プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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48.白銀命の日常(3)

 

【兄を迎えに行った日】

 

「もしもし?」

 

『あ、もしもし命? まだ喫茶店にいる?』

 

私がバイトを終えた直後、姉から電話がかかってきた。

 

「うん。どうしたの?」

 

『お兄ぃがそこから近くの駅前のカラオケに行ってるんだけど、電話取らないの。良かったら様子を見てきてくれない?』

 

「うん、分かった」

 

『ごめんね。ほんっとあの馬鹿……』

 

私は姉さんの愚痴が始まる前に電話を切った。しかし、カラオケか……兄さんがカラオケなんて珍しい。生徒会の人たちと一緒に行ってるのかな?

 

私も誘ってくれれば良いのに……なんてね。

 

「えっと、確か姉さんの言ってた部屋はここか……失礼します」

 

カラオケに着いた私はドアをノックし、ゆっくりと開けた。

 

「あの、すいません。兄を迎えに来たものなんですが……」

 

え、何この雰囲気。秀知院学園の生徒だけじゃなくて、複数校の生徒たちが男女で集まっているんだが。しかも妖しいミラーボール風の照明まで……。

 

というか兄、いなくね?

 

「え、だれだれ! 君も参加しに来たの?」

 

「あの、違います。兄は……白銀御行はいますか?」

 

「君白銀の妹なの!?」

 

「へー、可愛いじゃん」

 

「君も歌ってこー?」

 

ね、姉さん! これ多分合コン的なやつだよ! 私をこんないかがわしい場所に放り込むなんて、この薄情者!

 

「困ります、兄はどこに……」

 

「白銀ならハーサカって女子と抜け出して、別室で歌ってるぞ」

 

う、浮気だ。かぐやさんにバレたら大目玉を食らうぞ……?

 

「あいつらが戻ってくるまで一緒に楽しもうぜ、な?」

 

「私は受付してないので……」

 

「もしもし店員さん? 一名追加で!」

 

おい、勝手に追加するな。

 

「ほらほら、曲を選んで!」

 

「え、えぇ……? ちょっとだけですよ……?」

 

「おう、ちょっとだけちょっとだけ!」

 

それじゃあ聞いてください。『母に見捨てられた孤児』の歌ー♪

 

 

 

「ハーサカは帰ったみたいだし、俺も大部屋に戻るか……め、命ちゃん!? なんでここに!? 他の人達はなんで倒れてるの!?」

 

「あ、兄さん」

 

「白銀、お前の妹──死ぬほど歌上手いな……」

 

「上手いの!?」

 

「上手いんだけど、選曲が激重ソングすぎて、みんな心がやられちまった……」

 

「それじゃあ帰りましょうか、姉さんが怒ってましたよ」

 

「お、おう……なんかすまんな、みんな」

 

「妹のこと、大事にしてやれよぉ……?」

 

 

 

【男装した日】

 

「命さん、我が家へようこそ。何もない家ですけれど、ゆっくりしていってくださいね?」

 

「この豪邸にその言い草は嫌味にしか聞こえません。あと、下見と挨拶に来ただけで、別にゆっくりするつもりは……」

 

中間テスト期間が終わった頃、私は四宮別邸に訪れていた。

 

理由は近日、ここで要人を招いたパーティーが開かれるからである。私もお呼ばれしてるので、会場の下見と使用人の方たちに挨拶に来たのだ。

 

「ここの使用人の代表の方を呼んでくださいますか?」

 

「ごめんなさい、早坂は今ちょっと忙しくて……」

 

え、あの人あの若さで別邸の使用人を統括してるの? ど、どんなスーパーガール?

 

「僕に何か?」

 

「その声、愛さん──うわぁぁ! だ、誰ですか!?」

 

「僕はハーサカ対F仕様です」

 

ハーサカ? 兄さんがカラオケで一緒に歌ってた相手って愛さんかよ!?

 

何そのマイナーチェンジ!? も、もしかしていつぞやのボクっ娘ロールプレイか? 何故男装を……?

 

「今日は千花お嬢様がお泊りに来るので、変装をしています。今の僕はアイルランドの血を引く戦争孤児の泣き虫ボクっ子スーパー執事、ハーサカ君です」

 

「は、はぁ……? よくわからないですけど、タイミング悪いときに来ちゃいましたね」

 

千花さんとお泊りするのか。

 

「いえ、千花お嬢様が来るまでまだ時間があるので、問題ございません。本日はどのようなご用件で?」

 

「使用人の方に挨拶をと思いまして。色々苦労をかけるでしょうから……これ、四宮グループ系列企業で使える商品券です。私からの臨時ボーナスのようなものですね」

 

現金だとちょっと無粋すぎるし、食べ物や飲み物だと貰ってもそんなに嬉しくないだろうと思ってこれにした。黄光さんから人脈形成に使えと貰ったものだけど、支えてくれる人たちの福利厚生として消費したほうが良い気がしたんだ。

 

「別邸の使用人の方たちで打ち上げに使ったり、私的なものを買ったりとか……有効活用してください 」

 

「あ──あ゙り゙がどゔござい゙ま゙ずぅ゙……!」

 

「早坂!?」

 

良かれと思ってやったのに、愛さんがガチ泣きしてしまった。

 

「使用人一同を代表してお礼申し上げます……!」

 

「そんなに嬉しかったの!? あなたたちには十分なお給与を上げてるじゃない!?」

 

「確かにそうですが、これは気持ちの問題です。四宮家では使用人の働きは当たり前、私どももそれはわきまえております。でも、それはそれとして働きを評価してもらえるのはとても嬉しい……頑張ってよかったって思えます……!」

 

あはは……まぁ私が今まで会った四宮家一族って、絶対褒めたり言葉で感謝を伝えたりとかしなさそうだもんね。あの人たちは働きには報酬で報いようとするから……言うなればやりがい搾取の逆バージョン? 

 

お金はもらえてもやりがいはもらえない。それはそれで仕事としての満足度は低そうだな。

 

「それじゃあ、私は帰りますね。お泊まり会の邪魔しては申し訳ないので」

 

「え、もう帰ってしまうのですか……? もう少しゆっくりしていっても良いのですよ……?」

 

「かぐや様、命お嬢様にも泊まっていただくのはどうでしょう?」

 

「名案ねハーサカ!」

 

いや、私他人とお風呂に入れない……んだけど、愛さんがいるよな。この人一応黄光さんの紐付きだし、彼女に介抱してもらえればアリ、なのか?

 

「では早速お召し物を変えましょう。こちらに」

 

私は愛さんに更衣室へと案内された。

 

「命さんはどんな服が好みなんですか?」

 

「うわ、急に元に戻らないでくださいよ、びっくりするなぁ……!」

 

「許してにゃん?」

 

「くっ、許す……!」

 

今すぐ写真を取りたい。が、今はそれよりも大事なことがある。

 

「それで服を着替える前に、愛さんには伝えておかなきゃならないことがあるんです」

 

私はそう言って自分のスカートをたくし上げ、レギンスを脱ぐ。

 

「め、命さん……!? 私は男装してるだけでちゃんと男の子が好きだから、女の子どうしは──」

 

違うよ?

 

「その……足……ッ! な、なんで……!?」

 

「私、片足の膝から下が無いんですよ。以前話したでしょう? 片目がそうだったのと同じです。交通事故の後遺症」

 

「そんな……!」

 

「かぐやさんや千花さんにはバレたくないので、一緒にお風呂も同衾もできません。それでも良いのでしたら、お泊りさせてくれませんか?」

 

「も、もちろんだよ! 私にできることは何でもさせて!」

 

「なら、服装はロングスカートかパンツスタイルが良いです。足が見えないように」

 

「……なるほど、一つ思いつきました。こういうのはいかがでしょうか?」

 

「──!?」

 

愛さんの提案した服装。それは……!

 

 

 

「あ、ハーサカ君! ……と、隣にいる『少年』はどちら様ですか?」

 

「お久しぶりです、千花お嬢様。そしてこの子は僕の弟です」

 

「はじめまして、千花さま。ボクはハーサカお兄様の弟の『シルヴァ(白銀)』です……」

 

どうしてこうなった???

 

「ハーサカ君弟がいたんですか!?」

 

「はい、中東で生き別れになっておりまして、最近ようやく見つけることができました。うぅ……まさか生きて再会できるとは……」

 

(かぐやさん、この人泣いてますよ……)

 

(早坂は形から入るタイプですから……)

 

「そうだったんですか。良かったですね、シルヴァくん。お兄ちゃんに会えて」

 

千花さんが私の頭を撫でようと手を伸ばした。だめ! 今はウィッグ被ってるからだめなの!

 

「千花さま、お触り厳禁でお願いします。ボクはお兄様と生き別れたあと、インドの娼館に囚われておりました。その時に女性も男性も相手にさせられて、人間不信になってしまったのです。しくしく……」

(なんと適当な設定だろうか。さすがの千花さんも騙されない──)

 

「な、なんてことを……! に、日本男児が外国の娼館に捕まっていたなんて大問題ですよ! 今すぐお母様に電話して外務省に話を……」

 

騙されるなよ! そしてこの人の母親外交官なんだった──!!!

 

「──ああ! 大丈夫です! 娼館は四宮家が木っ端微塵に爆破したので! ですよね、かぐやお嬢様!」

 

「お、お嬢様!? ええ、まぁそうですね。四宮家がきっちりと始末しておきました。安心してください、藤原さん」

 

「なんで国家権力を超えて財閥が私的制裁してるんですか!? 安心できませんよ!?」

 

「と、とにかく! ボクはお兄様とかぐやお嬢様にすでに身も心も捧げておりますので、千花お嬢様が私に触れてはいけないのです!」

 

「め、命さんの身も心も私のもの!? はぁ……はぁ……ッ! だ、だめよ私! けどあの『メイドボイス』を聞いたあの日から、内なる欲求を抑えられない──!」

 

かぐやさんは頭を抑えながら寝室へと向かった。

 

「執事兄弟とお嬢様、禁断の関係!? か、かぐやさんが汚されちゃう……」

 

「千花お嬢様。僕は男の人にしか恋愛感情を抱かないので、かぐや様とはそういう関係じゃありません」

 

「まさかのシルヴァくんが受けですか──!? さ、さんぴ……ッ。……ちょ、ちょっと洗面所借りますね。鼻血が出て……ふひひ……」

 

千花さんは鼻血を流しながら洗面所へと向かった。

 

「ど、どうしましょう愛さん。誤解が広まってますよ!?」

 

「放っておきましょう。しばらく時間がかかるでしょうし、先に私たちでお風呂に入ってしまいましょうか。大丈夫、私がちゃんと介抱して──はっ……!?」

 

ど、どうしたの愛さん。目……目が怖いよ愛さん!?

 

「命さんは身体が不自由。つまり、ここで完璧に介抱すれば私抜きでは生きてはいけない体にできる? そして命さんが黄光様に願い出れば、晴れて私はかぐや様から引き抜かれて命さんのメイドに……これって転職チャンスなのでは……!? ふふ……ふふふ──!」

 

おい誰かこの変態どもを止めてくれ!? 転職したいならなんで前のスカウト断ったんだよ!

 

「動けないあなたの代わりに、体の隅々まで洗って差し上げますよ……? ご主人様……?」

 

ええい、えっちぃのは嫌いだ! 滅びろ変態ども!! しねしねビ──厶ッ!!!

 

 

 

捕まった。

 

「背中流しますね?」

 

「あったかぁ……」

 





「は、ハーサカ!?」

「この人がハーサカさん!?」

『かぐや様は寝ちゃったみたいなので切ります。またラインしますね、御行く──』

『お姉ちゃん、どこぉ……? 一緒に寝ようよぉ……』

『あ、命ちゃん! ベットから抜け出しちゃだめだよ、もう!』

「め、命ちゃん!?」

「命、なんでそこに!?」

『ごめんなさい、私も今から寝るので切りますね。おやすみなさい』

「「待っ──」」

四宮かぐやと寝落ち前の通話していた白銀兄妹は、偶然にもその瞬間を目撃してしまった。

「「い、妹がいつの間にか寝取られてる……ッ!」」
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