そうして、眞妃さんのインド行きをやめさせるための説得が始まった。
「インドは日本と比べても圧倒的に治安が悪いです。四条家の子息たる眞妃さんや帝さんが行って良いような場所ではないと思います」
「何を言うかと思えば……その四条だからこそよ」
なんだと?
「日本とインドは対中包囲網である
「くっ……!」
「当日はインド軍特選護衛部隊が組まれるわ。心配しなくても私たちの身に危険が及ぶことはない。インドに行きましょう、命」
なるほど。思ったよりも手強いな、流石秀知院学園第三位の頭脳。スペックで言えばかぐやさんと同格。つまり、若さ抜きに考えれば雁庵さんに迫る実力と見て良い。
「なるほど、しかし疑問が残ります。眞妃さんはなぜ四条家のクリスマスパーティーを欠席してまでインドを優先するのですか? グループの実質的な懇談会であるのなら、当主の娘としてなおさら顔を見せるべきだと思います」
「それは私がグループを代表してインドに行くからよ。向こうではインド財界要人の他にも中東、欧州、アジア、北米のお客様を招いたパーティーがあるわ。私はそれに参加する。小さい頃から何度も顔を合わせた四条系列企業のおじさまたちに会うより、よっぽどグループに貢献していると思わない?」
あなた悟りを得に行くんじゃないのかよ!? その言い草で煩悩捨てたいは無理があるって!
「そうね、あなたもそのパーティーで友人として紹介してあげるわ。将来外資系に進むならとても有意義なコネクションを得られるはずよ。インドに行きましょう、命!」
あとさっきからそのインドにかける情熱はなんなの──!!!
「いいやまだだ! あなたが見落としている事実が一つある!」
「なによ?」
「あなたがインドにいる間、この日本で何が起こるか想像してみてください。そしてそれを放置しても良いんですか!」
「日本で……? もしかして四宮家総帥が病床に伏していることを言っているのかしら。それはお父様や大人たちが対応するべきことであって、私には関係な──」
「田沼さんと柏木さんの話です! あの二人を放置していたら絶対セックスしますよ!」
「──セッッッ……クス!?!?」
女の子が大きな声でそんなはしたないことを言うんじゃありません。
「眞妃さん自身も言ってたじゃないですか! もうすぐクリスマスイブ……あの二人がメイクラブしないとでも思ってたんですか!? あなたが日本を空けている間にしっぽり楽しむに決まってるでしょう?」
「絶対止めなきゃじゃない!」
よし、食いついたぞ。あとは誘導して釣り上げるだけ。
「二人の天地開闢を止めるにはどうしたら良いか教えてあげましょうか」
「ど、どうすれば良いのよ?」
「インド行きは今すぐ取りやめて、二人を四条家クリスマスパーティーに誘うんです! イブはお泊りにして翌日そのままパーティーを行うと言えば、絶対にちょめちょめは阻止できます!」
「渚は誘えるかもしれないけど、翼くんまで呼び出すのはハードルが高いわよ?」
「柏木さんだけ呼んだって断られることは確実です。帝先輩をダシに使いましょう」
「天才か!? 今すぐ電話するわ。もしもし渚?」
『眞妃、どうしたの?』
「クリスマスイブ、うちでお泊まり会をしないかしら。そしてそのまま翌日はパーティーに参加するってのはどう?」
『えっと、ごめんね。彼氏との都合もあるからすぐには決められない……』
「帝だっているから、翼くんも呼んで大丈夫よ。二人で一緒に来なさい」
『そうなの? だったら私から翼に話を通しておくね。お誘いありがとう眞妃』
すまんな田沼さん。子作りはまたの機会にしてくれ。
どうだ、これで眞妃さんのインド旅行は阻止……できたけど私は誘われてないじゃん!?
「あの、眞妃さん。良かったら私も誘ってくれませんか?」
「別に構わないけれど……」
ヨシ! ミッションコンプリート!
心の中でガッツポーズをしていると、眞妃さんの訝しむ視線が私を貫いた。
「でも、今日のあんたって少しおかしいわよ。私の旅行を無理矢理阻止して、まるで最初から自分がクリスマスパーティーに行きたかったみたいじゃない」
「ギクリ」
旅行阻止に必死になりすぎたか。眞妃さんは兄とかぐやさんの関係に気がつくくらい優れた第六感を持っている。何とか誤魔化さなければ。
「そ、そうですね……私はクリスマスの予定がなかったから、イベントに誘われたかったんですよ」
「じゃあインド旅行で良かったじゃない」
「海外旅行は怖くて……」
「本当にそれだけ?」
「インドに行ったら帝先輩に負担がかかるでしょう?」
「なら弟に直接そう言えば良いじゃないの。あんたがクリスマスパーティーに行きたい本当の理由ってもしかして……」
「いや、それは……!」
疑われている。何とか別の言い訳を伝えなければ。
そう考えていると、私の体が無意識におかしなことを口走ってしまった。
「──クリスマスパーティーで帝先輩に告白しようと思ってたんです! あっ……違っ……」
まずい、慌てたせいで変な嘘を言ってしまった。急いで訂正しないと。
「やっぱりね! あんたは帝のこと好きなんじゃないかって、前々から思ってたのよね」
「え、いや違います! 私は別に帝先輩のことはそんな風に見ては……」
「嘘をおっしゃい。あんたがたまに楽しそうにメールしてる相手、チラッと見えたのよね。四条帝の名前が」
「別に楽しんでなんか!」
「恥ずかしがらなくてもいいわ。インドで告白なんてムードが無いわよね。そりゃ必死にもなるわ」
「さっきまであんなインド推しだったのに急にディスった!?」
「大丈夫、
違う、違うけど……これで良いのか? クリスマスパーティーに誘われる目標は達成してるし、誤解されたままでも構わないのか?
「当日は告白するタイミングを用意してあげるから、頑張んなさい。命は私みたいになっちゃだめよ、応援してあげるから」
「あ、はは……ありがとうございます」
否定しようにも、私にはこの人の親切を拒むことができなかった。
もう良いか、どうせ振られるだろうし。それよりどうやって四条家を説得するか考えないとなぁ……。
「命が将来の義妹ねぇ……かなりアリだわ!」
呼吸、楽しい!
「かぐやおばさまが義妹になるよりはずっとね……」
「え、何か言いました?」
「いいえ、なんでもないわ」