崩壊世界でダンジョン攻略withゾンビ   作:かゆうま

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第3話 宝箱

 十回目のオークとの戦闘を終えた後だった。

 

 二階堂はオークの死体が煙になるのも待たずに小走りになり、脇道へと入っていく。まさか──トイレ? ゾンビも排泄をするのか? ちょっと気を遣うなぁ……。

 

 流石に気が引けるので脇道には入らずにじっと待つ。

 

「……暇だ」

 

 こんな時はステータスの確認に限る。自分の成長が数字になるのは気持ちがいい。

 

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 名前 :三間健一

 レベル:3

 スキル:なし

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 はい。レベルは3のままです。ゾンビ達を見ていると多分戦闘によっても経験値はたまるのだろうけれど、クエスト報酬に比べると効率が悪そうだ。

 

 クエストの基準は分からないが、ちょっとしたことで簡単にクリア扱いになるし、報酬で経験値もドンと入る。早期のレベルアップを目指すならやはりクエストクリアを狙うのが正しい。

 

 クエストの内容が不明なのが痛いところだが、これまでの経験でなんとなく流れが掴めている。

 

「……ゾンビと仲良くすれば、クエストクリアに繋がる」

 

 今までの四回のクエストクリアは全て、ゾンビが関係している。それも、ゾンビとの親密度を高めるような内容ばかりだ。

 

 どうやら、この世界のクエストシステムは俺とゾンビ達の仲を取り持ちたいらしい。

 

「しかし、遅い……」

 

 もうかれこれ十五分は待っている。両腕の高級腕時計の針は止まっているけれど、体感ではそれぐらいだ。流石に心配になってくる。

 

 俺は忍び足で脇道まで進み、壁に背を当てる。そして呼吸を整え、ゆっくりゆっくりと首を伸ばすと──。

 

「あ、あい、あいた」

 

 二階堂が宝箱の前に座り、鍵穴をグリグリ弄っていた。「開いた」と言っているから、解錠に成功したのかもしれない。

 

「あ、あい」

 

 こちらに振り返り、手招きをしている。俺が近寄ると、二階堂は宝箱の蓋に手をかけた。そしてゆっくり開くと……。

 

 ──バフン! と宝箱自体が煙になり、それが晴れると地面に一冊の本が残った。

 

「槍は出なかったな」

 

「ご、ごめ」

 

「別に二階堂が悪いわけじゃないだろ。気にするなよ」

 

 項垂れる二階堂を見ていると、なんだか居た堪れない気持ちになる。

 

「この本は俺が買い取るよ。一万円でいいか?」

 

「……ノーサンキュ。ただ、ど、どぞ」

 

 たまに出る英語で断られた。客のオーダーに応えられなかったプライドがそうさせるのだろうか?

 

「分かったよ。この本が何かは知らないけれど、もらっておく」

 

 俺がそう言うと二階堂は首をガクンとさせて頷き、ダンジョンの入り口へ向けて歩き始めた。もう今日のダンジョン探索は終了ということだろう。

 

 流石に俺も疲れたし、今晩寝るところも探さなくてはいけない。

 

 ひとまずダンジョンを出たら「おでんの村田」で晩飯でも食べよう。随分と腹が減ってしまった。

 

 そういえば村田の野郎。俺が二階堂に腕を引っ張られているのを見て笑っていやがったな。あのハゲゾンビめ。一度説教だ。通じるかは分からないけれども。

 

 だが、その前に……。

 

「二階堂。今日はありがとう」

 

 俺の言葉に二階堂は足を止め、首を180度回してニヤリとする。絵的にはホラーだけれども、流石に二回目なので心臓が止まるようなことはなかった。そして──。

 

『クエスト【女ゾンビと少しだけいい雰囲気になる】をクリアしました!! 報酬として経験値3000獲得!!』

 

 というアナウンスが脳内に流れるのだった。

 

 

#

 

 

 

 ダンジョンから出た頃はちょうどマジックアワーで、空は茜色のグラデーションで彩られていた。

 

 突然目の前に広がった光景に心奪われていると、いつの間にか二階堂はいなくなっている。

 

 やはりそのあたりはゾンビ。スタスタと自分の店に戻ってしまったのだろう。

 

 俺は『おでんの村田』で夕食──またオーク大根──を食べ、寝床を探すことにした。街灯は煌々としていて、上野駅周辺は夜中でも灯りの心配はなさそうだったけれど、やはり屋根のあるところで寝たい。

 

 

 ぐるぐると街を歩き回り、俺が寝床と定めたのはネットカフェだった。

 

 フロントには唸るだけのゾンビが立っていて、ほとんど動かない。他の店員ゾンビは店内をぐるぐる回っているだけで、それ以外は何もしない。

 

 俺はそんなネットカフェの一室に陣取って住居とすることにした。うろつくゾンビが少々気になるが、漫画にシャワー完備の環境は捨てられない。個室は鍵が掛かるし、問題ないだろう。

 

 フラットタイプの個室に寝転がり、今日の出来事を思い出す。

 

「色々あったなぁ……」

 

 コールドスリープから目覚めたのが随分と昔に感じてしまう。それほどまでに濃厚な一日だった。

 

「で、この本は何だろ?」

 

 路面店から拝借したリュックから、例の本を取り出す。

 

 仰向けになりながら本を読もうと試みるが、どうにも開かない。

 

「まぁ、色々と試すのは明日だな」

 

 俺はダンジョンで手に入れた本を枕代わりにし、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

#

 

 

 ……ガチャ。ガチャ。

 

 個室のドアレバーの音で目が覚めた。どうやら外でゾンビが触っているらしい。

 

「入ってますよー」

 

 ドアの近くまで顔を寄せてそう言うと、ゾンビが遠ざかっていく気配があった。

 

 今、何時だろう?

 

 PCは壊れて起動しないし、テレビをつけても砂嵐だ。正確な時間は分からない。ただ、しっかり眠れたようでとても体調がよい。もしかするとレベルアップの恩恵もあるのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、グウウゥゥゥと地の底から響くような音がする。俺から。

 

「……腹減ったぁ」

 

 さて、朝食はパン派なのだがこの街でパンは食べられそうにない。

 

「……結局、おでんしかないかなぁ」

 

 俺は諦めて立ち上がり、鍵を開けて個室の外に出た。

 

 

#

 

 

 早朝にもかかわらず『おでんの村田』は営業していた。村田は働き者である。

 

「おはよう。村田」

 

「……お、おはらっしゃい」

 

「おはようと、いらっしゃいが混ざってるぞ」

 

 村田は灰色の肌を少しだけ赤く染め、スキンヘッドの頭をポリポリとかく。そしてもう一度挑戦する。

 

「お、おはよ。しゃい」

 

「うーん。合格!」

 

 そういうと村田は嬉しそうにしてから鍋を弄る。

 

「……ご、ごちゅ。もんは?」

 

「お任せで」

 

 下手に注文するとダンジョンまで食材を採りに行きかねない。ここは村田チョイスに任せよう。

 

「……だ、大根。……たまご。……ウィンナー」

 

 昨日と全く同じメニューだ。しかし、文句は言うまい。食べられるだけで幸せなのだ。このゾンビだらけの世界で。

 

 カウンター越しに差し出された皿と箸を受け取り、立ったまま朝食──おでん──を食す。空腹は最高のスパイス。

 

「うっま」

 

「……へへ」

 

 頭をポリポリ掻きながら、村田は俺の首元をじっと見ている。

 

「ネックレスが気になるのか?」

 

 時計屋から拝借した金のネックレスのことだ。

 

「……」

 

 村田は物欲しそうな視線をやめない。

 

「ほら、やるよ」

 

 ネックレスを外してカウンターに置くと、村田は恐る恐るそれを手に取る。

 

『クエスト【ゾンビに贈り物をする】をクリアしました!! 報酬として経験値4000獲得!!』

 

 ……クエストをクリアしてしまった。村田の心を利用したような気がしてなんだか申し訳ない。しかし、ステータスは気になる。レベルは上がったか?

 

「ステータスオープン!」

 

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 名前 :三間健一

 レベル:3

 スキル:無属性魔法

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 ……スキルが生えていた。

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