別れるつもりなんてないけど?」
「いいえ、田沼さん。名家の子女は家の都合で結婚相手が決まりますから……こういう根回しは大切なんですよ。田沼さんは院長の跡取りなので、身分が原因で別れさせられることはないと思いますけど……」
「え……そんな! 僕と渚はこんなにラブラブなのに? ラブラブなのに!?」
「つ、翼くん」
「もし家の都合で別れさせられたとしても、僕は渚を手放したりしない! 一緒に逃げよう、渚!」
「つばさくぅん……」
「あーはいはい。あくまで可能性の話ですから。それに、柏木社長はそんなことしないと思いますよ。真っ先に娘が幸せかどうかを確認してきた人ですから……身分を聞いてきたのはその次の次でしたし」
「お父さんが……?」
「はい。それと田沼家はデキ婚の家系なので、子供の恋愛事情に口を出すことはないと思います」
「うん、僕の家系の恥は黙っててくれると嬉しいな」
「とにかく、あなたたちの生きる世界は身分や家格といったしがらみだらけの世界ですけど、それでも愛されているんです。だから二人に子どもができたときは、同じように愛してあげてくださいね」
「こ、こここ子どもだなんて。白銀さんってば!」
「ききき気が早いんじゃないかなぁぁ???」
お前ら夏休みの間に神っただろ。ちゃんと避妊しないと田沼院長も田沼先生も泣くぞ???
柏木社長は……うん。やめよう。護衛艦に乗って突撃してきそうだ。
しっかし──私の主治医の田沼先生の息子さんが17歳とはね。あの人34歳なのに。
差し引き17歳……ほ、ほんとに、大丈夫か……?
【兄の目がヤバい日】
「こんにちは、命さん」
その日、かぐやさんは私が知らない男と一緒に現れた。
浮気か? 兄に愛想が尽きちゃったの?
「やぁ、命ちゃん」
「え、誰……? 私あなた知らない。馴れ馴れしくしないで……」
「いや、俺だよ! お兄ちゃんだよ!」
「私の兄さんは、そんな剥いたばかりのゆで卵みたいなやつじゃありません」
「ゆで卵……!?」
話を聞くと、どうも本当に私の兄らしい。生徒会の激務と寝不足から解放されて、目つきが柔らかくなったとか。
「そんなに似合ってないか……?」
「一般受けはするでしょうけど、私はいつもの兄さんの方が好きです。今の兄さんはよく見る量産型のイケメンの一人。例えるならクセのある味が好きだった行きつけのラーメン店の味が、大衆化してしまったみたいな……」
「いやその例えは分からな──」
「すっごくよく分かるわ!」
「──四宮!?」
どうやらかぐやさんもそうらしい。目フェチなの? なら誕生日に義眼を……ってバカか私は。誕生日に義眼とかキモすぎるわ。
「なら俺にどうしろと言うんだ。常に寝不足でいろと?」
「意識して目つきを変えて、足りない分はメイクで整えれば良いんじゃないんですか。ほら、アイラインだかアイシャドウだかで」
「会長、是非! 是非私にやらせてください!」
かぐやさんの手で兄はいつもの姿に戻った。……いや、いつもより目つきが鋭いかも?
「はぁ……はぁ……かいちょぉ……良くお似合いですよぉ……? もっと見せて……?」
「こ、怖いぞ四宮。待て、落ち着け! め、命ちゃん、助け──!」
ごめんなさい雁庵さん! 娘さんの性癖が私の兄のせいで壊れちゃったぁッ!
「あれ。どさくさになってましたけど。私、会長に誕生日プレゼント渡してない!?」
後日、藤原千花は白銀御行に誕生日プレゼントを渡した。
「どうぞ、松岡修造カレンダーです」
「なんで!? もう10月だぞ!? 年末までのほうが近いんだぞ!? 今さらカレンダー!?」
「これがあれば、もう私が特訓しなくて良いかなって」
「言霊の力を過信しすぎだ!」