プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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45.白銀命は成長したい(上)

 

「こんにちは!」

 

その日来たお客さんは随分と明るく気持ちの良い挨拶をする女性だった。

 

「こんにちは、いらっしゃいませ。一名様でよろしいですか?」

 

「あ、ごめんね。私はお客さんじゃないんだ」

 

「え、冷やかしですか?」

 

「違うよ!?」

 

お店に来たのにお客さんじゃないなら、それは冷やかしでは?

 

「私は子安つばめ。今日は伯父さんに用があって来たんだ。君のことは聞いてるよ、白銀命ちゃん。どうぞよろしくね!」

 

「あぁ、はい。よろしく──伯父ぃ!?」

 

この人店長の姪っ子かよ!?

 

 

 

「どうぞ。店長は今外に出てるので、お茶でもお飲みになってお待ち下さい」

 

「ありがとう。ふん……ふん……♪」

 

なんか、一緒にいるとこっちまで明るい気持ちになってくる、太陽みたいな人だな。

 

「えっと、子安……さんは店長にどんな用事で?」

 

「つばめで良いよ。私も命ちゃんって呼んで良い?」

 

「はい、構いませんが……」

 

「やったー! 私、昔から妹が欲しかったんだ。いっぱい可愛がってあげるね。うりうり〜」

 

そう言って私の首に巻きついてきて頭を撫で回すつばめさん。距離の詰め方が捕食者のソレである。

 

「あ、あ、やめてください……ふへへ……」

 

なんか、姉が増えたぞ。

 

……最高だな!

 

「と、それでね。今日は伯父さんから相談を持ちかけられて来たんだ」

 

「相談?」

 

「そうそう、この喫茶店って19時には閉まっちゃうでしょ? それで夜間にお店を有効活用できないかって話になってね。ほら、昼は学生たちの喫茶店。夜は大人たちのバー! ……みたいな?」

 

あるある。カフェバーってやつね。

 

「なるほど、だから一区画を改装とかしてたんですね」

 

それは分かったけど、なんでつばめさんが来たんだ? 制服をみる限りこの人も秀知院学園の生徒だから、仕事ではないだろうし……。ただの姪にそんなこと相談するか?

 

「失礼ですけど、つばめさんはどんな関係で? 何かお仕事でも?」

 

「私の親がバーテンと飲食会社の仕事を兼任しててね。私もその見習いみたいなものだから……学生とバーテンとしての意見を言わせて貰うことになったんだ。お仕事体験だね!」

 

「なるほど、バーテンダーの親御さんが。それはそれは……ん?」

 

バーテンダーで子安? も、もしかして世界的バーテンダーと大手飲食会社のエリアマネージャーを兼任してるあの子安氏か?

 

一回パーティーで会ったことあるぞ。パーティーに飲料は必要不可欠だから、どの名家からも引っ張りだこなんだよな、子安氏。

 

「あの、もしかしてつばめさんのお父さんってこの方ですか……?」

 

私はいつか貰った名刺を差し出した。

 

「そうそう、この人が私のパパだよ。命ちゃんから見たら、ここの店長さんの弟だね!」

 

「あぁ、道理で似て……いや、似てない! 共通点がイケオジしか思い浮かばない!」

 

店長ってアラ還だよな。対してつばめさんのお父さんは40〜50歳くらい。結構年の差がある?

 

「確かに似てないかも。腹違いの兄弟だからかな?」

 

お、おおう……重い。この話題には触れないでおこう。

 

「命ちゃんはこの喫茶店で働いてて、どうかな。伯父さんとは仲良くできてる?」

 

「まぁ、はい。あの人私に甘すぎるくらいで……どうして私を雇い続けてくれるのか分からないくらいなんです」

 

「そうなの?」

 

「そうなんです。顔採用と言われましたけど、正直私は不器用すぎて給仕の仕事は向いていないんですよね。お茶を淹れるのもコーヒーを淹れるのも苦手で……」

 

「そんなことないと思うけどなぁ……この紅茶も美味しいし。伯父さんの味と全く変わらないよ?」

 

それは私が店長の淹れ方を完全に記憶し模倣(・・・・・・・・)しているから当然である。単なる真似、デッドコピーだ。私自身が上手いわけじゃない。

 

「じゅ、十分だと思うけどなぁ……」

 

つばめさんはそう言ってくれるけれど、私は悔しい。単なる模倣では、本物には勝てない。成長が無いんだよ。

 

例えばかぐやさんと愛さん。二人はそれぞれお茶とコーヒーのプロだ。美味しくなる淹れ方を熟知しているが、それだけじゃない。

 

会う度に味が僅かに変化しているのだ。成長と言い換えても良い。それによって二人の淹れた飲み物を口に含んだとき、飲んだ人はかつての味と比べることができる。

 

「変わりゆく変化と、淹れ手の成長……人の真似事をする私では、それをお客さんに提供することができないんです。それが、悔しくて……ッ!」

 

「あはは……随分高度な悩みなんだね……」

 

「低俗な悩みですよ。私の悩みは……自分の成長を見せたいってだけですから」

 

それこそ、店長とかね。あの人がここで働くことを認めてくれなかったら、私の今はない。私の人生においては優さんと同じくらいのキーパーソンだ。

 

「──よし、なら特訓しようよ!」

 

「……特訓?」

 

「出来ないなら、出来るようになれば良い。命ちゃんは伯父さんと同じ淹れ方が出来るんだから、そこから成長させることも出来るでしょ?」

 

「でも、私全然だめです。ちょっと工夫を凝らしただけで、美味しくなるどころか味が落ちちゃって……」

 

「一人ではできないことでも、二人ならできるかもしれないでしょ? 私も特訓に付き合ってあげるから」

 

「つばめさん……」

 

なんて良い人なんだあなたは!

 

「よし、これより命ちゃんの特訓を開始します。行くぞー、おー! ほら命ちゃんも一緒に、おー!」

 

「お、おー!」

 





「じゃあ、まずは伯父さんのやり方にちょっとだけオリジナリティを足してみようか!」

「はい、ちょっとだけ足してみますね!」
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