【二人の誕生日の日】
「命さん、今日は3月3日ですよ!」
「はい、そうですね、千花さん」
「3月3日ですよ!」
「はい、そうですね」
何度も言わなくても聞こえてるよ。
「まさか命ちゃん、今日が何の日か知らないんですか……?」
「……?」
3月に入った。もう今年度も終わりが近い。そんな日に喫茶店にやってきたのは生徒会一同である。
「今日は私の誕生日なんですよ!? なんで命さんは覚えてないんですか!?」
「藤原さん、プレゼントを強請ろうなんて図々しいわよ」
「そうですよ藤原先輩」
「しゃらっぷ! かぐやさんとミコちゃんは黙ってて!」
相変わらず騒がしい人だなぁ。
「はぁ、そうですか。それはそれとして優さん、誕生日おめでとうございます」
そう言って私は優さんに誕生日プレゼントを渡した。
「ありがとう。開けても良いか?」
「どうぞどうぞ」
「命ちゃんは石上に何を……ゲームのコントローラーか?」
私が優さんに贈ったのはゲームパッドだ。背面ボタンが付いてるカスタム性も値段も高いやつ。お値段三万円強。
「マジか、めっちゃうれしいよ。ありがとう」
「いえいえ、それでまた一緒にゲームしましょうね」
なんて和やかに会話をしていると、バイブレーションを始めたピンク人間が一人爆発した。
「どうして石上くんにはあって私にはないの──!?」
「まぁ仕方ないだろ、藤原はあれだったし」
「どういう意味ですか会長!」
「どういう意味も何も藤原さん、あなた命さんの誕生日のときハワイにいたでしょう? それで自分だけ祝ってもらおうなんて虫が良すぎませんか?」
「え、あ……!」
そうだぞー、千花さん。半年前の自分を恨むんだな。
「た、たしかに私は命さんの誕生日を完全に忘れてましたけど……で、でもでも! 優しい命さんはそんな報復みたいにわざとプレゼントを用意しないなんてことしませんよね?」
「……ぷい」
「後生ですからぁ!」
まったく、しょうがないなぁ。
「冗談ですよ、千花さん。ほら、ちゃんと用意してますから。誕生日プレゼント」
「やったぁー!」
「命ちゃん、藤原先輩を付け上がらせると碌なことにならないぞ」
まぁまぁ、見ててくださいよ優さん。
「プレゼントは何ですかねー! ……あ、え、ほんとに何ですかこれは」
「はい。犬用の首輪です!」
「……み、見間違いですね! 他には──」
「ドッグフードです!」
「……」
「犬用のおもちゃもありますよ!」
「どうして!?」
いやー、実は姉さん経由でプレゼントを選ぶのを手伝ってもらったんだよね。
千花さんの妹の萌葉さんに。参考になったなぁ。
「てめぇゴラ藤原ァ! 命ちゃんに何吹き込みやがったぁ!?」
「か、会長! そのトイレットペーパーで藤原先輩をどうするつもりですか!? 四宮先輩も笑ってないで止めてくださいよ! あと伊井野も!」
「ふふ、今日も会長がお茶目でお可愛いですね」
「石上が苦しんでる姿を見ていたいからヤダ」
「あははっ、千花さんの困り顔おもしろ。写真撮って萌葉さんに送っときますねー」
「萌葉の差し金ですかぁ──!!!」
今日も生徒会は愉快です。
「真面目に言うと、千花さんが飼ってるペス君に使ってあげてくださいね。間違っても人が使うものではありませんから」
「使いませんよ!?」
【つばめさんが相談に来た日】
「私、卒業式の日に優くんのこと振っちゃうおうと思うんだ」
喫茶店に来たつばめさんはそんなことを言い出した。
「優くんのことは好きだよ。でも、やっぱりね、良い後輩だって思っちゃう自分がいるんだ。こんな状態で付き合っても──」
「そんな言い訳じみた言葉で言い聞かせなくても大丈夫ですよ」
「……」
「つばめさんが悩んで導き出した答えなら、それで良いんです。誰も責めたりなんかしませんよ」
「でも、優くんはきっと傷つくよね……」
そりゃそうだろう。私や優さんみたいな根が陰の者にとって、告白は一世一代のものだ。
「そう思うと、心苦しくて……」
「つばめさんはモテますよね? もっと振るのに慣れてると思ってたんですけど、案外思い悩むんですね」
「優くんは今までの男の人とは違うもん。本気が伝わってくるから、その分私も本気なの。だから……」
「つばめはもっと気楽に考えても良いんじゃないかな」
突然、横からバリトンボイスが飛び込んでくる。
「お、伯父さん!? びっくりさせないでよぉ……」
「普段喋らないんだから、言葉を発する前に何か合図してくださいよ。驚きますって」
「私は猛獣か何かなのかな?」
物音を一切立てずに佇むその姿は、さながらサバンナのハンターである。
「でも、気楽にってどういう意味なの?」
「そのままの意味だよ。つばめはもっと気楽に、きっぱりはっきりとお断りすれば良い」
「でも、それじゃあ可哀想じゃ……?」
「はぁ、分かっていないね。本気で好きなら一度や二度振られたくらいで諦めないよ。なんなら大学まで行って追いかけるものさ。私はそうした」
「そうなの?」
店長、あなたは大分奇特な例なの。姪に変な事例を学習をさせないであげて。
「だいたい、つばめはその子と会ってどれくらい経つんだ?」
「えっと、体育祭からだから……まだ半年くらい?」
「たった半年で運命の相手なんて決められるはずがないんだよ。つばめの感覚は間違っていない」
「そ、そうなのかな……」
「そうだとも。だからあまり深く悩まず、振ってあげなさい。向こうがそれでもと諦めずに追いかけてくればまた考えれば良いし、それで諦めてくれたらそれっきりだ」
「う、うん。分かった。ありがとう伯父さん。命ちゃんも、相談に乗ってくれてありがとね!」
「私は特に何もアドバイスしてないですけど……」
そう言ってつばめさんは喫茶店を去っていった。
「命さん、秀知院マジックって知っているかい?」
「知らないですけど、なんですかそれ」
「簡単に言うと、高等部を卒業して外部進学をした子に起こる現象でね。よその大学生の質があまりに低くて、秀知院の頃の元カレや元カノとヨリを戻したくなる現象のことだよ」
あー、なるほど。確かに、秀知院学園はお嬢様学校だ。そのへんの公立校や大学に比べたら人として出来てる人間が多い。
幼等部から高等部までずっと秀知院学園にいた人がいきなり外の人間に触れたら……うん、いかに秀知院に通ってた人たちが品行方正だったかを知ることになるだろうな。
つばめさんがそうなる可能性はある。優さんって世の中の男と比べたら大分上澄みだよ。ステータスだけで見たら中堅だけど、中身が凄く優良物件だ。
「まさか、それを狙って?」
「いやいや、ただ私のときはそうだっただけだよ?」
「このたぬき親父」
あなたたちの世代も、頭脳戦してたんだね。恋愛って大変だなぁ。
「あ、お客さんだ。いらっしゃいま──み、ミコさん……!」
「さっきつばめ先輩が出ていったのが見えたけど、何話してたの? まさか、石上のこと……?」
光を失った暗い目でミコさんはそう言った。いけない、暗黒面に落ちかけている。
「は、ハーブティー淹れますね」
でも大丈夫だよミコさん。つばめ先輩は優さんを振るつもりだから。
……あれ、待てよ。そしたらミコさんが優さんに猛アタックするよね。それで出来上がった頃につばめさんに秀知院マジックが起こるってこと?
店長、もしかして滅茶苦茶余計なアドバイスをしちゃったんじゃ……?