その日、秀知院学園の中等部には超弩級の話題性を持った転校生が訪れていた!
「初めまして、皆さん」
髪型は白髪をリボンで束ねたポニーテール! 左右で異なる色の瞳!
「入院してて学校に来るのが一週間遅れました、今日からこのクラスの一員になります。好きなものは温かいものと縁起の良いもの、嫌いなものは冷たいものと爬虫類。趣味は漫画とかアニメとかゲームは一通り、特に『ブラックジャック』が好きです。最近気づいたんですけど、顔に傷ってむしろワイルドでカッコ良くないですか?」
SFチックなサポーターを付けた右腕! 機械の右足! 裂けたような口の傷!
「得意なことは勉強ですね。ボク、全国模試1位なので……ここにいる皆さんは、学年模試で順位が一つ下がることを覚悟しておいてください」
そしてボクっ娘!
属性のロイヤルストレートフラッシュ!
「ああ、まだ名前を伝えてませんでしたね」
その名は……!
「ボクの名前は
はい、というわけで名字を変えただけのボクだ。
「久遠さんは一番右奥の席に座ってね」
「はい」
それ、主人公席とか言われてる位置じゃん。まぁボクは端っこの方が落ち着くから良いけど。
クラス全員から注がれる『やべぇやつが来た……』的な視線を浴びながら、ボクは席に着いた。
「よ、よろしくね久遠さん」
「下の名前で呼んでください。姓は聞き慣れてないんです」
「そうなの?」
「はい、母が最近離婚したので」
「そ、そうなんだ。め、命さんって目が綺麗だね。オッドアイなんだ?」
「あ、これ右目が義眼なんですよ。なんで本来の色は左目の青ですね、右目の色は日によって気分で変えてます」
ボクはゲーミング義眼を披露した。キラキラ輝いて面白いでしょ?
「あはは……そ、その手は……?」
「事故の後遺症で麻痺があるので、精密動作を可能にするためにサポーターをつけてるんです。近未来で良いと思いませんか?」
「……」
「あと顔の傷と足も事故の後遺症です」
勇敢にもボクに話しかけてくれた隣の席の子は絶句してしまった。
「……こ、困ったことがあれば何でも言ってね?」
ありがとう、君は優しいんだね。でも、ごめんね。ボクはしばらくこのキャラのままで行く。君たちと馴れ合うつもりはない。
少なくとも学年テストが来てボクの力を示し、確固たる地位を築くまではな。
ふはは! それまでせいぜいボクのことを『やべーやつ』として扱いを持て余すと良い!
まさに、完璧な計画!
の、はずだった。
「命、襟曲がってるよ?」
「先生、体育の時間の間命は見学でお願いします」
「命、お弁当一緒に食べよ? 萌葉も一緒にいるから」
「もう、家庭科室はそっちじゃないって。ほら、連れてってあげるから手握って?」
「命、生徒会に興味ない? 部活はどうする? 見学するなら一緒に行こ」
以上、バカねえねが秀知院学園デビュー初日のボクに言ってきたセリフ一覧である。
「お願いやめてぇ──ッ!」
放課後、ボクは空き教室へと姉さんを連れ出し壁ドンで問い詰めた。
「どうしたの、命」
「どうしたもこうしたもないでしょ!? 学校ではボクが良いって言うまで関係を隠すって言ったじゃん!?」
「だから双子なのは黙ってるでしょ?」
「言わなきゃ良いって問題じゃないよ! 態度! 態度が問題なの! あーもう、近寄り難い転校生を演じようとしてるのに、姉さんのせいで台無しだよ!」
姉さんがボクに関わるたびに、クラスメイトの視線が『やべーやつ』から『ただの厨二チックな可愛いやつ』になってるんだよ! 計画が破綻しかけてるってば!
「そもそもなんで私たちの関係隠さなきゃだめなの? 私は命と普通に仲良く過ごしたい」
「とにかくだめ。ボクがここでちゃんと根を張るまで待ってて」
「もしかして、また虐められないか心配してる?」
「……誰から聞いたの?」
「お母さんから」
「ペラペラ喋んないでよもう。ムカつくなぁ……」
姉さんには内緒にしてって言ったじゃん。
「姓を変えたのもそのせい? 自分が虐めの標的になったときに、私を巻き込まないため?」
「……違う。姓を変えたのは四宮家内の派閥のヘイト管理のため。ボクが白銀のままだと、かぐやさんと兄さんがくっついたときに白銀閥ができるんじゃないかって警戒する人たちがいるの。それに配慮してるっていうポーズのため。姉さんのためじゃないから」
……お母さんに離婚してもらってまで姓を変えたのはそれが理由だ。どうせ切り捨てる輩たちとは言え、今刺激して暴走されるのは面白くない。彼らには使い道があるんだ。
四条家の膿とぶつかって対消滅してもらうっていう、使い道が。
だ、だから姉さんのためとか考えてないし。第一、また無様に虐められるつもりはないから。
「……とにかく、そういうわけだから。もう圭姉さんは学校で関わってこないで!」
「嫌だよ。私はあなたの姉、それは親が離婚したとしても変わらないでしょ」
え、何なの。急に芝居ぶった言い方して。
「命が前の学校でいじめられて、人間関係に臆病になったのは分かる。だけど、私を信じて!」
「は、はぁ? さっきから何を言って……」
「誰にも私たちの関係に文句は言わせない。命は私が守る。だって、大切な妹だから」
ほ、ほんとにわけ分からないんだが!
「……よし、もう良いよ──萌葉」
「圭ちゃんったら策士だね。それじゃ、行ってきまーす」
「え、萌葉さん!?」
掃除用具入れから突然現れた萌葉さんは、何かを握りしめこの教室を去っていった。
「なに、なにしようとしてるの姉さん? なんか猛烈に嫌な予感がするんだけど!?」
「まぁまぁ、そろそろ聞こえるから」
一体何を考えて……?
──そのとき、スピーカーから音声が流れ始めた。
『……とにかく、そういうわけだから。もう圭姉さんは学校で関わってこないで!』
『嫌だよ。私はあなたの姉、それは親が離婚したとしても変わらないでしょ』
は!? ま、まさか姉さんッ!
『命が前の学校昔いじめられて、人間関係に臆病になったのは分かる。だけど、私を信じて!』
さっきの会話録音して校内に放送しやがったな!?
『誰にも私たちの関係に文句は言わせない。命は私が守る。だって、大切な妹だから』
「こ、こんなことしてどういうつもり?」
「別に。ただ、命が無理に自分を繕わなくったって、ここではちゃんとやっていけるって知ってほしかったの」
「意味が分からないよ……」
だが、ボクは翌日になってその効果の程を知ることになった。
「命さんって白銀さんの妹だったんだね!」
「もしかして喫茶店でバイトしてるのって命さん?」
「お前さ、いじめられてたんだって? こ、困ったことがあれば俺たちに言えよな!」
「辛いことがあればいつでも先生に相談してね」
「ほら、みんな命のこと大好きになってくれたでしょ?」
姉さんはそう言って笑った。
「あば、あばばば──」
い、いつの間にかボクの評価が『複雑な事情持ちの幸薄娘』になっとる──!!!
ぼ、ボクの完璧なキャンパスライフが……強者としてこの学校を支配するはずだったのに……。
「命ちゃん、元気出して! ほら、私の出汁巻き玉子分けてあげるから」
「おいひぃれす」
隣の席の子に餌付けされる立場になってしまったよぉ……。
新学年が始まって一週間! 訪れた転校生により、秀知院学園中等部三年は命ちゃん見守り隊、ケイメイ姉妹愛学派、久遠命ガチ恋勢に分かれ、混沌を極めていた!