──私立、秀知院学園!
かつて、貴族や士族を教育する機関として設立された由緒正しい名門校である。
貴族制が廃止された今でなお、富豪名家に生まれ、将来国を背負うであろう人材が多く就学している。
そんな彼らを率いまとめ上げる者が、凡人であるなど許されるはずもない!
秀知院学園高等部二年、生徒会会長──久遠命!
偏差値77の当学園において、学年模試は入学以来不動の一位を取り続ける正真正銘の天才!
四宮と四条という本来相反するはずの両財閥に顔が利くことと、そのミステリアスな出自と容姿から彼女の秘密を暴こうとする者は絶えない!
同じく二年、生徒会副会長──藤原萌葉!
政治家一族藤原家の次女、天真爛漫にして不思議娘、学年模試ではトップ10常連! その容姿とスタイルから彼女に恋するものはごまんといる! ……そして皆火傷では済まない傷を負った。
同じく二年、生徒会会計──白銀圭!
一般家庭出身であり外部生の憧れの的! 学年模試は二位、あるいは同率一位常連であるが、残念ながら久遠命に点数で勝ったことはなく本人はそれを悔しがっているとかいないとか。
数字に強く生徒会の会計を任せられる彼女は、裏ではその美貌を生かしたインフルエンサーとして活躍中! モデル業と学業の両立をこなしている!
……なお、彼女と久遠命が実は双子なことは公然の秘密として、生徒たちは胸の奥に潜めていた。
そんな彼女たち第70期生徒会は今!
「「「しんどい……」」」
オーバーワークに陥っていた!
「結局誰もスカウト受けてくれなかったねー」
萌葉さんが残念そうにそう言った。
「はぁ、まさか一年全員にも断られるとは。外部生も誰も捕まってくれなかったし……」
「今は外部生と純院の差別もほとんどなくなって、みんな自分の居場所があるから、生徒会には入らなくても良いのかもね。ほら、元気だして命」
「姉さーん……」
どうも、高等部二年、第70期生徒会長こと久遠命のボクだ。
なぜボクが生徒会長になっているかというとだな、この三年の間に嫌な暗黙の了解ができてしまったからだ。
考えてみてほしい、ボクより前の生徒会長は兄が二年、ミコさんが一年務めた。
……そう! 学年模試一位の人が三年間も生徒会長になっていたのだ。それだけじゃなく、在任期間中に滅茶苦茶活躍した。
兄は自らの活躍を持って純院と混院の差別をなくすべく努力したし、生徒たちにさまざまなイベントを通して活躍の機会を提供した。そしてミコさんはそれを継承、学園内の組織改革を主導し、デジタル化を実践。
そんなすごいことをした二人の、後釜がボクである。
あとはもうお分かりだろう。
誰も立候補者がいなかったんだよッ! 誰が二人の後を継ぎたいって思うんだこんちくしょう!
ボクだって継ぎたくなかったよ? だって面倒くさいもん。でもさぁ、有象無象がこの地位に収まって二人の努力がパーされたら嫌でしょ。思いは、努力は繋いでいかなくちゃ。
それに69期の生徒会メンバー全員が抜けるのは問題があるし。
「せめて前期務めてた先輩が戻ってきてくれたらなぁ……」
「いや、無理だと思うよ。庶務のボク以外……遠野先輩も鐘ヶ江先輩も高野先輩も、みんなミコさんと優さんに恩義があって生徒会に参加してたんだからさ」
「だから私たち三人だけなのね……」
ほんとにきつい。たしかにミコさんが改革してくれたおかげで、内部の仕事は楽になったよ。でもその分外部との仕事が増えた。
この生徒会室にあるクソデカモニターで毎日毎日他校との交流会を計画したり、企業さんとのインターンの話し合いをしたり、部活動同好会サークルの大会や試合の勧誘を受けたりだとか。
「前まで学生自治で良かったのに、外交までさせられてる気分だよぉ……」
「「分かる」」
せめて書記だけでもいてくれれば、もっと楽なんだけどね。
「あ、そういえばさっき校長からこんな雑誌を貰ったんだけど」
萌葉さんが出したのは、水着姿の女性が描かれたいかがわしい表紙の雑誌だった。
「萌葉に何渡してるのあの校長は!?」
「生徒から没収したんだって、教育上よろしくないから私たちに処分してほしいみたいだよ?」
「いや、自分でやれよ」
「一体何が書いてるのかな──」
萌葉さんはパラリと表紙をめくり、中に一通り目を通すと一息呟いた。
「へー、『初体験を高校生までに済ませた割合は34%』らしいよ。この国って淫れてるねー」
「いやいや。サンプルセレクションバイアスでしょ、それ」
そうだぞ萌葉さん。この性行為後進国の日本においてそれはありえないんだぞ。
「でもでも、もしこれが本当なら──この中のうちの一人はもう経験済みってことでしょ?」
「「──ッ!?」」
生徒会室に戦慄が走った。
「つ、つまり萌葉って……?」
「あははー、圭ちゃん。ぶっ飛ばすよ? 偏見だからね?」
ごめん、ボクも正直思った。
「というか、一番可能性が高いのは命ちゃんでしょ?」
「それもそうだね、どうなの命。お姉ちゃんにそこのところ教えて?」
「な、なんでボクなのさ!」
「だって、これ見よがしに見せつけてるじゃん」
「いつも左手の薬指に着けてるでしょ?」
姉さんがボクの左手を持ち上げた。
そして窓から入る日差しに照らされ煌めく、薬指に嵌められた指輪。
……ボクの婚約指輪だった。
「命ちゃん、もうセックスしちゃったんでしょ? セックスしちゃったんでしょ?」
「神聖な生徒会室でそんな言葉を連呼するんじゃないよ萌葉さん!?」
「セックスは神聖な行為だから別に良いでしょ!」
「良くないよ!?」
あと仮にしてても教えるわけないだろ。
「なら交換条件として教えて。命の婚約者って誰なの?」
「そ、それは言えない」
「命に相応しいかどうか、姉として見極めないとダメなの! 言えないってことは、まさか良からぬ交際を……」
「ち、違う! 言えないのは、言ったら日本経済がまた滅茶苦茶になっちゃうからだよ」
「どういうこと???」
ボクと先輩が婚約してるなんて世間にバレたら、せっかく安定してた四宮と四条のバランスが崩れちゃうでしょ。
だから、発表するなら時期を待たなくちゃ。先輩が全部を黙らせて、ボクを迎えに来てくれるまで。
「ほらまた色っぽい顔して指輪を撫でてるよ! これはもうヤってるよね!」
「ヤッてないし! ヤッてたとしても教えるわけない!」
「いつ!? いつ卒業したの! 婚約者の名前か卒業の日のどっちか教えて!」
「なんで姉さんにそんなこと言わなきゃならないのさ! どっちも言うわけないでしょ!?」
「命ちゃんは強情だなぁ。仕方ない。姉さまから受け継いだあれをついに使うときが来たのね……」
萌葉さんは棚をガサゴソと漁り、何やら物騒なものを取り出してきた。
「じゃじゃーん! 嘘発見器だよ!」
「「なんでそんなものが生徒会室にあるの!?」」
「姉さまが生徒会室で合コン(ゲーム)したとき使ったんだって」
生徒会室で合コンするなよ!
「さあ命ちゃん、年貢の納め時だよ……?」
「ひっ、く、くるなぁ……!」
「命、お願い。必要な事なの。命を汚した馬鹿はどこのどいつ……?」
「い、いやぁ……!」
ボクの体によく分からない端子が繋がれた。
「命ちゃんは処女ですか。イエスかノーで答えてね!」
(そうだよ、ここで答えるべきは『沈黙』! 何も言わなければ嘘発見器は使えない!)
「あ、命ちゃんは処女じゃないって出たよ。やることやってたんだー」
「はぁ!? そ、そんなはずはな──」
──ブッブー!
嘘発見器から無情にも音が鳴った。
……。
「ドーンだYO! 引っかかったね命ちゃん! いつ、いつなの!?」
「命、相手は誰? 今からそいつをかぐやさんのお父さんの所に送ってあげる……」
「うわぁぁぁぁ──!!!」
「失礼致します。秀知院学園中等部生徒会会計、四宮
「「あ、黄虎くん。こんにち殺法!」」
「お、黄虎くん助けて……」
絶体絶命のボクに救世主がやってきてくれた。中等部二年の生徒会会計、四宮黄虎くんだ。黄光さんのところの長男である。
「どうも、萌葉さんに圭姉さん。さっぽー返しっす。命姉さんはどうして組み伏せられてるんすか?」
「命ちゃんの婚約者を聞き出そうとしててて。黄虎くんは何しに高等部に? 遊びに来てくれたの?」
「いやちゃいますって。書類のチェックをして欲しくて、無理そうなら出直しますけど」
「会計書類なら私かな。どれどれ、うん計算は合ってるけどコンマの打ち方に表記揺れがあるね。あとここのレイアウトも変えたほうが見やすいかな」
「なるほど、流石圭姉さんっす。ちなみにこっちは──」
姉さんの興味がボクから黄虎くんに移ったみたいだ。良かった。助かった。
「あ、ちなみに命姉さんの婚約者って誰なんすか?」
「せっかくうやむやにできると思ったのに、話戻さないでくれないかな!?」
「いや無理っす。だって命姉さんは四宮を改革してくれた、俺にとっちゃ恩人みたいな人なんですよ。そんな人の相手がどんなヤツか気になりますよ」
『ぶっちゃけ昔のままの四宮を継げとか言われたら、俺は家を抜け出してたかも』……なんて言って黄虎くんは笑った。
「ね、だから教えてくださいよ」
「そうだよ命ちゃん、教えて教えて?」
「私だって義弟になる人が誰か気になるもん」
「……絶対誰にも言わないって誓う?」
「「「うん」」」
「……嘘発見器をつけて誓ってくれたら、話してあげる」
それじゃあ、教えてあげようかな。
ボクと先輩の、馴れ初めについて。
「また彼氏と別れた?」
「うん……」
その日、喫茶店に来たのは子安つばめさんである。彼女はボクの前でハーブティーを飲んで泣いていた。
「はぁ、まあ想像はつきますけど、別れた理由はなんですか?」
「彼からは愛を感じられなかったんだぁ……どうしてかなぁ……私、もう彼氏作るの五人目とかなのに、誰からも愛されてる実感がないよぉ……ぐすっ……」
「はい。で、本音は?」
「──優くんみたいに本気になってくれる男がいない!!!」
つばめ先輩はそう言って憤慨した。
「右を向いても左を向いてもチャラチャラした男ばっかり! 明らか体目当ての男しか話しかけてこない! もうやだよ、『ご飯楽しかったね』の次に『ホテル』と『俺の家』とか言われるデートをするのは! うわぁぁぁん!!!」
「逃した魚は大きかったですね……」
泣き崩れるつばめさんの背中を撫でてあげる。
「……結局優くんは私と同じ大学に来てくれなかったし、気がついたときにはミコちゃんと良い感じになってて、私とはただの友達になっちゃってた。なんで私、彼のこと振っちゃったんだろ……」
「そのときは異性として好きじゃなかったんでしょ?」
「そうだけど、そうだけどぉ……!」
あーあ、先輩と同じタイプね。振ったあとに良さに気づいちゃったか。まぁ、高校生にとっての二歳差と大学生にとっての二歳差は全然違うからな。むべなるかな。
「一度真面目な男の人ともお付き合いしたよ? でも、頭の中で優くんと比べちゃうんだ。優くんはもっと私に夢中で、熱烈にアピールしてくれたって」
「重症じゃないですか」
「私、もう結婚できる気がしないよ……」
「そのうち良い人が出来ますって」
ヨシヨシ。
「命、この私が日本に帰ってきてやったわよ──って、つばめ先輩が命に泣きついてる!?」
あー、また面倒な時に面倒な人が来たなぁ。
「いらっしゃいませ、眞妃さん。もう帰ってきてたんですね」
「向こうの夏休みは早く始まるからね。それにしても、どうなってるの?」
「眞妃ちゃん……」
ボクは眞妃さんにことのあらましを説明した。
「今さら優に未練がある? 二年遅れも良いところね」
「うぅ……」
「でも気持ちは分かるわ! 私も高校時代に失恋経験あるし! まだ傷心気味だし!」
「眞妃ちゃん……!」
「つばめ先輩……!」
あーあ、失恋同盟が結成されちゃった。
「あ、そうだ命」
「なんですか、眞妃さん」
「一応、あいつも帰ってきてるから」
「ふふ、知ってますよ。だってボクは、彼女なんですから」
『石上が私に手を出してくれないの!』
その日の夜、ミコさんとディスコードで通話しながらゲームをしていたらそんなことを言い出した。
「ミコさんってそういう欲求、ちゃんとあったんですね」
『私だって人間だし、一人の女だよ? 彼氏とそういうことするのに、興味は、ある……』
いっやー、しかし成長したな! 去年はあんなにウジウジしてたのに! ほんとに大変だったんだからな! バルーン告白劇の第二弾をやるの!
文化祭は12月だからその時の生徒会長はもうボクだ。わざわざミコさんが『白銀先輩と似たようなシチュで石上に告白したいの。命ちゃん、てつだって……?』なんて言うから手伝ってやったんだぞ。花火まで用意して。
そんなミコさんが今やHするか否か、かぁ。
「──え、まだヤッてなかったの? 半年もあれば普通済ませてますよね?」
『人を獣みたいに言わないでくれる!?』
純粋に驚きだよ。
『それで、どうしたら石上が手を出してくれると思う?』
「自分から求めるしかないんじゃないんですかね」
『無理に決まってるでしょ、そんなはしたない!』
「いやでも、あの優さんが自分から手を出してくると思いますか? 多分、一生かかっても無理ですよ。あの人は優しいから、ミコさんが傷つくとか考えちゃうんじゃないんですか?」
『でも……』
面倒くさい。直接聞こう。
ボクはスマホから優さんに直接電話をかけた。
「あ、もしもし優さん。今大丈夫ですか?」
『え? 命ちゃん今石上に電話してる……?』
『ん、どした命ちゃん』
「ミコさんとはもうHしましたか?」
『人の彼氏に何聞いてるの!?』
『いきなり何聞いてくるんだよ!?』
「いや、ミコさんから相談を受けまして。優さんとそういうことがないから、彼女として不安って言ってましたよ」
『ちょっと、命ちゃん……!』
黙っててミコさん。今から優さんの本音が聞けるから。
『そりゃ僕だって伊井野とそういうことしたいって思わないでもない。でも、あいつを傷つけるんじゃないかって思うとさ……』
『石上……』
『あと僕童貞だから、どうしたら良いのか分からないんだよ』
『絶対そっちが本音よね! 命ちゃん、お願いだから石上を焚き付けて!』
仕方ないなぁ。
「先輩、エロゲと一緒ですよ。まずはデートして好感度メーターを上げて、気分を上げる。そしてムードを作ってしっとりした気分を演出したら、あとは本能に身を任せるままです」
『生々しいアドバイスどうも。流石経験者だな……』
「セクハラ反対です」
『命ちゃんがそれ言うか!? 男女差別だろ!?』
ボクは優さんの言い分を無視して電話を切った。
「はい、こんなもんで良いですかね」
『う、うん。ありがと』
「蝶よ花よと紳士的に扱われるのもうれしいですけど、意中の男に女として求められないって言うのは寂しいですからね。頑張ってください」
『命ちゃんって、やっぱり経験あるよね? に、二歳下の高校生に先を越された……』
「セクハラですよ?」
あ、おいこらミコさん、それボクが倒したボスのドロップ品だぞ! 返せ泥棒!
それから数日しないうちのことだ、ボクは日本に帰ってきたかぐやさんから食事の招待を受けた。
白銀一家+かぐやさんの会食。兄とかぐやさんが帰省したときに毎回行う家族団欒だ。なお今回のような夏休みに限らず月に2〜3回行われている。
気軽に日本に帰ってきすぎなんだよ。
「それにしてもやっぱり目立つね。ゲーミング雁庵さん」
別邸に入ってすぐ、ボクは歴代四宮家の顔が飾られた額縁が並ぶ壁を見てそう呟いた。
うん、左から平安時代の肖像画。右に行くにつれて時代が進み、明治期になると西洋式肖像画になり、白黒写真、カラー写真と変化し、一番右に虹色に輝くアホ面をした雁庵さんの顔があった。
わざわざ色を変化させる理由は何? 青色LEDは故人の顔をゲーミングするために生まれてきたわけじゃないないんだぞ。
しかもこれ葬式にも実際に使いやがったからな。理由は雁庵さんはかぐやさんが写真家を目指してると知ったときに『かぐやの撮った写真を遺影にしろ』って遺言を残したせいだ。そしてかぐやさんが撮った雁庵さんの写真はこれしか無かった。
流石にゲーミングではなかったとは言え、白黒のアホ面雁庵さんが棺の上にあったのは滅茶苦茶シュールだったよ。笑ってはいけない四宮家葬儀24時だったよほんと。
……ちなみに、雁庵さんは去年の1月31日に死んだ。かぐやさんのお母さんと同じ日に死んだのは一重に執念のなす業だろう。地獄で仲良くやってると良いけど。
「……命、かぐや義姉さんのお父さんって、うちの家族がバラバラになる原因を作った人なんでしょ?」
「うん、そうだよ姉さん。だからこうやって死んだあとも恥を晒してもらってるんだよね」
「そんな理由でピカピカ光ってたの!?」
違うよ。理由はかぐやさんの趣味だよ。この顔を見ると笑顔になれるんだって。だいぶズレた趣味だよね。
「命、圭、御行とかぐやを待たせてしまっているのだから、早く行きましょう?」
「うん、お母さん」
「はーい」
母に促され、ボクたちは食堂へと向かった。
ちなみにお父さんは残業で遅れてる。可哀想に、せっかく脱工場長してたのに、兄さんに呼び戻されちゃったせいだ。せいぜい労働の喜びを噛み締めてくれ。南無。
食堂に着いたボクたちは、兄とかぐやさんを交えて美味しい料理に舌鼓を打った。
「颯爽お邪魔します」
「お、来たか父さん」
「こんばんはお義父様」
どうやら父が来たらしい。何やら右手に瓶を持っている。
「シャンパン持ってきたぞ、二人の成人を祝して乾杯しようじゃないか」
「あなた、二人の成人はまだ少し先よ」
「俺たちまだ19だからな?」
「私がお酒を飲めるようになるのは年明けになりますね」
それを聞いて父は残念そうに、母とだけ乾杯をした。
ちなみに父と母はまたヨリを戻した。ボクの姓が久遠のままなのは曽祖父の家の養子になったからだ。
身分に箔をつけるのは、嫁入りするときのためかな。い、一応の保険だけどね。先輩が何とかしてくれると信じてるけどね?
そして会食は和やかな会話とともに進んだ。
「皆さん、今日は泊まっていかれますよね?」
「あ、ごめんなさいかぐやさん。ボクはちょっと……」
家族の皆が頷く中で、ボクだけが首を振った。
「あら、どうしてですか?」
「それは……」
「どうせ婚約者の家に行くのでしょう?」
──ギクッ!
「お、お母さん!」
「ちゃんと避妊はしなさいよ?」
「最低! ボクまだ高校生だよ!」
「でも命、今日学校で経験済みって言ってたじゃん」
「姉さん、黙れい!」
最悪だよ、みんなの前では指輪外してたのに、なんでバラしちゃうのさ!
「なんだ命ちゃん、男がいたのか。はっはっはっ──かぐやちゃん、確かこの家に猟銃はあったな。持ってきてくれないか。安心しろ、俺は猟銃免許を持ってるからな」
何一つ安心できないよ!?
「親父、俺も同行する」
あーもう、過干渉うざいんだよ! 人の色恋にいちいち口出さないでくれ!
「ごちそうさまでした! かぐやさんまた今度お茶しましょうね!」
「はい、是非」
そうしてボクは逃げるように四宮別邸を去った。
「命、いらっしゃい。あんたもうご飯は食べたの?」
「眞妃さん、先日ぶりですね。夕飯はかぐやさんのところで食べてきました」
「そ。帝なら書斎でお父様と話しているわよ」
「分かりました、ありがとうございます」
ボクはそれを聞いて一目散に書斎へと向かう。
「──先輩!」
数カ月ぶりに帝先輩を目にしたボクは、彼に向かって全力で身を投げ出した。そしてそれを受け止めてくれる先輩。
「め、命? 落ち着いてくれ、今父さんと話してるから」
「……あ、も、申し訳ありません、真琴さん」
「いや……帝、私の話は明日で良い。今日はもう休みなさい」
真琴さんはそう言って、笑って書斎から退出した。
ボクたち二人以外が消えたところで、先輩と口付けを交わす。
「ん……先輩、久しぶりですね」
彼の腕に抱かれて、全身で温もりを感じた。
「ノックもせずに入ってきたらダメだろ。命は悪い子だな」
「半年に一度くらいにしか日本に帰ってこない先輩が悪いよ。兄さんたちみたいに毎週帰ってきてくれたら……」
「四条跡取りだから、アメリカでやることがあるんだよ。でもごめん。次からもっと頻繁に帰ってくるよ」
先輩は兄やかぐやさんや眞妃さんと同じく、スタンフォード大学へと進んだ。理由は四条家内で圧力がかかったせいだ。
『四宮家の令嬢とその婿、および双子の姉までスタンフォードに行くのに、肝心の跡取りが国内に居残りだと面子が立たなくない……?』
そんなどうでも良いやつらの意見のせいで、ボクらは遠距離恋愛をするハメになっているのだ。
「許さない、先輩をスタンフォードに入れたやつらには報復してやる……」
「こらこら、命はただでさえうちのおっさんたちに恐れられてるんだから、やめてあげてくれ」
「先輩が言うなら」
お互いの目が合って、そしてまたキスをした。こんなんじゃ足りない。ほんとはもっと四六時中一緒にいたいのに。
「今日は泊まってくのか?」
「……うん、そのつもりだけど。だめ?」
「まさか」
「い、一緒の部屋で寝ても良い?」
「え、あ、明日早いんだけどなぁ……」
「お願い」
ボクの上目遣いに、先輩が逆らえるはずもなく、しぶしぶ頷いた。
「ふふ、先輩照れちゃって。かわい。好き、好き……ちゅっ……好き……」
「め、命。とりあえず部屋を出よう。書斎でイチャついたとバレたら父さんに殺される……」
先輩にお姫様抱っこをされて部屋を出る。
「あ、姉さん」
「……この家の広さに感謝するわ、ほんと」
「な、何がだよ」
「べっつにー」
途中眞妃さんにすれ違った気がするが、ボクはずっと先輩の胸に顔を埋めてたので気が付かなかった。
気がつけば寝室にいて、ボクの体がベッドに置かれる。
「……とりあえず、俺は風呂に入ってくるから──」
「やだ、側にいて。離れちゃやぁなの……」
「いや、俺疲れてるんだけど……」
そんなの知らないとばかりに、ボクは先輩に絡みついた。首筋にキスして、耳に甘噛みして、全力で甘えていく。
「せんぱい、せんぱい、せんぱい……」
「あぁ、クソッ。命ってホントにキス魔だな」
振りほどかれたボクは、ベッドへと押し倒された。
「俺だって命と会うのは数ヶ月ぶりなんだぞ、分かってるんだよな……?」
恥ずかしくなって顔を背ければ、先輩はボクの頬を掴んで、無理やり目を合わせてきた。
煮え滾るような獣欲で理性を失った先輩の瞳には、蕩けたボクの顔が映っていて。
「わかりましぇん、察しの悪いボクにお仕置きしてくだひゃい」
「なら、分からせてやる」
そうして不死の薬は、帝に美味しくいただかれちゃいましたとさ。
ボクの人生はこれからも続いてくのだろう。
家族と過ごしたり、友人と過ごしたり、恋人と過ごしたり、仕事をしたり、学業に励んだり、遊んだり。
夏には花火大会に行って、秋には体育祭をして、冬には文化祭、年が明ければ修学旅行。
政子さんと店長と一緒にお墓参りに行ったり、愛さんが阿天坊さんと人造人間を作ろうとして何故か人工知能が出来て、日本製AIの開拓者としてうちから独立したり、兄とかぐやさんの『プロポーズさせたい頭脳戦(笑)』に巻き込まれたり。
いずれボクも、生徒会長の座を後輩に譲ったりする。
将来は何をしようか。喫茶店を継ぐのも良い、ユーチューブ活動も続けよう、演劇部と放送部の経験を活かし、声優になって思いを言葉で伝えるのも楽しそうだ。
医学分野に投資して、兄さんが薬を研究し、ボクが再生医療と人工臓器を研究することで、一緒にこの世のあらゆる病気や怪我をなくすっていうのも、夢があるな。
あるいは、四宮家と四条家で世界征服と世界平和を同時に実現するとか。
けど、どんなことが起きてもきっと楽しいに違いない。
「は、はじめまして久遠生徒会長!」
「君が見学希望の子だね。はじめまして」
校長に言われて、とある生徒に秀知院学園高等部を案内した。中学生で、来年は外部受験の特待枠を狙っているらしい。
「ごめんなさい、久遠会長に車椅子を押させてしまって」
「構わないよ。……一つ聞いても良いかな。君はどうして秀知院学園に来ようと思ったの?」
「く、久遠会長に憧れたからです!」
「ボクに?」
「私、足が不自由で、小学生の時までいじめられてました。だけど中学に上がってからはそんなものさっぱり消えて……なんでかなって思って、調べたんです」
彼女はキラキラした目で、ボクを見ていた。
「そしたら、中学の風紀委員がすごい厳格だからって分かったんです。いじめは厳しく指導してるって」
「……それと、ボクに何の関係が?」
「あ、えっと、うちの中学は中高一貫なんですけど、高等部の風紀委員長が教えてくれたんです。『この流れを作ったのは久遠さんで、自分はそれを引き継いだんだって』」
あぁ、いつぞやのあいつか。へぇ……ちゃんとボクが言ったこと、守ってるんだ。
偉いじゃん。ちょっと見直した。
「久遠会長は、身体的なハンデがあったにも関わらず誰よりも賢くて、誰よりも気高くて、この秀知院学園で生徒会長もしてるって聞いて、私、久遠会長みたいになりたいって思ったんです!」
「……良いね。気に入った。もし君が来年特待生になれたら、ボクが君を歩けるようにしてあげよう」
「え、ええ!? そんなことできるんですか!」
「魔法でちちんぷいぷい……なんてね。外骨格スーツを作ってるんだよ。まだ作りかけなんだけど……君が入学するまでには作り上げてみせる」
「どうしてそこまでしてくれるんですか? わ、私に返せるものなんて何も……」
「生徒会は、生徒を幸せにするためにあるからね。気にしないでよ」
「私、まだ生徒じゃないですけど……」
「未来の生徒だろう? でも、君が納得できないって言うなら、そうだな……来年生徒会に入って、君も誰かを助けてあげてくれ」
ボクは、色んな人に助けられてきた。だから、色んな人を助けよう。
「はい、分かりました!」
煌めきに溢れた人生。
これがボクの、プラチナム・ライフだ。
約二ヶ月で終わらせることができました。感想評価ありがとうございます。これがなければエタってたと思います。
命ちゃんの物語はここで終わりです。
駄文なのにここまで読んでくれてありがとうございました。
続きはまぁ……もしかしたら【推しの子】二次を書くかもしれません。
久遠命は、星を宿した少女と出会った……的な。
なので、また会えたらよろしくお願いします。
それでは、さようならー。
最後までスクロールしたそこのお前。お主も作品を供給する側に回るのだ、良いな?