友恵がマネージャー宣言をして丁度一週間。オーディションの日がやってきた。
「雨だねぇ…」
「ですね~」
教室から外を見ると、地面をしっかりと濡らすくらいの雨が津々と降っていた。
窓にも雨粒がしっかりと付いていた。
「この時期ってむしむしとするから苦手なんだよなぁ…」
「あ~分かります~」
「梨々花ちゃんは初めてのオーディションだった訳だけど、どうだった?」
「先輩のおかげで緊張はしませんでした~」
と言ってピースをする梨々花ちゃん。
この感じ的に緊張はしてなかったのかな。
「何かをしたって事はないんだけどね…」
「そんな事ないですよ〜」
梨々花ちゃんとそんな会話をしていると、廊下を走る音が聞こえてくる。
マネージャーとなった友恵が一日あっちこっちと回っているからである。
「加部先輩大変そうですね」
「それに加えて、僕達幹部の仕事もやってくれてるし助かってるよ本当に」
「先輩って加部先輩の事、凄く信用してますよね」
「まあね」
僕がそう言うと、梨々花ちゃんの表情が変わった。
「でも…先輩は加部先輩に優しすぎると思うんです」
「そんな事はないと思うんだけど」
「先輩はそう思うかもしれませんが…私はそう思います!」
「誰にでも優しく接するようにしてるからだと思うけど?」
「む~」
僕がそう返すと、梨々花ちゃんは頬を膨らませていた。
「えっと…今日の梨々花ちゃんおかしいけど…どうしたの?」
「その優しさを私にもっと向けて欲しいです…」
「梨々花ちゃんにも同様にやってると思うけど?それじゃダメなの?」
「ダメって事ではないですけど…」
梨々花ちゃんがそう言うと、低音パート_ユーフォの音が聞こえてきた。
窓を開けて、肘を付けて音を聞く。
「先輩、濡れますよ~」
「梨々花ちゃん、大丈夫だよ」
梨々花ちゃんにそう言いながら、僕は音を聞く。
制服がちょっとだけ濡れてしまったけど、問題は無い。
夏紀、久美子の二人がやって…今は奏ちゃんかな。
「奏にも頑張って欲しいです」
「そうだね。みんなで行きたいよね」
「はい」
そんな中、聞こえてきた音に何か違和感を感じた。
そして、すぐに音は消えてしまった。
「ちょっと行ってくるか」
「先輩?どこに行くんですか?」
「気になっただけだから、すぐに戻ってくるよ」
僕はそう言って、教室を出て音楽室の方へと向かうと、奏ちゃんを引っ張っている夏紀達を発見した。
「夏紀…何があったの…」
「拓哉」
夏紀は僕と顔を合わせて、久美子の方を向いて、お互いに顔を合わせて口を開いた。
「丁度いいや、拓哉も来て」
「えっ?」
夏紀に言われるがまま、やってきたのは校舎裏の焼却場
夏紀から解放された奏ちゃんは口を開いた。
「何ですか?先輩3人がかりで…リンチですか?」
何を言うのかと思ったけど、いきなりそれとは…
というか…話が見えない。かといって理由を聞く暇も無かった。
「私、あんたに嫌われてるんだと思ってた」
「正直言って嫌いですね 申し訳ありません」
「じゃあ、なんで手を抜いた!?」
「別に抜いてませんよ」
「本気を出したら私よりもうまくなる。だから、わざと下手に吹いた、それがどれだけ失礼か分かってる?」
なるほど…さっきの違和感というのは、奏ちゃんが手を抜いたから…だったのかな。
最初は体調が悪いのかなと思ったけど
「自意識過剰なんじゃないですか?」
「聞いてれば分かるよ」
「言っとくけど、次同じようなことしたら、私オーディション辞退するから」
「えっ?」
奏ちゃんは驚いていたが、これは夏紀の言う通りだ。
奏ちゃんが過去に何があったのかは知らないけど、北宇治は実力主義に変わった。
その中で、手を抜いてまで貰ったコンクールメンバーなんて今の北宇治の皆は嫌がるだろう。
「当たり前でしょ!こんななめたマネされて、コンクールメンバー譲ってもらってもうれしいわけがない!」
「だから言ってるじゃないですか、譲ってなんか…」
「じゃあ何なの!?私はあんたの本音が聞きたい」
「本音…?そんなの…あなたが3年生だからですよ。下手な先輩は存在自体が罪ですよ 本人が気にしなくても周りは気にします」
やっぱり…そうか。
「誰がいつそんなことを…」
「言葉にしないだけでみんな思ってますよ「中川先輩に出てほしい」真面目に部活やって副部長まで頑張っているのに、一度もコンクールに出たことのないあなたに、そこで私が中川先輩を差し置いて出たら、みんながどう思うかって話ですよ、私は敵を作りたくない これは私自身の身を守るためです!」
過去にオーディションで先輩達を押しのけて選ばれて…結果が出なくて…先輩達に何か言われてしまったのだろう…去年の、麗奈と香織先輩のような…
「勝手に人を決めつけるな!この北宇治に、そんなふうに考える奴はいない!ほら オーディションに戻るよ」
そう言って、夏紀は奏ちゃんの腕を掴んだ。
「いいですよ 私は終わりましたので」
「滝先生と約束したんだから」
「いいですってば」
「夏紀先輩…」
「一旦落ち着けって…」
ヒートアップしている夏紀を、久美子と二人かかりでなんとか止める。
「やめてくださいよ!もういいですよね?失礼します」
奏ちゃんはそう言うと、走り去ってしまった。
「奏!」
「夏紀、一旦ストップ」
奏ちゃんを追いかけようとする夏紀を僕は制止する。
「夏紀先輩!私に行かせてください」
久美子はそう言うと、奏ちゃんを追いかけて走っていった。
その後、傘を差して二人の事を追いかけると、ベンチに座っていた。
「久美子、タオル」
「あ、ありがとうございます」
「奏ちゃんも」
「ありがとうございます…」
その後、久美子から奏ちゃんの会話を聞いた。
下級生だった奏ちゃんが選ばれて、その時は良かったと言っていた先輩が、銀賞で終わった時に『これだったら3年生が吹いたほうがよかったね』だとか『一番最後に一番頑張ってきた人たちで吹ければ こんな気持ちにならなくて済んだのに』という事を
「なるほどね。奏ちゃんいいかな」
「……はい…なんでしょうか…」
「オーディション全力でやってみて、もし結果に文句を言う人が居たら、少なくともここに居る
「先輩…」
「その言葉…本当なんですよね…」
「もちろん」