プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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74.白銀命は再び忘れたい

 

先日、どうやら私は体調を崩し倒れてしまったらしい。

 

私を介抱してくれた生徒会メンバーには感謝しかない。

 

正直こんな形で私の体のことがバレるとは思っていなかったけど、受け入れてもらえて安心している。

 

やっぱり悩み事は抱え込まずに話してしまうに限るな!

 

あ、お客さんだ。

 

「いらっしゃいませ」

 

「こんにちは命さん、あれから体調は大丈夫ですか?」

 

「またまた来てやったわよ、命。あんた倒れたんですって? 気をつけなさいよ、ただでさえ弱々しいんだから……」

 

今日のお客さんは眞妃さんとかぐやさんだった。

 

???

 

「眞妃さんとかぐやさんが一緒にいる!?」

 

「はい、今日は眞妃さんと来ましたけれど」

 

「おばさまがどうしてもって言うから仕方なくね」

 

「違います。眞妃さんが無料券を使い切りたいって言うから付いてきてあげたんですよ?」

 

あれまだ残ってたのかよ。

 

「じゃなくて、なんで二人が一緒にいるんですか? 四宮と四条は不倶戴天の敵! 犬と猿! 龍と虎! 水と油! 光と闇でしょ!?」

 

「どっちが光でどっちが闇なんですか。いえ、やっぱり言わなくても良いわ。聞かなくてもその顔で分かるから」

 

四条が光かどうかは要審議だが、四宮が闇なのは疑いようがないでしょ。

 

「いまさらじゃない? もう和解案は採択されたのだから、私たちの世代が喧嘩する必要もないでしょうし」

 

「和解案? 何の話ですか?」

 

「もしかしておばさまには話を通してないの……?」

 

「かぐやさんは四宮の中だと割と外様よりですからね。後回しにされてるみたいです。文句はおハゲさんに言ってください」

 

「ほんとに何の話ですか???」

 

黄光さん、せめて雁庵さんが死ぬまでには一族まとめてくれよな。

 

「はい紅茶とハーブティー、それと手荷物用の籠です。二人の鞄を入れておきます……ん?」

 

私がかぐやさんと眞妃さんから鞄を預かろうとすると、何かがかぐやさんの鞄から転がり落ちた。

 

それは一枚のDVDである。

 

「「あ……」」

 

「なんですか、こ、れ……」

 

タイトル──『私の部下の甘すぎる指先』。

 

「お二人は学校帰りですよね。なんで鞄からAVが出てくるんですか……?」

 

「違っ、これには事情がありまして……!」

 

「JKがAVを持ち歩くのにどんな事情があるんですか」

 

「だいたい、それは渚のものなのよ!」

 

「渚さんのAV!? ま、まさか翼さんとの個撮モノ……? い、いかがわしい変態どもめ……ッ!」

 

「違ーう!!!」

 

というわけで、私は詳しい説明を受けた。

 

何でもかぐやさんが性知識に疎いことを心配した渚さんが、正しい性教育のためにこのビデオを渡してきたとか。

 

そしてそれを生徒会室で見たとか。

 

生徒会室はAVを観るために開放されてるんじゃないんだぞ!?

 

「というかかぐやさんってまだ純白無垢だったんですね。てっきりもう兄さんに汚されたのかと……」

 

「は!? あんたたちもうそこまでいってたの!?」

 

「風評被害よ!」

 

「いやだって私の家に泊まった日の朝、首にキスマークをつけてたじゃないですか」

 

「彼氏の妹の家で彼氏と契ったの? 正気じゃないわね。渚が心配するはずだわ……」

 

「だからそれは勘違いなんですって──!!!」

 

だそうだ。かぐやさんは否定するけど、私もうあの布団使いたくないから持って帰ってもらったよ。

 

「いいなぁ……おばさまは御行と仲良くしちゃって。私、やっぱりインドに行ったほうがよかったかしら……」

 

「……もし行くんでしたら、今度は私も連れて行ってください」

 

最近、色恋に浮かれてるやつらを見るとムカムカするんだよね。私も煩悩を捨てるときが来たのかもしれない。

 

「あなたたちは何を言ってるの?」

 

「インドに行って悟りを開くという話ですよ」

 

「もともとクリスマスに行く予定だったのよね。ただ、命がうちのクリスマスパーティーに来たいって言うからキャンセルしたのだけれど」

 

その説は迷惑かけてごめんなさい。でもあなたも帝先輩に迷惑かけてるんだからそのくらい許容してほしい。

 

「はぁ、命さんが四条家のクリスマスパーティーに……ん???」

 

「どうしたのよ、そんな宇宙の神秘を理解したみたいな顔をして」

 

どんな顔だよ。

 

「も、もしかして命さんはそのクリスマスパーティー日に、誰かに告白しませんでしたか?」

 

「ぎくっ……」

 

眞妃さんのカップを持つ手が止まった。

 

「よく知ってますね。誰から聞いたんですか?」

 

「政子さんからですけど」

 

あぁ、だから政子さん私がパーティーから帰ってきた日に赤飯炊いてたのね。意味分からなかったよ。でもそれは勘違いだって説明したんだけどな。

 

「告白とは言っても、罰ゲームでですよ。眞妃さんにゲームで負けて無理矢理させられて……」

 

「そ、そうね。無理矢理だったわね。ははは……」

 

「あの、告白の相手ってもしかして」

 

「眞妃さんの双子の弟で私の先輩の、四条帝さんですよ?」

 

──バキッ!

 

かぐやさんの持つクッキーの割れる音である。

 

「眞妃さん? 今からあなたの家に伺ってもよろしいわよね。詳しい話を聞かないと。あぁ、そうそう。行く前にホームセンターに寄りましょうか」

 

「い、一応聞くけど何を買うつもりかしら」

 

「それはもう、ノコギリですよ? なるべく切れ味の悪いものを……ね?」

 

「何を切るつもりなの!?」

 

「ナニを切るつもりです」

 

にっこり笑っているはずなのに、かぐやさんから恐怖を感じる。

 

「そんなに怒らなくても良いですよ。罰ゲームでしたし、そもそも最初から振られるのは分かりきってたので」

 

「どういうことですか?」

 

「帝先輩には初恋の人がいるらしいんですよ。何でも妾の子で、昔助けようとしたけど何もできなくて、それで未練があるみたいで。『この手を取ってくれれば』……とかなんとか」

 

──ゴンッ!

 

かぐやさんが頭を机に落ち着ける音である。

 

「何してるのおばさま!?」

 

「眞妃さん、帰りにホームセンターに寄りましょう」

 

「今度は何を買うわけ?」

 

「縄ですよ。なるべく荒く苦しめるやつをくださいね。ちゃんと絞めなきゃですから……」

 

「何を絞めるつもりなの!?!?」

 

「あなたの弟を絞めたあとに、自分を絞めます」

 

「誰も幸せにならないからやめなさいよ!!!」

 

今日のかぐやさんは情緒不安定だな。

 

「と言うか意味が分かりませんよ。どうして帝さんの初恋が私なんですか? それに私もう彼氏がいるんですし、それを伝えてスッパリと諦めてもらえれば……」

 

コソコソと話すかぐやさん。

 

「そう言う問題じゃないのよ。あいつにとっておばさまは初恋の人であると同時に助けられなかったという後悔の象徴。おばさまが四宮から解放されないとあいつは次の恋に進めないのよね」

 

コソコソと話す眞妃さん。

 

「なんて面倒な」

 

「我が弟ながらそう思うわ」

 

「先輩の初恋の人ってかぐやさんだったんですね」

 

「「聞こえてた!?」」

 

「はい。耳が良いので。そのくらいの声量なら結構聞こえますよ。次はもっと小さく話してくださいね」

 

なるほどね。そういうことだったんだ。

 

でも先輩もお可哀想に。かぐやさんにはもう兄という彼氏がいるし、眞妃さんと同じ道を辿るんだね。流石双子と言うべきか。

 

けど納得できることもある。だから帝先輩は和解案に強く乗ってくれたんだな。

 

これは眞妃さんから聞いた話なのだが、どうにも四条家内で先輩が幹部を説得して回っていたらしい。幹部からの覚えが良い先輩が説得したことで、四条家内での意思決定がスムーズに進んだそうだ。

 

そっか。なるほどね。かぐやさんのため、だったんだね。

 

「め、命。そういうわけだから、帝のことは諦めずにガンガン攻めて行きなさい! 今のあいつなら落とせるわよ!」

 

「あはは、何を言ってるんですか眞妃さん」

 

私、別に帝先輩のこと好きじゃないですから。

 

「だから先輩に告白なんて、二度としませんよ」

 

 

 

 

 

「てなかんじで、色々拗れちゃってるのよ。命は自分の気持ちを忘れてしまったし、帝は帝で恋心とか庇護欲とか正義感を混同しちゃってるのよね」

 

「そうだったんですね」

 

「弟は命のことをおばさまの代わりとして見ていたわ。だからたくさん世話を焼いて、手を貸して、見守ろうとした。対等な相手じゃなく、格下の庇護すべき存在として見てたのよ」

 

私はハーブティーを一口含んだ。

 

「でも、クリスマスパーティーに来たあの子はね、四条家の上層部に啖呵を切って、四宮との和解案を叩きつけた。想像していたよりもあの子はずっと凛々しくて、しかも自分ができなかったことを一瞬でやられちゃったもんだから、帝はたぶん……そのときの命の姿に脳を焼かれちゃったみたい」

 

『四条帝は、こんな私を見かねて助けてくれたんだ!』

 

『人に手を差し伸べることは、高貴なる精神の表れなんだよ! 恥を知れ! 貴様ら程度の老害が彼を語るな!』

 

弟を侮辱した四条家の幹部に命はそんなことを言ったらしい。

 

そしてそんなこと言ってくれる女を、意識せずにはいられる男はこの世にいない。

 

「命さんはそんなことをしていたんですか」

 

「おばさまも次期当主のお兄さんからちゃんと聞き出しておきなさいよ? それでまぁ、それからの帝は四条家の中を駆け回ってるわ。自分が次期代表に相応しくあるために、命がしてくれたことに応えるためにってね」

 

その姿はまるで。

 

「まるで、恋にその身を焼かれてるみたいだったわ」

 

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