「たまにはジャンキーな牛丼ってのも悪くなかったわね!」
眞妃さんがそんなことを言った。
兄、優さん、眞妃さん、愛さん、そして私。
なぜかバッティングセンターの賑やかし要員として参加させられた私は、四人と帰り道を歩いている。
「けど牛丼ってあんなにしょっぱかったかしら……?」
「それは涙の味では?」
「四条はそろそろ、田沼翼をどうこうするより新しい男を見つける方向にシフトしたほうが良いんじゃないか」
「うっさいわね! それができないからこんなことになってるんじゃないの!」
「もういっそのこと愛人枠に収まっちゃえば良いんですよ。ハーレムエンドも乙なものですって」
「だから私の求める愛の形はそんなんじゃないの!」
四人の話に気を取られていたのが悪かったのだろう。
「──!?」
私は背後から迫る人間に気づかず、タオルに染み込んだ薬品を嗅がされて、意識を失った。
「愛……さ……」
「あれ、命ちゃんはどこだ?」
「いつの間に……僕、ちょっと電話かけてみますね」
「……眞妃さん。少しよろしいでしょうか」
「ふーん、そう。御行、優、今日のところは解散よ。命は私たちが見つけておくから安心なさい。……さて、不調法者を懲らしめに行くとしましょうか」
「四条……?」
「四条先輩……?」
「おい、誰が攫ってこいって言ったんだよ。俺は連れて来いとしか言ってねぇだろうが」
「え、でも早坂のときは……」
「早坂愛とこいつとでは立場が違う。そのくらい考えれば分かるだろ。起きる前にもといた場所に返してこい」
そんなペットみたいな扱いしないで???
「す、すいません……」
冷たい声と、弱々しい声。目を覚ました私の耳に聞こえてきたのはそんな二人の声だった。
地面が揺れている? いや、この音はエンジン音か。車の中ってことかな。
いやはや、まさか私を誘拐しようとするやつがいるとは思わなかったよ。
「しかもあなたがね。四宮雲鷹さん?」
「ちっ、起きてやがったか。面倒な……」
「面倒なのはあなたですよ。初対面で拉致とかふざけてるんですか? とりあえず目隠しは外してください。腕と脚は縛ったままでも良いんで。話がしたいんでしょう?」
「……外してやれ」
目隠しが取られて、私は二人の顔を見た。
一人は光のない冷たい目をした細身の男だ。ひんやりかぐやさんによく似た目をしている。
もう一人はメガネをかけた優男だ。眉尻を下げた表情からはとても荒事に向いた性格には思えない。四宮雲鷹の従者だろうか。
「それで、なんで私をここに連れ込んだんですか?」
「惚けんな。大アニキと親父に妄言を吹き込んだのはお前だろう、白銀命」
「ありゃ、バレてましたか」
「鼠みたいにコソコソと人様の家の中でうろつきやがって。しかもただのガキにしては余計な防諜もされてるときた。気づくに決まってんだろ」
「にしては遅かったですけど。気づいたのは正月ですか?」
正月の四宮の会議にて、四宮は旧来の方法を改め四条と和解する方針と決めた。それが彼にも伝えられたのだろうな。
三男にして継母の子である四宮雲鷹は、過激な手段でもってこれまで長男次男に対抗してきた。正攻法だと負けてしまうからだ。そんな彼がやり方を改めろと言われても受け入れられないし、疑問を持つだろう。
『どうして今になって?』、と。
「妹にも取り入ってるそうだな。お前、四宮家をどうするつもりだ?」
私の首に冷たいものが当てられる。鋭い金属の小刀が私の熱を奪った。
よく覚えがある冷たさ。
あぁ、死の冷たさか、これ。この人、私のこと相当警戒してんな。
「四宮家を乗っ取られるとでも思いましたか? それとも、大事な妹が心配でしたか?」
「気色の悪いことを言ってんじゃねぇよ」
「そう警戒しないでください。そもそも私たちの間には何かすれ違いがあります」
一族に話を通すのは黄光さんの役目なんだけどな。また貸し一つだよ。
「私に四宮家を乗っ取る能力も野望もありませんよ。四宮家を乗っ取るつもりなら始めから黄光さんに手を貸さずに、あなたやかぐやさんに手を貸してますし」
「俺とかぐや……?」
「だってそうでしょう。傀儡にするなら、トップの立場は弱い方が良いじゃないですか」
ちょちょ、怖い怖い。小刀押しつけないでよ。
「やめてください。そういうわけなので、私が黄光さんに協力するのは別のところにあります。そこのメガネの人」
「え、私……?」
「私の右足を引っ張ってください」
「なんで???」
「良いから」
そしてスッポ抜ける私の義足を見て、従者の人は酷く驚いた。一方雲鷹さんは眉を顰めるだけ。
もうちょっとインパクトを与えたかったんだけどな。
「この傷は次男に負わされた傷です」
「青龍の──」
「わーわーわー!!! その名前を口にしないでください。聞きたくないんですよ、大っ嫌いなので」
「……クソアニキがどうしたって?」
あ、意外と優しいところもあるのかも。
「交通事故でした。クソトカゲはパブで飲んだ帰り、帰りの車の運転手に無理やり酒を飲ませたそうですよ。ま、遊び感覚だったんでしょうね。それで住宅街を爆走し……ドーン! 一人の少女が吹き飛ばされた」
「……」
「次男のスキャンダルを黄光さんは放置できなかった。だから私を病院に入れて傷を治したあと、口封じに心を折るように仕向けたんですよ。クソだと思いませんか?」
「クソだな」
共感してくれて嬉しいよ。
「でも、私だって自由が欲しい。だから黄光さんに協力しているんですよ。私は四宮の抱える問題を解決するのに協力し、黄光さんは私の自由を保障する。そしてそれは達成されました。今の私を殺すことは何人たりとも許されない。たとえ四宮家一族である、あなたであってもね?」
だからその凶器を今すぐに納めなさいな。ほら、皮膚がちょっと切れて血が流れて来ちゃってるからさ。
「……四宮と四条が和解するって話はお前が仕組んだのか」
「もしかして嘘だと思ってますか? 本当のことですよ。私が仲介人となることで四条は和解に同意しました」
「マジかよ」
マジだよ。君たち四宮一族はみんな似たような反応するね。
「だからそんなに警戒しないでください。私は四宮の味方ですよ」
「だが俺の味方じゃない。大アニキの立場が強くなるのは俺にとって不都合だと思わないか?」
「黄光さんの立場が強い? いいえ、むしろ弱まっていると思いますよ。中二の女子に助けてもらうような人間が四宮の当主に相応しいと、あなたは思うんですか?」
「……思わねぇな」
「ね? だから私は言ったんですよ。黄光さんに、自分の立場を盤石にしたいなら一族の支持を得ろって。なのであなたにも相応のポストを対価に協力要請が来る、はずだったんですけどね……」
「来てねぇな」
「はい。これを決めたのもう半年以上前なんですよ。私はその間に四条を引っ張ってきたんですよ。あの人何やってるんですかね?」
あのクソハゲマジぶっ飛ばすぞ。おかげで私が誘拐されてるじゃないか。
「はん、あの大アニキが俺たち兄弟にポストを用意するようなタマかよ。大方弱みを握って従わせようとでもしてるんだろ。サボタージュされてんな、白銀命」
「やっぱりそうですよね……」
てことは、私が代わりにやらなきゃダメか。
あーあ、面倒くさいからやりたくなかったんだけどな……。
「ねぇ、雲鷹さん。私は四宮家を乗っ取る能力も野望もないと言いました。だけどね──」
そのとき、車が止まった。
「おい、どうした」
「雲鷹さま……! も、申し訳ありません。いつの間にか、囲まれてしまいまして、身動きが取れず!」
「……相手は?」
「──早坂と、し、四条家です……!」
「けど、四条家を動かす能力と、四宮家を改革する意思はあるんですよね」
私はあなたと違って、友達が多いんだよ。
「いつの間に連絡を……」
「義足だけだと思いました? 私のこれ、義眼なんですよ。よくできてますよね? あなたたちのことはよく
「隠しカメラか……ッ!」
正解。あとは録音と発信機の機能もある。愛さん手製のマジックなアイテムだ。
シロガネアイからは逃れられないんだぜ。
そして私の後ろ、車のドアが外から開かれる。
「命、迎えに来たよ」
「命、迎えに来てやったわよ」
「ありがとうございます、愛さん、眞妃さん」
あなたたちってほんと、最高の友達だよ。
「というわけで雲鷹さん、ここまで送ってくれてありがとうございます。ちょうど目の前に私のバイト先の喫茶店があるみたいですし、どうでしょう。私とお茶でもしながら、四宮家の未来について語り合いませんか?」
まさか、四宮家三男ともあろうお方が、レディの誘いを断るなんてしないでしょう?
白銀命好感度チェック(四宮一族)
雁庵→普通よりの好き。かぐやさんとの馴れ合いを見て態度を軟化させた。心残りは全部解消してあげるから、早く死んで?
1アウト:四宮家の当主(監督責任)
黄光→ビジネスパートナーだったのが、無能な同僚に格下げされた。黄光ファミリーは好きだけど、このハゲはあまり好きじゃない。それはそれとしてゲームはする。ボコボコにしてサンドバッグ扱い。
1アウト:イジメ
クソトカゲ→しね。吐き気を催す邪悪。この世にはなくなったほうが幸せになれるものがたくさんあります。とくにお前。……とは言え、まだ和解の余地は残されている。駒になれば生かしてあげなくもない。3アウトじゃないなら……ね……?
2アウト:事故、見舞い
雲鷹→見定め中。どうにも最初から誘拐するつもりはなかったっぽいので嫌い寄りの中立。少しだけ親近感は感じるのでもしかしたら仲良くなれるかも。
1アウト:誘拐
かぐや→好き。義理の姉。お可愛い人。最初こそ警戒していたけど、今では仲良し。兄を幸せにしてあげて。
0アウト:なし