プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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47.白銀命は取り持ちたい

 

「「ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい──!」」

 

「ごめんなさい、元に戻ってしまったわ」

 

「すまん命ちゃん。やっぱり俺たちではダメみたいだ!」

 

お、おおう。どうした?

 

 

 

本日のお客様のご紹介。兄さん、優さん、ミコさん、こばちさんの四人である。珍しい組み合わせだね。

 

「で、何があったんですか?」

 

「実はかくかくしかじかでな……」

 

ふんふんなるほど。

 

兄曰く、優さんとミコさんの仲を兄とこばちさんが取り持とうとした結果、表面的には解決したように見えたが、この喫茶店に来るまでに結局また喧嘩を始めてしまったということらしい。

 

「かくなる上は、命ちゃんにどうにかしてもらうしかない!」

 

「あなたの力を貸してほしいの」

 

「はぁ、人間誰しも相性の悪い相手と言うのはいますから。無理に仲直りさせる必要はないのでは?」

 

私にとってのクソ青トカゲとかな。徹底的に距離とってるので本邸でも会ったことない。というか会わないようにしてる。

 

「優さんもミコさんも『秀知院学園の生徒』らしく、『所構わずケンカをする』ような『猿』ではないですよね?」

 

「「ハイ、全くその通りでございます」」

 

二人は虚ろな目で頷いた。

 

ほらね?

 

「いやまぁ、そうかも知れないんだがな。お節介をしたくなると言うか、二人には色々誤解があると思うんだよ」

 

「誤解ねぇ……なら、とりあえずその誤解が何なのか聞かせてもらいましょうか。二人ともこっちに。優さんとミコさんは私たちがいない間喧嘩しないでくださいね?」

 

「分かったよ、命ちゃん」

 

優さんは携帯ゲーム機を取り出した。

 

「うん、まかせて」

 

ミコさんはイヤホンを取り出した。

 

あ、この二人徹底的に相手のことを無視するつもりだ。両極端かよ。

 

「それで、誤解とは何なのですか?」

 

兄とこばちさんから事情を聞く。

 

実のところ優さんとミコさんは互いが互いを陰ながらフォローしている間柄であるらしい。しかし、二人とも見返りを求めない性格だから、どうにも『なんで自分がフォローしてやってるのに、こんな上から目線なんだ!』という気持ちが表に出てしまうとか。

 

「それを互いに伝えられるならそれで良いのだけれど、二人とも妙に頑固なところがあるでしょう?」

 

「そうですね、自分を曲げると負けた気になるんじゃないんでしょうか」

 

「なんとかならないか……?」

 

ふむ、よし。一つ案を思いついたぞ。

 

「助けられた側って言うのは、案外そのことを良く覚えているものです。特に一番つらい時に手を差し伸べられていれば尚更。二人は互いが互いを助け合っていることは知らないけれど、実は互いに感謝を感じていると知れば、多少の鬱憤は収まるのでは?」

 

「それだ!」

 

「それね!」

 

と、言うわけなので。

 

「二人には今から助けられた自慢大会をしてもらいます」

 

「えぇ……なに、それ」

 

「一体どんな理由でそんなことに……?」

 

突然のことに怪訝な表情を見せてくる二人。

 

「まぁまぁ、そう言わずに。ちょっとした余興だと思ってくださいな」

 

それではルールを説明しよう。あなたたち二人は互いに人生の中で助けられたと感じた出来事を発表する。エピソードの中身は自由。

 

「これでお互いに感謝を伝えれば、二人の仲が改善するのは必定!」

 

「「天才か……!?」」

 

ふっ……そう褒めないでよ。ところで二人の場合はどんなことして仲直りさせようとしたの?

 

え? 褒め合いっこ? 耳かき? 食べさせ合いっこ? ポッキーゲーム?

 

……アホかな??? そんなん付き合いたての恋人がやるようなゲームじゃん。

 

「はい、じゃあミコさんから。あなたが助けられたと感じる場面はどんなときでしたか?」

 

「助けられた場面……」

 

ミコさんはぽつりぽつりと、自然と口から溢れるように話し始めた。

 

「直近だと……白銀会長に助けられました」

 

「ん、俺か?」

 

「はい。生徒会選挙のあの日、私があがり性なのを知って、わざと討論式にしてくださったんですよね? おかげで私は言いたいことが言えたし、みんなにも私の考えを知ってもらえて……普段は私を嫌ってるような人からも応援してもらえたんです。だから、感謝してます」

 

「ああ、いや。実はあれは発案者が別にいてだな──」

 

優さんの体が『──ビクッ!』っと震えた。

 

「そうだったんですか? その人は……?」

 

兄さん、そこはほら。ね?

 

私のアイコンタクトを受け取った兄は軌道を修正した。

 

「いや、そいつは匿名希望なんだ。悪いが教えられない」

 

「そうでしたか。でも立派ですね。見返りを求めず他人を助けるなんて。その人には白銀会長から伝えてあげてください。私が感謝していることを──い、石上? なんでニヤけて……き、キモっ……」

 

こらこら。そんなこと言ったらあかんでしょ。

 

「他にはないのですか?」

 

「他……こばちゃんには、いつも助けてもらってるよ。私が風紀委員の活動で誰かと言い争いになったときとかに間に入って取り持ってくれて。感謝してる。あと、迷惑かけてごめんなさい……」

 

「ミコちゃん……!」

 

感謝されるのって嬉しいよね。分かるよ。

 

「あと、このステラをくれた人……」

 

「──ふぁッ!?」

 

ミコさんがそう言って取り出したのは、押し花の栞だった。それを見て優さんが挙動不審になる。

 

「優さん?」

 

「な、なんでもない。伊井野、一体それはナンダ?」

 

「これは、私が中等部で一番辛かった時期にもらった手紙に入ってたものなの。誰からも理解されてなかったころに、ただ『君の努力はいつか報われる』と書かれた手紙と、このステラの花が机の中に入ってた」

「当時の私は、風紀委員として周りに舐められたくないから、いつもきつい言い回しをしてて、それで周りからも疎まれてたの。陰口も叩かれて……平気な振りをしてたけど、ホントはすごく辛かった」

 

「伊井野……」

 

そんなことがあったんだ。

 

「けど、そんな時に私は手紙をもらった。ステラの花言葉は『小さな強さ』……私のことを、ちゃんと見てくれて、理解してくれる人がいたなんて嬉しくて嬉しくて……」

 

「ミコちゃん、大丈夫。落ち着いてゆっくりで良いのよ」

 

辛い記憶を思い出して感極まったミコさんは泣いてしまった。こばちさんがそんな彼女を慰める。

 

「だから、私にとってこのステラの人は……『王子様』みたいな人なの!」

 

「ば、ばばば馬っ鹿じゃねぇの!? そんなメルヘンなやついないって! お、大仏が入れたんじゃないのか!?」

 

優さん、良い話なのになんで否定するのさ。あとその表情なに? 背中がかゆくてかゆくて仕方がないって顔だけど。

 

「こばちゃんは違うって言ったもん! なんでそんなこと言うの!? ほんっと、最低だよねあんたって。ちょっとはステラの人を見習ってよ」

 

(見習うも何もそれ僕だよ!? あー、クッソ恥ずかしい──ッ!!!)

 

「伊井野にそんな過去があったとはな……」

 

「素敵です。……どうしたんですか、こばちさん。そんな生暖かい目で二人を見つめて」

 

「これは後方母親面よ」

 

ど、どっちの母親……?

 

「次は優さんの番です」

 

「僕か……まぁ、僕は不真面目でこんな奴だからさ。いつも人には迷惑かけて、助けられてるよ」

 

うんうん、良い感じに進行できているね。

 

「直近だと命ちゃんに助けられただろ。ほら、体育祭の」

 

「……もうその話は良いですよ。優さんは感謝しすぎですって」

 

「それだけじゃない。普段からサービスしてくれるし、初めて会ったときだって、四宮先輩から逃げてた僕を慰めてくれて……」

 

「だぁ──!!! 滅茶苦茶恥ずいので私のエピソードは無しでお願いします!!!」

 

それにね。感謝したいのはむしろ私の方なんだよ。優さん。

 

「じゃあまぁ、大仏と伊井野の二人にも一応……」

 

「私たちにも?」

 

「二人は中等部の噂を聞いても、色眼鏡で見ず僕と接してくれただろ。伊井野はいつも注意してきて、正直真面目すぎて鬱陶しいとも思うけど……お前の言うことはいつも必ず理由があって、正しいことだ。決して僕に難癖をつけてきたことはなかった」

 

「石上……わ、分かれば良いのよ! というか分かってるなら改めなさいよ!」

 

「無理、これは性分」

 

「卒業までには絶対に改めさせるから!」

 

腐れ縁になりそうだなぁ……。

 

「あと、会長……というか生徒会の皆さんにも感謝したいです」

 

「俺たち生徒会にもか?」

 

「僕が高等部に進学できたのは、皆さんのおかげです。正直、今でも思いますよ。こんな僕なんかのために、どうして動いてくれたんだろうって……」

 

「石上……」

 

「僕のことをちゃんと見てくれている人がいたんだって知ったときはもう、嬉しくて嬉しくて……」

 

「優さん、大丈夫。ここにいるみんなは、ちゃんとあなたのことを見てますから」

 

だから泣かないで。そしていつか、あなたの口から真実を聞かせてね。

 

「白銀会長──」

 

こばちさんが兄に何やら耳打ちをしている。

 

「ふむ、そうだな……これは石上には言ってなかったんだがな。実はお前の高等部進学のきっかけを作ったのはうちの校長なんだ」

 

「校長……あのエセ外国語風日本語を使ってポケモンGOしまくってる高等部の校長ですか?」

 

秀知院学園の校長ってそんななの? よく黄光さんその人を校長にしたな……。

 

「あぁ。なんでも校長曰く、中等部の生徒から直談判があったらしくてな。『石上を高等部に進学させないのは横暴だ』と」

 

「──うぇ!?」

 

さっきから何なんだ。ミコさんも優さんも今日は様子がおかしいぞ。突然奇声を上げて。

 

「中等部にそんなやつが……!? だ、誰なんですか、それ!」

 

「俺も知らん。知ってるのは校長か、もしくは中等部の風紀委員くらいかもな」

 

「大仏!」

 

「私の口からは言えないわ」

 

「伊井野!」

 

「し、ししし知るわけないでしょそんな人」

 

「なんだよそれ……僕は自分のために骨を折ってくれた人を今まで知らなかった上に、お礼を言うことさえできないってことか……?」

 

優さんは悔しげに拳を握った。

 

「わ、私は……石上の感謝はもうその人に十分伝わってると思うけど……?」

 

「はぁ? お前ってホント馬鹿だな。感謝って言うのは直接伝えるからこそ意味があるんだよ。確かに『ヒーロー』ってのは誰にも知られず人を助け、そして見返りを求めないもんだ。だけど……ずっとそのままだと、寂しいだろうが……!」

 

(それ私だからぁ!? 目の前で滅茶苦茶恥ずかしいこと言うのやめてぇ──!!!)

 

「なんて素敵な話。いつかその『ヒーロー』に直接お礼が言えると良いですね、優さん。……あと後ろの二人のそれはどんな表情なんですか」

 

「「後方両親面」」

 

ま、まさかのみゆ×こば……? かぐやさんが泣くぞ!?

 

 

 

最終的に、私の助けられた自慢大会はある程度成功したようだ。来るときにはあんなにキャンキャン吠え合っていた二人の間に、帰るときにはしっとりした雰囲気が漂っていたのだから。

 

……思ってたのと違う!? なんか『陰ながらフォローしてやってるのに、ほんとにこいつは……』って感じが『まぁ、俺(私)はお前(あんた)のことちゃんと分かってやってるけどね? 仕方のないやつ……』みたいになってるんですけど!?

 

そんなのもう後方恋人面じゃんかよ──!!!

 





「前にも聞いたと思うけど、中等部の石上の噂ってさ。やっぱりその……何かあるの?」

「はぁ……前にも言ったと思うけど、お前には関係無い──」

「関係あるわよ! 私は風紀委員で、生徒の素行は把握しておきたいし。何より一応……せ、生徒会の仲間なんだから……!」

「……それもそうか。なら、そのうち話すよ。気が向いたらな」

「絶対だからね! 少なくとも今年度中には教えなさいよ!」

「伊井野はせっかちだなぁ……」

「うっさい、石上が緩すぎるの!!!」
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