【先輩が来た日】
「ふぅ、疲れた」
今日のリハビリが終わった。元の体力は十分取り戻せたように思う。ま、一週間眠ってただけだったしな。前回とは状況が異なる。週末明けには学校にも通えそうだ。
「うんしょ……」
義足を外しベッドの上に座る。やっぱりうちの会社が作った機械式の義足じゃないと疲れるな。まぁ、筋トレだと思うしかない。
汗をかいてしまったので、ボクは上の服を着替えようと、上半身に纏っていた衣服を全て脱いだ。
──ガラッ!
そのとき、扉が開いた。
「命、お見舞いに……」
「へ?」
「あ」
ベッドの上で上裸でフリーズするボク。
扉を開けたままフリーズする帝先輩。
何が悪かったと言えば、カーテンをちゃんと使わなかったボクが悪かった。
「の、ノックくらいしてよバカッ!」
「あ、ご、ごめん!」
「このっ──うわ!」
「危ない!」
焦ったボクは義足を外していることを忘れ、先輩に一発かまそうとしてベッドから身を乗り出してしまった。
すぐさまバランスを崩し床に倒れるボク。
「……大丈夫か?」
「あ、ありがとうございましゅ……」
だけど、あの日と同じように先輩はボクのことを支えてくれた。
「……」
「……」
だけどまぁ、言うまでもなく今のボクは上裸なわけで。しかもあのときと比べたらだいぶ
「……すけべ」
「マジでごめん! でも不可抗力だろ!?」
つまるところ、姉が一昔前のツンデレなら、その弟は一昔前のラッキースケベ属性だったということだ。
……は、恥ずかしい。体が芯から燃え上がるくらい熱い。このまま燃えて死んでしまいそうだ。
「い、いつまで触ってるんですか……?」
「あ、いや。べ、ベッドに寝かせれば良いかな」
「ボクを上裸のままでいさせるんですか……?」
「え?」
「腕、鈍いの知ってますよね。服着せてくださいよ、せんぱい……」
な、何を口走っちゃってるんだボクは。
「わ、分かった」
承諾されちゃったよ!?
もうだめだ、混乱と恥ずかしさで頭が回らない。
「クローゼットの中に替えの病院着があります。あとその下に肌着、その横に下着が……ブラが入ってるので、取って来てください」
「……りょ、了解」
あ、あばばばば。せ、先輩は黒いのが好きなの? それを持ってきたってことは、それを着ろってことだよね?
「じゃあ、着ますね……」
「……」
「う、後ろでホック留めてもらえますか?」
「え? あ、あぁ、留めれば良いのか。ま、任せろ」
「もしかして留め方分からないんですか?」
「ギクッ」
「ぷっ……あはは! ブラもズボンのホックと同じで、単に金具をかけるだけですよ」
あー、おもしろ。なんか恥ずかしさが吹き飛んじゃったな。
「先輩って童貞でしたもんね、なら仕方ないか」
「なっ、どどど童貞ちゃうわ!」
挙動不審気味にそう否定する先輩。
「お可愛い誤魔化し方しちゃって……なら、女の子の裸とか見慣れてるんですか?」
「め、命?」
「ねぇ、どうなんです……?」
ボクは先輩と向かい合うように座り直し、体を寄せた。
ボクは全部思い出した。あの日の恋心を、先輩に告白して振られた苦い思い出を。
ボクは先輩に異性として見られてない。ならば、異性として意識させてみせよう。
ボクは、今から先輩を──。
「命……なんというか、無理してないか」
「わか、りますか?」
だめだな、ボク。言い訳できないくらい図星だった。
「体が震えてるだろ。どうした急に……?」
「ボクは、前に告白した通り、先輩のことがす……好き、です」
「……」
「先輩がまだボクを異性としてまだ認識してくれていないことは理解してます。だから、ちょっと大人ぶっちゃいました」
「命……」
「でも、全然だめですね。怖いんです。見たら分かるでしょう。ボクの体は傷だらけだ。口には裂けてるみたいな傷跡があるし、右腕は継ぎ接ぎの縫い目があって、片足は欠けてる」
だから。
「ほんとはこんな醜い姿、見られたくないんです……」
「そんなことない」
「は、え……?」
先輩の手がボクの肩に触れ、互いの視線が重なる。
「確かに命は傷だらけかもしれない、だけど、気高く生きているだろ。それにあの日あの場で四条相手に啖呵を切って、俺のために怒ってくれた命は、この世の誰よりも立派で、輝いていて、綺麗……だったよ」
熱い。体が燃えているのかと錯覚するほどだ。
「俺はそんな君が──」
彼の深紫の瞳はいつになく真剣で、ボクは目が離せなかった。
──ガラッ!
「命、見舞いに来てやったわ……よ……?」
「「……」」
ベッドの上でほとんど上裸でフリーズするボク。
そんなボクの肩を掴んだままフリーズする先輩。
扉を開けたままフリーズする眞妃さん。
「まままっ眞妃さん!」
「姉さん、こ、これは事情があってな!?」
「失礼しましたー、ごゆっくりー」
「眞妃さん!?」
「ちょ、違っ、姉貴、カムバ──ック!!!」
「着替えを手伝ってた? そんなのナースコールしたら良いだけじゃない」
「「あ……」」
「やっぱりあんたら……」
「ち、違っ、ちがちがちが──」
「ご、誤かっ、ごかごかごか──」
「いや鳥か」
【学校が始まる前日の日】
退院して、ボクは家へと戻ってきた。明日からはいよいよ学校が始まる。
懸念事項は多い。また以前のように迫害されないとも限らないから、警戒と対策は必要だ。前回は下手に出たから、弱い人間だと思われた。次は強気に振る舞わなければ。
じゃないと、ねえねにも被害が及ぶかもしれない。
それに四宮家の方も気がかりだ。切り捨て予定の派閥どもが活気づいているらしい。謀略に気づいたか、それともボクという外部から口を出す邪魔者が倒れたことを知って排除に動き出したのか……。
こっちはこっちで、兄とかぐやさんに飛び火する可能性がある。
面倒くさいな。
まぁ、ともあれ対策はしてる。何とかしてみせるさ。今までのボクはそうしてきたんだから。
……電話が鳴った。相手はお母さんだ。
「もしもし、お母さん?」
『命、言われた通りあの人とは離婚したわよ』
「ごめんね、わがまま言って」
『必要だったのでしょう? 構わないわ。事実婚状態になっただけだし 』
「全部解決したら、すぐに再婚してくれて大丈夫から」
『そうね、今度は私からプロポーズしようかしら』
もしかしてお母さん、意外とこの状況を楽しんでる? いやお父さんは喜ぶとは思うけどさ。それで良いのか、母よ。
さて、
気張っていこうか、ボク。
「帝は大きいおっぱいと小さいおっぱい、どっち派なんだ」
「そうだな。手のひらよりは大きくて、マシュマロみたいに柔らかくて、あと成長性のある胸が……な、なんでお前らはそんな犯罪者を見るような目で俺を見るんだよ?」
「マジか帝、お前ロリ巨乳派だったのかよ」
「やけに具体性があって犯罪臭がすごいよ。帝ってもしかして彼女いる?」
「……いないな。今は!」
「何故だろうか、俺の本能が今のうちにお前を殺せと叫んでいる気がする」
「なんで!?」