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秀知院学園で体育祭の準備で忙しいらしく、生徒会の面々は最近来ていない。
ちょっと寂しいけれど、むしろ前まで来すぎだったのだ。これくらいで丁度良──。
「いらっしゃい! ……ませ。何名様でしょうか?」
い、いや。別に生徒会の人だと期待したわけじゃないから。
しかし、増えたなぁお客さん。特に秀知院学園の人。高等部から中等部まで。……いったいなぜ?
──白銀命は表情豊かになり、かつて病院でそうだったように喫茶店でもマスコット的存在と化していたが、本人は気づいていなかった。
あ、またお客さんだ。
「いらっしゃいま……ね、姉さん」
「久しぶり、命」
扉から現れたのは私の姉、白銀圭だった。
「どうして来てくれたの? あ、座って座って、カウンター空いてるから! ご注文は?」
「アイスコーヒー。それと、今日はたまたま兄さんから割引券貰ったから……」
そんな! 割引券なんて欲しいなら何枚でもあげるよ! 政子さんから腐るほどもらってるからさ! だから姉さんも毎日喫茶店に……って、アホか。姉さんだって秀知院学園中等部生徒会の会計。忙しいに決まってるだろう。
「姉さんが来てくれるなんて嬉しいなぁ……。ん? どうしたの、顔をそらして」
「いや、何でもない……」
(き、気まずい。なんでそんな私への好感度高いの……? こっちは日記を読んでからというもの、どんな顔して会えば良いか分からなかったのに……)
……? 変な姉さん。
「ていうか、結構お客さん多いんだね。何人か中等部で知ってる顔もいるし……」
「最近増えたんだよね」
秀知院学園中等部の生徒。前は私を姉さんと勘違いするからウザかったんだけど、今は何とも思わないな。むしろ嬉しい。
そんな似てる? 血の繋がった姉妹に見える? 当然だよね、だって私は姉さんの双子の妹なんだもん──みたいな。
「そうなんだ。それにしても、なんか妙に注目されてない?」
居心地が悪そうに姉さんが後ろを振り向くと、中等部の制服を着た何人かのお客さんが顔をそらした。
姉さんが前を向くと、彼らもまたこちらを見てくる。
(ねぇあれ、白銀さんじゃない?)
(噂の白銀姉妹が並んで見られるなんて……素敵!)
……彼らの視線の理由はだいぶ野次馬的なものらしい。
「確かにそうみたいだね。不調法者どもめ……姉さんを視姦するな、ぶち転がすぞ???」
私は左目で全力の威嚇をして視線を散らした。がうがう! こっち見るな!
「ちょいちょい、お客さんに対してなんて言い草……」
くぅーん。ごめんなさい。
「それで、今日は命に相談したいことがあってきたんだけど」
改まった表情で、姉さんがそう切り出した。ほう、姉さんが私に相談か……。
意味もなくコップを取り出して、タオルで拭いてみる。カウンターに座るお客さんの相談を聞くならこれだろ。様式美ってやつ。
「それで、相談って?」
「実はね、兄さんに好きな人がいるみたいなの」
……逆に知らなかったの?
「この間なんか、うちで花占いしてたんだよ。なんて女々しいやつなの、うちのお兄ぃ」
「女々しいなんて言ったら兄さん死んじゃうよ。気にしてるんだから」
あの人意外と繊細なんだよな。流れに乗ったときはすごい大胆でカッコ良いんだけど。
「それで、兄さんの好きな人は誰なのか気になっちゃって。命は知らない?」
「兄さんに直接聞けば?」
「そんなの──私がお兄ぃのことが気になって仕方ないブラコンみたいじゃん!」
めんどくさ。血縁だなぁ……。
「ねぇ、ねぇ、知ってるなら教えてよ! 私の義姉になるかもしれない人なんだよ!」
「やだ」
「なんで!?」
「それを知ったら、姉さんは兄さんをからかうでしょ。かわいそうだよ。付き合ったら教えてくれるって」
「うっ……仕方ないでしょ。思春期なんだから」
思春期ねぇ……私にはわからん。記憶とともに無くしてしまったからかな。
「じゃあ、せめてヒントくらい頂戴! 当ててみせるから! その人は命が知ってる人?」
「アキネーターじゃないんだから。まぁ、イエス」
特に示し合わせたわけではないが、なぜか私たちはイエスノーゲームじみた会話をすることになった。
「命が知ってる人……じゃあ、私も知ってる人?」
「イエス」
「一応聞くけど、ちゃんと女の人だよね」
「イエス、当たり前じゃん」
「その人とは、両思いなの……?」
「ノー」
「じゃあ片思い?」
「ノー」
「どういうこと!?」
両片思いです。
「その質問って人物特定に意味ある?」
「いや、単純に気になっただけ。じゃあその人は──生徒会の人……?」
「い、イエス」
「分かった! お兄ぃの好きな人って千花ねぇなんでしょ!?」
「うぇ!? いやそんなわけ──」
待った。ここで否定してしまえば回答は自ずとかぐやさんに絞られてしまう。
「ひ、否定はできないかな……」
「やっぱり! 絶対やめさせないと……萌葉が義妹なんて終わってる。友達でも疲れるのに親族になったら死んじゃうよ」
千花さんの妹ってそんなヤバいの?
「い、いや。生徒会の女子と言っても千花さん以外にもいるでしょ」
「四宮先輩のこと? ないない、お兄ぃが憧れの先輩の彼氏とか釣り合わないよ」
兄さん、姉さんから全く尊敬されてないな。というか、姉さんってかぐやさんに憧れてるんだ。あの人現金でものを解決しようとする癖あるけど大丈夫?
「ま、お兄ぃの恋愛事情はわかったからもう良いや。ところでさ」
「……?」
姉がニヤリとこちらに目を向けた。
「命はいないの? 良い人」
そう言って小指を立てる姉。
「いないよ。そう言う姉さんこそどうなのさ」
「秀知院学園とは言っても、中学の男子ってホント最低なヤツばっかりだよ? ないない」
「それは私にも言えることなんじゃ……?」
「まぁまぁ、命は男の人の連絡先は持ってないの?」
「持ってるけど……」
「何人?」
「……三人」
私が個人的な連絡先を持っているのは四条先輩、優さん、そして御行兄さんだ。
「その三人とはどんな関係?」
「ひとりは学校の先輩。もうひとりは生徒会の人、最後は兄」
「なら、候補は二人か……その二人のことどう思ってるの?」
「どうって言われてもなぁ……恩人、かな」
口に出してみればしっくりくる。
「恩人?」
「うん、私がいじめられていたときに助けてくれた恩人と、私に居場所をくれた恩人」
四条先輩が手を貸してくれなかったら、私は学校辞めて引きこもってたかも。もしくは絶望のあまり自殺してたか。
そして優さんと出会わなければ、私が喫茶店に通い詰めることもなく、生徒会とも会わなかっただろう。今の幸せはきっと無かったに違いない。
「……へ、へぇ。そうなんだ」
どうした姉さん。急に苦々しい顔をしたまま黙ってコップを見つめて。ブラック苦手だったのか? シロップと牛乳いる?
「ま、そんなわけだから。私に良い人はいないよ」
「そっかぁ……」
そもそも、私は人と恋愛できる体じゃない。私の本当の姿を見れば、どんな愛だって冷めてしまうだろう。
ただもし仮に、私が恋愛すると言うなら、相手に選ぶのは本当の私を知っても変わらず愛してくれるような人だ。
私の目と足が欠損していると知っていることは最低条件で──あれ……? あれ……!?
四条先輩は私が身体欠損してること知ってるじゃん!
「命?」
「い、いやでも。身分が違いすぎるし、だいたいボクは四宮陣営で……そもそもあのときのボロボロのボクを見て好きになってくれるわけない! そのうえ先輩にはもうすでに初恋の人が……っ! だぁーもう! 姉さんが変なこと言うから変な気分になっちゃったでしょ!?」
「えぇ……なんか、ごめん」
「命は、このあと暇?」
「バイト終われば何もないけど?」
「じゃあさ、うちでご飯食べない? こっからだと結構遠いかもだけど……」
「行く!」