プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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43.白銀命は囁きたい

 

『ふわ、ふわ……ふわ、ふわ……』

 

『こしょこしょ……こしょこしょ……』

 

『かり……かり……かり……』

 

生徒会室に、少女の声が響く。

 

「あ、あの……こ、これは! 違くてですね……ッ!?」

 

『良い子良い子……ふふっ。ミコお姉ちゃんったら慌てちゃって、お可愛いこと……』

 

「伊井野会計監査……」

 

「伊井野さん……」

 

「ミコちゃん……」

 

「伊井野、お前……」

 

『命はそんなミコお姉ちゃんのことも、だーいすきですよ。ふーっ……』

 

「あっ……あっ……へへ。死にたくなってきたので帰りますね」

 

「待てや、お前人の妹に何させてんだゴラァ──!?」

 

「会長、そのトイレットペーパーでどうするつもりですか!?」

 

「ミコちゃん、命さんの囁きボイスなんてどこで手に入れたの!?」

 

「詳しい話を聞かせてくださるわよね? 伊井野さん?」

 

「あ。私の学校生活、終わった──」

 

 

 

「ということがあったのですけれど、説明してくださいますか?」

 

喫茶店に来たかぐやさんから私は事のあらましを説明された。今日は珍しくミコさんとかぐやさんの二人セットである。

 

「しくしく……」

 

あー、それでミコさんが泣いてるのね。

 

簡単に説明すると、ミコさんが生徒会室でBGMを聞きながら勉強しようとしていたところ、イヤホンジャックが外れていて周りにダダ漏れだったらしい。

 

「伊井野さん曰く、命さんの方からこの『ささやきぼいす』? とやらを送ってきたとのことですが、本当ですか?」

 

「……まぁ、本当ですよ」

 

「やっぱりウソ……え、本当なの!? 私、完全に伊井野さんがウソをついているものだと……」

 

「ひ、酷い。あんなに詰められて嘘を言えるわけないじゃないですかぁ……」

 

かぐやさんに何されたの?

 

「だ、だって命さんからこのような不埒なものを送ってくるなんて思えなくて!」

 

「ちゃんと理由があるんです」

 

「理由?」

 

「はい、私二学期になってから部活を始めたんですよ」

 

私は滅多に話さない学校生活のことをかぐやさんに話した。

 

これは夏休みが明けてのことである。姉さんと私が会ったときくらいかな。心境に変化があった私は、もう少し真面目に学校活動に励もうと思ったわけだ。

 

だけど、授業を受ける気はサラサラない。教科書見れば全部わかるし時間の無駄だ。よって私は部活動を始めることにしたのである。

 

「何の部活を始めたんですか?」

 

「放送部と演劇部です」

 

私は身体障害を持ってるので運動部は無理だ。よって必然的に文化部になるのだけれど、チェスや将棋、クイズ部など記憶力を使う分野は正直無双しすぎて楽しくない。そして茶道や華道、書道と言った腕の繊細な動きを使う部活も無理だ。

 

だいたい、私にそういう芸事の才能はない。よって選んだのが放送部と演劇部である。

 

この二つを選んだ理由は、主に使う能力が声だからだ。そして私は仮面を被ったり演技をすることが得意。体験してみれば意外と楽しかったので、兼部して活動している。

 

演劇部の方は激しい振り付けを受け付けないので、基本は放送部メインだけどね。無論どっちも全力で取り組んでいる。

 

こんなことしてるから遅々として母親探しが進まないんだろうなぁ……でも、自分のQOL下げたくないし……。

 

「それで上達のために、自分の声を録音したんですよ。ロールプレイや囁きボイスもその一環。それをミコさんに採点してもらうために送っていたんです」

 

「なるほど、そうだったのですか。すいません、伊井野さん。酷い誤解をしてしまって」

 

「ほら! だから言いましたよね! 私は年下の中学生に囁きボイスを要求する変態なんかじゃないって!」

 

……いや、あなたは変態だよ!? そこは間違ってないから! 自分でこのボイスをリクエストしたでしょ!? 

 

びっくりしたもん、軽い気持ちで『私の声を確かめて欲しいんですけど、どんな感じの音声が良いですか?』って聞いたらクソ長い怪文書が送られてきて。

 

おまけに勝手に保存されて勉強用BGMにされてるしさ。

 

「だよね、ね! 命ちゃん!」

 

「はぁ、そうですね」

 

そんな懇願するように見てこないでよ。分かったから。誤魔化してあげるから。

 

「しかし、私にはこの手のものの良さがいまいち分かりませんね……」

 

「なら、聞いてみますか? 私の声。丁度先日サンプルを録音したんですけど」

 

「新作!? わ、私にも聞かせて!」

 

ほんとに好きなんだね。あとでデータ送ってあげるから、今はかぐやさんを優先させてくれ。

 

「じゃあ、ヘッドフォンつけて……その前に目隠しつけます? 目を閉じたほうが没入感は上がりますけど」

 

「ええと……」

 

「四宮先輩、絶対につけたほうが良いですから!」

 

「そ、それじゃあお願いしようかしら……?」

 

「はい、では横になって……私の腿に頭を乗せて……」

 

義足は膝から下なので、腿は柔らかいのである。

 

「命さん? これでよろしいですか?」

 

「はい、それじゃあ、楽しんで」

 

それ、再生ボタンぽちー。

 

 

 

(私、少し聴覚過敏のきらいがあるのだけれど大丈夫かしら……)

 

『(ガチャリ)』

 

(始まったわね。扉の音……誰かが中に入ってきたのかしら? いったいどんな──)

 

『おはようございます、お嬢様。本日もあなたのメイド、白銀命がお世話させていただきますね?』

 

(──はええ???)

 

『って、お嬢様……もしかしてまだ寝ていらっしゃいますか? まったく、お寝坊さんなんだから……』

 

(あ、ああ……!)

 

『ふふ、お嬢様の眠ってるお顔、可愛い。早く起きないと遅刻しちゃいますよー? そ・れ・と・も……今日は学校サボっちゃいますか?』

 

(なんですかこの背徳感は!?)

 

『ふふ……よしよし……お嬢様は頑張り屋さんなんですから、ちょっとくらい休んでも誰も怒らないんですよ』

 

(ま、まるで本当に頭を撫でられているような──)

 

 

 

「今撫でられてるところかな。現実でも撫でてあげますね。よしよし……」

 

「ASMRに3D体験を……!? う、羨ましい……」

 

 

 

『……このまま起きないなら、添い寝しちゃいますよ?』

 

(そ、添い寝? 命さんと添い寝なんて会長も七年間ご無沙汰なのにそんな……あぁ、衣擦れの音がぁ!)

 

『ほら、あなたの目の前に命がおりますよ。早く目を開けないと、キッスしちゃうかも……なんてね』

 

(わ、私まだ会長ともキッスしてないのに、命さんとだなんて……!)

 

『お嬢様……私、お嬢様のことが好きです。あなたが貧民街から私を連れ出してくださらなかったら……私はきっと飢えて死んでいたから』

 

(命さん。あなたにそんな過去が……?)

 

『だから、あなたが望むなら、私は身も心も捧げちゃうんですよ。お嬢様……』

 

(だ、だめよ……声が近すぎるわ……)

 

『ふふ、怯えちゃって。寝てるふり、してたんでしょ? お可愛い人。ほんとにキッスされると思ったんですか? 私たちは女の子どうしなんですよ? もう……キッス欲しがる、えっちなお嬢様にはこうしてあげます』

 

(な、なに! なにをされてしまうの!?)

 

『ほら……ぎゅーっ……』

 

(ほんとに抱きしめられてるみたいだわ──!!!)

 

 

 

「ぎゅーっ」

 

私はかぐやさんの顔をお腹に押し付けた。

 

「次! 次私の番だから!」

 

うるさいよ変態ミコさん。

 

「はい、これで終わりです。どうでしたか、かぐやさん……かぐやさん!?」

 

私が目隠しを外すと、そこにはトロンと蕩けて、完全にキマっちゃってるかぐやさんの瞳があった。

 

「はぁ……命さん? 次の作品が……ふぅ……できたら私にも……んっ……送ってください、ね……?」

 

ごめんなさい雁庵さん! 娘さんの性癖が私のせいで壊れちゃったぁッ!

 





「勢い余ってダミーヘッドマイクを買ってしまった……もうASMRチャンネルでも開設しようかな。でも親類が配信者となると、兄さんたちが嫌がらないか……?」

残念だが白銀家の大黒柱が既に配信者だ。御行と圭が嫌がったところで手遅れである。
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