プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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62.白銀命は見舞いたい(上)

 

クリスマスパーティーから少し時が流れた元旦。私は四宮本邸に訪れていた。

 

理由は報告のためだ。

 

四条が和解案に乗った……という報告を、私はつい先ほど黄光さんに伝えた。

 

あの人、目を点にしてたな。まさか成功するとは思ってなかったんだろう。今頃やってる新年の会議では大騒ぎだろうな。

 

まぁ、それなりに勝算はあった。

 

私が先日真琴さんに渡した書簡、あれは処分予定の人間のリストである。四宮家の中で旧来のやり方を改められない有象無象を人身御供に仕立てるための計画書。四宮家の方で用意したものだ。

 

それに加えて、四条における火種もまた記しておいた。これは早坂家の手を借りて私が独自に用意したものだな。

 

奈央さんはアイルランドの血を引く女性であり、アイルランド人コミュニティと繋がりがある。ジャガイモ飢饉の折に故郷を飛び出した彼らは世界中に根付いており、特に旧英連邦の国において地位を持つ人間が多い。

 

今回はその情報網を使わせてもらった。

 

四条家は海外が拠点だ。だから現地の風俗に染まり、日本では受け入れられない行動を取る者がいた。

 

複数の女性を妻に持つ者。18歳未満の女性を買春をする者。麻薬を嗜む者。現地では合法だが、日本では犯罪となるような行動を取っている者たちの情報を証拠写真付きで記しておいた。

 

なお合法とは言ったが、四条と言う『日本のより良い未来のために』と四宮を離脱したゴリゴリの保守組織のグループの規則で照らしてみれば余裕でアウトである。なので彼らには真琴さんから処罰が下されるだろう。

 

それとは別に──当局と贈賄を行っている者。犯罪組織に資金を横流ししている者。恫喝やマッチポンプなど不健全な手段でビジネスを行っている者……現地の法律でも完全に一線を越えていた者ついては我が方で既に対処したこともまた記しておいた。

 

別に海に沈めたとかではない。単にしかるべき治安維持機構に通報しただけだ。たぶん、そのうち新聞に載るんじゃないかな。

 

企業は大きくなればなるほど、細部に目が届かなくなる。大方現地人を採用する際に変な輩が交じったのだろう。多国籍企業の性だな。

 

朱に交われば赤くなる、腐ったミカンは新鮮なミカンもだめにする。つまりはそういうことだろう。

 

四条家の人間は四宮家のことを悪しく罵るが、私から言わせれば四条も同じく腐敗しているようにしか見えない。

 

あの会議の場にいた老人たちは手足が腐っていることに気づいていなさそうだったけど。

 

健全な経済を作りたいなら、競争が必要なのだ。彼らは海外に逃げて基盤を作るのではなく、日本で常に四宮を監視し追い立てるべきだった。

 

そうしていれば、私のように四宮の毒牙にかかる人間は減っていただろうに……なんてね。

 

とにかく私は書簡で情報を開示して誠意を示すと同時に、お前らにとって都合の悪い情報をこっちは握ってるんだぞという脅迫をかけた。

 

握手の手とナイフの刃先の両方を向けた結果、彼らは私の手を取るに至ったのだ。

 

「けど、四条側が私を名指しで契約者として指名してくるとは驚きだったかな」

 

四条は相変わらず四宮を信用しない。しかし私なら信用しても良いと言った。

 

私は四条と四宮の架け橋になり、もはやなくてはならない存在になっている。今なら黄光さんにだって手が出せないだろう。

 

私には都合が良いけど、マジで謎だ。あの会議の時の私のどこに信用できる要素があったのだろうか。

 

「ま、有意義に使わせてもらうけど」

 

友情を消費して手に入れた関係だ。大事に使おう。

 

……眞妃さんと四条先輩のことを思い出す。

 

眞妃さんは私のことをまだ友達と言ってくれたけど、前みたいな純粋な友人関係には戻れないだろうな。

 

そして四宮家所属であることを明かした私にとって、四条先輩は敵対する四条家の後継者。先輩後輩という関係ではいられないだろう。

 

今後、二人とはどう接して行けば良いんだろうな。

 

それを考えると、胸が苦しいよ。

 

「だから今は距離を置かせて欲しいんだけどなぁ……」

 

そう言って私は二人からの着信履歴を見た。

 

初詣に行くって約束、どうしようかな。大会の応援に行くって話も宙ぶらりんだし。

 

いや、元旦に頭を悩ませるのはやめよう。二人のことはまたあとで考えれば良い。

 

私は頭を振って雑念を払い、廊下を進んだ。

 

この先の部屋には四宮家唯一の良心であるかぐやさんがいる。今日は彼女の誕生日なんだから、ちゃんと祝ってあげなきゃね。

 

 

 

「でね! 会長がくれたこのネックレスの長さが丁度24.8センチで一秒周期の振り子に──」

 

「あー、はいはい。良かったですねかぐやさん」

 

部屋に着いた私は早口でまくし立てるかぐやさんに適当に相槌を打った。

 

『同じ時を生きよう』ってメッセージ? いや分かりづら。私だったら普通に時計送るわ。

 

「で、結局兄とは付き合えたんですか」

 

「や、やっぱり分かってしまうのかしら。言わなくても分かるくらいに会長の女としてのオーラが……!」

 

「めんどくさ。愛さんも大変ですね。コレの相手しなきゃで」

 

「コレ!?」

 

「今年中には絶対に転職するつもりです」

 

「早坂!?」

 

そりゃ見たら分かるよ。いつの間にか白いリボン着けちゃってさ。それどうせ兄が贈ったやつだろ? かぐやさん赤のリボンしか持ってなかったもんな。

 

自分の髪色と同じ色の髪飾りを贈るってもう俺の女って言ってるようなもんじゃんかよ。

 

「何はともあれ、兄と付き合えて良かったですね。義姉さん(ねえさん)と呼んだ方が良いですか?」

 

「き、気が早いですよ命さん!」

 

そう言ってバシバシと私の肩をはたくかぐやさん。

 

「痛いです。真面目に」

 

うっざぁ……帰ろうかな。私だってプレゼント持ってきたのに。

 

「ところで命さんはどうして本邸に?」

 

「黄光さんに挨拶を。それと、かぐやさんに会いに来ました。誕生日なのにこんな陰気臭い場所で過ごすのは可哀想だと思ったので」

 

「もう! 義妹(いもうと)ちゃんったら! 好きぃー!」

 

マジでこいつ崖から突き落としたろかな。愛さんだめ? かぐやさんは猫だから高所から落としても死なない? そっかぁ。

 

「ま、そういうわけなので誕生日プレゼントを持ってきたんですけどね。その様子じゃいらないですか」

 

「いる! いります!」

 

「じゃあ私からは、はいこれ」

 

私はかぐやさんにイヤーマフを渡した。

 

「かぐやさんって私と同じで耳が良いでしょ。私のは後天的なものですけど。夜うるさくて眠れないときとかに使ってください」

 

「まぁ、ありがとうございま……あら、二つ入ってますが?」

 

「片方は猫耳付きのやつです」

 

「どうして!?」

 

「兄の前で着けて上げてください。喜びますよ。たぶん」

 

「か、会長は猫耳が好きなのですか……?」

 

違うよ、可愛い女子が猫耳つけてるのが好きなんだよ。

 

「あと、これは雁庵さんからです」

 

「お、お父様からも!? 開けても良いかしら……」

 

「びっくりして腰を抜かさないでくださいね」

 

「中身は──はえ?????」

 

小さな桐箱の中には綿に包まれた黒い物体があった。

 

「臍の緒です、かぐやさんの」

 

「お父様のセンスがおかしい!?」

 

「うっわぁ……当主様って倒れてから頭やられてますもんね」

 

言ってやるなよ。

 

「私だっておかしいと思いましたよ。でも、雁庵さんにかぐやさんに渡しておきたいものはって聞いたらこれを指定してきたんですもん」

 

「命さん、父の奇行を受け入れないで止めてあげて!」

 

「無理ですって。それは雁庵さんにとってかぐやさんの母の形見でもあり、かぐやさんと母の繋がりの証でもあるんですから。この話を聞いて私が拒否できると思いますか?」

 

震える手でこれを渡された時の何とも言えない気持ちを共有してやろうか。

 

キモいとエモいって両立できるんだね。

 

「そうだったの──いえ、ごめんなさい。そこまで聞いてもキモさが勝るわ。早坂、これ別邸に持って帰りたくないからこの部屋のタンスの奥底にでも仕舞っててもらえるかしら」

 

「可哀想な当主様……」

 

親の心、子知らず。ジジイ、若娘のセンス分からず。

 

「それじゃ、私はもう東京に帰ります。かぐやさんはどうしますか?」

 

「そうね。会議からは追い出されてしまったし、もう挨拶するような相手もいませんから。ご一緒しても?」

 

あの人かぐやさんをハブったのか。四条と本格的に共謀することは一先ず自陣営内だけに知らせるのかな。私はそれに賛成するけど。

 

というか私は四条家のこと対処したけど、あの人自分の仕事はちゃんとこなしたんだろうな? クソトカゲと四宮雲鷹の相手まで私にやらせたらマジで無い髪むしってやるぞ。

 

「はい。でも私途中で寄るところありますよ?」

 

「どちらに?」

 

「雁庵さんのいる東京の総合病院」

 

あなたの残した不発弾は解体しましたよって伝えてあげなきゃね。

 

じゃなきゃ安心して向こうに行けないでしょ。

 

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