プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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44.白銀命の日常(2)

 

【マッスルクイーンの日】

 

その日喫茶店に来たのは兄、かぐやさん、そして千花さんだった。

 

「な、なんですかその珍妙なタスキは……」

 

私の目の前には『筋肉姫(マッスルクイーン)』と書かれたタスキをかけたかぐやさんと、『最弱(イカサマ)王』と書かれたタスキをかけた千花さんがいる。

 

「生徒会で腕相撲大会をしてな。厳正なるトーナメントの結果四宮が一位、藤原が最下位となった」

 

「ほんとの最下位は私じゃなくてミコちゃんですからぁ!」

 

「はは……私は一位、筋肉姫ですよ……うれしいですね……」

 

何だよ筋肉姫って。ダサい渾名だな。

 

「どうせ名乗るならもっとかっこいい名前にしたらどうですか? 例えば女武者……巴御前とか。強弓精兵の(つわもの)と言われているので、かぐやさんにぴったりだと思いますよ」

 

死んだ目をしていたかぐやさんの目がぱっと明るくなった。

 

「巴御前! 素敵な異名……! ではみなさん、私のことは今から源朝臣(みなもとのあそん)四宮副会長巴かぐやとでも呼んでくださいな」

 

意味は朝廷一の臣下たる源氏の四宮家にして副会長を務めるかぐやさん。そして異名が巴御前……といったところか?

 

呼べるか! 滅茶苦茶長いわ!

 

「あ、かぐやさんだけずるい! 命さん、私にも素敵なあだ名を付けてくださいよ!」

 

藤原朝臣(ふじわらのあそん)書記ハルウララ千花」

 

「ハルウララ!? なんで!?」

 

「だって最弱なんでしょ?」

 

ついでにピンク髪だし、怪我とかしなさそうじゃん。

 

「命ちゃん、俺は俺は?」

 

「氏素性も知れぬ平民が官位を僭称しようなどとは、思い上がりも甚だしい。身の程を弁えることでおじゃりまするな」

 

「なんで俺だけだめなの!?」

 

白銀家は別に由緒正しい血筋でも何でも無いからだよ。

 

「はぁ……兄さんはその生徒会腕相撲大会で何位だったんですか?」

 

「二位だけど……」

 

「なら太閤で」

 

「太閤……豊臣秀吉のことか?」

 

「豊臣秀吉──木下藤吉郎は農民の出にして関白まで上り詰めた男。成り上がりの代名詞です。そして織田政権では二番手だった。今は二番手でも、いずれ天下一に上り詰める……兄さんにぴったりだと思ったので」

 

「命ちゃん……!」

 

 

 

「けど、豊臣って最終的に徳川に負けちゃいますよね?」

 

「藤原さん、あなた本当に余計なことしか言わないのね。……ところで、命さんもしてみませんか、腕相撲」

 

「いや……私、利き腕こんなですよ?」

 

右手ぶらーん。

 

「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」

 

「かぐやさんだって余計なこと言ってるじゃないですか!」

 

「今太閤白銀御行……良い響きだ!」

 

うん、今日も生徒会は通常運転だ。

 

「あ、そうだ。命さん、かぐやさんの携帯壊れちゃったので良かったら写真を分けてあげてくれませんか?」

 

「そうだったんですか? だからスマホになってたんですね」

 

モチのロンだ。あげちゃうあげちゃう。

 

 

 

【一見さんと常連さんが来た日】

 

その日喫茶店に来たのは意外な人物だった。

 

「いらっしゃいませ……し、四条先輩に眞妃さん!?」

 

「どうも、白銀さん」

 

「来てやったわよ、命」

 

四条家の双子姉弟である。

 

「今日はどうして?」

 

「たまには暇つぶしをね。別に、あんたの顔を見に来たってわけじゃないから、勘違いしないでよね」

 

母親の顔より見たツンデレで安心する。母親の顔なんて見たことないけど。

 

「それで、四条……いえ、お二人は」

 

「俺も姉さんも四条だから、言いにくいなら帝で良いよ?」

 

「……分かりました、帝先輩。なら私のことも命で良いですよ。白銀だと、兄や姉もいるので」

 

「あぁ、そうそう。あんたあの白銀御行の妹なんですって? しかも体育祭に来てたらしいじゃない。言ってくれれば、この私が直々に案内してあげたのに」

 

「白銀御行……? あの白銀御行!? 全国模試で一位を取り続けてるあの!?」

 

どの白銀御行だよ。まぁ、たぶんそうだけど。

 

「命……は白銀御行の妹なのか。ならあの成績も納得だよなぁ……」

 

言いにくいなら『ちゃん』付けでも良いよ? 全然良いよ?

 

「あの成績? どう言う意味よ、帝」

 

「命は授業を全く受けず、テストの日にだけ学校に来て満点を取っていくから、高等部までその噂が届いてるんだよ」

 

「はあ? ちょっと命、ちゃんと学校に行かないと将来後悔するわよ。学校は勉強だけを学ぶ場所じゃないんだからね」

 

「眞妃さん……心配してくれて、ありがとうございます」

 

「別に心配してるわけじゃないし! それで、なんでちゃんと授業受けないのよ?」

 

「前にも言った通り、学校でいじめにあって──」

 

「わぁ──!!! うん、私が悪かったから別の話をしましょう!」

 

この人ツンケンしてるくせに、性根が滅茶苦茶良い人だから面白いんだよな。

 

「二人は好きな人とかいないの?」

 

「なんですか藪から棒に……いないですよ」

 

「へぇ……? でも、体育祭では生徒会会計の子に随分肩入れしたって噂になってるけど」

 

「あの人は私にとって恩人で、家族みたいな大切な人なんです。私が学校でも家でも居場所を無くしていたとき──」

 

「あぁ──!!! み、帝はどうなの!?」

 

せっかくのエピソードトークを遮られた……優さん良いところを広められると思ったのに。しょぼん。

 

「いや、俺もサッカーで忙しいから好きな人とかは……」

 

「え? 帝先輩は初恋の人がいるんじゃないんですか?」

 

あの日の女々しい告白は嘘だったの?

 

「へぇ。誰? 私の知ってる人間?」

 

「ちょ……命……!」

 

ああ、眞妃さんには内緒にしておきたかったのね。

 

「私も詳しくは知らないですけど、確か『とある資産家の娘』で……」

 

「ふんふん」

 

「『妾の子』で……」

 

「なるほど妾の子。それだけで大分絞れるわね」

 

「『昔帝先輩と会って、喧嘩別れっぽくなってる人』ですね。なんか、その人を助けられなくて後悔してるらしいですよ?」

 

「頼む命。やめて……お願いだから姉貴にその話しないで……」

 

嫌だ。だって見てて面白いんだもん。私も帝先輩が好きな人がどんな人なのか興味あるし。

 

「ん……? 帝が昔会った女で、とある資産家の妾の子で、今は喧嘩別れ……? あ、あんたまさかおばさ──」

 

「わぁ──!!! むしろ姉さんには好きな人いないのかなぁ!?」

 

え、なに? 聞こえなかったんだけど。

 

おば……? おば……もしかしておばさん!?

 

と、年上趣味!? 確かにあの日部室で友人からそう言われてからかわれていたけど。

 

じゅ、熟女好きなんだ。へぇ、ふぅん……?

 

誰だ、帝先輩の性癖ぶっ壊したやつは──!!!

 

「わ、私に好きな人なんているわけないでしょ? この私と釣り合う男なんて早々──」

 

そのとき、眞妃さんの言葉を遮るようにベルが鳴った。喫茶店の扉が開く音である。

 

「こんにちは……あ、眞妃ちゃん?」

 

「つ、つつつ翼くん!? なんでここに……」

 

「眞妃!」

 

「げっ、渚」

 

やってきたのは常連の田沼夫妻(予定)である。

 

「いらっしゃいませ、田沼さん。柏木さん」

 

「「こんにちは、白銀さん。いつもので」」

 

はいはい、いつものね。いつもみたいにアイスカフェラテを大きめのカップに入れて、ハートのストローさせば良いんでしょ。

 

「帝くんもここに来てたんだね」

 

「渚、この人は……?」

 

「眞妃の双子の弟の帝くんだよ」

 

「どうも、四条帝です」

 

「よろしく、僕は田沼翼。渚の彼氏です! 『彼氏』です!」

 

「はは……そう、なんですね……」

(な、なんか怖い……? 姉さんの友達と似た者同士だから惹かれ合ったのか……?)

 

帝先輩が田沼さんに怯えている……?

 

「はいどうぞ、カップル仕様の特大アイスカフェラテです」

 

「ありがとう。ほら渚、ちゅー……」

 

「つ、翼ったら! もう、ちゅー……」

 

そう言ってハートのストローを同時に吸う二人。

 

うわぁ、甘すぎる。カフェラテじゃなくてブラックコーヒーにしてやれば良かったかな。

 

ん……? 喫茶店が揺れてる……?

 

「あ、あばばばば──」

 

揺れの原因は眞妃さんだった。この人だけ作画が5フレームくらいになってるぞ。

 

「ね、姉さんどうした。ダウンジングか? 金脈でも見つけたのか???」

 

「そうね、そびえ立つ鉱山をみつけたわ……そして今まさに公害をまき散らしているところよ……心がイタイイタイ病だわ……」

 

そのたとえはセンシティブすぎて突っ込み辛いよ。

 

 

 

「また来るよ、白銀さん」

 

「いつもありがとう。またね」

 

「はい、またいつでもいらしてください」

 

私は笑顔で田沼さんと柏木さんを見送った。

 

さてと。

 

「もしかして眞妃さんは田沼さんのことが……?」

 

「どわぁ──はぁ……。死にたいから今日は帰るわね……」

 

もはや叫ぶ元気もない!? 

 

しかしあなたという人は、なんて困難な道を選んでしまったんだ。現代で神殺しをなそうというのか。

 

それが英雄の道か、はたまた道化の道か。私はこの喫茶店から見届けさせてもらうよ。

 

「……姉さんが死なないように、今日は帰るよ。ごめん」

 

「……はい、帰ったら眞妃さんのことを慰めてあげてくださいね。あと、良かったらこれあげますから、また来てください。眞妃さんも一緒に」

 

私は持て余している割引券を手渡した。

 

「あ、あぁ、うん。ありがとう。また姉さんと来るよ」

 

輪ゴムで纏められたクーポンの束を見た帝先輩は、顔を引きつらせながらそう言った。

 

……まだまだ家にたくさんあるんだから仕方ないじゃん!? 

 





「いち、にい、さん、しい……ご、五十枚くらいあるぞ……?」

「つまり、そんだけあんたに来てほしいんじゃないの? あの子」

「いやいや、そんなまさか……」
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