「かぐやさん、ファイトー! 負けないで!」
「今の声は……命さん! え、なんですかその珍妙なうちわは!?」
私は『月まで届け! Shining かぐや!』うちわでかぐやさんを応援し。
「優さん、頑張れ! 負けるな──!」
「石上、応援されているぞ! 手を振ってやれ!」
「団長。クソ恥ずいんすからやめてください……!」
『石☆神』うちわで優さんを応援した。
そして応援合戦がやってくる。優さん応援団だったんだね。意外も意外だ。……誰かに脅されて参加してるとかないよな?
「風林火山! 最THE高マジ卍! インスタ映え!!!」
「「「インスタ映え──!!!」」」
えぇ……何そのスローガン。一応秀知院学園ってお嬢様学校でしょ。だというのに、なんて浅い言葉たちだろうか。タイタニックでさえ浮かんできそうなくらい軽薄な言葉の羅列である。
ふっ……私が本物の応援というものを見せてあげるよ。
「……何なのそのうちわ。やけに凝っているけれど」
こばちさんがメガネを傾けながら興味深そうに私の自作のうちわたちを見ている。こばちさんも欲しい?
「生徒会の人を応援するために作ったんですよ」
ほら、これは『チカッと勝ち確! 藤原千花!』うちわだよ。
「藤原先輩の……もしかして、私のもあったり?」
「もちろんミコさんのもありますよ。生徒会のメンバーですから」
ほら『そんなところで諦めて良いの? ミコ!』うちわが。
「なんで私だけ劣勢が確定してるの!?」
「いや、これ裏には別のこと書いてまして」
ほら、裏返すと『勝てば良いの!
「私は非道な手段なんて使ったりしないからぁ!」
「もー、文句が多いなぁ……」
じゃあこれで良いでしょ。『可愛くてごめん! 風紀を乱す、風紀委員!』『持ち物検査で、ボクの心を暴かないでくれ!』『ボクの一生を、生活指導してくれないか!?』
「意味不明なセリフが大集合しているわね。何を食べたらこんな言葉思いつくの?」
「三ツ矢サイダーとフリスク」
口の中で白亜紀が終わったのかと思うくらいヒエヒエになった。その隕石並みのインパクトのおかげでうちわが完成したんだけどね。
え? 疲れで頭がおかしくなってるって?
当たり前だろ! 母、四宮家、四条家、喫茶店……それから──秀知院学園に編入するための勉強! 対応しなきゃならない事象がたくさんあるんだよ!? 心の弾力性はちゃんと保っていかないと死んじゃうから!
体育祭くらいハジケさせろぉ!
……いや、ま。全部自分から望んでやってることなんだけどね。
「さて、これで満足ですか? ミコさん」
「そ、そんなこと言われたって、嬉しくない……えへ、えへへ……」
「ミコちゃんの方がもっと意味不明だった」
この人褒められることそれ自体が好きだから、褒め言葉は何でも良いんだよな。勝手に都合の良い言葉に変換できる便利な頭をしている。
『間もなく、対抗リレーが始まります──』
「そろそろ次の種目みたいですね」
グラウンドには各活動団体の代表として、多種多様な部活のユニフォームを着た人たちが集まっている。
うーん。私はどっちを応援するべきだろうか。生徒会のほとんどは赤組だけど、かぐやさんは白組だし。
なんて悩んでいると、ざわめきが聞こえた。
「アンカー石上らしいよ……」
「応援団の代表って団長じゃなかった?」
「代走だって……」
「うわ、最悪……」
私はそっと自分の耳を塞ぎ、ミコさんの肩を引いた。
「あの、優さんって対抗リレーに出るんですか?」
「石上が? あいつは部活に入ってないし、赤組応援団代表は団長の人が出るって聞いたけど……」
土壇場で変更になったのか? 何かトラブルでもあったんだろうか。
「こばちさん、優さんがどこにいるか見えますか?」
私もミコさんも身長小さいから周りが見えない。こばちさんの身長も平均くらいなんだけど、それでも私たちより拳一つ分大きかった。
「少し待って……向こうよ。白銀会長と四宮副会長が話をしているわ」
いた。
「優さん、対抗リレーに出るんですね。頑張って」
「──」
「くださ……?」
私の声が小さくて、喧騒にかき消されたのだろうか。優さんは私に目を向けることなく、その場を立ち去った。
「なっ……石上のやつ。命ちゃんが話しかけてるのに無視するなんて!」
「ミコさん、大丈夫ですから」
けど、初めて見た。あんな顔の優さんは。
まるで何も見たくないと言わんばかりに下を向いて、前髪で顔を覆い隠して……。
「『思春期の子どもと付き合うコツは、自分から話してくるまで待つこと』……ですよね、お父さん」
きっと、何か嫌なことがあったのだろう。この学校の生徒が優さんを嫌っていることを私は知っている。喫茶店に来る人たちの噂話が耳に入るのだ。
そして、極稀にだが私に善意で忠告をしてくる輩もいる。『石上優とは関わるな』……と。
私は過去の優さんを知らない。けど、今の優さんは知っている。私を助けてくれた人だ。だったら私も、彼を助けたい。
良いよ、そっちがその気なら、私も考えがある。目を閉じたって、耳は塞げないでしょ。
「私は全力で優さんを応援します。良ければ二人も手伝ってくれませんか」
そう言って私は、ミコさんとこばちさんにうちわを手渡した。『石』うちわ、『神』うちわ、そして私が持つ『You』うちわ──3つ揃って『石☆神☆You』うちわである!!!
「なんで私たちまで……」
「まぁまぁ、ミコちゃん。私はこういうのも好きだよ。命さん、サイリウムはある?」
「オタ活!?」
「ないですけど、自作の色付きアルミ棒はあります。太陽に照らされるとキラキラ光りますよ」
「なんであるの!?」
そりゃあるだろ。応援に来てんだから。プリキュアを応援するときには、みんな映画館で似たようなものもらうでしょう?
「石上はプリキュアじゃないから!」
「似たようなものでしょう。とにかく、もうリレーは始まってます。アンカーの番が回ってくるまでに応援の準備を──」
「うーわ、なにそのうちわ。もしかして石上の応援する気? 止めときなよー」
背後から伸びてきた手が、私のうちわを取り上げた。