プラチナム・ライフ   作:妄想壁の崩壊

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82.白銀一家は和解したい(下)

 

「……久しぶりだな」

 

「……久しぶりね」

 

お父さんとお母さんの二人だけをリビングに残し、私たち子ども組は扉の隅からその様子を覗いていた。

 

「大丈夫かな、兄さん。また姉さんの時みたいに二人を閉じ込めなくても良いの?」

 

「父さんは母さんに未練があって、離婚届にも判を押さないくらいだったからな。大丈夫だろ」

 

「二人とも早く仲直りしてよ、じゃないと夕飯食べられないじゃん」

 

自分はもう終わったことだからって、好き勝手に言うなよ姉さん。

 

「今までのこと、全部謝らせて欲しいのよ。私が──」

 

お母さんがお父さんに謝っている。兄さんと姉さんのこと、私のこと、自分のこと。

 

「ごめんなさい」

 

そしてすべてを聞いたお父さんは言った。

 

「なるほどな、そうかそうか……良いぞ。全部許す」

 

「「「いや軽いって!」」」

 

おっと、思わずみんなで飛び出してしまった。

 

「もっとこう、なんかあるだろう父さん! ほら見ろよ、母さんがどうしたら良いか分からない顔してるじゃないか!」

 

「お母さんのことはもっと叱ってあげないとだめなの! 甘やかさないで!」

 

君らは何でお母さんの親みたいなことを言ってるの? 逆じゃん。

 

「命、私は母親よね?」

 

ほら、お母さん混乱しちゃってるって。

 

「まぁ、待て二人とも。俺はそもそも母さんに責任はないと思っている」

 

「はぁ!? そんなわけないじゃん! お兄ぃを置いていったし!」

 

「それに圭ちゃんを追い出しただろうが!」

 

あ、そ、それ私……。

 

「良いのよ命、悪いのは私なのだから、あなたが気に病む必要はないの」

 

「お母さん……」

 

なら私とお母さんで一緒に背負っていこうね。

 

「そうだな、お前たちの母親はそんな人だ。人の心がわからないし、メシマズだし、理想が高すぎて人とまともに付き合えない人間だ」

 

「うっ、……」

 

「お、お母さん気を確かに」

 

お父さん言い過ぎ、じゃないけど。もっと手加減してあげてよ。

 

「だけどな、そんなことは全て承知の上で俺は彼女と結婚したんだ。だから、すべての責任は俺にある」

 

「あなた……」

 

「俺は最初から、お前を人にしてやれると思っていたから家族になった。実際俺の会社が倒産するまで、家族は上手くいってただろう? あの頃はみんな母さんと仲良かったじゃないか、御行も圭も命もな」

 

「「それはそうだけど……」」

 

わ、私それ覚えてない! 悲しい!

 

でも雰囲気を壊したくないから頷いておこう。

 

「だから家族の絆を壊した責任があるとすれば、それは俺にある。お前じゃない。むしろ謝るのは俺の方だ。俺は失敗した、家族のことを疎かにしていた。本当にすまなかった」

 

お父さんはそう言って私たちに頭を下げた。

 

「いいえ、そんなことない。悪いのは私、許されて良いはずがないの」

 

「まだそう思うのか? 俺を見てみろよ。借金五億を抱えながらも家族に受け入れられてるだろ?」

 

「不本意だがな」

 

「不本意だけどね」

 

職が判明しても相変わらず家庭内でのヒエラルキー低いね。というか借金五億ってなに? どうしたらそんなことになるの?

 

「お前を許さないなら、あの日に離婚届に判を押していた。俺はまだお前に未練がある。帰ってこい、令」

 

「でも、私は全然ダメだったのよ。完璧じゃなかった……」

 

「関係ない。それに俺はそこも含めてお前を愛してる。知らなかったのか?」

 

「み、御城さん……」

 

な、なんだか聞いてるこっちまで恥ずかしくなってくるな。

 

「……なら、ただいまって言っても良いかしら」

 

「当たり前だろ、おかえり」

 

斯くして白銀家の7年以上に渡る夫婦喧嘩は、二人の抱擁によって幕を閉じましたとさ。

 

うぅ、泣けるね。私感動して泣いちゃったよ。涙がちょちょぎれそう。

 

きっと兄さんと姉さんも……え、何そのゲボ吐きそうな表情は?

 

「ふ、二人ともお父さんとお母さんが仲直りしてくれて嬉しくないの?」

 

「嬉しくないわけではないが……それはそれとして、目の前で親にイチャイチャされると、どうしてもな」

 

「今日は許すけど二度と私たちの前でやらないでね」

 

「「酷い……」」

 

どうやらお母さんはお父さんと同じヒエラルキーに加えられたらしい。家族の中に入れただけで良かったのか?

 

「……それと、一応交渉材料として持ってきたものがあるのよ。結局使わなかったけれど、あなたに渡しておくわ」

 

「ん、妻から久しぶりのプレゼントか。一体なんだ?」

 

抜け目ないな、お母さん。許される気満々じゃん。家族から逃げるなって言ったのは私だけども。

 

「通帳よ。その口座には一億入っているわ」

 

「「「一億!?」」」

 

「あとは私が持つ証券口座の方に、時価にして四億があるわ。借金の返済にあててちょうだい」

 

「いつの間にそんなお金用意してたの、お母さん」

 

「命が事……入院した後に稼いだのよ。どんな結果になろうと、せめて子どもたちが将来にわたって生きていける分は稼いでおこうと思って。だから、別にあなたのために稼いだわけではないわ。でもまぁ、今のところ有意義な使い道はこれくらいでしょうし……」

 

なんてお母さんが話していると、その手から姉さんがスッと通帳を奪い取った。

 

「お父さんを甘やかさないで???」

 

「……え?」

 

「最近稼げるようになったからか知らないけど、私知ってるから。お父さんがパソコンで高級車販売サイトをブックマークして眺めてるの」

 

「父さんそんなことしてたのか」

 

「バレてしまったなら仕方ない。そうだ、父さんは高級車が欲しい! 節税にもなる!」

 

「バカなこと言わないで。ほら見てよ、今の状況で借金帳消しになったらお父さん絶対良くないお金の使い方するよ? お父さんの借金はお父さんに返させて。あと贈与税の問題とかもあるでしょ。持って帰って、厳重に管理しといて」

 

「は、はい……」

 

お母さんは完全に萎縮して、姉さんの言いなりになってしまった。うん、白銀家の家庭内ヒエラルキートップは姉さんで決定だな。

 

「それじゃ、ご飯にしよ。お父さんとお兄ぃはご飯作って……待って、お母さんは座ってて。絶対に台所になんて立っちゃだめだから」

 

逆亭主関白!?

 

「はい……」

 

「命は私の隣……膝の上に座ろっか」

 

「はーい」

 

そして私の地位は白銀家上位者、圭姉さんの愛玩動物の枠らしい。

 

「よしよしよし──」

 

「なぁーん」

 

別に嫌じゃないですけど? むしろ好きですけどなにか?

 

「よしよ……ん、何か白いのが手についてる。これ、化粧? 命って厚化粧して──」

 

あ、ま、まずい!

 

「な、何その傷……?」

 

なぜだ運命よ! なぜ貴様はいつも私たち家族の心を傷つけるのだぁ!?

 

 

 

 

 

このあとめちゃくちゃ説明して、めちゃくちゃ心配されて、めちゃくちゃ泊まることになって、めちゃくちゃ添い寝をした。

 

右を向いても左を向いても家族の寝顔が見える。

 

幸せ満点だね。

 





白銀命は夢を見る。





「良い加減出てこーい!」

「あなたは包囲されていまーす!」

「記憶と恋心を返せー!」

「う、うるさい! 『ぼく』なんていない方が上手くいってるじゃないかー!」

「強情な……よし、クレーンと鉄球を持ってきて扉を壊そう!」

「「異議なし!」」

「も、もうだめぽ……」





「なんか、私があさま山荘事件してる夢見た」
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