食事を終えたら次は入浴の時間となった。
「命ちゃんは私とかぐやさんと一緒にお風呂に入ろうね?」
「それでにいにの罪を見逃してくれるなら……」
「会長が時間犯罪者だって設定はいつまで続くんですか」
「それじゃあ命ちゃんには目隠しをしてもらいましょう!」
どうして???
「かぐやさんったら、状況を分かってませんね。今の命ちゃんは自分の体の状況を知らないんですよ? そんな状態で鏡を見たら石上くんみたいになっちゃいますよ」
それはたしかに藤原さんの言う通りだ。命さんが今の自分を見て『死にたい』などと言い始めれば目も当てられない。
「ほーら、お洋服をぬぎぬぎしましょうね。ばんざーい」
「ばんざーい」
そして命さんの体に刻まれた傷が露わになった。これは、酷いわね。命さんが露出を嫌がるのも分かるわ。
「うっ」
「どうしたの千花ねぇ?」
「な、なんでもないです」
待ちなさい、今『千花ねぇ』と言いましたか?
藤原さんあなた、命さんが弱っているときだというのにしれっと刷り込みしたのね。なんて意地汚い。
「んー、寒いから早くお風呂はいろ? かぐやねぇも」
「はい!」
私のことも刷り込みしてくれてたなんて、藤原さんは私の心の友ね!
「わしゃわしゃわしゃ……それじゃあ頭流しますよー」
「命さん、背中は痛くないかしら?」
「んー、きもちいよ? もっとすりすりして?」
おかわわわ─!
「にしても命ちゃんっておっぱい大っきいですね。萌葉くらいあるじゃないですか」
あなたが言わないで藤原さん。
いや、でもほんとに……半年前に私が確認したときよりだいぶ成長してませんか? せ、成長期なの? 私は中等部の頃から胸囲なんてほとんど変わってないのに……。
「圭ちゃんが見たら泣きそう……」
「なんでねえねがぼくのお胸を見て泣くの?」
待って。圭もお義母様も同じスレンダーな体型よね。てことはこれは会長のお父様の血筋なの!? 藤原家と同じで父方が巨乳の遺伝子だったの!?
私がお母様似でなければワンチャン……?
「良い湯ですねぇ……バスボム持ってくれば良かったかな……」
「バスボムですか。そう言えば、藤原さんからもらったバスボム、まさか中に何か入れてるとは思いませんでしたよ」
バスボムを投入したあと湯船にラーメンの具みたいなのが浮かんできたときはこう思いましたよ。
藤原さんが普通のクリスマスプレゼントを渡すはずがなかったと。
「うぇへへ……サプライズです。かぐやしゃぁん」
「ひっつかないで、暑苦しいわ」
「あの、ぼくもう上がりたいんだけどだめかな?」
酔っぱらいのようにダル絡みをしてくる藤原さんを手で制していると、命さんがそんなことを言った。
「命ちゃんのぼせちゃったの?」
「なんか、足に違和感があって。じんじんするの」
「かぐやさん今すぐ上がりますよ!」
「体温が上がって血の巡りが良くなったせいでしょうか……? 命様、マッサージをしてあげますから寝室に行きましょうね」
「うん、おばあちゃん」
湯上がりで顔を上気させた命さんは、そのまま政子さんに連れられて行った。
「母さんは風呂はどうする?」
「最後で良いわ。御行が先に入りなさい」
「ならお言葉に甘えるとするか」
会長は浴室へと向かった。よくよく考えたら私たちの入った湯に会長も入るのよね。
……ふしだらでは???
「かぐやさん、リビングにお布団敷きましょう。私とかぐやさんと会長の分を……会長のお母様は命ちゃんと一緒に寝ますよね?」
「そうね」
「なら三人で雑魚寝ですね!」
か、会長と雑魚寝?
今まで命さんに気を取られていたけど、よく考えたら私これから彼氏と同じ屋根の下で眠るのよね。実質お泊りデートでは!?
そう思うと緊張してくるのだけれど。
「寝る前に命ちゃんも呼んでトランプしちゃいましょう!」
いえ、藤原さんもいるのだからそこまで気を張る必要はないかしら。
「じゃあ会長のお布団は真ん中にして三列に……」
「だめよ」
あなたを会長の隣に寝させるという選択肢があるわけないでしょう。
「なら円を囲むように……」
「私を真ん中にして三列にしましょう」
「こ、こだわりがあるんですね?」
会長の隣で寝るチャンスを私が逃すわけないでしょう?
なんて、そうこうしていると、会長がお風呂から上がってきた。
「ふぅ……スッキリした。上がったから母さんの番だぞ」
「藤原さんは会長を見ないでください」
「なんでですか!?」
濡れ髪の会長の色気がすごいからです。あなたみたいな性欲に脳を支配されたメスはすぐころっとやられてしまうのよ。
「三人揃ったので命ちゃんを呼んできますね。みんなでトランプしましょう!」
「命ちゃんは疲れてるんだから寝かせてやれよ」
「……なら三人で!」
「俺も四宮も疲れてるんだから寝かせてくれよ」
「そんな……!」
「すやぁ」
藤原さん、ゲームするとかなんとか言っておきながら真っ先に寝てるじゃないの。
ほんとにこの子は……。
「起きてるか、四宮」
「か、会長。まだ起きていらっしゃったんですね」
暗くなった部屋に月明かりだけが差し込み、会長の顔が照らされた。
「今日はごめん」
「何がですか?」
「俺たち家族の問題に付き合わせてしまって」
会長は神妙な面持ちでそう言った。
「俺は昼に母さんを責めたが……命ちゃんがああなった責任は俺にもある。はっきり言って俺は、命ちゃんにとって頼れる兄ではなかったからな。あの子の側に信頼できる存在がいれば、記憶を失うほど心を苦しめることはなかっただろうに……」
「会長……」
彼の顔が強張り、拳が強く握りしめられた。私はそんな彼の手を解くように握る。
「謝らないでください。会長の家族は、私の家族も同然です。会長の背負うことは、私も背負いたいんです」
「四宮……」
「かいちょ……」
そして、彼の顔が私のすぐ前に迫り、互いの唇が触れる──前に廊下の明かりがついた。
「か、母さん?」
「お義母様!?」
「ごめんなさい。邪魔をしてしまったわね。どうぞ続けて。キスするんでしょ?」
「親の前でできるか!?」
会長のお母様に私たちの関係がバレてしまった。
「私のことを
「すいません……」
「言っておくけれど、あなたに義母と呼ばれる筋合いはないわ」
その一言で、私は動けなくなった。
×(四宮家の人間が義娘なんてありえないわ)
○(私に母を名乗る資格なんてないもの)