プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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78.白銀命はオカルトしたい

 

私にとって二月は特別な月である。

 

一年前先輩と友達になり、そして四宮との取引が始まった月。

 

強くなった私は一年前にようやく人生を歩き出すことができるようになった。色々なことがあったな。優さんや千花さん、兄とかぐやさんといった生徒会メンバーと会い、一緒に夏休みを過ごしたり。四宮と四条の橋渡しをしたり、お母さんと仲直りしたり。

 

まぁ、なんで急に一年を振り返ったかというと、もうまもなくバレンタインデーが来るのだ。

 

一年の間にお世話になった人も増えた。彼らに贈り物をしてあげたい。あとはまぁ、先輩にも板チョコくらいはあげたいものだ。

 

けど、なんだろうな。なんか胸がもやもやして……。

 

そんなときに、私のスマホが鳴った。

 

「はいもしもし、政子さんどうかしたんですか。え? うちの会社の見学をしたい人がいるって? 愛さんのことでしたらそのうち……違う? 秀知院学園の三年生でうちに就職希望の人が押しかけてきた?」

 

だ、だれ???

 

 

 

 

 

「はじめまして、白銀命様。私は阿天坊ゆめ、秀知院学園高等部三年でオカルト研究部の部長をしております」

 

「は、はぁ。はじめまして阿天坊さん。本日はどのような用向きで?」

 

「はい、就職希望なのでインターンをさせてくださいな」

 

ノーアポで押しかけてくるアホがいるか?

 

「そもそもなんでうちの会社に就職希望なんですか?」

 

うちの基本業務は身体障害者向けのアイテムを作ることだぞ。もしくは自治体向けにバリアフリー政策・設備のアドバイスをしたりとか。

 

そもそも一般に求人公開してないのになんでうちの会社のこと知ってるの?

 

「ここなら私がしたいことができると、占いでわかりましたので」

 

「う、占いですか?」

 

「はい。水晶でビビッと」

 

私、オカルトはあまり造詣が深くないので分からないけど、そういうのも分かるものなの?

 

「ちなみに阿天坊さんのしたいこととは?」

 

「私、ホムンクルスを作りたいんです」

 

「はぁ、なるほ……なんて???」

 

「人体錬成をしたいのです」

 

「うちはそういうオカルトな研究はしてないよ!? 他をあたってくれないかな!?」

 

「ここなら研究内容に問わず予算を出してくれると占いで出たのですが」

 

水晶占いってそんなことも分かるの?

 

「いや、たしかにうちのラボには変人奇人が多いですけど、何にでも予算を出すわけじゃないですよ?」

 

「そうなのですか?」

 

「はい、少なくとも実績がなければ予算が出ません」

 

「それは実績さえあれば研究をさせてくれると捉えても良いですか?」

 

「まぁ、はい」

 

「では私は秀知院大学の生物学部進学して実績を積みますので、その後でしたら雇っていただけないでしょうか?」

 

「良いですけど……あれ、これって譲歩的要請法(ドア・イン・ザ・フェイス)されてますか?」

 

「あらあら、うふふ……」

 

掴みどころのない人だなぁ、この人。

 

「では大学では物質に生命を吹き込む研究をしてきますので、楽しみにしておいてくださいね」

 

「一体何をするつもりなんですか!?」

 

頼むからバイオでハザードな展開はやめてくれよ?

 

「それはそれとして、ラボの見学は叶いますか?」

 

「多分行けますけど……あ、政子さん」

 

丁度良いところで政子さんが通りかかった。

 

「今ってラボの見学できますか?」

 

「可能ですが、パワードスーツを着た研究員たちがプロレス大会を開いているようなので気をつけてくださいね?」

 

マジで何してるんだよあの人たち。

 

というわけで私は阿天坊さんを連れてラボを見学した。

 

「おお、お久しぶりです白銀様。コーラ上げるので予算上げてください」

 

「上げません。あとそういう話は政子さんにしてください」

 

「残念。そちらの方は?」

 

「将来の入社志望の阿天坊ゆめさんです」

 

「はじめまして、阿天坊です。こちらでは何の研究をされているんですか?」

 

「マウスを使った遺伝子実験ですね。近親相姦による遺伝子疾患の発症リスクを抑えるための実験を行っています」

 

「だ、誰がその研究の許可を出したの?」

 

「政子社長ですが? ちなみにこの研究には胎児が生まれてくる際に障害を持つ確率を減らす目論見もあります」

 

そ、そうか。頼むから倫理違反だけはやめてくれよ。

 

「ちなみに阿天坊氏の専攻は?」

 

「生物系です。ゆくゆくは人工臓器、果ては人体錬成を目指しております。命様の失った足もいつか再生して差し上げたいですね」

 

なんで知ってるの!? 怖いよ!

 

「素晴らしい! ちなみにあちらの方では不老不死のために、人間の細胞分裂の限界を超える実験を行っているので、よろしければ案内しましょうか?」

 

「是非お願いします」

 

待て待て待て待て、誰が不老不死の研究なんか許可したんだよ!?

 

「総帥ですが、なにか?」

 

生にしがみつくなよ雁庵さん! あとそういうのは他のところでやってくんないかな!? うちは禁忌を研究する場所じゃないんだけど! そっちだって製薬会社とか持ってるでしょうが!

 

なんてこともありながら、私たちは一通りラボを巡った。

 

「ひ、久々に来たらとんでもないイカれたマッドサイエンティストたちの巣窟になっていた。警備を増やしておこう。管理体制も厳重にチェックしなきゃ……」

 

まじでバイオなハザードが起きたら洒落にならんぞ。

 

「本日はありがとうございました、白銀様」

 

「い、いえ。こちらこそ良い視察の機会になりましたよ、阿天坊さん」

 

今度から月イチで視察に来よう。

 

「よろしければ、このあとお時間をいただけませんか。白銀様とは個人的にお話をしてみたいです」

 

「私と? ならうちの喫茶店にでも行きますか」

 

私と阿天坊さんは喫茶店に向かった。

 

そして久しぶりに客として店長の紅茶を飲む。相変わらず美味しいな。

 

「では早速聞きたいことが。四宮様と白銀様のお兄様はもうセックスはしたのかしら?」

 

「ブ──ッ!!! ごほっ……ごほっ……!」

 

最低だよこの人!

 

「してないですよ、なんてこと聞くんですか!? だ、だいたい何で阿天坊さんが二人が付き合っていることを知ってるんですか?」

 

「以前文化祭で二人がオカ研の占い屋敷に来ていたの。そのときには二人の関係はまだ決まってなくて、未来は良い方にも悪い方にも転がる可能性があったのだけれど……二人が順調そうで良かったわ」

 

「ま、まさか確認するために私にカマかけました?」

 

「あらあら、うふふ……」

 

私やっぱり苦手だわこの人!

 

「聞きたいことはそれだけですか? これ以上セクハラ紛いの発言をするなら帰ってくださいよ」

 

「いいえ、白銀様本人にも聞きたいことがあります。あなた、最近変な事件に巻き込まれてはいないかしら」

 

「じ、事件ですか。特にはないですけど何か?」

 

「なら良いんです。ただ今の白銀様は色々なものに取り憑かれているみたいでして……」

 

「え? 取り憑かれてる!? そ、それは悪霊とかマズイものだったり?」

 

「いえ、守護霊……守護神かしら。命様はそれに守られているので、悪霊の類はとりついた途端からボコボコにされておりますね」

 

「ボコボコ?」

 

「はい、それはもうボコボコに。なので直接的な被害はないとは思いますが、それでも良くないものが纏わりついています。何か心当たりはありませんか?」

 

オカルティックな話は私には分からん。運が良い自覚はあったけど、まさか神様的なものに守られていたとは……は、八幡神様か?

 

「心当たり……特にそういったものは。私は神社巡りとかが好きなので、それが関係したりしますかね?」

 

「直近だとどちらに行かれましたか?」

 

「九州に行きました。太宰府とか阿蘇とか高千穂とか、霊験あらたかな場所は結構巡りましたけど」

 

「高千穂ですか、あの辺りは良くない噂を聞きますからね。そこで拾ってきたのかもしれません」

 

「そうなんですか?」

 

「何年か前にそこで行方不明事件が起きております。一説によれば神隠しとか……」

 

「神隠し……そ、そういえばあの時、たくさんカラスがいたんですよ。それで私のお守りが取られて、一瞬追いかけようとも思ったんですけど、日が暮れて暗かったのでやめたんです。これってもしかして何か関係あったり……?」

 

もしかして私、神隠しに合いそうになってた……!?

 

「……それは単にカラスに光り物を集める習性があるだけです」

 

「あ、あれ? いやでもほんとに異常なくらいカラスが多かったんですよ。もしかしたら行方不明になった人の死体を啄んでいたのかも……」

 

「ただの勘違いですね。まぁ、誰しも深く考えすぎてしまう時期はありますから。うふふ……」

 

は、恥ずかしい。

 

「まぁ、そういうわけなのでお節介ながら少し心配させてもらいました。よろしければお祓いをいたしましょうか?」

 

「できるんですか?」

 

「私、寺生まれなので」

 

寺生まれすごい。

 

「ではいきます。破ぁ!」

 

「ど、どうですか?」

 

「はい。弾かれました」

 

おい寺生まれゴラァ!!!

 

「まるで蛇のように厄が絡みついておりますね。身辺には気をつけてください。近い内に厄災に見舞われる可能性が高いです。キーワードは『車』、でしょうか」

 

「え、嫌すぎる。守護神は守ってくれないんですか」

 

「ある種の試練みたいなものです。諦めましょう」

 

万事休すかよぉ。

 

「そう落ち込まずとも、命に別状はありません。その名前があなたを守ってくれますよ」

 

「そういうものですかね」

 

「はい。それと、これは今日のお礼と厄を払えなかったお詫びです」

 

阿天坊さんはそう言って一枚の紙を差し出した。

 

「これは?」

 

「とあるチョコレートのレシピです。バレンタインデーの贈り物に悩んでおられる様子でしたので」

 

そんなことも分かるなんて。寺生まれすごい……!

 

「作るときは『繧ュ繝・繝シ繝舌Μ繝輔ぃ繧ォ繝√Φ繝(キューバリファカチンモ)』と唱えてくださいね?」

 

「きゅーばり……どういう意味なんですか?」

 

「愛と美味しさを込めるための、魔法の呪文です」

 

よ、よし。これでチョコレートを作って先輩に義理チョコを……!

 

 

 

 

 

「帝先輩、ハッピーバレンタインデーです。板チョコをどうぞ」

 

「お、おう。ありがとう。それでその実験に失敗したみたいなもこもこヘアーはどうしたんだ?」

 

「聞かないでください」

 





「触らぬ神に祟りなし……ですね」

阿天坊ゆめはそう呟いた。
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