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──そして二ヶ月が過ぎた。
「はー……あったかい。まだまだこたつは現役だなぁ。あ、黒服さん、そこの生八ツ橋取ってくれませんか。……ありがとうございます」
未だ肌寒い風が吹く春。私は京都の四宮邸でこたつにくるまっていた。
まぁ、こんなに落ち着いていることからも分かるだろう。私はこの二ヶ月で20億を用意することに成功し、黄光さんにお金を返しに来たのだ。
「黄光さんが来るまで暇なので屋敷を探索してきても良いですか。え、黄光さんのご家族がいるからあまりうろつかないでほしい? むしろ会いたいです。どこにいるんですか」
どうすれば、ただの女子中学生が10億も二ヶ月で稼げるのか。
まず、私は最初の一ヶ月で会社を立ち上げた。義手、義足、義眼、そういった身体の欠損を補う義肢と最新技術を利用して良い感じのモノを作る会社である。責任者は早坂さんに押し付け、四宮グループの中でも割とあぶれてる人材を集めた。
伝統主義と能力主義の悪いとこ取りしたような四宮グループだ。派閥競争に疲れた人や閑職に追いやられた人を勧誘するのは難しくなかった。
そうして出来た会社の看板を引っさげて、私はアメリカの社交界に乗り込み、投資を募った。
私自身を広告塔にし、アメリカ軍関係者、パラリンピック選手、キリスト教慈善団体の幹部などに接触した。
そうした努力が実を結んだ──とかは全く関係なく、最終的にラスベガスに行って、カジノでお金を増やして終わりである。
ギャンブルで20億なんてありえない? 確かに、100円を20億にするにはとんでもない運が必要だろう。
だが、100円を200円にするのは比較的簡単だ。同様に10億から20億も同じこと。仮にルーレットなら50%弱で配当二倍のギャンブルができる。それをやっただけ。私は年齢的にカジノに入れなかったので黒服と早坂さんたちに代理でやってもらった。
無論、負けていれば一文無し、私の命もない。分の悪い賭けだろうか? しかし考えても見てほしい。この勝負を仕掛けなければ私は一生監禁か、あるいはあの世行きの運命しか無かったのだ。
自由ある未来への道を確率0%から50%に変えてみせたのだから、むしろかなり好条件の取引だったと言えよう。
だいたいそもそも、四宮の名前を借りてるとは言えできて間もない会社が10億も投資を募れるはずがない。
そもそも会社を作ったのだって、お金を稼ぐためだけじゃなくて私が欲しいものを作ってもらうためだ。
ただ、意外とその手の需要は多かったらしい。普通に会社としてやっていけそうな勢いである。特に軍関係者の反応が良かったな。次に営業するならロシアとかが良いんじゃないだろうか。
「こんにちは初めまして。今日から黄光さんのお仲間になる予定の白銀命です。少しお話しませんか」
この人たちが黄光さんの家族か……意外と普通だ。
まぁ、この二ヶ月であったことはそれくらいだ。あとは新学年が始まって私が二年生になったくらい。忙しくてテストを受けるためにしか学校に行っていないので、四条先輩とはまだそんなに話せてない。今度お昼に誘ってみようかな。
「白銀様、黄光様がお呼びです」
しばらくしてから、ようやく黒服さんが私を呼びにきた。
ごめん、お姉ちゃん君たちのお父さんとお話があるんだ。続きはまた今度ね。うんうん、約束。指切りしよっか。
さてさて、さすがに黄光さんも私を認めてくれるだろう。
なんと言っても──10億を二倍どころか四倍の40億にして返したんだから。
……私は自分を幸薄だと思っていたが、どうにも賭け事に関してはそれはもうめちゃくちゃ強かったらしい。これまでの不幸の揺り返しが来てるのかもしれない。記憶喪失と身体欠損の代償が賭博の才能って全く嬉しくないんだけれど???
お陰でラスベガスのカジノどころか全米賭博界から名指しで出禁にされてしまった。そしてついたあだ名が『毒リンゴ』。
うるさい、やかましいわ。
「お久しぶりです黄光さん。今日も素敵な頭ですね。お名前にぴったり」
「相変わらずのクソガキさだな」
「ふふ、すいません。うまく行き過ぎてて気分が良くて、つい……」
「気分が良いからって出会い頭に人を侮辱すんな。やっぱりお前頭おかしいだろ。もう一遍入院したほうが良いんじゃねぇか」
ふははー、何度でも言うが良い。カジノで勝ちまくった私は今や無敵の人だ。片腕でも片目でも好きに持っていくが良いさ! ……ごめん、やっぱりウソ。返してくれるなら腕も目も返してください。正直、生きにくいです。
「辛い……」
突然泣き出した私に黄光さんはドン引きしている。あなたにも分かるでしょうに、体の一部を失う悲しさが……。
「まぁ、黄光さんの頭の話はもう良いでしょう。私を認めてくれる気になりましたか?」
「誰も俺の頭の話なんかしてねぇだろ」
私がしてたんだよ。
……だめだ。この前会ったときは少し怖かったけど、余裕を持った今だと分かる。この人、からかうと面白い。多分、根が凡人なんだろうな。対等な友達としてなら仲良くやれそうな気がする。
「それで、どうなんですか」
「まぁ、認めてやらんでもない。少なくとも、女にしてはやる──」
「次に『女が〜』とか言ったら帰りますからね。あなたがどんな思想持っていようが構いませんが、取引相手にそんな態度とるなんて論外ですよ。ビジネスマン舐めてるんですか?」
「……はぁ……ちっ、分ぁったよ。何が望みだ」
黄光さんは深くため息をつき、頭をかくと目を逸らしながらそう言った。
「私の自由を、人生を侵害しないでください。心配しなくても、私はあの事故について口外するつもりはありません」
「今回立ち上げた会社はそのまま残してください。私がその会社に関与することも認めてください」
「最後に、私はあなたと敵対するつもりがないことを、十分に理解してください」
その後色々細かく要求を出したが、大まかにまとめれば上記のような内容になった。
そして、私の出した要求を黄光さんは飲んだ。今回の件で私は有能有益だと証明したのだから当然だ。彼としても心配事が消えた上、使えそうな駒候補を得られて安心だろう。私も、やっと自分の人生が始められそうでホッとしている。
あとは……彼が私の能力を買って味方に引き込んでくるかどうかだが、まぁそれは後々のことになるだろう。
「最後に一つ、良いですか」
私はそう言って、一枚の絵を黄光さんへと差し出した。クレヨンで描かれた、稚拙な人物画だ。
「娘さんからです。あなたの絵を描いたそうですよ。慕われているんですね」
「……ふん」
黄光さんは絵を受け取ると、それを眺めて鼻を鳴らした。顔には出ていないが、満更でもなさそうである。
「──随分生ぬるい教育をしていらっしゃるんですね」
瞬間、彼の纏う雰囲気が変わった。
「何が、言いたい?」
あぁ、そうか。これが彼の軸か。やはり、彼の根は凡人だ。
「いえ、別に。むしろ、大変良いことだと思いますよ。『自分と同じ苦痛を他者にも負わせたい』と言うマインドでは、人類は進歩しませんし」
文明は、いつだって苦痛を取り除くことで発展してきた。農耕は狩猟採集の不安定さを解決するために発展したし、工業はより効率的な生産のために発展した。
水道、電気、ガス、照明、車、携帯、世の中に蔓延るものは人間の抱える苦痛を取り除くために生まれたものだ。
彼が望むなら、躊躇う必要などないと思うが……それ以上に、抱えるものが大きすぎるのか。
「……改革は早ければ早いほど良いと、私は思いますけど」
「甘いな、ガキの考えそうなことだ。四宮の総社員は90万に近い。その改革で一体どれだけの犠牲が出るか考えたことあるか?」
黄光さんにはその犠牲を背負えるほどの器はないのだろう。けれどね。
「未来の四宮家が抱える社員は、90万人よりずっと多いですよ。犠牲の数でものを比べるなら、いつだって目を向けるべきなのは過去ではなく未来だ」
彼は今しか見えていない。短期的な犠牲は出るけれど、それでより多くの未来の幸福を得られるかもしれないのに……そう言う意味でも、彼は器ではないのだろう。
この四宮家という怪物を背負う、器では。
「……私はこれからも四条帝との関係を維持します。きっと必要になるときが来ると思うから」
「また来月末に来ます。お邪魔しました」
ま、何はともあれ私も四宮グループの一員である。その時がくれば、それなりの活躍をしてみせよう。
「もう二度とくんな」
「嫌です。黄光さんの息子くん娘ちゃんと約束したのでまたきます。それとも、ゲームでもしますか? 例えば麻雀とか。黄光さんが勝てばもう二度ときません。ただし、私が勝ったらまた来ます」
めちゃくちゃ勝った。