いや、違うんすよ。原作読み返したら愛してるゲームしてるじゃないですか。だから今の命ちゃんにもやらせてみたんすよ。そしたらこうなったんすよ。自分は日常回を書いてたはずなのに、決して、決してシリアスにするつもりは()
【わがまま伊井野の日】
「あ、優さんにミコさん。いらっしゃいませ。それからあけましておめでと……え、なんですかその腕は!?」
正月の空気も過ぎ去って人々が日常に戻り始め、世の中の学生も三学期に苦しめられている今日この頃。
喫茶店にやってきたのは優さんとミコさんだった。
ただし様子がおかしい。ミコさんはギプスを巻いているし、優さんはミコさんのかばん持ちをさせられていた。
「何があったんですか?」
「命ちゃん。石上に腕折られたの」
「だから言い方を考えろっての」
話はクリスマスに遡る。二人はつばめさんの家に呼ばれてクリスマスパーティーに参加したそうだ。
「二人ともつばめさんと知り合いだったんですか」
「むしろ僕は命ちゃんがつばめ先輩と知り合いだったことに驚きだよ。接点あったっけ」
「店長がつばめさんの伯父です」
「そうだったの!?」
「石上うるさい。あとココア飲ませて」
「わ、悪い。ほら、熱いから気をつけろよ」
「熱いなら冷ましてよ」
「お前がホットを頼んだんだろうが!? ったく、仕方ない。ふーっ、ふーっ……なぁ伊井野。なんで僕の足を踏むんだ……?」
「口で冷ましたら……か、間接キスみたいじゃん。石上と間接キスとか嫌なの」
「じゃあどうやって冷ますんだよ!?」
「……冷めるまで待てば良いんじゃない?」
「お前が飲ませろって言ったんだろうが!」
ミコさん。見ない間にわがままガールな感じになったな。
そして話の続きだが、まず優さんがつばめさんと良い感じになって合体寸前までいったらしい。
「えっ!? 優さん教官とセッ──クスしそうになったんですか!? なんで!?」
「ちょいちょい、隠せてないぞ。あと教官ってなに?」
なんと優さんは教官に恋心を抱いていたらしい。きっかけは体育祭応援団で一緒になったことだそうだ。
はぇー、教官を落とそうなどとは命知らずも良いところですな。
「命ちゃんは先輩のなんなんだよ」
「本官は教官殿の訓練生であります」
「さっぱり分からん。あと伊井野はなんでまた僕の足を踏んでくんの?」
「またつばめ先輩の話して……早くココア」
「口で言えよ! 僕の足は押せば飲み物が出てくる自販機じゃないんだぞ!?」
うーん、わがままって言うより、優さんに甘えてるのか?
またまた話を戻すが、合体直前に優さんはつばめさんに告白。しかし付き合うのは無理だと言われて、体だけの繋がりは嫌だった優さんはつばめさんの家を去ろうとしたそうだ。
そして階段を降りようとしたところ、直前のことがショックで足元がおろそかになっていた優さんは転落。それをミコさんが身を挺して守ってあげたらしい。
「だからまぁ、罪滅ぼしとしてこうして世話を焼いてるってわけ」
「別に私は頼んでないけどね。見返りを求めていたわけじゃないし」
「そうは言うけど、なら僕の手を借りずにどうやって学校で過ごすんだよ」
「……ぷい」
ミコさんは優さんから顔を背けた。
「はぁ……ま、なんと言われようとそのギプスが取れるまでは付き合うからな」
え? 何その満更でもない表情は。何でちょっと嬉しそうと言うか、気恥ずかしそうな顔してるの? ミコさん?
「勝手にすれば良いじゃん。ばか……」
あれあれ? あれあれあれあれ!? なんでそんなラブの波動を放ってるんですか!?
み、ミコさんは優さんのことを嫌ってたはずなのに。まさか冬休みの間にこんなことになっていたとは。
まぁ、でも分かるよ。優さんって仲良くなるまでは不真面目で感じ悪いけど、仲良くなってからは良い所が沢山見えてくるスルメみたいな人だからな。
「命ちゃんのその表情はなんなんだ?」
「後方妹面です」
「なんで?」
優さんが好かれて、私は嬉しいよ。
「ところでミコさん。見たところ右腕を折ってますけど、大丈夫なんですか。利き腕ですよね?」
「一応は。基本的なことは全部石上が代わりにやってくれるから、今のところ困ってないわ」
良いなぁ。私も自分を支えてくれる彼氏が欲しいよ。私が困ったときに助けに来てくれて、気が利いて、心に寄り添ってくれる温かい人が。
ま、そんな人いないんだけど。
「そうですか。でも良かったですね、骨折で済んで。神経を傷つけたら麻痺が残ってたでしょうに。実際私は大変でしたよ」
「命ちゃんは右利きだけど、右腕動かせないもんな」
いや動くよ。精密動作性がEなだけで。ほら。
ピクッ……ピクッ……。
うん、死んだ魚か???
「え、そうなの? 命ちゃんって腕悪いの? 大丈夫?」
ミコさんが心配そうな目で私を見てくる。
「ミコさんには言ってませんでしたね。私、右半身に麻痺があるんですよ。おかげで苦労しました」
リハビリの最初の方は地獄だったな。まず立てない。そして歩いてもすぐこける。今度は受け身が取れないから下手に体をぶつけて激痛でのたうち回る。
自分でトイレも行けないし、着替えも食事も入浴もできない。あの時の屈辱がなければ私はここにいないだろう。
「ま、今でも一人でできないことがたくさんあるんですけどね。入浴とか」
あっはっはっは!
はぁ……辛い。
「い、石上。ここにいる間は私じゃなくて命ちゃんの面倒をみてあげて。私も手伝うから」
「僕、将来介護士の資格でも取ろうかな。資格マニアの会長に今度相談してみよう」
え、なになにどうしたの二人とも。私に『あーん』してくれるの? やったー!
もぐもぐ。もちゃもちゃ。
「……石上、やっぱり私の介護もして」
「それ僕の負担が二倍になってるんだけど。はぁ……ほら、口開けろ」
「あ、あーん」
なんか私を出しにして二人ともイチャつき始めたんだが。
なんだろう。無性に腹が立って仕方ない。しねしねビーム送っとくか。
しねしねビ──ッム!!!
【愛してるゲームの日】
「今日は生徒会室で愛してるゲームをしました。なので命ちゃんもやりましょう! ……あと、あけおめですね」
なんで第一声がそれで年越しの挨拶が後ろなんだよ、千花さん。
「久しぶりに命ちゃんと会う気がするな」
「あらあら、会長ったら。私は実家でお会いしましたけれどね。もう私の妹になってはどうですか、命さん」
「いや、四宮の妹になるもなにも将来的には……い、いや。なんでもない」
「か、会長!? それは気が早すぎます!」
「二人とも何の話してるんですか?」
「まさか生徒会で私の心に優しい存在が千花さんだけになるとは思ってもみませんでした。千花さんはほかの四人みたいにならないでくださいね」
しねしねびーむ。
「え? はい。よく分かりませんけど分かりました」
本日のお客さんは先日来た二人を除く生徒会のメンバーで千花さん、かぐやさん、兄さんの三人だった。
「で、愛してるゲームって何ですか?」
「お互いに『愛してる』って伝えて、照れたほうが負けゲームです。命ちゃんはアナログゲーム最強でしたが、それは今日まで。私は負けてあげませんよ!」
それってアナログゲームの枠なの?
「それじゃあ私から。命ちゃん、いつも頑張ってて偉いね。大丈夫、あなたのことを私はちゃんと見てるよ。愛して──」
「なら、抱きしめて。もう二度と、二度と離さないで……!」
気がつけば私は千花さんに向かって体を投げ出していた。そんな私を千花さんは優しく受け止めてくれる。
「え、あ、思ってた反応と違います! なんですか、白銀家は『愛してる』って言われると泣いちゃうのがトレンドなんですか!?」
「そんなトレンドはないぞ藤原」
「実際会長は泣いてたじゃないですか!」
「むしろ藤原さんに原因があるんじゃないかしら。私のときは会長は照れてましたよ」
「じゃあかぐやさんがやってみてくださいよ」
というわけで、二番目はかぐやさんとなった。
「命さん、私は今年の正月はとても幸せだったの。あなたのおかげよ」
「私の?」
「えぇ、あなたが私とお父様を繋げてくれたおかげ。ありがとう。そんな優しい命さんが、私は大好きよ」
「いえそんな。当然のことをしたまでです。だって悲しいじゃないですか。親と子供が……すれ違ったまま、なんて……!」
「ごめんなさい藤原さん。やっぱりあなたの言う通りかもしれないわね。め、命さん、泣かないで……?」
「ぐすっ……ひっぐ……」
どうしよう。私、この冬休みでだいぶメンタル弱くなっちゃったかもしれない。また政子さんに鍛えてもらわないと。
「大丈夫か命ちゃん。一応、順番的には次は俺なんだが……」
「うん、大丈──やっぱりだめぇ……うわぁぁぁ……っ!」
「顔を見ただけで!? おーよしよし、兄ちゃんはここにいるぞ。あ、なんか昔を思い出すな」
兄さん、私頑張ったんだよ。お母さんと会って。これからなんだよ。家族がまた一緒になれる日がすぐそこまで来てるの。
それが、嬉しくてぇ……。
「えー、タイム。タイムを要求します命さん。会長とかぐやさんはこっちに来てください」
私は自分の精神を落ち着かせるためにタイムを受理した。
「なんか様子が変じゃないですか? 命さんってあんなに涙脆くなかったと思うんですけど」
「……そうだな。あれではまるで記憶を失う前の命ちゃんみたいだ。冬休みの間に何かあったのかもしれん。四宮はどう思う?」
「実家でお会いしたときは、どうにも疲れている様子でしたね。何かあったのは間違いないでしょう。ですが会長の言うように昔の命さんに戻ってきているなら、それは良いことなのでは? その方が彼女の記憶も戻りやすくなると思うのですけれど」
「そうなった原因が分からないのでは何ともな。実は命ちゃんに精神的なストレスがかかっているサインなのだとしたら、それは看過できん」
「うーん、とりあえずいつも通りに接してみて観察しましょう。案外日常が効くかもしれませんし」
「そうだな」
「そうね」
「はーい、タイム終了。それでは次は命さんの番ですよ。さあさあ、誰に愛してるって言いますか?」
私が、誰かに愛してるって言う?
……無理だ。怖い。だって、拒絶されてしまうかも。あのときみたいに。
『ごめん』
──ぁ。
「命さん!?」
「まずい、店長! 妹が倒れた、ここにAEDは!? 四宮は救急車を!」
「すぐに連絡します!」
私は遠く流れていく声を聞きながら、夢を見た。
心の奥底の扉が開かれ、私を引き込もうとする。だが、そこはもうすでにいっぱいで、無理やり詰め込もうとすると逆に溢れかえってしまった。
ホースの逆止弁が壊れて、水が逆流してしまうみたいに。
意外なことに、白銀命は倒れてからすぐに目を覚ました。
「良かった、命ちゃん。すぐに救急車が来るからな」
「命゙ざん゙、゙良゙がっ゙だよ゙ぉ゙!!!」
「意識ははっきりしてるかしら、返事はできますか?」
「お姉ちゃんたち、誰?」
「「「──は?」」」
「にいに、ここどこなの? あれ、にいに、大っきくなったね?」
「まさか……命ちゃん、なのか……?」