主様と彼氏に名前があります
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「初めまして、ユメの彼氏のトオルです」
二週間とちょっと経った日だ。主様のユメが連れてきたのは、俺とは真反対の男だった。
「えっと、これは、どういう……?」
執事たちの前に立つベリアンが、主様とその横に立つ男を交互に見やる。明らかに動揺している様子。もちろん俺もびっくりしたがな。
「なんか分からないけど、手を繋いだまま指輪を嵌めたら、一緒に来ちゃった!」
主様は明るくそう言う。俺が初めて彼女と出会った時もこんな感じだった。世界の悪意という悪意を知らないみたいな顔で、全てをポジティブに捉えるような姿勢は、時々主様を危うくさせていた。
「そうですか……とりあえず、主様のお屋敷をご案内しても?」
困惑しながらも、ベリアンは今後の話を主様に試みているところ、さすがだなと俺は思った。誰よりも大切に思っていた主様には彼氏がいました、なんて一番ショックなのはベリアンだろうに、と。
「うん! てか私が案内するよ!」と主様は、本当に何気ない仕草かのように彼氏の手を取った。「この綺麗な執事はベリアン。前に話をしてた、美味しい紅茶を淹れてくれる人だよ!」
「ああ、ベリアンさんですね」
なんだよ。俺たちの話も共有済みかよ。
だったら俺は、ダラけた執事とかって紹介されているんだろうなと思っていると、主様が彼氏を連れて目の前までやって来た。
「で、この人がハナマル! 優しくてカッコイイ執事なんだよ!」
と主様に紹介されて俺はある意味度肝を抜かれた。それは、主様が俺によく言っている言葉だった。
「俺は全力でダラけてみせるから」
「ふふ、そうやってふざけたこと言ってるけど、ハナマルが優しくてカッコイイこと、知ってるからね?」
このタイミングでそんなことを思い出して、俺は思わず主様から目を逸らした。そうすることで、隣にいる彼氏とやらに目が合ったのはマズかった。
「お話は聞いています、ハナマルさん。いつもユメを守って下さり、ありがとうございます」
俺には出来ないことが多いので、と完璧な台詞を言える彼氏に、ああ、俺は一つも敵わないのだなと痛い程実感した。俺なら、主様が知らない男を連れてきた時点で大暴れしてるね、とありもしない妄想だけを頭に浮かべてヘラヘラと笑ってみせた。
「いえいえ〜、もっと褒めてくれていいのよ?」
せめてもの抵抗のような一言だった。
「はい! ハナマルさんは、男の俺から見てもカッコイイので見習いたいです!」
なんだよ、ただのいい男じゃないかよ。
そうだよな。あの主様が決めたパートナーなんだ。悪魔執事とか、主従とか、そんなことで差別するような人を彼氏にする訳がないんだ。
頭では分かっていたんだ。あの男は主様の彼氏なんだって。
だけど俺の奥底に仕舞うべき気持ちは度々目の前に出てこようとする。
俺、主様のことを……ユメのことが、好きだったんだなって。