僕達三人がアンサンブルに参加表明をした日の放課後
「みぞれ調子はどう?」
「うん、いつも通り」
「それなら大丈夫そうだね」
音大受験を控えたみぞれの個人練習のために設けられた教室に僕はやってきていた。
みぞれは、相変わらず良い音を奏でていた。
「拓哉はどう?」
「僕もいつも通りかな」
僕がそう言うと、みぞれは笑顔になって再び、楽器を持って再び練習を再開した。
相変わらず、みぞれの技術は上手過ぎて何も言えない。
「失礼します」
そう言って、教室の中に入ってくる久美子。
「…どうしたの?」
「みぞれ先輩、忙しかったですか?」
「そんな事ないけど」
久美子の問いに、みぞれはそう返す。
「実は、アンサンブルコンテストについて提案がありまして…」
「提案?」
「あの、希美先輩たちが半端に残ってしまった部員達と一緒にアンコンに出るって話になってて、もし良かったらみぞれ先輩も一緒にどうかなーって。もちろん、受験で忙しいでしょうし、無理だったら全然断ってくれてもいいんですけど」
久美子がみぞれに対してそう聞く。
「私は出ない」
久美子の問いにみぞれはそう返した。
希美と僕が思っていた通り、みぞれは断った。
「そうですか」
「うん」
「あ、いや…そうですよね。すみません、練習中に時間貰って無理言って」
「大丈夫、それに誘ってくれて嬉しかった」
「そう言ってもらえると、こちらとしてもありがたいんですけど」
「ほんとの気持ち、希美にも、お礼言っておいて、ありがとうって」
みぞれは、久美子に対してそう返す。
「自分で言わなくていいんですか?」
「自分でも言うよ」
「あ、そうですか」
久美子はそう言って、僕達の元を後にした。
「そういえば、拓哉も出るの?」
久美子が去ってすぐ、みぞれがそう聞いてきた。
「ううん、僕は指導係」
僕がそう言うと、みぞれは
「そうなんだ。演奏しないんだ」
と返してきた。
「演奏はね。でも、後輩達には頑張って欲しいね」
「うん」
*******
「みぞれ断ったんだ」
「だから言ったでしょ、馬鹿じゃないって」
翌日、僕は優子と昼休み一緒に過ごしていた。
内容は、みぞれの事だけど。
「みぞれが自分で決めた事なら何も言わない」
「みぞれが楽しみにしてるって言ってたし、アンコン頑張ろう」
「ええ」
なんて会話をしていると、廊下が騒がしくなっていた。
また、なんか騒ぎでも起こしたのかな。誰かが
「優子、居る!」
廊下から勢いよく現われて、ドアをバンっと叩きながらやってきたのは、今にも怒ってますと言わんばかりの夏紀だった。
「夏紀、どうしたの?」
そんな夏紀に僕はそう声を掛けた。
「優子にちょっと用事があって来た」
夏紀は、教室の中を見渡すと、優子の姿を見つけるや否、手招きをして優子を呼び出した。
そして、二人は廊下に出て_
「何勝手に他人の名前書いてくれちゃってんの」
「優しさでしょ~」
いつもの痴話喧嘩を始めた。
アンコンの紙に勝手に、夏紀の名前を書いた事が原因なんだけど…
「あっ夏紀先輩はお気持ちだけで十分なんでって言われないための」
「そんなこと言ってウザいOG化してんのはあんたのほうじゃないの?黄前ちゃん遠慮なく言っていいからね、ウ・ザ・いって」
「誰がよ!」
はぁ…本当にこの二人は…
もう慣れてしまったけど…
「それで…参加の方は?」
「別にいいけど、できたらこいつと別だと嬉しい」
「はあ~?今なんて言った?」
これはしばらくの間続きそうだなぁ…
「久美子と奏ちゃん、もう行っていいよ」
「はい、奏ちゃん、行こう」
「え?ああ…」
久美子の様子を見て、困惑する奏ちゃんだったが、久美子の後を追いかけていった。
「あはは。またやってるねー」
「相変わらず…やってるよ…」
まだ言い合っている二人を見て、声を掛けてきたのは島だった。
「島も大変だな…」
「どっちかというと、鈴木の方じゃない?」
「…どっちもって事で…」
「だね」
島とそんな会話をする間も、夏紀と優子の言い合いは収まる事は無く、休み時間ギリギリまで言い合うのだった。
その後、優子、夏紀、希美の三人がアンコンの助けに入った事もあり、現役生は一人残らず、それぞれの編成に振り分けられていった。