ダブルリードの苦労人   作:桜紅月音

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祭りと動き出す歯車

 

縣祭りも気づけば、終盤に差し掛かっていた。

そんな中、僕は山を登っていた。何故かというと_

 

「麗奈…急に呼び出すから何事かと思えば…」

 

「そう言いながらも来てくれるんですね」

 

「まぁ、ね…大事な後輩に変わりは無いし」

 

麗奈に『もし、大吉山の近くに居るなら展望台まできてくれませんか?』と送られてきた為である。

優子達には『用が出来たから先に帰ってて』とだけ言って、分かれた。

 

「拓哉先輩、もっと私に近寄ってもいいですよ」

 

麗奈とちょっとだけ離れてベンチに座ると、麗奈がそう言ってきた。

 

「そういう事をして、ばれたらうるさい連中が居るので出来ない」

 

主に、南中のメンバー達だけど…

 

「ふふっ、そうですね、先輩、色んな人から頼られてますもんね」

 

「そんな事を言うなんて、麗奈らしくないね」

 

さっきから話す内容といい、雰囲気といい麗奈らしくない…なんでだろう

 

「それで、なんで呼んだの?」

 

「先輩に私の音聞いて貰いたくて」

 

「…なんで?」

 

「理由が必要ですか?」

 

「そういう訳じゃないけど…」

 

「じゃ、理由を言う必要はないですね」

 

そう言って、麗奈は持ってきていたトランペットを手に持って

 

「じゃあ、聞いてください」

 

と言い、吹き始めた。

時間にして数分後_

 

「どうでした?」

 

「何も言う必要がないね」

 

「そうですか…」

 

そんな会話をしていると、登山道の方から足音が聞こえてきた。

こんな時間に登ってくる人なんて居るのだろうか…それとも、何かしらの動物?と思っていたら、見知った顔がやってきた。

 

「麗奈、と拓哉先輩、なんでこんなところに居るの?」

 

「それはこっちの台詞だから」

 

久美子から飛んできた言葉に僕はそう返す。

 

「ていうか麗奈、ここに来るなら 来るって言ってよ 危うく麗奈の家まで行くところだったんだよ」

 

「いや 本当に来るとは 思ってなかったから」

 

「何それ、麗奈は私に来てほしくなかったの?」

 

「それはないけど…」

 

麗奈はそう言って、僕の方をちょっとだけ見て、すぐさま久美子の方に振り向いた。

 

「今は来てほしくなかったかも」

 

「何それ」

 

「っていうか、送った分見た?連絡入れたんだけど」

 

「あ…気づかなかった…」

 

どうやら…麗奈は久美子にも連絡を入れていたみたいだけど…この感じだと見てなかったな多分

 

「塚本は?」

 

「さっき家に帰った」

 

「あーあ、悪い事をしたかな」

 

「最初から麗奈の所に行くって言ってたから大丈夫だよ」

 

「一つ借りができた」

 

「何が?」

 

「こっちの話」

 

何の話をしているか分からないけど、いちいち突っ込む必要はないし、このまま放置でいいか

すると、久美子は鞄に手を突っ込んで串が折れた飴を出してきた。

 

「ごめん みかんアメ折れちゃった」

 

「見事なくらいに折れてるね」

 

「あはは…先輩が居ると思って無くて二つしかないですけど…」

 

「ううん、気にしないで。麗奈と二人で食べて」

 

僕はそう言って、ベンチから立ち上がって展望台の手すりに手をかけて宇治の夜景を見る事にした。

すると、背後から麗奈の声が聞こえてきた。

 

「ねえ 久美子」

 

「ん?」

 

「将来のこととか考えたりする?」

 

「そりゃあね 来年はもう3年生だし」

 

「私はプロになりたい そのために ここまで 頑張ってきたんだし」

 

「うん…」

 

「でも不安」

 

「何が?」

 

「いつか 一緒にいられなくなっちゃううんじゃないかって…」

 

「そんなこと…」

 

「今はいいけど、同じ学校で、同じ部活で、でも、そこから外れたらどうなるんだろうって、たまに考える、まあ、考えても仕方ない事かもしれないけど」

 

「音楽してないと、一緒に居たらだめなの?」

 

「そんな事はないって、頭では分かってる。でも、何故か久美子相手だと余計な事を考えてしまう」

 

「麗奈…変わったね」

 

「え?」

 

久美子と麗奈の話を聞いて、つい口を挟んでしまった。

 

「麗奈と出会った時と比べて随分と変わったなって」

 

「そうですか?」

 

「そうだよ!」

 

僕の言葉に、麗奈は疑問をぶつけてきて、それに対して久美子が返した。

 

「だって、あの頃の麗奈は、話しかけにくかったからね。優子からの愚痴も凄かったし」

 

「その際はすみませんでした…」

 

「いやいや、謝る事ではないから。済んだ事だし。あの優子はちょっと面白かったし」

 

「先輩…楽しんでますよね」

 

「まぁね、麗奈がそうやって不満事を口に出すなんて思ってなかったけどね」

 

「ですかね?」

 

「うんうん」

 

僕と麗奈が会話をしていると、隣の久美子が頬を含ませていた。

 

「…あの頃は、麗奈って呼ぶの私だけだったのに…」

 

「嫉妬?」

 

「べつにー」

 

「ふふっ」

 

「先輩!笑う事じゃないです!」

 

「ごめんごめん」

 

「もう、期限直してよ、久美子の為にコンサートしてあげるから」

 

手に持っていたトランペットに、息を吹き込んだ

 

「何吹いて欲しい?」

 

「なんでもいいの?」

 

「まあ、知ってる曲なら」

 

「じゃあ、『リズと青い鳥』の第三楽章。オーボエソロのところ」

 

「アレンジでもいい?」

 

「もちろん」

 

そして、麗奈のトランペットの音が響き渡った。

 

 

-その後-

 

「別にここまで付いて来なくて良かったのに」

 

「先輩を呼び出してしまったので…」

 

あの後、大吉山を下りて別れるつもりだったのだが、宇治駅まで付いて来た。

そして、今はバスを乗る最中だった。

 

「じゃあ、また明日学校で」

 

「はい、おやすみなさい」

 

「うん、二人とも気を付けて帰るんだよ」

 

僕がそう言うと、バスの扉が閉まってバスは走り始めるのと同時に、二人に手を振って僕はスマホを取り出し目を通した。

 

友恵『また一緒にどこかに遊びに行こ。お礼も兼ねてね、それと二人きりで』

 

というメッセージを見て、僕は『いいよ』と返した。

 

 

******

 

「久美子」

 

「どうしたの?麗奈」

 

「拓哉先輩の事、狙おうかなって」

 

「えっ!?」

 

「優子先輩達、告白したらしいけど、先輩、話を保留中みたいだし」

 

「麗奈…滝先生の事はいいの?」

 

「それとこれは別」

 

そんなやりとりをする久美子と麗奈は、祭りで普段より明るい宇治の街へと消えていった。




えっと…特典で梨々花ちゃん出ました。

薄々出るだろうなぁとは思ってましたけど…

後、映画見てクラリネットメインの小説とか面白そうだと思いました。
さて、野球ユーフォの話設定にかなり手こずっております…
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