崩壊世界でダンジョン攻略withゾンビ   作:かゆうま

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第2話 武器

 俺が探しているのは、武器になるものだ。ダンジョンとモンスターの存在が明らかになった今、丸腰で歩き回るのは避けたい。

 

 今のところ、上野の街ですれ違うのはうぅーと唸るだけでほぼ無害なゾンビだけだ。敵意を向けてくるモンスターの姿はない。

 

 しかしいつ、ダンジョンにいたような好戦的な奴が現れるとも限らない。武器の調達は急務なのだ。

 

 路面店をあれこれ覗いてみたが、コレ! というものはない。飲食店の厨房に入れば包丁ぐらいはあるけれど、もう少しリーチのある武器が望ましい。

 

 何せ俺はまだレベル2のノースキルだからな。モンスターと接触=死の可能性がある。

 

「金だけもらっていくか」

 

 気まぐれで入った時計屋の壊れたレジの中から一万円札を抜き取る。村田のおでんを食べるにはお金が必要だからな。それに、他のゾンビもお金を欲しがる可能性がある。

 

「他の金目のものも、頂こう」

 

 俺は高級腕時計を左右の手首にはめ、金のネックレスを三本首にかけた。鏡を見ると、頭の悪い成金に見えるがまぁいい。どうせ周りにいるのはゾンビだ。見た目を気にするのは愚かだ。

 

 俺は高校二年生とは思えない風体で、街の探索を続ける。

 

 

#

 

 

 JRの高架下にある小さな店舗が所狭しと並んでいる中に、「二階堂スポーツ」という店があった。店頭のハンガーには掛けっぱなしでダルダルに伸びてしまったジャージがあり、ワゴンの中は埃とカビがびっしりのスニーカーがぎゅうぎゅう詰めだ。

 

 それだけ見ると何も期待出来ない店。

 

 しかしその奥の壁に飾られてあるものに、俺の視線は釘付けだ。

 

「短剣だ……」

 

 ナイフ呼ぶには刃渡りが長い。七十センチぐらいある。なんでこんなものがスポーツ用品店に……。もらっていくか……?

 

 そんな逡巡を察してか、店の奥から一体のゾンビが現れた。若い女のゾンビで、チェックのミニスカートに網タイツとやけにパンクな格好をしている。店主だろうか?

 

「……い、いら。いら」

 

 怒ってないよな? 

 

「いらっしゃいませ? って言いたいの?」

 

「……そ、そう。い、いら。いらっしゃ……せ」

 

 久しぶりの接客なのか? 言葉が出てこないようだ。とはいえ、うぅーしか言わないゾンビとは違う。村田と同じように知性が残っているタイプだ。

 

「武器と防具が欲しいんだけど」

 

「ど、ど、ど……ぶ、ぶ、ぶ」

 

「どんな武器が欲しい? って言いたいの?」

 

「……そ、そう。どな、武器。ほ?」

 

 ほ? のところで首がガクンと90度折れた。すぐに元に戻ったけれど、結構怖い。

 

「……えーと、そうだな。なるべくリーチの長いやつがいいかな。俺の身長ぐらいの槍とか」

 

 1.8メートルぐらいの槍であれば外でもダンジョンの中でも扱える気がする。モンスターと充分距離も取れるだろうし。

 

「……や、槍。やりやり」

 

 ぶつぶつ言いながら、女ゾンビは店内を歩き回る。そしてそのままバックヤードに入ってなかなか出てこない。どうやら在庫を漁っているらしい。

 

 ようやく表に出てきた女ゾンビ──二階堂──の顔色は優れない。ゾンビだから当たり前か?

 

「……ナッシング」

 

 急な英語に戸惑うが、意味は伝わった。槍の在庫はないようだ。

 

「そうか。残念だね。ちょっと他の店を……」

 

「……ま、ま、ま」

 

 二階堂は急に慌て始める。

 

「どうしたの?」

 

「……お客。ま、ま、ま、待って」

 

 壁掛けの短剣を手に取り、二階堂は店頭まで出てきた。急な展開に逃げ出そうとすると、素早い動きで俺の手を掴む。手のひらからは全く熱を感じさせず、冷たい。そして脳内に響くのはあの声。

 

『クエスト【女ゾンビにタッチされる】をクリアしました!! 報酬として経験値3000獲得!!』

 

 こんなやり取りでクエストを達成してしまった……。なんだか罪悪感を感じるぞ……。

 

「や、やりやり。探す」

 

 二階堂は俺の手を握ったまま店の外に出て歩きだす。そしてまたもや向かうのは不忍池方面だ。まさか、またダンジョン?

 

 俺のことはお構いなしに二階堂はズンズン進んでいく。

 

 そしてそのまま「おでんの村田」の前を通り過ぎる。

 

 村田に見られるのは何となく気まずい気がして、手を振り解こうとするが、二階堂の力は強い。全然外れない。

 

 ちらり村田に視線をやると、カウンターの向こうで少しだけニヤついているように見えた。

 

「おい! 笑うな!」

 

 しかし村田はニヤニヤをやめない。ちっ、村田の野郎! 後で覚えていろよ!!

 

 

 俺の気持ちは蔑ろにされ、二階堂は歩き続けた。そしてとうとう、俺は弁天堂の前にいる。たった数時間のうちに、二度目のダンジョンだ。

 

 

#

 

 

 村田がパワー型なら、二階堂はスピード型だった。

 

 ダンジョンに入ってオークが現れると、二階堂はやっと俺の手を離した。握られていた部分を触ると、ひんやりしている。流石はゾンビ。

 

 そんなことを感心している間に戦端は開かれる。

 

「ブモォォォ!!」とオークが雄叫びを上げながら、棍棒を振り回すが──。

 

「遅」

 

 もうそこに二階堂の姿はない。オークの死角に回って短剣で斬りつける。ただし、傷は浅い。村田と比べると、大分腕力が弱いようだ。

 

 とはいえ、危なげなく戦いは続く。オークは体中に裂傷を作り、動きはどんどん鈍くなっている。

 

 よーし、この辺で俺も戦いに参加してみるか。

 

 ゆっくりと屈み、地面の石を拾う。そして……。

 

 ヒュン! と投石が空気を斬った。自分の想像よりも遥かに力強く投げられた石がオークの顔に当たる。オークは反射的に左手で顔を覆った。……二階堂の目が鋭くなる。

 

 ──斬ッ! と振るわれた鋭い短剣はオークの首を掠め、面白いように鮮血が噴き出した。残心をする二階堂の顔にもオークの血がかかるが、本人は気にならないようだ。無視している。

 

 やがて、オークは地面に倒れ伏し動かなくなった。

 

 ──バフン! とオークの体が煙になると、村田の時とは違ってキラキラと光る石が地面に残った。二階堂は無表情のままそれを拾い上げ、口に入れた。そしてガリガリと噛み砕いている。

 

 うーん……。飴玉ってこと? オーク飴? 喉にいい?

 

「美味しいの?」

 

「う」

 

 二階堂が頷いて同意の意思を示すと、首がまた90度折れた。びっくりする。

 

「あっ、顔にかかった血が固まっちゃいそう。ちょっと動かないで」

 

 俺はズボンの後ろポケットに入っていたハンカチを取り出し、二階堂の顔を拭う。流石にオークの血塗れなのは忍びない。

 

『クエスト【女ゾンビの顔に優しく触れる】をクリアしました!! 報酬として経験値3000獲得!!』

 

 ちょ、別に優しく触れたわけじゃないけど!! このクエストシステム、なんかおかしくないか?

 

「二階堂もクエストクリアしたのか?」

 

「う」

 

 首がガクンとなったあと、二階堂はステータスオープンを唱えて宙を眺めている。

 

「レベル上がったの?」

 

「あ」

 

 上がったようだ。

 

「二階堂はレベルいくつなの?」

 

「じ、じゅ、じゅーろく」

 

 16かぁ。なかなかの数字。

 

 一方の俺もレベルが一つ上がって3になった。少しだけ、身体が軽くなったような気がする。もう少しレベルが上がれば、本格的にダンジョンでモンスターと戦えるようになるかもしれない。

 

 しかし、肝心の武器がない。そもそもダンジョンには武器を探しに来たのだ。一体、何処に武器があるのか?

 

 そんな俺の考えを察したのか、ぼうっと宙を眺めていた二階堂が急に起動し、ダンジョンの先へと進み始めた。

 

 ミニスカートに網タイツ。くるぶし丈のブーツはとても戦う格好には思えないが、多分人間だった頃の趣味なのだろう。

 

 そんなことを思いながら、二階堂の後姿を追いかける。

 

「二階堂ってスタイルいいよな」

 

 ピタリ。二階堂の足が止まった。そして首が180度グルリと回る。

 

 ──ニヤリ。

 

「ひえっ!」

 

 迂闊に二階堂を褒めるのはやめておこう。そう心に誓いながら、俺はダンジョン探索を続けた。

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