プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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80.白銀一家は和解したい(上)

 

「命ちゃん、俺たちは引っ越しをすることになった」

 

「えぇ!?」

 

喫茶店に訪れた兄は突然そんなことを言い出した。

 

「ど、どうしてですか。まさかいよいよあの安アパートの家賃すら払えなくなったんじゃ!」

 

「違う違う、むしろ逆だから。お父さんのお仕事が上手くいったから、もっと良い場所に住もうって話になったの」

 

姉さんがそう補足説明をしてくれた。

 

そうか、良かった。ホームレスじゃなくて。最悪私が三人を養おうかと思ったもん。

 

「良かった。私、兄さんと姉さんが心配だったんです。あんなセキュリティガバガバなところに住んでると、いつ敵が忍び込んでくるか分からないので」

 

「敵ってなんのことだよ」

 

「ちょっと大げさすぎない?」

 

いやいや、私最近誘拐されたからね。これくらい警戒してもたりないくらいだよ。ましてや兄さんはかぐやさんと結婚するんだからさ。

 

いつ雁庵さんから刺客が送られてきても、おかしくないんだよ? あの人いま頭バカなうえに親バカなんだからね???

 

「ちなみに引っ越し先は決まってるんですか?」

 

「いや、まだ決まってないんだが」

 

「良ければ私の住んでるマンション紹介しますよ。ちなみに予算は?」

 

「20万くらいだな」

 

「なら紹介割引を加味して、家賃はマイナス20万でどうでしょう!」

 

「ほう、マイナス20万──マイナス!? それは俺たちがお金を貰うってことか!?」

 

「はい、私が三人まとめて面倒見ます!」

 

「命の懐事情ってどうなってるの。み、魅力的だけど私は嫌。妹のヒモとか姉としての威厳が……」

 

「悪いが俺も遠慮しておく」

 

「そっか、残念です。でも仕方ないですよね。私の家って秀知院学園を挟んでかぐやさんの家の反対側にありますから」

 

「な、なぜそこで四宮の名前が出てくるんだ」

 

「兄さんのことだから、どうせかぐやさんの家の近くに住むんでしょう?」

 

「バレてる!?」

 

「え、お兄ぃそんな理由で家選ぼうとしてんの? 最悪。性欲に脳を支配されたエロガキ、キモい、私のかぐやさんを汚すな」

 

「辛辣だな! それと四宮は圭ちゃんのものではないからな!?」

 

「うっわ、彼氏としての独占欲出してる。キモすぎ。ほら命もいっしょに、せーのっ」

 

え? わ、わかったよ。せーの。

 

「「きもー」」

 

「妹たちが俺の心を壊しにきて辛い」

 

というか姉さん、兄とかぐやさんの関係知ってたんだね。

 

「ところで20万って結構な額ですけど。お父さんは結局なんの仕事してるんですか?」

 

「あー、それ聞いちゃう? ぶっちゃけ、命が聞いたら嫌がるような仕事かもしれないんだけどさ」

 

「まさか夜職ですか?」

 

お父さん声と人間性は良いからな。ホストやったら意外と人気出そう。

 

「違う違う。個人配信業、いわゆるユーチューバーってやつ。親が世間様に顔を晒してるってなんか、抵抗感あるかなって」

 

「別にないですけど。私だってユーチューバーの端くれですし」

 

「「初耳なんだけど!?」」

 

だって言ってないもん。

 

「ち、ちなみにどんな内容の活動をしてるんだ?」

 

「お兄ぃ過干渉キモい。そんなんだから妹に嫌われるんだよ。ところで命、私には教えてくれない?」

 

「二言目で矛盾してませんか?」

 

そのスタンスだと私に反抗期が来たときに痛い目をみるよ?

 

まぁ教えるけどさ。

 

私はスマホから自分のチャンネルを二人に見せた。

 

「これです、ボイスを録って投稿するASMRチャンネルですね。趣味なので不定期更新ですけど、一定の需要はあるみたいで軌道には乗ってます」

 

「へ、へぇASMRか。確か伊井野が好きだったような。ちなみにどんな内容の動画を……?」

 

『絶命耳かき 〜余命30分のお兄ちゃんであるあなたを妹の私が泣きながら看取ります〜』

 

直近に投稿した動画のタイトルだとこれかな。

 

「ロールプレイ!? しかも大分特殊なシチュじゃん! い、妹が良くない文化に染まってる気がする……」

 

「圭ちゃんだってスパチャの波に溺れかけてたんだし、命ちゃんのこと言えないじゃないか?」

 

「うっさいしね」

 

でもこれ人気なんだよ。コメントとかでも好評だし。

 

『続き……続きはまだですか? あ、絶命してるから続き無いんだった』

 

『水風呂入りながらこれ聴くと臨死体験ができておすすめ』

 

『ぶっちゃけ【@Mei_Hakugin】さんの泣き声聞いたら息子が大きく──』

 

このコメントは消去しとこう。

 

「……ん? これミコさんからのコメントだ」

 

「伊井野から? というか、兄である俺が知らないのになんで伊井野は命ちゃんのチャンネルを認知してるんだよ」

 

知らないよ。あの人私がチャンネル開設した次の日には反応してきたからな。アンテナの張り方が怖いって。

 

「誰の話?」

 

「伊井野は一年の後輩で、生徒会の会計監査だな。前に圭ちゃんが高等部に来たときにはいなかったから、分からないかもしれないが」

 

「風紀委員で規律に厳しい厳格な人、学年模試は不動の一位、姉さんが高等部に進学するころには十中八九生徒会長になってるんじゃないかな」

 

「ふーん……そんな人が命の動画になんてコメントしてるの?」

 

「えっとね」

 

どれどれ、ミコさんのコメントは──。

 

『【@Mei_Hakugin】ちゃん、お兄さんが死んでしまうなんて可哀想!

 

(ノД`)シクシク

 

でも大丈夫、私がお姉ちゃんとして慰めて上げるからね!

 

ヾ(´∀`*)ヨシヨシ』

 

相変わらずこってりしたコメントするなぁ、ミコさんは。ハート付けとこ。

 

「学校とキャラが全然違うんだが? あと勝手に俺を殺すなよ。いや動画の中では死んでるけども」

 

「命のお姉ちゃんは私なんだけど? 同担とか断固として拒否させてもらうから」

 

「まぁまぁ。あ、これかぐやさんからのコメントだ」

 

「かぐやさんがユーチューブでコメント!?」

 

「四宮まで命ちゃんの動画を見てるのか!? 一体どこで知ったんだよ!?」

 

分からない。多分愛さん経由か、ミコさんから教えてもらったんじゃないかな。

 

ほらこれ、アカウント名『かぐや』。本名を登録してるところからもネットリテラシーの無さがにじみ出てるよね。プロフィール画像も紫の背景にひらがなの『か』だし。

 

えーっと、なになに。かぐやさんのコメントは──。

 

『メイドASMRの続きはまだですか?

【スーパーサンクス:50,000円】』

 

だからお金の使い方が荒いんだよあなたは。

 

「返信しとくか。『DLsiteに同人ボイスを出すので、待っててください』っと」

 

「俺が知らないうちに、父親はおろか妹まで動画投稿者に染まってしまっている。世は無常だ……」

 

「わ、私もやっぱりルームツアーとかしたほうが良いのかな」

 

「それよりも姉さんはモデルさんとか良いんじゃないかな。ビジュアルもスタイルもセンスも良いし、十分いけると思うよ」

 

「そう?」

 

「でもSNSで顔出しはリスクがあるからね。やるなら自分がリスク管理や法律に詳しくなってからか、もしくは詳しい人を側に置いたほうが良いと思うよ。それこそお父さんとかね」

 

「そうだな。親父が成功しているのは時の運に見えて、今まで積み重ねてきたものがハマったってのが大きい。圭ちゃんもやるなら遊びじゃなくて本気でやらないと──」

 

「うっさいしね」

 

「心配して言ってるのに!?」

 

その心配が姉さんにとっては受け入れ難いんでしょ。全く、反抗期って度し難いね。

 

……あとは言わなかったけれど、お母さんも頼りになりそうかな。あの人は法律とか税制、お金のことに詳しいから、マネジメントやらせたら誰よりも上手くチャンネル運営してくれると思うよ。

 

ちゃんとコミュニケーションを取らなきゃ、心の内を全く汲んでくれないだろうけどね。

 

なんて考えていたその時、私の耳がドアベルの鳴る音を拾った。

 

「いらっしゃいませ……あ、お母さん」

 

話をすればなんとやら。やってきたのはお母さんであった。

 

「こんにちは命、紅茶を──」

 

「なんでここに来たの、お母さん」

 

次の瞬間私を庇うように立ち、母を睨みつける姉の姿が目の前にはあった。

 

し、しまった! 姉さんはまだ私とお母さんが和解した事実を知らないじゃん!

 

「答えて! 私たちだけじゃなく命まで置いていったあんたが、なんでここにいるの……ッ!」

 

喫茶店に一触即発の空気が漂っちゃった。よし、ここはひとまず私と兄さんで軟着陸させよう。

 

「久しぶりね圭。そんなの、私が命に会いたかったからに決まってるでしょう? まさか御行と圭までいるとは思わなかったけれど。あなたたちとも会えて嬉しいわ」

 

「こ、このクズ。いつまでも自分本位な……!」

 

あ、やっぱり軟着陸無理かも! 墜落どころか地雷踏み抜いちゃったよ! もう最悪だぁ! 誰かこの人の口を塞げよぉ!

 

 

 

 

 

「ど、どうする命ちゃん。ここは俺たちが間に入って──」

 

仏説摩訶般若波羅蜜多(ぶっせつまかはんにゃーはーらーみーたー)──」

 

「って般若心経!? 唱えてる場合じゃないだろ!?」

 

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