12月23日。クリスマスイブまであと一日である。
先日、四条家のクリスマスパーティーに招待されることに成功した私は今日。
「命、おまたせ」
「お、おはようございます。帝先輩」
「にしても驚いたよ。姉さんに『命とデートしてこい』って言われたからさ」
──帝先輩とデートのため駅前に集合していた!
と、言うのはさすがに冗談である。
「もともと眞妃さんが『サッカーの大会を控えた帝先輩の羽休めのためにどこかへ行こう』といきなり言い出したんですけどね。まさか本人が欠席するとは……」
さては余計な世話を焼きやがったな、あのツンデレ先輩。私が昨日あんなことを言ったばっかりに。
「なんだかすいません。あの人たぶん変な勘違いしてるんですよ。私のせいで」
「良いよ。昔から姉さんが唐突に何かをしたがって、俺を巻き込むことはよくあったから。ほら、インドとか良い例でしょ。慣れてる慣れてる」
「嫌な慣れですね」
「双子として生まれた以上、常に一緒にいたからね。今回は命が姉さんを止めてくれたから助かったけど。本当にありがとう」
「いえ、そんな」
「いやマジで助かったんだって。あのままインドに行ってたら時差と食事で体調崩してたかもしれないし……」
アスリートとして深刻すぎる問題では???
「では行きますか、鶴岡八幡宮。帝先輩の勝利を祈願しに」
私たちは電車に乗って神奈川へと向かう。いざ鎌倉である。
「言い忘れてたけど、その服似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます。先輩も、カッコいいですよ……」
「ありがとう。と言っても、俺を着飾ったのは姉さんなんだけどね」
先輩があまりに唐突に褒めてくるので、私は顔を下に向けるしかなかった。
わ、私だって政子さんが勝手に着飾っただけだもん。
「命はなんか食べたいものはある?」
鎌倉に着き、目的地へと向かう途中に商店街を歩いていると、先輩がそんなことを聞いてきた。
「え、ここで何か食べるんですか? 私てっきり参拝だけして帰るものだと思ってたので、小銭しか持ってきてないですよ」
ご飯は駅とかコンビニで適当に済ませば良いと思ってたから、電子マネーしかない。こんな商店街だと電子決済対応してないだろうし、どうしたものか。
「せっかくだから少しは観光しよう。こういう商店街で食べ歩きとかしてみたかったし。あ、おばちゃん。コロッケ二つください」
私が悩んでいるうちに、先輩は八幡宮へのルートを外れてフラフラとお店に釣られていく。
そして両手にコロッケを握って帰ってきた。
「ん、これ結構うまいな。ほら、命も」
「いやだから、私お金持ってない……」
「そんなん気にしない。熱々であったまるぞ。ほらほら」
「わ、分かりましたから。あむ……」
あったかサクサクうまうまだった。
「それと姉さんに言われてるから、食べてるところ写真撮るね」
「なんで!?」
「後で見て個人的に楽しむらしい」
他人の恋愛事情にはとことん顔突っ込むなぁ、あの人。い、いや恋愛じゃないですけども。
八幡宮には参拝客がそれなりに居た。クリスマス前に神社ってどんな事情で来るんだろうか。私たちと同じような理由か?
「結構混みあってるな」
「そうですね。気を使わないとはぐれてしまいそうです」
「良かったら手、貸そうか?」
私が人混みの中で右往左往していると、先輩の手が伸びてきた。
──『僕の手でよかったら貸そうか?』
「あ……お、お願いします」
思わず初めて会った日のことを思い出し、声がうわずってしまった。そうだった、先輩は私の足が不自由なことを知っていて、そして手を差し伸べてくれる人だったな。
そのまま先輩の手に引かれるまま境内を進み、手水舎で清めを行ってから本宮の前に来た。
二人で一緒にお賽銭を投げて、二礼二拍手一礼をする。
八幡神は勝負事にご利益のある神様だ。なので清和源氏や桓武平氏といった武家の人間に信仰されていて、ここ鶴岡八幡宮も鎌倉時代に武家の棟梁・源頼朝によって建てられた。
そして八幡神は応神天皇の神霊であり、皇室の守り神でもある。
帝先輩は四宮家分家の血筋なので源氏だし、名前に『帝』が入っているから、次の試合ではきっと良いご利益がもらえることだろう。
「命。さっきめっちゃ小銭入れてたけど、一体いくらいれたんだ」
「1111円ですね。絶対優勝してください」
「夏に負けたのがそんなに悔しかったの!? 正直、プレッシャーが凄い……」
参拝を終えた私たちは社務所でお守りを買った。
「1種類ずつ全部ください。あと交通安全は追加で全バリエーションのものを買います」
「お守りは爆買いすればご利益も強くなるってわけじゃないと思うぞ!?」
分かってるよ。分かってるけど……分かってるけど!!!
「おみくじは引かなくて良いのか?」
「もう年末ですしね。初詣のときに引くことにします」
「それもそうか」
「良かったら、来年は一緒に初詣に行きませんか。眞妃さんも一緒に」
「良いよ。試合があるから、初詣は年が明けてからしばらくかかるかもだけど」
「いくらでも待ちますよ」
ちゃっかり次の約束なんてして、私たちの参拝デート……じゃなくて、先輩の勝利祈願の参拝は終わりを迎えた。
「先輩、今日はありがとうございました」
「いや、俺の方こそありがとう。良い気分転換になったし、武運もついた気がするからさ。これはもう勝ったも同然だろ」
「気が早いですね。あと、余計かもですが私からもこれを」
私は手製のお守りを先輩に渡した。入れた字は『必勝祈願』。拙いながらも思いを込めた力作である。
「ありがとう」
「どういたしまして。それじゃあまた明日、お泊まり会で会いましょう」
「待った」
私の左手を帝先輩が掴んだ。
「な、なんですか……?」
「明日、命に話したいことがある。唐突かもしれないけど、将来を決める大事な話だ」
「ぇ!? な、なんの話なんですか!」
「夏に会ったときに言おうとしてたことをね。じゃ、また明日!」
最後に私の心に時限爆弾を置いていった先輩は、笑顔で手を振り去っていった。
残された私は独り言つ。
「も、もしかしてワンチャンあるの……?」
あーもう、頭がクラクラしちゃうよ! 将来を決める大事な話ってなんだ──!?
その日の深夜二時。白銀命はベッドの上で叫んだ。
「寝れないよバカぁ──!」
「命様、いかがなさいましたか」
「え、あ。政子さん!? ごめんなさいなんでもないです。ちょっと寝付けないだけで……」
「なら子守唄を歌ってあげましょうか。──♪」
「いやそんな子供じゃな──スヤァ」
「よくお眠りくださいませ。さて──四条帝……命様を泣かせたら潰してやる……!」
本日の盗聴器。四条帝に気を取られていたせいで発見ならず!