プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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52.白銀命の日常(4)

【姉の文化祭に行く日】

 

『もしもし、命ちゃん』

 

「はい、何かご用でしょうか。兄さん」

 

『明日うちの中等部の文化祭でな。圭ちゃんの様子を見に行くんだけど、良かったら一緒に行くか?』

 

「行く──!!!」

 

どんな服着て行こうかな! 姉さんに迷惑がかからないようにオシャレしないと。政子さんちょっと手伝って!

 

姉さんは当日なんの出し物するの? たこ焼き? 姉さんの手料理!? よっしゃ──!!!

 

 

 

「兄さん、お待たせしました」

 

「ん、滅茶苦茶お洒落してるじゃん」

 

「兄さんこそ、学ランじゃないんですね」

 

「絶対学ランで来るなと言われたからな。それじゃあ行くか。圭ちゃんのとこは屋台だから校舎入ってすぐかな……」

 

「屋台、良いですね。あ……」

 

人混みの中で杖が通行人とぶつかりそうになる。

 

「っと、危ないぞ。命ちゃん、手を出して。俺が握っとくから」

 

「そ、そんな子供じゃないんですから……」

 

「関係ないだろう。いくつだろうと兄は妹を助けるものだ。ほら」

 

なんか、姉さんとショッピングモールを歩いた日を思い出すな。歩幅を小さく合わせてくれるところとか、二人ともそっくり。

 

そうやって歩いていると、いつの間にか私たちは屋台の前にいた。

 

「よ、圭ちゃん。たこ焼き二つもらえるか」

 

「兄さん、ほんとに来たのね」

 

「私もいますよ。姉さん」

 

「め、命もいたの? 来るなら言ってよもう……」

 

ハッピ姿の姉さん、かわよ……好き……。

 

(し、白銀さんの妹……!?)

 

(それにお兄さんまで……!)

 

さてと、姉の後ろの人たちが騒がしくなる前に退散しないとね。

 

「はい、たこ焼き二つ」

 

「やった。姉さんの手料理だ」

 

「命のは一個、おまけしておいたから」

 

「ほんと!?」

 

「圭ちゃん、俺は俺は?」

 

「可愛い子限定に決まってるでしょ」

 

「大阪のおばちゃんかよ……」

 

「誰がおばちゃんか、この馬鹿お兄ぃ。そっちは服のセンスがガキの癖に……!」

 

お、おいひぃ! 外サク中トロでうまうまだぁ。

 

「兄さん、これ美味しいよ! 美味しい美味しい!」

 

「こら命ちゃん、行儀が悪いだろ。向こうのベンチで座って食べよう」

 

「うん。姉さん、またね」

 

私が手を振ると、姉さんは恥ずかしげに手を振り返してくれた。

 

「兄さん、たこ焼き食べたら次はどこ行きますか? あ、なんかプリクラやってるみたいですね。あれ行ってみません?」

 

「良いけど……なぁ、命ちゃん。そろそろ俺にもタメ語で話してくれないか?」

 

「それはそのうちです。今はまだ姉さんだけの特権ですから」

 

 

 

「あれが白銀さんのお兄さんと妹さんかぁ……」

 

「素敵だったなぁ……圭ちゃん、家族と仲良いんだね」

 

「べ、別に……」

 

手先が狂ってうまくたこ焼きをひっくり返せなくなる、白銀圭であった。

 

 

 

【脳内裁判の日】

 

人は誰しも社会的な仮面(ペルソナ)を被る。それはときとして別人格のような振る舞いを見せるとか。

 

では今回は、白銀命の頭の中を覗いてみよう──。

 

「というわけで、本日の脳内会議を開始する」

 

議長代理担当──白銀命(適温)!

 

生徒会と関係を持ったことで軟化した夏休み以降の白銀命である。最近色々と悩みがち。

 

「海馬の準備は万端です。完全記憶に問題はありません」

 

書記担当──白銀命(寒)!

 

早坂政子によって四宮流の教育を受けた以降の白銀命である。ちょっと人間不信。

 

「資料の準備はいつでもよし。思い出したい記憶があったら『ボク』がプロジェクターで投影するからね」

 

資料担当──白銀命(暖)!

 

記憶を失ってから病院でリハビリを頑張っていた白銀命である。理想を夢見て学校行ったら地獄を見た、お外が怖い。

 

そして……。

 

「相変わらずあの子はいないんだね」

 

「そうですね。どうなんですか、『ボク』?」

 

「出てくる気配は欠片もないかなぁ……」

 

議長担当──白銀命(幼)!

 

記憶を失う前の白銀命である。現在深層心理に引きこもり中のため欠席。たまに部屋から出てきて嫌な記憶をぶちまける。

 

「では本日も頑張ってまいりましょう。おー!」

 

「おー!」

 

「おー」

 

無論、これはあくまで白銀命の深層心理をデフォルメ化したものであり、四宮かぐやレベルで別人格として成立しているわけではないことをここに明言しておこう。

 

 

 

「はい、それではこの私。白銀命(適温)から本日の議題を提示させてもらいます」

 

というわけで、どどん!

 

1.母親の対応

 

2.四条家の対応

 

3.過去の記憶の扱い

 

「では早速一番目から。母親の居場所を見つけたわけだけど、『私』と『ボク』はどうしたら良いと思う?」

 

「『ボク』に母親なんて存在しないよ? いるのは父と兄と姉だけ」

 

うん、清々しいまでの排除だね。真顔で議論の根幹をぶち壊さないで?

 

「『私』は興味ないです。放置に一票」

 

待って、まだ決を取る時間じゃないから。

 

「思った以上に自分が母親のことを嫌っててびっくりした」

 

「それはそうでしょう。母親のことを気にかけているのは私と、引きこもってるあの子だけじゃないですか。『私』のときは基本的に影も形もなかったし。『ボク』のときに手紙をもらったくらいでしたか?」

 

「そうだね。記憶喪失の娘に手紙一枚だけとか舐めてると思わない?」

 

「思います」

 

そりゃ私も思うけどさ。過去のことなんて覚えてないんだから、母親がどんな気持ちだったかなんて分からないわけでしょ? 何か理由があったのかもしれないじゃん。

 

「なんで『ボク』が母親の気持ちを考えなきゃいけないわけ? 意味分かんないよ、普通母親の方が娘の気持ちを考えるべきじゃん! ね、『私』もそう思うよね?」

 

「思いますパート2」

 

ぐっ……正論だ。

 

「仕方ない。じゃあ決を取るよ。母親と仲直りするか、放置するか」

 

脳内裁判の結果は──ほ、保留? 1対2なのに?

 

「脳がついに壊れたんじゃないんですか?」

 

「そんなはずは……あ、2対2になってる。てことはあの子か」

 

「あの子、欠席してるくせにちゃんと投票はするんだね」

 

意見があるなら、議論にはちゃんと参加しなよ。まったくもう。

 

では次の議題。

 

「四条家の対応をどうするか。ちなみに現在の計画だとどうなってるの?」

 

「はいはい、記憶を漁るね……うん。どうにかして四条家のクリスマスパーティーに誘われて一発ぶちかます計画らしい」

 

「滅茶苦茶ライブ感で生きてませんか。私って」

 

「今までもそうだったでしょ。気にしちゃだめだよ」

 

ぶちかますって何をぶちかますんだろうな。一応説得材料自体はこの前のズーム会議の内容で良いと思うけど。

 

というか、交渉に持ち込むまでが一番難易度高いんじゃ?

 

「四条家のクリスマスパーティーに自然に誘われるような案がある人はいる?」

 

「それはもう、どうにかして帝先輩と眞妃さんに誘ってもらうしかないでしょう」

 

「それが一番難しいんだよ。私から申し出るのはちょっと怪しいじゃん? それなりに友好度を上げてるとは言え、何か理由がないと厳しいと思う」

 

「理由ですか。そう都合の良い理由は……」

 

「はいはい! 『ボク』に名案があります!」

 

お、どんな名案なんだ『ボク』よ。試しに言ってみてよ。

 

「まずは眞妃さんを呼び出して」

 

「ほうほう」

 

「そしてこう言うの。『帝先輩に告白したいのでクリスマスパーティーに招待してくれませんか』ってね?」

 

「うん、却下で」

 

「えぇ!?」

 

「何故ですか? 『私』は良い案だと思いますが。眞妃さんは優しい人ですから、協力してくれるのではないでしょうか」

 

「嘘をついて優しさにつけ込むのはちょっとねぇ。今後の関係にヒビが入らない?」

 

「う、嘘じゃなきゃ良いの? だったら、本気で帝先輩に告白すれば良いじゃん……」

 

「ねぇねぇ『私』。この子何を言ってるのかな」

 

「さっぱり分かりませんね、私」

 

変なことを言い出すもんだな。そんなの『ボク』が帝先輩と恋人になりたいと言ってるみたいなもんじゃないか。

 

「いや分かるでしょ! だって──『ボク』は帝先輩のことが好きなんだから!」

 

「「……?」」

 

「同一人物なはずなのに認識に差がある!?」

 

マジで何を言ってるんだこいつは。

 

「帝先輩は私にとっては恩人でしょ?」

 

「そうですね。そして友達第一号でもあります。だいたい『ボク』が帝先輩と接したのはあのボロボロにされた日だけじゃないですか」

 

「一目惚れだもん!」

 

「初めて会ったときはレイプされるかもって思ったのに?」

 

いじめっ子がいなくなったと思ったらあの人がいたからな。ちょっと背筋凍ったもん。

 

「うぐっ……確かにそうだけど。こ、こうなったらあの時の記憶を見返して君たちにも分からせてやる……!」

 

『ボク』はディスクを取り出し、プロジェクターで記憶を再生した。

 

義眼と義足を失い、絶望の中トイレから這い出る私。そしてバランスを崩して倒れたときに、帝先輩の手が私を支えてくれた。

 

身構える私にジャージの上着をかぶせ、保健室まで肩を支えてくれて……のところで映像が止まる。

 

「はいストップ。ここ、ここ良く思い出して! 心臓バクバクで滅茶苦茶体温上がってるでしょ! このときに『ボク』は落ちてるから! 好きになっちゃってるからね!」

 

「それはジャージで体が温まってるだけでしょ?」

 

「違うよ!? 明らかに体の内側から湧き上がってる熱なのこれは!」

 

「それは勘違いだと思います。だって次に会ったときには何もなかったじゃないですか」

 

「『私』がそれを言う? バレンタインデー近かったからチョコ買おうとして、ビビって板チョコ買ってからかうのに使ってたくせに? 帝先輩に想い人がいると知って滅茶苦茶落胆してたくせに?? そのあと連絡先聞き出して『異性の友達』とか言い訳してたくせに???」

 

「ち、違いますよ! それに、私だって帝先輩のことは友達としか思ってないでしょ!?」

 

「はい」

 

「ほんと? この前なんか帝先輩が恋愛対象の中に入ってることを思い出して悶々としてたじゃん。眞妃さんと話してたときも、頭の裏には帝先輩のことがいたんじゃないの」

 

「も、妄想がすぎるね?」

 

「へー、妄想。妄想ね。そっかそっか。だったら確かめてみよっかなー?」

 

『ボク』が一枚のディスクを取り出し、プロジェクターに入れようとする。

 

「け、決を取るよ! 別に帝先輩のことは好きじゃないけど、利用してクリスマスパーティーに行く、もしくは行かない!」

 

頭脳判定──3対0(棄権1)で行く!

 

「はい、この話はもうこれで終わり!」

 

「あーあ。またそうやって気持ちを覆い隠すんだね。眞妃さんが言ってた通りじゃん。臆病なやつだよ、私って」

 

お前もその私の中に含まれてるんだからな!?

 

「もう良いから……では次、過去の記憶を思い出すか、思い出さないか。こんなのもう分かりきってるでしょ」

 

「そうですね」

 

「そうだね」

 

頭脳判定──0対4。私は過去を忘れたままでいる。

 

そして今夜も、あの子は部屋から出てこなかった。

 





「なんか、帝先輩の夢見てた気がする。それになんでこんなに切ないんだろう? 昨日の夜恋愛映画見たせいか……? はぁ……政子さーん、朝の抱っことなでなで欲しいでーす」
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