「こばちゃん! ついに悪の根城をつきとめたの! 放課後一緒に来て!」
「えぇ……?」
ミコちゃんが生徒会に入ってからしばらくが過ぎた。その間にミコちゃんが学んだことは……。
「──生徒会は酷いヤリサーだったの!」
いや、絶対に違うでしょ。またミコちゃんの勘違いだって。
そこで私は、なんとかミコちゃんの誤解を解こうとしたのだけれど……。
「つまり、生徒会は──四宮先輩の、傀儡……?」
なんでそうなるの?
「そういえば、私以外の生徒会のメンバーはみんな放課後にどこかに行ってるときがあるの……きっと、夜な夜な陰謀を企ててるのね! 世界征服とか!」
スケールが大きいよ。
「こうしちゃいられない。私、調べてくるから──!」
かくして、冒頭に至る。
そして私がミコちゃんに引っ張られるままに連れてこられた場所は、ごく普通の喫茶店だった。
「ここ! ここがみんなが私抜きで来てた喫茶店! 絶対怪しいよ!」
「普通にお茶してるだけじゃないの?」
「そんなわけない! じゃあなに、こばちゃんは生徒会のみんなが私をハブって楽しくお茶してるだけって言いたいの!?」
「いや、そうは言ってないけど……」
多分そうだよって言いたいけど、それを言ったらミコちゃん凹むしなぁ……。
「いらっしゃいませ、二名様ですか?」
喫茶店に入った私たちに視線が集中する。よく見れば、秀知院の中等部と高等部の生徒たちが席に座っている。この喫茶店は秀知院学園からそんなに遠くないから、皆の憩いの場として機能しているのだろう。
そんな場所に、私たち風紀委員が来ようものなら……。
(うっわ、風紀委員の大仏と伊井野じゃん……なんでここに?)
(まさか学外まで取り締まりに来たとか?)
(早く出て行ってくれないかなぁ……絶対なんか文句言ってくるよ。せっかく楽しくお喋りしてんのにさ)
(それなー)
「あ、えと、その……ふ、二人なんですけど……」
ほら、こうなる。お客さんたちの視線を浴びて、ミコちゃんがしどろもどろになってしまった。
「ミコちゃん、今日は帰ろう? また人がいないときに……」
「──お客様」
私がミコちゃんを連れてお店から出ようとしたその瞬間、店員さんが引き止めてきた。
「当店、2階は個室になっておりまして、実は最近こんなことを始めたんですよ……」
パラリと開かれたメニューに書かれた文字。
『個室飲み放題! 店員があなたのお悩みをお聞きします! 30分2000円! 延長30分1000円! (上限は二時間までとさせて頂きます)』
「あ、じゃあそれで……」
待ってミコちゃん! やっぱりここ、いかがわしいお店かも!
「あの、もしかして伊井野ミコさんですか?」
個室に案内されたあと、店員さんがそんなことを聞いてきた。
「私のこと知ってるの?」
「はい、千花さんから写真で紹介されて。生徒会の会計監査なんですよね」
店員さんが見せてきたスマホの画面には、犬耳のエフェクトをつけた可愛らしいミコちゃんの写真が写っていた。
「それ、藤原先輩が撮ってくれたやつ……」
ミコちゃん、そんなことしてたんだ。意外と生徒会に馴染めているようで、ちょっと安心。
「お二人は、今日はどうしてうちに?」
「その、生徒会が私抜きでここに来てるのを知って、気になっちゃって……」
「私はミコちゃんの付き添いです」
「なるほどです。ところで、お二人は何を飲まれますか?」
「アイスココアで」
「私はアイスコーヒーを」
ドリンクを用意したところで、店員さんは話し始めた。
「自己紹介がまだでしたね。私は白銀命です」
「伊井野ミコです」
「大仏こばちです」
……いや、お見合いか。
「白銀……ってことは、白銀会長の?」
「はい、私は白銀御行の妹にあたります。生徒会はその縁で、よくこの喫茶店に来てくれるんです」
「そ、そうだったんだ。私何も聞いてない……」
あ、ミコちゃんが
「そんな顔しないでください。決してミコさんを仲間外れにしてるわけじゃないと思います。少し前から、私に新メンバーを紹介したいって言ってましたから」
「そうなの……? 私、てっきりハブられてるのかと……」
「生徒会の皆さんは優しい人たちですから、そんなことしませんよ。私と関わってくれるのも……中学に友達がいなくて、一人でいることを心配してくれてのことですから」
「そうだったんだ。命さんは生徒会の人たちと仲良いの……?」
命さんの身の上話に、ミコちゃんが共鳴している!? よし、しばらく様子を見よう。
「はい、夏休みもたくさん一緒に遊びましたし、放課後もほぼ毎日誰かしらが来てくれます」
「ほぼ毎日!? そんなの、生徒会の活動が疎かになるんじゃ……」
「そう、ですよね。けど、私の親は離婚寸前で兄とは別居してるし、私は秀知院学園を落ちてるから、こんなときくらいしか兄と会えなくて……」
「命さん……」
「母は出ていって、家に帰ってもお手伝いさんしかいないし……私が甘えてるせいで、みんなの時間を使わせちゃってるんです。ほんと、申し訳ない……」
「命ちゃん……!」
重いよ!? 白銀会長の家庭環境ってそうなんだ……というか、ミコちゃんが共感しすぎてもう同志をみる目になっちゃってるし。
「あ、ごめんなさい。私ばっかり話してしまって……迷惑でしたよね」
「そんなことない! 私もお父さんとお母さんはいつもいなくて、家にいるのはお手伝いさんだけだから……気持ちはすごくよく分かる!」
「まぁ、そうなんですか? あの……良かったら、ミコさんの話も聞かせてくれません?」
「うん、実は、私たち風紀委員なんだけど──」
「──うんうん、分かってもらえないのは辛いですよね」
そして30分が過ぎた。
「延長! 上限の二時間までお願いします!」
「ミコちゃんが良くない文化にハマってしまった」
私はそろそろ帰りたいんだけど。
「私、こばちさんの話も聞きたいです」
「わ、私? 私に話せるようなことなんて何にも……」
「せっかく可愛いお顔をしてるのに、どうしてメガネで隠しちゃうんですか?」
「それは──」
「──なるほど、大変でしたね。有象無象のために自分を隠すのはとっても辛いことです。分かりますよ」
あ、だめ。これ堕ちちゃう……。
そして二時間が経った。
「延長3回、お二人合わせて──10000円です」
「「……」」
い、一抹の後悔はある。けれど、値段相応の満足感はあった。致し方ない。
私は財布から樋口一葉を取り出して……。
「なんですけど……私もたくさん喋っちゃいましたから。今回は延長料金の分は無しで良いです。二人合わせて4000円ということで」
「良いの、命ちゃん。そんなにしてもらって……」
「構いません、お二人の話すのは楽しかったですから……特別、ですよ?」
私たちは互いに二千円を出し、喫茶店を出た。
「こばちゃん……」
「ミコちゃん……」
「「絶対また来ようね」」
喫茶店、最高だった……。
「店長、フロアの対応ありがとうございました。それと、私のアドリブに付き合ってくれて」
白銀命はメニュー表から手書きのページを取り出しビリビリに破り捨てた。
「あのまま普通に席に案内してたら、他のお客さんもあの二人も気分悪かっただろうし、即興だったけど上手くいったかな。もう二度としないけど」
常連客二名、獲得!